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原発離れへの流れ(3)

2016年6月26日以降

2016年3月4日から6月25日までは ☞ 原発離れへの流れ(2) 

2016年3月23日以前は ☞ 原発離れへの流れ(1) 



  愛媛の伊方原発停止を…対岸の大分県民らが提訴 読売新聞  2016年 9月28日

四国電力伊方原子力発電所(愛媛県伊方町)について、大分県内の住民ら264人が28日、四電に対し、2、3号機の運転差し止めを求める訴訟を大分地裁に起こした。

 同原発の運転差し止め訴訟は松山、広島の両地裁に次いで3か所目。

 訴状では、同原発は活断層帯の近くに立地するため、熊本地震に誘発されて地震が起きる可能性があると指摘。重大事故で放射性物質が拡散すると、豊予海峡を挟んだ対岸にある大分県内も汚染されるとしている。




  原子力政策の限界鮮明に 廃炉費をすべての電力利用者負担へ 東京新聞  2016年 9月21日

経済産業省が東京電力福島第一原発をはじめとする大手電力会社の原発の支援に乗り出すことで、国民には「底なし沼」のような負担が迫る。「原発は安い」という説明を続けながら、綻(ほころ)びが生じるたびに国民負担を増やすことで覆い隠そうとする政府の原子力政策。有識者からは「限界にきている」と厳しい批判が相次いでいる。(吉田通夫)

 実質的に国有化されている東電と政府は二〇一三年に福島第一原発の廃炉費用を二兆円と見積もり、東電が工面する計画を立てた。しかし、今後の作業は溶け出た核燃料の取り出しなど世界でも前例のない段階に入り、「十兆円はくだらない」(経産省関係者)などとみられている。除染や賠償費も、すでに一三年の見積もりを超えた。東電関係者によると、今年七月に、東電が政府に支援を求める声明を書いたのは、経産省から出向中の西山圭太執行役で、同省の「自作自演」だった。

 今後、費用の上乗せを議論する「東京電力改革・1F問題委員会」は、国民に負担を求める議論にもかかわらず、経産省は「東電の経営に直結するので」(電力・ガス事業部の畠山陽二郎政策課長)と一部を非公開にする構えだ。

 一方、ほかの原発の廃炉費用は電力会社が四十年かけて積み立てる規則だった。同省の資料によると一三年三月末時点で全国の原発五十基の廃炉費用一・二兆円分が不足している。「原発が安い」というならば、原発を持つ大手電力会社は廃炉費用に悩む必要はないはずだが、それも結局は国民に頼るという。

 電力問題に詳しい立命館大の大島堅一教授は「矛盾は明らかで、福島第一原発のように最終的にいくらになるのか分からない費用があったり、超長期にわたって費用を積み立てなければならない不安定な電源を『安い』とは言えない」と話す。

 原子力資料情報室の伴英幸共同代表は「原発を保有する東電や大手電力会社を生かすために付け焼き刃の対応と国民負担を増やし続けている状態で、原子力政策の行き詰まりは明らかだ」と批判している。

◇各委員会のメンバー 
 (五十音順、敬称略)

 【東電改革・1F問題委員会】

 ▽伊藤邦雄(一橋大大学院特任教授)▽遠藤典子(慶応大大学院特任教授)▽小野寺正(KDDI会長)▽川村隆(日立製作所名誉会長)▽小林喜光(経済同友会代表幹事)▽白石興二郎(読売新聞グループ本社会長)▽冨山和彦(経営共創基盤CEO)▽原田明夫(原子力損害賠償・廃炉等支援機構運営委員長)▽船橋洋一(日本再建イニシアティブ理事長)▽三村明夫(日本商工会議所会頭)▽オブザーバー・広瀬直己(なおみ=東京電力ホールディングス社長)

 【電力システム改革貫徹のための政策小委員会(◎は小委員長、○は小委員長代理)】

▽ 秋池玲子(ボストンコンサルティンググループシニア・パートナー)▽秋元圭吾(地球環境産業技術研究機構システム研究グループリーダー)▽安念潤司(中央大法科大学院教授)▽石村和彦(旭硝子会長)▽伊藤麻美(日本電鍍工業代表取締役)▽大石美奈子(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会代表理事)▽大橋弘(東京大大学院教授)▽大山力(横浜国立大大学院教授)▽崎田裕子(ジャーナリスト)▽松村敏弘(東京大教授)▽圓尾(まるお)雅則(SMBC日興証券マネージングディレクター)◎山内弘隆(一橋大大学院教授)▽山口彰(東京大大学院教授)○横山明彦(東京大大学院教授)



  22年で250日間しか稼働せず、1兆2千億円。廃炉される「もんじゅ」驚きの数字 BuzzFeed Japan  2016年 9月21日

政府が「高速増殖炉もんじゅ」を廃炉する方向で調整しており、年内にも結論が出るという。朝日新聞など複数のメディアが報じた。【BuzzFeed Japan / 籏智 広太】

使用済み核燃料を再処理し、抽出したプルトニウムをウランとともに使う「高速増殖炉」。

使った以上のプルトニウムを得る「夢の原子炉」は、資源に乏しい日本の核燃料サイクルを担う存在として、膨大な税金が投じられてきた。

BuzzFeed Newsは、運営主体の日本原子力研究開発機構や各メディアの報じたもんじゅにまつわる数字をまとめた。

1. これまでに投じた予算:約1兆2千億円
建設費は約5900億円。もんじゅの出力は28万キロワットだが、一般的な原子力発電所(出力100万キロワット)の建設費の約2倍だ。

日本原子力研究開発機構はこの理由について、もんじゅが「研究開発の中間段階の原子炉」であり、「経済性の見通しを得ることではなく、高速増殖炉で安定した発電ができることを実際に確認することに主眼があった」ため、としている。

2. これまでの稼働日数:22年間で250日
1985年に建設工事が始まり、1994年4月に初めて臨界に達したもんじゅ。

巨額の建設費がかかったのに、この22年間で稼働したのはわずか250日だ。

1994年の臨界後は205日間運転をし、送電も開始した。しかし翌年12月、冷却材のナトリウムが漏れ出す事故が発生し、運転は中断した。

改造工事などを経た2010年5月には試運転を再開し、臨界を達成。今度は45日間運転したが、8月に炉内中継装置の落下トラブルが起き、再び中断を余儀なくされた。

その後、2013年には原子力規制委から事実上の運転禁止命令も受けた。

3. 1日の維持費:5千万円
動かない原子力発電所。にもかかわらず、巨額の維持費がかかり続けていた。

1年間(2016年度予算)で見ると、「維持管理及び安全対策に要する経費」が185億円。そのほか人件費に29億円、固定資産税に12億円かかっている。

4. 再稼働費用:5800億円
もんじゅを再稼働するためには、耐震化などの対策が必要だった。

文部科学省の試算では、福島第一原発事故後に強化された原子力規制委の新規制基準が適用された場合の経費は1千億円以上。

燃料をつくる茨城県東海村の工場の対策も欠かせず、期間は10年間は要するとみられる。維持費やその後の運転費も含むと、5800億円かかるという。

5. 廃炉費用:3千億円
日本原子力研究開発機構が2012年に試算した廃炉費用は、3千億円。

ただ、もんじゅの冷却材であるナトリウムを取り出す技術はまだ確立していない。その研究開発費用は、この金額には含まれていない。

6. 日本のプルトニウム保有量:約47.9トン
日本国内には10.8トンの、国外(イギリス、フランス)には37.1トンのプルトニウムが保管されている。

核兵器を持っていない国のなかでは、最大だ。プルトニウムは数キロあれば核兵器をつくることができるため、あまり持ちすぎてしまえば、国際社会から懸念されてしまう。

7. 放射性廃棄物を地中に埋める期間:10万年
原発で出た核のごみ(放射性廃棄物)は、地下深くに埋める「地層処分」をする必要がある。

政府は先月末、原発を廃炉した場合に出た廃棄物のうち、制御棒などの処分方針を決めた。

地下70メートルより深いところに埋め、最初の3~400年間は電力会社が管理をする。その後は国が10万年間、掘削を制限するという。

使用済み燃料を再処理した時に出る高レベルの廃棄物も、地下300メートルより深いところに、やはり10万年間埋めることになっている。候補先は、まだ決まっていない。

もんじゅが廃炉になると、「核燃料サイクル」が破綻するとの指摘もある。
プルトニウム消費先の一つである「もんじゅ」が廃炉になると、一体、どうなるのか。プルトニウムは普通の原発の「プルサーマル発電」で使うこともできるが、それだけでは47.9トンの消費は追いつかない。

政府はフランスとの高速増殖炉の共同開発構想も描いている。各紙朝刊が「もんじゅ廃炉へ」と1面トップで報道した9月21日、読売新聞の報道は一線を画していた。その見出しは「高速炉 仏と共同研究 もんじゅ代替 年内に工程表」。

「政府は、日本原子力研究開発機構の高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)に代わる新たな高速炉実用化に向けたロードマップ(工程表)を年内に策定する方針を固めた」

一方、産経新聞は9月18日に「もんじゅの廃炉は避けられない」と指摘しつつ、再び高速増殖炉をつくるべきだとの主張を掲げている。

記事のタイトルは、こうだ。

「高速増殖炉 「シンもんじゅ」を目指せ 核燃サイクルは国の生命線だ」



  もんじゅ廃炉へ最終調整 地元と意見交換 年内にも結論 朝日新聞デジタル  2016年 9月21日

政府は、高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県)について廃炉へ向けた最終調整に入った。21日にこの問題で初めて原子力関係閣僚会議を開き、廃炉も含めた今後の高速炉開発の進め方の検討を始める。20日には首相官邸が福井県敦賀市など立地自治体と意見交換をしており、年内に結論を出すことを目指す。

 21日夕の会議には、菅義偉官房長官、松野博一文部科学相、世耕弘成経済産業相らが出席。もんじゅ廃炉を念頭に、廃炉を容認する経産省と存続を訴えてきた文科省の意見を調整し、政府の新たな核燃料サイクル政策の方向性をまとめる。26日開会の臨時国会を前に、当面の見解をまとめる意味合いもある。

 もんじゅは、1994年の初臨界の翌年、燃料を冷やすナトリウムが漏れる事故を起こした。12年にも1万点もの点検漏れが発覚するなどトラブルが続いてきた。既に1兆円を超える額が投じられたが、ほとんど運転実績はない。再運転するには、新規制基準に適合させるための工事費用を含め、多ければ8千億円ほどかかる可能性がある。



  「もんじゅ」再稼働に5800億円…文科省試算 読売新聞  2016年 9月17日

日本原子力研究開発機構の高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)を再稼働させると、少なくとも5800億円の費用がかかると文部科学省が試算していることが、16日わかった。

 巨費をかけて再稼働することに反対する声が経済産業省などで強く、政府は廃炉も視野に月内にも判断する方向で最終調整している。

 もんじゅを再稼働する場合には、東京電力福島第一原発事故後に強化された新規制基準への対応が必須となる。原子力規制委員会はまだ高速増殖炉の新基準を作っていないが、普通の原発と同様、耐震化などに1000億円以上かかるとみられる。さらに、もんじゅで使う燃料の製造工場も、新基準への対応が必要になる。

 政府関係者によると、もんじゅや燃料製造工場の新基準対応に約10年かかり、その後、5~6年間にわたって運転した場合、費用は総額5800億円に上ると文科省は試算した。



  福島第2原発、警報意図的に停止 「重大事案に発展する恐れ」規制委が違反認定 産経新聞 2016年 9月12日


原子力規制委員会は12日、東京電力が福島第2原発で意図的に警報器を停止していたため、重大事案に発展する恐れがある核物質防護規定違反と断じ、東電に厳重注意処分を科した。

 規制委によると、福島第2原発では、人の侵入を検知する警報器が誤って鳴る事案が頻発したため、東電側が意図的に停止。現場だけでなく、警備責任者も停止を知っており、規制委は「組織的管理機能が低下している」と指摘した。

 規制委が昨年10月に実施した検査で発覚した。規制委は「人の侵入を確認するのが困難な状態になっていた」としている。



  東海再処理施設「廃止に70年」 原子力機構が見通し 朝日新聞デジタル 2016年 9月8日

日本原子力研究開発機構は8日、原子力規制委員会の会合で、東海再処理施設(茨城県東海村)を廃止するまでに約70年かかるとの見通しを明らかにした。規制委は「老朽化する施設の補強も必要になる」などと指摘。廃止にかかる費用や人員などを検討し、11月末までに提出を求めた計画書に盛り込むよう指示した。

 東海再処理施設は、原発の使用済み核燃料を再処理するのを目的に1981年、本格運転を始めた。再処理はすでに終了し、施設は廃止が決まっている。原子力機構によると施設には34の建物があり、すべてを廃止するには約70年かかると説明した。

 一方、再処理で出た高レベルの放射性廃液が1月時点で約400立方メートル残っていた。ガラスと一緒に固める処理を進めていたが、設備のトラブルで止まっている。原子力機構は8日、ガラス固化は計画通り約20年で終えられるとした。



  仏の原発で圧力容器の強度不足疑い 「日本鋳鍛鋼」製 国内に13基 朝日新聞 2016年 9月3日

九州電力や東京電力、関西電力など電力六社は二日、フランスの原発で強度不足の疑いがある重要設備を製造した大型鋳鋼品メーカー「日本鋳鍛鋼(ちゅうたんこう)」(北九州市)が、稼働中の九電川内原発1、2号機(鹿児島県)を含む国内八原発十三基の原子炉圧力容器を製造していたと原子力規制委員会に報告した。

 六社は十月末までに強度に問題がないかなどをそれぞれ調査し、規制委に報告する。重大な強度不足が判明すれば、原発の運転や再稼働時期に影響する可能性もあるが、規制委事務局の原子力規制庁の担当者は共同通信の取材に「フランスでも実際に強度不足が確認されたわけではなく、あくまで念のための調査だ」と述べた。

 九電は、川内1、2号機への対応を「運転を止めず、メーカーに確認する」とした上で、強度不足が判明した場合の対応については「仮の話なので答えられない」とした。

 日本鋳鍛鋼は取材に「規制委から要請があればいつでも調査を受ける」と回答。「強度不足につながる鋼材の不純物は顧客の指示通り切り捨てている」として強度基準を満たしているとの認識を示した。

 電力各社によると、日本鋳鍛鋼はほかに、東電福島第二原発2、4号機(福島県)、北陸電力志賀1号機(石川県)、関電高浜2号機(福井県)、大飯1、2号機(同)、日本原子力発電敦賀2号機(同)、四国電力伊方2号機(愛媛県)、九電玄海2、3、4号機(佐賀県)のいずれも原子炉圧力容器を製造していた。

 この問題を巡っては、フランスの規制当局が六月、同国内で運転中の原発十八基の重要設備に強度不足の疑いがあり、調査を進めていると発表。設備は日本鋳鍛鋼と同国の「クルゾ・フォルジュ」が製造していた。

 東北電力など残る五社の原発の圧力容器は、別メーカーがつくっていた。別メーカー製でも製法が同じ場合は十一社とも強度を調査し規制委に報告する。


  進むも地獄、戻るも地獄、「もんじゅ廃炉」なら日本の原子力政策どうなる? THE PAGE 2016年 9月2日

運転停止中の高速増殖炉「もんじゅ」について、政府内部で廃炉を含めた検討を行っているとの報道が出ています。菅官房長官は報道を否定していますが、もんじゅについては今後の見通しがまったく立っていないというのも事実です。もしもんじゅが廃炉となった場合、日本の原子力政策は根底から見直しを迫られることになります。

 もんじゅが原子力政策のカギになっている理由は、日本では「核燃料サイクル」の確立を原子力政策の基本に据えているからです。

 原発はウランを燃料にして発電していますが、使用済みの燃料をどう扱うのかは国によって異なっています。米国は危険が伴う再処理は行わず、そのまま廃棄するというワンスルー方式を採用しています。一方、日本では使用済み燃料を工場で化学的に処理し、その中からプルトニウムを抽出して燃料として再利用する方式を採用しました。使用済み燃料を加工してそこから再び燃料を取り出す一連の仕組みを核燃料サイクルと呼びます。

 プルトニウムを有効に利用するためのカギとなる原子炉が高速増殖炉であり、核燃料サイクルの確立は、もんじゅがうまく稼働できるのかにかかっているわけです。

 核燃料サイクルは、燃料からさらに燃料を生み出せる夢のようなシステムなのですが、これを実現するためには超えなければならない技術的なカベがたくさんあります。放射能レベルの高い使用済み燃料を安全に再処理する工場や、高速増殖炉を大量に建設しなければなりません。プルトニウムは猛毒ですからその取り扱いには細心の注意が必要となりますし、核兵器への転用も簡単ですからテロ対策を強化する必要も出てきます。

 高速増殖炉の原型炉である「もんじゅ」は、技術的難易度が極めて高く、相次ぐトラブルで運転停止に追い込まれています。また、青森県六ヶ所村に建設中の核燃料再処理施設もうまくいっておらず、何度も操業が延期になっています。使用済み燃料の再処理後に発生する高レベル廃棄物の最終処分場もまだ決まっていません。

 もんじゅは現在、日本原子力研究開発機構が運営していますが、原子力規制委員会は、もんじゅの運営主体の変更を求めています。仮に再稼働を目指す場合でも、4000億円から5000億円の追加費用が必要になるとの試算もあり、進むも地獄、戻るも地獄といった状況です。

 原発事故以来、日本では再稼働か停止かという単純な二元論ばかりが目立ちますが、同じ原発推進であっても、核燃料サイクルを実施するのとしないのとでは、そのメリットやデメリットの両面において天と地ほどの違いがあります。核燃料サイクルの是非を抜きに原子力問題を語ることはできません。脱原発に向けて舵を切るべきなのか、再稼働はするが核燃料サイクルの確立は断念するのか、従来通りすべての計画を推進するのかという3つの選択肢から、議論を行う必要があるでしょう。
(The Capital Tribune Japan)


  負担額4兆2000億円超す=福島原発事故で国民転嫁―除染・廃棄物費用など 時事通信 2016年 8月29日

東京電力福島第1原発事故で掛かる除染や廃炉、損害賠償などの費用のうち、国民の負担額が2015年度末までに4兆2660億円を超えたことが28日、分かった。

 日本の人口で割ると、1人3万3000円余り。東電は政府にさらなる支援を求めており、今後も拡大する見通しだ。

 時事通信は15年度までの復興特別会計の決算状況などを精査。原子力災害関連予算の累計執行額や東電など電力7社が電気料金の値上げ分に含めて賠償に回す一般負担金などを集計した。

 その結果、除染や汚染廃棄物の処理、汚染土などの中間貯蔵施設の費用に計2兆3379億円支出されたことが判明。政府が原子力損害賠償・廃炉等支援機構などを通じて立て替えている。

 除染や汚染廃棄物処理の費用は最終的に同機構が保有する東電株の売却益が充てられる計画。東電株の取得に際して金融機関が行った融資には政府保証が付き、株価低迷などで返済が焦げ付けば税金で穴埋めされる仕組みだ。

 政府は東電株の売却益を約2兆5000億円と見込むが、株価の大幅上昇が必要な上、環境省は今年度中に除染費用などの累計額がその額を上回る可能性があるとみている。

 中間貯蔵施設の費用にはエネルギー特別会計から計約1兆1000億円が支出されることになっており、その大本は電源開発促進税で、電気料金に含まれている。

 これ以外に、政府は直接の財政支出で廃炉支援や食べ物の放射能検査、研究開発の拠点整備などを実施。計1兆3818億円が使われた。

 また、東電など電力7社は事故後の電気料金値上げで、既に一般負担金分として少なくとも3270億円を上乗せ。さらに、東電は汚染水処理装置の保守管理費や賠償相談のコールセンター運営費などで2193億円以上も消費者に転嫁した。 


  三反園知事、川内原発停止を九電に要請 「再点検を」 朝日新聞 2016年 8月26日

鹿児島県の三反園訓(みたぞのさとし)知事は26日、県庁で九州電力の瓜生道明社長に、川内原発(鹿児島県薩摩川内市)を直ちに停止するよう要請した。「県民の不安に応えるためにも、いったん止めて再点検してほしい」と述べ、熊本地震の影響や原発周辺の活断層について調査、点検するよう求めた。

 瓜生社長は「社に持ち帰って内容をしっかり確認し検討したい。様々な人と論議したい」と述べた。

 要請書で三反園知事は、「原発を運転する者として、県民の不安に真摯(しんし)に向き合い、思いに応える責務がある」と指摘。原発を直ちに停止するよう求めた。

 また、自治体が策定する避難計画についても言及。避難道路や避難車両の確保を支援することなどは「事業者として、当然、対応すべき課題」と位置づけ、支援体制の強化を求めた。

 三反園知事は今月19日、川内原発周辺を視察。住民からは災害時の情報提供に不安の声が寄せられたといい、「包み隠さず、適時かつ正確な情報」を発信するよう要請した。

 申し入れに対し、九州電力は9月上旬までに回答する考えだ。もともと川内原発1号機は10月に、2号機は12月にそれぞれ法律にもとづく定期検査に入る予定で、九電はそれまでは稼働を続けたい考えだ。一方で情報公開の強化などは前向きに検討しており、どう対応するかが焦点になる。


  鹿児島知事、九電に川内原発の一時停止を要請…新規制後の知事による稼働原発の停止要請は初 産経WEST 2016年 8月26日

 鹿児島県の三反園訓知事は26日、県庁で九州電力の瓜生道明社長と会い、川内原発(薩摩川内市)を直ちに一時停止し、施設の安全性を点検・検証するよう求める要請書を手渡した。新規制基準施行後、知事が稼働している原発の停止を要請するのは初めて。

知事に法的権限なし…

 三反園知事は「熊本地震後、県民の不安の声は高まっている。誠意ある対応を取ってもらいたい」と強調。瓜生社長は「しっかり検討したい」と応じた。知事に原発を止める法的権限はないが、九電は9月初旬をめどに回答をまとめる方針。

 要請書では原発周辺の活断層の調査や、原発事故時の避難計画に対する支援強化も求めた。

 川内原発は1号機が昨年8月、2号機が10月に再稼働した。九電は熊本地震後に点検し、安全性を確認したとしている。


  原子力規制庁「対応ない」、鹿児島知事の川内原発停止要請に 産経WEST 2016年 8月26日

原子力規制庁の松浦克巳総務課長は26日の記者会見で、鹿児島県の三反園訓知事による九州電力川内原発の一時停止要請に関し「川内原発は新規制基準に適合しており、熊本地震後も安全性に問題ないと原子力規制委員会として判断している。現時点で何か対応することはない」と述べた。

 また九電が知事の求めに応じて原発を一時停止させる場合について「仮定の話なので具体的にこうするとは言えないが、九電に話を聞き、法令に従った検査をする」とした。


  福島第一の凍土壁、凍りきらず 有識者「計画は破綻」 朝日新聞デジタル 2016年 8月18日

東京電力福島第一原発の汚染水対策として1~4号機を「氷の壁」で囲う凍土壁について、東電は18日、凍結開始から4カ月半で、なお1%ほどが凍っていないと原子力規制委員会の検討会に報告した。地下水の流れを遮るという当初の計画は達成されておらず、規制委の外部有識者は「破綻(はたん)している」と指摘した。

 東電の報告によると、3月末に凍結を始めた長さ約820メートルの区間の温度計測点のうち、8月16日時点で99%が零度以下になったが、地下水が集中している残りの部分はまだ凍っていないという。東電は、セメントなどを注入すれば凍らせられると主張した。

 凍土壁の下流でくみ上げている地下水の量は、凍結開始前とほとんど変わっていない。外部有識者の橘高(きつたか)義典・首都大学東京教授は「凍土壁で地下水を遮る計画は破綻している。このまま進めるとしても、別の策を考えておく必要がある」と指摘。検討会は、上流でくみ上げた場合の地下水抑制効果の試算などを示すよう東電に求めた。(富田洸平)


  伊方、不安置き去り再稼働 周辺自治体に広がる懸念・反対 東京新聞 2016年 8月12日

 四国電力は十二日午前、伊方原発3号機(愛媛県伊方町)を再稼働させた。東京電力福島第一原発事故を踏まえ策定された原子力規制委員会の新規制基準に適合した原発では九州電力川内1、2号機(鹿児島県)、関西電力高浜3、4号機(福井県)に次ぎ五基目。川内1号機の再稼働から一年たち政府は原発活用を加速させたい考えだが、伊方原発近くには長大な活断層「中央構造線断層帯」が通り、熊本地震を機に活発化する懸念や、事故時の避難計画の実効性に不安も根強い。

 日本一細長い半島に位置し、事故時には住民避難も収束作業も支援も困難が予想される四国電力伊方原発3号機(愛媛県)が再稼働した。九州から四国を通って本州に至る活断層「中央構造線断層帯」に沿って発生した四月の熊本地震後、豊後水道を挟んだ大分県各地の議会で、再稼働への懸念や反対を表明する動きが広がっている。その一方、暑い日が続く中でも四国の電力需給は安定。無理をしてまで原発を動かす大義は見当たらない。

 いくら地震や津波の対策をしても、原発のリスクはなくならない。一般的な工業施設なら、事故の影響は限定的。広範囲かつ長期にわたる影響が出る点で、原発はやはり別格と言える。

 何度、伊方の地を訪れても、雄大な美しい光景に圧倒される。その半面、尾根筋を走る一本の国道を除けば、道は細く険しく、岩肌ももろい。事故に備えて進めている道路拡幅は未完成のまま。住民避難計画では海を渡って大分などに避難するというが、現実的と受け止めている住民には出会ったことがない。地震が起きたら道は寸断される可能性があるためだ。「港に行く前に、閉じ込められる」と多くの人が語った。

 険しい半島の岩場を切り崩し、埋め立てて造った原発。敷地に余裕はない。事故時の対策拠点も必要最低限の施設で、休むスペースはなく、トイレも仮設が一つあるだけ。福島のような高濃度汚染水問題が起きても、保管するためのタンクの置き場も見当たらない。「新規制基準を満たせば、事故はある程度で止まる」。そんな危うい仮定の上で、伊方原発の「安全」は成り立っている。 (山川剛史)
(東京新聞)


  避難計画、実効性に疑問=半島5千人、孤立の恐れ―道路寸断、海路荒天で・伊方町 時事通信 2016年 8月12日

瀬戸内海に突き出た愛媛県・佐田岬半島。

 長さが約40キロあり、「日本一細長い」とされる半島の付け根に、四国電力伊方原発は位置する。重大事故が起き、大量に放出された放射性物質で付け根に「ふた」がされる形になった場合、半島に住む約5000人は孤立する恐れがある。道路が寸断されたらどうするのか、荒れた海を船で逃れることはできるのか。避難計画の実効性に疑問を残し、原発は動きだした。

◇国道は片側1車線
 県の避難計画によると、伊方町の住民約1万人は原則として、自家用車や県が手配したバスで避難する。半島を貫く国道197号を通り、渋滞を緩和するため途中から複数のルートに分散。原発の半径30キロ圏を抜け出し、松山市の西隣にある松前町に避難する計画だ。

 197号は半島の山あいを通る片側1車線の道路。「本当に大丈夫か」。伊方町中浦の漁師矢野善平さん(67)は「土砂災害で道が寸断したら大変だ」と不安を抱く。

 県砂防課によると、伊方町には豪雨や地震で土砂災害を起こす恐れがある警戒区域が計206カ所あり、うち15カ所は197号が通っている。矢野さんは「伊方町は危ない所が多い。放射性物質が漏れる前に逃げられるだろうか」と疑う。

◇港へ細い道
 土砂崩れで道路がふさがった場合、計画では半島先端の三崎港などから船で避難する。住民は県内から集まったフェリーや海上自衛隊の艦船などに乗り、県内のほか海を挟んだ大分県や山口県に逃れる。ヘリコプターの活用も想定している。

 ただ、三崎地区で日用品店を営む池田豊美さん(71)は「いろんなハードルがある」と懸念する。

 船で逃げるには、多くの人を港に集める必要がある。だが、中には半島最先端の正野地区のように、細くて狭い県道をたどって三崎港へ向かう所もある。

 池田さんは「港までの道は寸断していないか。乗り物の手配はできるのか。時間帯や天気に関係なく、しっかりできるか疑問だ」と力説する。

 地元フェリー会社によると、冬の三崎港は北西の風の影響で時々、高波が発生する。船が出せないこともあるという。地元で暮らしてきた池田さんは「海の避難は不安。同じ地区の人も表立って言わないだけで、みんな思っている」と打ち明けた。 


  中国の原発、作業員が事故隠し 1年以上経って発覚 朝日新聞デジタル 2016年 8月6日

中国・広東省西部にある陽江原発で昨年3月、作業員の手順違反により、冷却システムが6分間停止していたことが分かった。5日付の香港紙サウスチャイナ・モーニングポストなどが報じた。放射能漏れはなかったとしているが、同紙は「作業員がミスを隠そうとし、1年以上も公表されなかった」と問題視している。

 同紙によると、事故は1号機の定期点検中だった同年3月22日に発生。作業員4人が作業手順に違反した結果、冷却システムが6分間停止したが、作業員は事故を記録せず、届け出もしなかった。中国の環境保護省が先月下旬に4人の行政処分を公表して発覚した。

 同省の発表では、事故隠しがどういう経緯で見つかったかや放射能漏れがあったかには触れていない。同紙は専門家らに取材した上で放射能漏れなどの重大事故ではなかったとしているが、作業員が事故を隠そうとしたことから、「中国の原発の安全性における人的な弱さが明らかになった」と警告している。

 中国は2020年に原発の発電能力を現在の3倍近い5800万キロワットに引き上げ、電力供給の5%とする計画を掲げている。(香港=延与光貞)


  東電「完全凍結は困難」 第一原発凍土遮水壁 規制委会合で見解 福島民報  2016年7月20日

東京電力は19日、福島第一原発の凍土遮水壁について、完全に凍結させることは難しいとの見解を明らかにした。同日、都内で開かれた原子力規制委員会の有識者会合で東電の担当者が示した。東電はこれまで、最終的に100%凍結させる「完全閉合」を目指すとしていた。方針転換とも取れる内容で、県や地元市町村が反発している。

 会合で東電側は規制委側に凍土遮水壁の最終目標を問われ、「(地下水の流入量を)凍土壁で抑え込み、サブドレン(建屋周辺の井戸)でくみ上げながら流入水をコントロールする」と説明。その上で「完全に凍らせても地下水の流入を完全に止めるのは技術的に困難」「完全閉合は考えていない」と明言した。

 これに対し、オブザーバーとして出席した県の高坂潔原子力総括専門員は「完全閉合を考えていないというのは正式な場で聞いたことがない。方針転換に感じる」と指摘。東電側は「(凍土壁を)100%閉じたいのに変わりはないが、目的は流入量を減らすこと」と強調した。

 凍土壁は1~4号機の周囲約1.5キロの地中を凍らせ、建屋への地下水の流入を抑え、汚染水の発生量を減らす計画。

 東電は3月末に一部で凍結を始めたが、一部で地中の温度が下がらず追加工事を実施した。東電によると、第一原発海側の1日当たりの地下水くみ上げ量は6月が平均321トン。5月の352トンに比べ31トン減少したが、凍土壁の十分な効果は確認できていない。

   ◇  ◇

 東電が今年3月に特定原子力施設監視・評価検討会で公表した資料では凍土壁造成の最終の第3段階について「完全閉合する段階」と表記していた。経済産業省資源エネルギー庁も「凍土遮水壁は最終的には完全な凍結を目指す」(原子力発電所事故収束対応室)との認識だ。

 規制委会合で東電が示した見解について、県の菅野信志原子力安全対策課長は「おそらく公の場では初めてではないか。汚染水の発生量を減らすという凍土遮水壁の目的を達成するため、当初の計画通り100%凍らせる努力が必要だ」と強調した。

 福島第一原発が立地する双葉町の伊沢史朗町長も「公式の場で方針転換とも取られかねない発言を唐突にする東電の姿勢には、非常に違和感を感じる」と指摘した。双葉地方町村会長の馬場有浪江町長は「凍土壁で汚染水を完全に管理できるという説明だったはず。町民の帰還意欲にも影響しかねない問題だ」と批判した。

 一方、東電は「地下水流入量抑制が目的で、100%閉合を確実に実施するわけではない。目的は変わっておらず方針転換ではない」(本店広報室)としている。


  約束を守れ…原発廃炉「石棺方式」に地元猛反発 読売新聞 2016年7月15日

東京電力福島第一原発の廃炉方法を検討する国の認可法人「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」(東京)が公表した「技術戦略プラン」に地元自治体が猛反発している。

 事故で溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)を取り出さず、原子炉ごとコンクリートで覆う「石棺方式」に言及しているためだ。機構は打ち消しに躍起だが、15日に内堀知事が急きょ国に県外処分を要望する事態に発展している。

 石棺方式では事実上、第一原発が極めて高い放射線を出し続けている燃料デブリの最終処分場になる。

 第一原発がある大熊町の渡辺利綱町長は「町民の帰還に向けて環境を整備している今、選択肢が出ること自体あってはならない。取り出しは約束であり、守ってもらわなければ」と語気を強め、双葉町の伊沢史朗町長も「取り出して廃炉という約束だ。全く納得できないし、取り出しを諦めている印象さえ受ける。約束は守り、取り出して収束させる取り組みをとにかく進めてほしい」と語った。

 機構が13日に公表した技術戦略プランでは、原子炉の格納容器を水で満たして取り出す方法など従来の内容に加え、石棺方式について触れられた。燃料デブリに含まれる放射性物質には、放射線を出さなくなるまで膨大な時間がかかるものが含まれているため、「長期的な安全管理が困難」と説明してはいるが、「状況に応じて柔軟に見直しを図る」と選択の余地を残した記述になっている。

 14日に機構は「問題点について見解を示すため」だったとの釈明文を出したが、県の担当者は「読んだ側は石棺方式を検討していると思う」と批判した。廃炉の現在の工程表には、最終的な取り出しが明記されているが、機構がそのための技術を国と東電に提案する仕組みになっている。


  総理大臣官邸は「炉心溶融」の隠ぺいを指示したのか? 元内閣審議官が明かす舞台裏と真相 堀潤 ジャーナリスト/NPO法人8bitNews代表 Yahoo ニュース 2016年7月2日  

「炉心溶融」の公表がなぜ事故から2ヶ月以上経ってからのことだったのか。先月、東京電力の第三者委員会が報告書を公表し、東京電力の広瀬直己社長は「当時の社長が炉心溶融という言葉を使わないよう指示していたのは隠蔽ととえられても仕方がない」と謝罪した。

一方で、報告書は「当時の清水正孝社長が、会見に臨んでいた武藤栄副社長に対し、東電の広報担当社員を通じて『炉心溶融』などと記載された手書きのメモを渡させ、「官邸からの指示により、これとこの言葉は使わないように」という旨の内容の耳打ちをさせた経緯があり、この事実からすれば、清水社長が官邸側から、対外的に「炉心溶融」を認めることについては、慎重な対応をするようにとの要請を受けたと理解していたものと推認される。」 と指摘し、「炉心溶融」の公表が遅れた原因の一つは、当時の総理大臣官邸からの指示だった可能性を示唆した。

ところが、報告書の公表を受け、菅直人元総理や枝野幸男元官房長官ら当時の政権幹部はこれを否定。先月30日、民進党として東京電力や第三者委員会に対し、代理人弁護士を通じて謝罪と撤回を求める抗議文書を送付する事態に発展している。

そもそも、第三者委員会は、官邸側からの指示とされるメモの存在について報告書の中で「清水社長や同行者らから徹底したヒアリングを行ったが、官邸の誰から具体的にどのような指示ないし要請を受けたかを解明するには至らなかった」と説明しており、 菅元総理や枝野官房長官など、当時の政権幹部らへの聞き取りを行って指摘をしているわけではない。

一体、総理大臣官邸と東京電力との間に当時どのようなやり取りがされていたのか?

8bitNewsでは、核心を知るキーマンの一人に独占インタビューした。原発事故当時の内閣審議官で、総理や官房長官らの様子を総理大臣官邸で広報担当者として直接見聞きしてきた、下村健一氏を取材。「炉心溶融」が東京電力で禁句として扱われるようになっていった過程が見えてきた。

官邸からの圧力は本当にあったのか?元TBS報道キャスターというジャーナリストの観察眼で内幕を目撃していた下村氏の証言から、「炉心溶融」隠ぺいの舞台裏を明らかにする。

「不都合でも隠すな、不確かなら喋るな」共有された総理大臣官邸のスタンス
下村氏はインタビューの中でまず、総理大臣官邸からの東京電力への直接的な隠ぺい指示の可能性を否定。伝言ゲームと忖度(そんたく)による東京電力と総理大臣官邸、そして原子力・安全保安院との間に生じていった「ズレ」を証言した。

(堀)
当時の情報発表の方針について、総理大臣官邸ではどのような認識で行っていたのかまず教えてください。

(下村)
当然あの時は、誰であっても一番怖いのは「炉心溶融」だというような大雑把な認識がありますから「炉心溶融なんですか、これは?」というのは当然、記者会見でも一番の焦点の質問の一つ、ですよね。だから答え方として、「(我々だって)わかったら説明したいよ」というのが官邸の(本音の)スタンスでした。

当時、事故直後ぐらいから、菅さんと枝野さんが我々広報の人間に向かっても言っていたのは、この2つの原則でいくからなというものでした。それは「不都合でも隠すな。不確かなら喋るな」。とにかくこの2つで行くからな、と。

つまり、今まで続けてきた原子力安全神話からすると不都合なことであっても、今までの国策から矛盾してしまうからといっても、「言わないでおこう、とすることはしない」というのが一つ目の原則ですね。不都合でも隠すな。そして、2番目が「不確かなら喋るな」。これはもう我々メディア側にいた人間にとっても、それはそうだよねと思いましたから、なんでですかとは誰も言わない。そうだよなと。(大混乱の)今こそ、一番確証を得られた事だけを喋るべきだなと思ってましたから。

で、炉心溶融に関しては、2番目の原則の方に当たったわけですね。「本当にわかりません」という東電の説明に対して、じゃあしょうがない、わかったらちゃんと発表しましょう、今は「その可能性もある」という事だけを正直に発表しましょうと、そういう事です。

官邸が求めたのは情報の「共有」、しかし、東京電力は情報公開には「了解」が必要と判断
「不確かなことは喋るな」という原則は、東京電力と総理大臣官邸の間にも様々なズレを生じさせていったようだ。

東電の第三者委員会の報告書では、福島第一原発の各号機が水素爆発を起こすなど事態が緊迫化するなか、3月14日午後8時40分頃からの武藤副社長(当時)の会見中に清水社長(当時)から「官邸の指示でこれとこの言葉(炉心溶融など)は使わないように」と広報担当社員を使ってメモを見せながら耳打ちした事実を挙げ、総理大臣官邸からの直接的な指示があったと推認されるとしている。さらに、報告書では同14日までの間に、官邸から様々な圧力があったかのような記述が続く。官邸からの圧力なのか?下村氏に舞台裏を聞いた。

まず、報告書が「官邸からの東電に対する「炉心溶融」についての指示の有無」として指摘したのは、3月12日の1号機水素爆発直後の東電と総理大臣官邸とのやりとりについてだった。

官邸に詰めていた東電社員は、官邸への事前連絡なく福島第一原発 1 号 機の原子炉建屋爆発後の写真が公表されたことに関して、平成 23 年 3 月 12 日夜、首相及び官房長官から不快感を示されたため、翌 13 日午前、東電に戻り、清水社長に対し、官邸に説明に赴くよう進言した。 それを受けて、清水社長は、同日午後 2 時頃、小森常務、他の役員 1 名及 び社員数名と共に官邸を訪れ、官房長官執務室に清水社長 1 人が入室して、 官房長官と面談し(官房側の同席者がいたか否か、同席者がいたとしてその人物が誰かは不明である。)、また、首相執務室に清水社長、小森常務らが入室して、首相と面談したようである。その際に、清水社長や小森常務らが、首相や官房長官(同席者がいたとすれば、その同席者)から、どのような話をされたのかについて具体的に確認することはできなかった。 しかし、清水社長が東電本店に戻ってから、東電の部長に対し、今後、東電がプレス発表する際には、事前にプレス文案や公表資料等について官邸の了解を得るよう指示をしており、その事実からすれば、官邸側から、マスコミに公表する際には事前に官邸側の了承を得るようにとの要請を受けたものと推認される。

出典:検証結果報告書 福島第一原子力発電所事故に係る通報・報告に関する第三者検証委員会



(堀)
官邸は情報発表に関して、事前の了解を得るよう東京電力に求めましたか?

(下村)
(第一原発の爆発の写真が、官邸の知らないうちに公開されたことについて)官邸は、こんな大事な時に情報が共有されていないってことが不快だった、わけです。多分、清水社長側はそれを言われた時に「その写真を出したことが不快だ」と官邸が思っていると勘違いしたのではないでしょうか。そこから、「ズレ」が始まってるんですよ。

とにかく官邸は、「不都合でも隠すな」というのが第一方針でしたから。前もって状況を把握さえしていれば、「この写真は出さないで」とは絶対言わなかったはずなんですね。だから、そこでまず第一ボタンの掛け違いが起きてしまった、ということですね。

この後、清水社長が本店に戻ってから「今後の東電のプレス発表は事前に官邸の了解を得るように」という指示をしている。ここで「了解」という言葉が登場するわけですよね。これは相当大きな分水嶺というか、分かれ道になってしまったと思うんです。官邸としては、「事前に知らせろ」「共有しろ」ということだったのですが、「了解」という言葉に伝言ゲームで変わってしまった、瞬間的に。「了解」というのは「いいですよ」ということですよね。いいか悪いかを官邸が決める、ということですよね。そんなことは、官邸は求めてないわけですよ。

例えば官房長官の記者会見で、記者から「東京電力が今こう言う発表しましたけど」と聞かれ、「えっ、私それ知りません」と官房長官が言う状況は、(一般論として)まずいわけですよ。ああいう中で、ちゃんと全体をコントロールしなきゃいけない時に、知ってる情報が(各プレーヤー間で)ばらばらだったらいかんっていうのは、もうこれは当たり前の話ですよね。だからそこを揃えようね、ということまでが官邸側からの要望だったんだけども、それが「事前に了解を得ろ」という指示に変わってしまった。これによって東電側は、「官邸から了解得ろと言われたから」と社長から言われれば、当然そこから下の人は、「あ、そうなんだ、じゃあ官邸がいいと言ったことしか出したらいけないんだ」という風に思いますよね。そこでズレていったんだと思います。

枝野官房長官は知らなかった「炉心溶融」に言及した保安院会見担当者の交代劇
報告書は、官邸からの指示を示唆する事柄として、3月12日の保安院審議官の交代劇についても指摘をしている。

平成 23 年 3 月 12 日の 17 時 50 分まで、保安院の記者会見の主たる説明者であり、炉心溶融を半ば認めるかのような発言をしていた原子力安全 基盤担当の A 審議官が、同日の 18 時以降の記者会見時における主たる説明者の役割から外れ、その後の記者会見では、B 首席統括安全審査官が主 たる説明に当たることとなった。同審査官は、炉心溶融の質問に対しては明言を避け、正確な状況を把握していないとして、炉心損傷の可能性は認めつつも、「炉心溶融」の用語を使わずに説明した。

出典:検証結果報告書 福島第一原子力発電所事故に係る通報・報告に関する第三者検証委員会



この交代劇に関しては、一般でも「炉心溶融について言及した結果、審議官が交代させられた」国からの圧力を象徴するシーンだとして論じられることが度々あった。報告書ではこうした交代劇を見た東京電力側が、「炉心溶融」という言葉の取り扱いについて了解が必要だと判断する一つの要因になった可能性を指摘している。

圧力はあったのか?下村氏は舞台裏をこう証言した。

(堀)
炉心溶融の可能性については、3月12日の会見で原子力安全保安院の審議官が言及しました。しかし、その次の回から、会見で説明する担当者が代わりましたよね。官邸からの指示があったのでしょうか?

(下村)
私も、ちょうどその時居合わせたんですが、官邸の中のどの部屋か忘れましたけども。原子力安全保安院の記者会見で、炉心溶融が起きているんじゃないかという趣旨の発言を審議官が話されたと。で、その時に枝野さんが「なんでこんな不確かな事を言うんだよ」ということを、誰という対象がいるわけではないけども、怒ってその時に口にしたんですよ。それを私も聞いていました。

(堀)
会見の様子を見ながらですか?

(下村)
リアルタイムで記者会見を見ながらではなかったと思います。あの会見でこんな事を言ったというような事実を知った瞬間の反応ですね。それを聞いてて、私もその通りだなと思いましたよ。ここで、本当はどうだかわからないうちに「炉心溶融だ」ということがバーッと一人歩きしちゃって、後で違いましたっていうことになった場合に、またあの、避難の判断基準なども変わってきかねないですしね。現にあの時は、避難行動によって入院患者の方が移動中に亡くなったりとか、それはもう命に関わる状況でしたから、ちゃんと確かなことだけを伝えていこうということがありました。確かじゃないことは、“可能性もある”っていう表現にとどめるべしと。まあその只中に、かなり「炉心溶融だ」という風に受けとれるような発言があったので、「その発言の仕方はまずいでしょ」というのは、枝野さんからすると当然の憤りだったと思います。

で、その後、何があったかわからないんですけども、次の会見で、突然保安院の会見の担当者が代わってたんです。で、それを知った時の枝野さんの反応も、私官邸で見てましたけど、「あれ、変わっちゃったの、あの人?」というような発言だったんですよね。ということは少なくとも、枝野さんがあいつ下ろせと言ったんではなくて、誰かしらが、その前の枝野さんの憤りを見ていて、大変だ大変だ、これは官房長官がお怒りだということで、勝手に忖度して、交代させた方がいいというような話になったんでしょう。その時に、これは“官邸の意向”だって言葉が勝手に使われたかどうかはわかりませんけれども、とにかく次で人が代わっていて、怒った当人である枝野さんもびっくりした、というようなことがありました。これは、すごく象徴的だなと思いましたね。周りが忖度していくという。

(堀)
枝野さんは相当驚かれていたんですね。

(下村)
「あれ、代わったの?」ってびっくりしていましたね、それは。

(堀)
代える必要はなかった、など担当者の配置換えがその場で問題になったりはしなかったのですか?

(下村)
別にそこまではなかったですね。代わったことによって、後でそれが“官邸のプレッシャー”という(忖度が産んだ)怪物になって、東京電力に対してもっともっと沈黙を強いていく空気を作る――という先の展開までは、僕らも読めなかったですから。なんというか、そういうことが自動的に発生するっていうことまでは…。まだあの段階では(事故本体が予断を許さず)やんなきゃいけないことが山のようにありましたから「あれ、代わっちゃったの?」だけで、すぐに関心事は次のことに移っていった、という状況でしたね。

下村氏の証言では、官邸からの直接的な隠ぺい指示はなく、非常時における伝言ゲームが続く中で、言葉の受け止めかたの違いによる誤解や忖度の連鎖が起きていたことがうかがえた。

東京電力や総理大臣官邸は「炉心溶融」という文言を本来タブー視していなかった?
原発事故当時、筆者はNHKアナウンサーとしてニュースセンターで深夜ニュースなどを担当していた。自分がニュースを読んでいない時間帯は、テレビニュースが届かない人たちに対してTwitterなどを使って、NHKニュースの原稿をリライトしてツイートする発信を続けていた。振り返ってみると、上記の経緯で東京電力が「炉心溶融」という文言に過敏に反応する以前は、この言葉をタブー視していなかったことがうかがえる。

3月12日、第一原発1号機の異変を伝える速報でNHKはこう伝えていた。

【速報 福島第一原発1号機】原子力安全・保安院によると、福島第一原発で放射性物質を検出。炉心の燃料が溶け出た可能性があります。

出典:Twitter(@nhk_horijun)



実際に、東京電力の会見では当初、炉心溶融に関するやりとりもあった。第三者委員会の報告書でも「3 月12 日の早朝から、1 号機の炉心損傷 の可能性を認識しており、同日内の東電の記者会見では、炉心溶融していないかを問われ、小森常務は、炉心溶融の可能性がある旨の回答をしていた。」「同月14 日も、炉心溶融の有無の判断について、記者会見では厳しい追及があり、3 号機の爆発後の記者会見で、小森常務は3 号機について炉心溶融の可能性があることを肯定する趣旨と受け取られるような説明をしていた。 」としており、当初は東京電力側が炉心の溶融という事実を過剰に隠したがっている様子はうかがえなかった。異変があったのは、同日夜の会見で官邸からの指示があったとするメモが差し込まれてからだ。

一方、総理大臣官邸の動きからも炉心の溶融という事実を意図的に隠蔽しているようには思えない。なぜなら、枝野官房長官は3月13日の会見、そして東電に先ほどのメモが渡った午後8時40分の会見直後の午後9時3分の会見で、記者から「2号機についてだが、燃料棒の溶融は起きたと考えているか」と質問されたのに対し、「それが起きている可能性は高い。1、2、3、いずれも。確認はできないが、起きている可能性は高いという条件は三つとも同じだ。」と回答し、炉心の溶融、メルトダウンの可能性についても想定しているという旨の発言をしている。

http://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg4527.html(会見動画23分ごろ)

「炉心溶融」の公表の遅れは情報伝達における様々なエラーから生じていった可能性が高い。当時の関係者たちのそれぞれの証言を結んでいくと、原発事故発生直後は過剰で意図的な隠蔽がされたようには見えない。その後の伝言ゲームによる情報のねじれと、責任の所在があいまいな忖度(そんたく)の連鎖が起きていた。それだけに、非常時における情報伝達の難しさを逆に浮き彫りにした形だ。

しかし、下村氏は語る「3・11の広報は失敗だった」
その上で下村氏はインタビューの中で、こう締めくくった。

(下村)
結果的に3・11の広報がうまくいかなかったことは、間違いないです。未だにこれだけの、いろんな疑念が渦巻いているということは、あの当時の官邸広報はやはり失敗したんです、本当に。要するに、「国民の皆さん、これだけしか政府はわかっていません」っていうことを、国民に不安を抱かせずに伝える術を、なんとかあの大混乱の中で我々は編み出さなきゃいけなかったと思うんです。

私も当時、たまたまあの時期に官邸の中に遭遇した人間として、一生十字架(広報失敗という結果責任の一端)を背負ってると思っています。だから今いろいろと、情報発信はこういう風にしましょうという活動を続けているのですが、これはもう一生続けてくしかないと思っているし、次にまたどこかで、またどんな形か、我々人類の浅知恵ではわからないような想定外の災厄が来た時には、パッと的確に情報が国民に共有されるようにしておかなくてはいけないと思っています。

でも、これだけ今回反省してマニュアルを作っても、またそのマニュアルがどこにあるかわからなかったら、それで終わりなわけですよね。どこまでいっても教訓から学び続けるしかないんで、私もこういう機会にはどんどん尋ねられれば(お答えして)、あの時はこうだった、ここまでは思い至らなかった、ここは優先順位が一番にはならなかった、といった状況を共有してもらえたらと思っています。少しでも、前回よりはマシな次回であって欲しいと思うから。


  炉心溶融隠しは「国民を愚弄」 新潟県技術委が批判 朝日新聞 2016年06月28日

東京電力福島第一原発事故で炉心溶融の公表が遅れた問題で、東電の第三者検証委員会は28日、経緯の調査を求めていた新潟県の技術委員会に「当時の社長が炉心溶融という言葉を使わないよう社内に指示していた」などとする調査結果を報告した。県技術委の立石雅昭委員(新潟大名誉教授)は、事故から2カ月間、炉心溶融を認めなかった経緯の検証が不十分だとし、「疑問に答えておらず、国民を愚弄(ぐろう)するものだ」と批判した。

 報告書は元社長の指示について「官邸側から要請を受けたと理解していたと推認される」と指摘するが、第三者委は当時の官邸関係者から聞き取りを行わなかった。そのことについて県技術委は「(東電と)官邸がどのような関係にあったかは調べなければならない問題だ」などと批判。それに対し、第三者委の田中康久委員長は「東電で聞き取れる範囲でなにか出てくれば、調べるつもりだった」と弁明するにとどめた。

 第三者委が「官邸側の要請」と指摘したことについて、菅直人元首相らは「指示したことはない」と否定している。

 第三者委が検証しきれなかった問題については、今後、県と東電が新たにつくった合同検証委員会が検証する予定だ。

海洋温度差発電


  <第4部・2050年 未来の旅>3.海洋温度差発電 一石二鳥淡水化も狙う 東京新聞 2008年06月16日

「環境を考えるならコストは考えるべきでない。エネルギー危機という共通認識に立てば、コストは問題にならないはず」。佐賀大学・海洋エネルギー研究センター長の門出政則さんは、海水を利用して電気をつくる研究に取り組んでいる。

 表面温海水が沸点の低いアンモニアを気化させ、その蒸気でタービンを回し、発電する。蒸気は深層海水で冷やして液体アンモニアに戻し、循環させる。無尽蔵の海水。CO2排出ほぼゼロ。同大はその研究の草分けだ。

 佐賀県伊万里市の研究センターに設置された実験プラント。一般家庭十世帯分ほどの電気供給量に当たる三十キロワットの出力を可能にし、効率アップの実験を重ねている。とはいえ、三十キロワットの出力実験に運転コストなどで六十万円も要してしまう。門出さんは「千キロワットを起こすのに毎秒トン単位の冷水が必要。五十メートルプールを数分間で満杯にするようなもの。そういったレベルの難しさ」と話す。しかし、夢物語ではない。「効率アップを急ぎ、二、三千キロワットの発電を目指したい。表面海水温が高いほど効率がよく、南洋の島嶼(とうしょ)国などに最適」
    □
 理論は十九世紀、フランスで提唱された。日本での研究の先駆けは元佐賀大学学長の上原春男さん。一九七〇年ごろ、「自分の人生より先にエネルギーがなくなるかもしれない」との危機感から研究に着手。四、五年後、小さな実験装置で出力に成功。そして高効率の発電サイクル「ウエハラサイクル」を開発、内外の注目を集めた。

 大学退官後、佐賀市内に特定非営利活動法人(NPO法人)「海洋温度差発電推進機構」を発足させ、実用化を急いでいる。上原さんは「二〇〇五年、千葉県の製油所に排熱を利用した四千キロワットの発電装置が設置され、順調に稼働している。海洋での実用化も間近。CO2問題、原油高の折、世界が関心を寄せている」と話す。パラオ共和国やカリブ諸国など三十カ国以上から相談・引き合いがあり、実用第一号プラントが間もなく誕生するという。

 上原さんは副産物にも注目した。発電で利用した温海水を蒸発させ、冷海水で凝縮して真水をつくるのだ。佐賀大は九七年からインド政府と共にインド洋で発電を試みた。発電は取水管流失で失敗したが、淡水化には成功し、水不足の中東諸国などが注目している。この真水を電気分解すれば、次世代エネルギーとして注目される水素もできる。上原さんは「最終目標は水素」と言い切る。
    □
 打ち出の小づちのような装置。だが、こんなことも。八一年、東京電力が開発に着手、ナウル共和国で百キロワットを出力。しかし、コストや設備維持問題から撤退を余儀なくされた。道は平たんではない。門出さんは言う。「化石燃料は太陽の恵みの貯蔵物。少しでも次世代に残すため、いま入射している太陽光をエネルギー転換すべきだ。(海水温を利用する)われわれの研究もその一環。効率問題をなんとかクリアしたい」
  (温暖化問題取材班)

原発離れへの流れ(2)

2016年3月25日から6月22日まで

2016年6月23日以降は ☞ 原発離れへの流れ(3) 

2016年3月23日以前は ☞ 原発離れへの流れ(1) 


  原発の必要性「説明したい」 九電 [鹿児島県] 西日本新聞 2016年7月11日  

鹿児島県知事選で、九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の一時停止などを主張する三反園訓氏が当選して一夜明けた11日、九電は「具体的な停止要請を受けたわけではない」(報道グループ)として当面は静観する構えをみせた。

 九電は公式なコメントは出していないが「新知事には原発の必要性のほか、安全確保の取り組みなどを説明していきたい」(同)としている。知事には原発を止める法的権限がなく、同社首脳は「熊本地震後も問題がないので稼働を続けている。停止を望むなら、権限を持つ原子力規制庁に要請してほしい」と困惑気味に語った。


  「炉心溶融使うな」は隠蔽 公表遅れ調査せず 東電社長が謝罪 朝日新聞  2016年06月22日

東京電力福島第一原発事故で、当時の清水正孝社長が「炉心溶融」という言葉を使わないよう社内に指示していた問題で、東電の広瀬直己(なおみ)社長は二十一日の記者会見で、「隠蔽(いんぺい)だった」と認めて謝罪。自らを減給10%(一カ月)、原子力・立地本部長の姉川尚史常務を減給30%(一カ月)の処分とすることを発表した。

 この問題では、清水氏が官邸側から指示を受けたのかどうかや、四年前の社内事故調査で口止めの事実が判明したのに公表しなかった経過など重要な疑問点が残っているが、追加調査しない考えを示した。広瀬社長は「社会目線からすれば、隠蔽ととらえるのは当然」と陳謝し、今後は「安全を最優先し、事実を伝える姿勢を貫く」と強調した。

 東電が弁護士に依頼した調査では、清水氏が官邸からの指示を受け、口止めしたと推認されると報告書に記載しながら、当時の官邸関係者への裏付け調査は一切していない。当時の菅直人首相や枝野幸男官房長官らは「指示していない」と猛反発している。


  米加州最後の原発閉鎖へ 再生エネに転換 産経フォト  2016年06月22日

【ワシントン共同】米カリフォルニア州の電力大手PG&Eは21日、運営するディアブロキャニオン原発の2基の原子炉(出力計224万キロワット)の稼働を2025年までに停止し、閉鎖すると発表した。同州から原発がなくなることになる。

 同州では13年に、電力会社サザン・カリフォルニア・エジソンがサンオノフレ原発の廃炉を決め、ディアブロキャニオンが唯一の原発になっていた。

 PG&Eは今後8~9年で、電源を太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーへ転換、31年までに総発電量の55%をまかなう計画を掲げている。米国では、天然ガスの価格が下がったことにより原発による発電は採算が悪化している。

 2基の原子炉は加圧水型軽水炉で、1985年と86年に営業運転を開始。巨大なサンアンドレアス断層による地震の被害が懸念されたため、地元では建設反対運動が起きた。


  東電「炉心溶融」隠蔽指示で元社長を処分 「官邸要請」は調査せず 朝日新聞デジタル 2016年06月22日

炉心溶融の言葉使わぬよう指示、隠蔽と認める 東電社長
東京電力福島第一原発事故で炉心溶融(メルトダウン)の公表が遅れた問題で、広瀬直己社長は21日、当時の社長が炉心溶融という言葉を使わないよう社内に指示していたことについて隠蔽(いんぺい)と認め、謝罪した。東電の第三者検証委員会が指摘した「官邸の指示」については追加調査しないという。その上で、新潟県に「炉心溶融の定義はない」などと誤った回答をしたとして、広瀬社長を減給10%(1カ月)とするなどの処分を発表した。

東電は、当時の清水正孝社長が指示したことは「社会の皆様の立場に立てば隠蔽と捉えられるのは当然」と発表。広瀬社長は会見で個人の見解を問われ、「隠蔽です」と認めた。その上で、情報発信を社長に直接提言することや、外部からの圧力があっても事実を公表できるよう訓練するといった再発防止策を発表した。

元社長が指示した理由について、東電の第三者委は16日、「元社長が官邸側から要請を受けたと理解していたと推認される」とする報告書を発表し、菅直人元首相らが「指示したことはない」と否定している。

また、広瀬社長はこうした「要請」の経緯について、東電として調査する考えがないことを明らかにした。「圧力に左右されない対策を取ることが重要だ」と判断したという。

炉心溶融の公表遅れをめぐっては、新潟県が2012年から調査を求め、東電は今年2月、「炉心の損傷が5%を超えた場合は炉心溶融とする」との判断基準がマニュアルに明記されていたと公表した。
(朝日新聞デジタル 2016年6月22日01時07分)

「官邸の指示」再調査せず 民進、東電の姿勢に反発
東京電力福島第一原発事故で炉心溶融(メルトダウン)の公表が遅れた問題で、東電が再発防止策を発表した。第三者検証委員会が推認した「官邸の指示」については、東電として再調査しないという。真相の解明は、新潟県との合同検証委員会にゆだねられる。

21日、都内の本社で会見した広瀬直己社長は「社会の皆様、とりわけ(原発の)立地地域の皆様におわびしたい」と謝罪した。当時、核燃料が溶けている可能性が高いとすでに認識していたのに、社長の指示で「炉心溶融」との言葉を避けたことを隠蔽(いんぺい)と認め、「今後は事実を伝える姿勢を貫く」と語った。

ただ、再発防止策の前提となった第三者委(委員長=田中康久・元仙台高裁長官)の報告書が問題の背景に「官邸の指示」があったと推認し、当時の官房長官だった枝野幸男・民進党幹事長らの反発を招いたことについては「調査するつもりはない」と繰り返した。

第三者委は当時の官邸関係者への聞き取りをしないまま「官邸からの圧力」を推認しており、枝野氏らは「党への信用毀損(きそん)」などとして法的措置も検討している。広瀬社長は「推認は推認として受け止めた」とし、その理由についても「(真相の解明を)しなくても済む対策をとった」と繰り返すのみだった。

真相の解明は柏崎刈羽原発を抱える新潟県の泉田裕彦知事も求めており、東電と同県は今後、合同で検証を続けていく。広瀬社長も「今後、委員の先生がたと合同で相談させて頂きながら(やり方を)決めていく」としており、検証の対象に「官邸の指示があったかどうか」が含まれる可能性は否定しなかった。

こうした東電の姿勢に対し、民進党の岡田克也代表は同日、記者団に「東電も第三者委を作ったわけで、知りませんでは済まない。これは政治家の名誉のかかった問題だ」と反発した。 企業の不祥事に詳しい郷原信郎弁護士も「官邸の関与をにおわせて責任を逃れるシナリオが最初からあったのでは。東電には期待できず、当時の官邸や立地自治体の方で解明に取り組むべきだ」としている。
(朝日新聞デジタル 2016年6月22日05時03分)

元原子力規制委員が大飯原発の危険性を警告 岡田 広行 東洋経済オンライン 2016年06月20日

原子力発電所の安全審査で中枢にいた専門家の発言が、原子力業界に衝撃を与えている。

 2014年9月まで原子力規制委員会でナンバー2(委員長代理)を務めた島崎邦彦・東大名誉教授(地震学)が、6月16日の田中俊一委員長らとの意見交換の場で、関西電力・大飯原発3、4号機再稼働のための安全審査の根幹をなす基準地震動が「過小に見積もられている可能性がある」と指摘。「基準地震動の算出に問題がないかどうか、もう一度精査してほしい」と強く求めた。

 これを受けて6月20日午後2時からの規制委会合では基準地震動の検証をやり直すかどうかについて議論することになった。

■ 関電が用いた計算式に欠陥あり

 島崎氏は、関電が大飯原発の基準地震動を計算するうえで用いている活断層評価のモデル式に、過小評価を生み出す欠陥があると指摘。

 モデルは「入倉・三宅式」と呼ばれるもので、これを西日本で多く見られる横ずれ断層(垂直型断層)や垂直に近い断層に用いた場合には、震源の大きさがほかの式を用いた場合と比べて3.5分の1~4分の1程度の小さな値になると田中委員長らに説明した。

 そのうえで島崎氏は、本当の震源の大きさが同式での計算結果の3倍以上だとすると「短周期レベルの地震動は5割増しになる。これはかなり深刻な問題だ」との見方を示した。

 大飯原発3、4号機の再稼働をめぐっては、2014年5月に原告住民の勝訴となる運転差し止めを福井地裁が命じている。その判決では次のように指摘されている。

 「1260ガルを超える地震によって冷却システムが崩壊し、非常用設備ないし予備的手段による補完もほぼ不可能になり、メルトダウン(炉心溶融)に結びつく。このことは被告(関電)も自認しているところである」

 当時、関電が規制委の審査会合で示していた基準地震動は700ガル。その後、規制委との議論を経て856ガルに引き上げて概ね了承を取り付けたものの、今回、島崎氏から「そもそも、関電が基準地震動設定の基礎に用いた式そのものに欠陥がある」との問題が提起された。

 しかも驚くべきことに、島崎氏は関電が申し立てた名古屋高裁金沢支部での同裁判の控訴審で、住民側弁護士の依頼で陳述書を提出しており、そこで関電の地震動評価について「過小評価の可能性」を指摘している。こうした流れを踏まえて朝日新聞などが島崎氏の問題提起について報じたことにより、事の重大性が世の中に知られるようになった。

 今回、規制委が"すでにやめた人"である島崎氏との面談を設定したのも、こうした経緯によるところが大きい。田中委員長も16日の面談の冒頭で、「本日も大勢のマスコミが集まっている。国民も関心を持っている」などとして、問題が無視できなくなっているとの認識を示した。

■ このままでは福島の事故が繰り返される

 「どうされるかは委員会のマター。くちばしをはさむつもりはない」「すでに辞めた人間が申し上げるのも口はばったいのですが」と言いつつも、島崎氏は田中委員長ら規制委に審査のやり直しを強く求めた。

 その理由について、意見交換終了後のぶらさがり会見で島崎氏は、「(東日本大震災と同じこと(=想定外の大惨事)が、日本海側で再現されつつある。今であれば(対策の)やり直しがきく)とし、そのうえで「専門家であれば計算し直すのに大して時間はかからないはず」と述べている。

島崎氏の問題提起は、6月24日発売の岩波書店『科学』(7月号)に掲載される論文に詳しい。

 そこで島崎氏は国土交通省が2014年9月に策定した『日本海における大規模地震に関する調査検討会報告書』が日本海「最大クラス」の津波を過小評価しており、「津波の対策がこのまま進めば、再び『想定外』の被害を生ずるのではないだろうか。2002年の津波地震の予測を中央防災会議や東京電力が無視し、『想定外』の災害を起こしたことを忘れてはならない」と警鐘を鳴らしている。

■ 「想定外」が繰り返されるのか

 島崎氏は、規制委委員長代理を退任した後、日本海側での津波予測について研究を重ねてきた。さらに熊本地震での現地調査を経て、「入倉・三宅式」を横ずれ断層に用いることによる弊害について、確信を持つようになったという。

 島崎氏が「過小評価の可能性が高い」として問題にしている日本海最大の活断層は、大飯原発の基準地震動設定の際にも検証の対象となったことから、学会での報告内容を知った原告の弁護士から求められて陳述書を書いたと島崎氏は舞台裏を明らかにしている。

 規制委との意見交換では「入倉・三宅式は適用範囲を頭の隅に置きながら(審査を進めてほしい)ということか」との質問が原子力規制庁の幹部から出たが、島崎氏は「(同式に欠陥があることは)頭の隅ではなく、真ん中に置いてほしい」と釘を刺した。田中委員長からの「(安全上余裕度を持たせている)原発よりも建築基準や高層ビルなどのほうがどうなっているか(気になる)」の問いにも、「(入倉・三宅式が)原子力(発電所の基準地震動設定)でも引き続き使われる可能性がある(ことが問題だ)」と警告した。

 「想定外を繰り返してはならぬ」との地震学の専門家による問題提起を、田中委員長ら規制委は20日の会合でどう判断するか。国民を原発事故から守る最後の砦としての責任が問われている。

炉心溶融隠し 安全文化はどこにある 東京新聞 2012年6月18日

深刻な事態の公表が遅れても、対応マニュアルの存在に気づかなくても、不当ではなく、社内の空気のなせるわざ?。第三者検証委員会の報告はそう読める。東京電力に安全文化は根付かないのか。

 大事なことは、ほとんど何も分からなかったということか。

 東京電力の「原子力災害対策マニュアル」では、核燃料損傷の割合が5%を超えれば、炉心溶融(メルトダウン)と判定することになっていた。核燃料が溶け落ちて、原子炉の底にたまってしまう、つまり重大な事態である。

 マニュアルに従えば事故発生から三日後に、福島第一原発は、メルトダウンしたと判定され、公表されるべき状況だった。

 ところが東電は五月まで、「炉心損傷」と過小評価し続けた。マニュアルがあること自体、五年もの間、気づかれていなかった。

 正確で速やかな情報の伝達、公開は避難の在り方を左右する。住民の命に関わる問題だ。安全軽視にもほどがある。

 なぜ、このようなことが起きたのか。当然浮かぶ疑問の声に、真摯(しんし)かつ、つまびらかにこたえる責任が、東電にはあるはずだ。

 ところが報告書には、首をかしげたくなるような記述が並ぶ。

 「炉心溶融という用語の使用を控えるべきだとの認識が社内である程度共有されていた結果」

 「炉心の状態が直接確認できないため、測定結果が出そろうのに時間が必要だった」

 「事故後、マニュアルが改定され、溶融の判定基準は一部の社員の過去の記憶になっていた」

 「当時の規制官庁は損傷割合の通報を受けており、溶融が起きていると判断できた」

 従って、メルトダウンの判定が遅くなっても不当とは言えず、意図的な隠蔽(いんぺい)も認められない。住民の対応にはほとんど影響していない?などと結論づけている。

 首相官邸や政府の関与についても触れてはいるが、曖昧さは否めない。納得できるものではない。

 そもそも“第三者”に検証を委ねてしまうこと自体、東電の自らを省みる力、企業倫理の欠如の表れではないのだろうか。

 報告書から明らかに読み取れるのは、あれだけの事故を起こしてなお、東電という企業風土の中に「安全文化」が育っていないということだ。

 立地する新潟県ならずとも、柏崎刈羽原発の再稼働など、認められるものではない。

知事、認可申請事前了解を表明…1号機廃止計画 読売新聞 2016年6月18日

中国電力が島根原子力発電所1号機(松江市)の「廃止措置計画」を原子力規制委員会に認可申請することについて、溝口知事は17日、県として事前了解すると表明した。今月中にも周辺自治体からの意見を得て、中国電に事前了解を伝える。

 この日の県議会本会議で、山根成二総務委員長が、計画の認可申請に対して県が事前了解することを了承すると報告。「中国電に廃炉作業を安全に行う能力があるか疑問」などと反対討論があったが、賛成多数で了承された。これを受け、溝口知事は「県として認可申請することを了解し、中国電や規制委に必要な要請をしていく」と述べた。

 溝口知事は閉会後、取材に応じ、「規制委に厳しく審査をしてもらった後、最終的に計画を了解するか判断する」と強調。中国電や国への要請には、県議会の意見を踏まえ、使用済み核燃料搬出の確実な実施や、地域振興への配慮などを盛り込むとした。

 県と同様に、安全協定に基づいて中国電から認可申請の事前了解願を受けた松江市の松浦正敬市長は22日、市議会全員協議会で了解することを表明する見通し。

 島根原発の安全確保に関する覚書を県と結んでいる安来、雲南、出雲の市長には、県が17日に意見照会を行った。鳥取県の平井伸治知事や同県米子、境港の市長にも覚書に基づき意見照会した。溝口知事は事前了解を中国電に伝える際、これら自治体の意見を添える。

 また、平井知事はこの日、鳥取県庁を訪れた中国電の迫谷章副社長に、米子、境港市とともに認可申請を認める考えを伝えた。同県と2市が中国電と結ぶ安全協定には事前了解などの権限はなく、立地自治体と同等に協定を改定することも申し入れた。(土屋吾朗)

島根知事、島根原発1号機の廃炉計画申請を了承 日本経済新聞 2016年6月18日

島根県の溝口善兵衛知事は17日、中国電力が事前了解を求めていた島根原子力発電所1号機(松江市)の廃止措置計画を了承すると表明した。今回は原子力規制委員会に計画を申請することの了解にとどめた。今後、規制委が審査結果を出した後に改めて規制委から説明を受け、計画了承の最終判断をする。

 島根県議会は同日の本会議で、中国電からの申し入れを受け入れることを決定した。これを受け溝口知事は本会議で「県として申請することについて了解する」と発言した。今後は使用済み核燃料の適切な搬出などの要請を中国電にする。

 島根県は周辺自治体に対し、廃止措置計画の受け入れについて意見を照会した。各自治体は6月末をメドに了解の判断を下す見通しだ。一方、松江市は安全協定に基づく事前了解を受け入れるかを、22日の市議会で協議する予定だ。

東電、福島県に説明 炉心溶融問題 日本経済新聞 2016年6月18日

東京電力は17日、福島第1原子力発電所事故の炉心溶融を巡る第三者検討委員会の報告書について福島県に説明した。県は「県民の気持ちを無視したもので、極めて遺憾だ」と応じ、速やかに今後の対応を示すよう東電側に求めた。

 東電原子力・立地本部の守正樹・立地部長が17日午後、県庁を訪れ、菅野信志・原子力安全対策課長に16日に公表された報告書を手渡した。「このたびの通報の問題についておわび申し上げます」と謝罪したうえで、第1原発1~3号機の炉心状態を「炉心溶融」と伝えるべきだったなどと報告書で指摘された事項について概要を説明した。

 菅野課長は「東電社内で『炉心溶融』という言葉の回避が共有されていたなら問題だ。そういう会社の体質があったと言わざるを得ない」と批判。「報告書が断定しなかった点についても事実を明らかにする努力を続けてほしい」と求めた。

 内堀雅雄知事は「炉心溶融という重大情報が社長の指示で公表されなかったことは、当時の不安に満ちた県民の気持ちを無視したもので、極めて遺憾。報告書を真摯に受け止め、今後の対応を速やかに示してもらいたい」とのコメントを出した。

菅直人元首相は重大な責任を免れようがない 阿比留瑠比(あびる・るい) 産経新聞論説委員兼政治部編集委員 産経ニュース 2016年6月18日

文部科学省が2013(平成25)年3月26日に公表した14年春から使用される高校教科書の検定結果を見ると、当然のことながら11年3月11日の東日本大震災と福島第1原発事故への言及が目立つ。

 その中でも、当時の菅直人首相に関する記述に、首相官邸で取材をしていた一人として深い感慨を覚えた。例えば歴史の教科書には、こんな記述がある。

「震災処理の不手際もあって菅内閣は同年8月に総辞職に追い込まれ、かわって野田佳彦が組閣した」(日本史A)

「菅内閣は、放射能汚染の情報を十分に国民に開示しなかったことや、復興計画の立案と実行が遅れたことから、国民の批判を浴びて倒れた」(日本史B)

 菅氏を支えた元首相秘書官によると、菅氏は在任時、口癖のように度々こう語っていたという。

「俺は歴史に名を残したいんだ」

 その夢はかなったというわけだ。菅氏は今や歴史上の人物として高校生が学ぶ対象となった。目指すべき手本としてではなく、反面教師としてかもしれないが。

また、菅首相は内閣総辞職にあたって「歴史がどう評価するかは後世に委ねる」とする「首相談話」を発表したが、評価は菅氏の予想より早く定まったようだ。

 中曽根康弘元首相が繰り返し指摘してきた通り、「政治家は歴史法廷の被告」であるし、国のトップたる首相であればなおさら国民の視線は厳しいのも当然だろう。

 民主党の党改革創生本部がまとめた「総括」でも、12年12月の衆院選大敗の理由について「トップによる失敗の連鎖が続いた」ことを挙げている。ここでも菅氏の重大な責任は免れようがない。

 にもかかわらず、肝心の菅氏にその自覚も潔さも反省も一切みられないのが残念でならない。党改革創生本部の会合には可能な限り出席し、「自身に対する直接的な批判が『総括』に盛り込まれないよう目を光らせていた」(党幹部)という。そこには、「歴史法廷の被告だ」という覚悟はうかがえない。むしろ、民主党内から聞こえてくるのはこんな話ばかりだ。

「菅さんは1月に自宅を新築してご機嫌だ」「反原発で市民運動家の原点に戻り、非常にすっきりしている」

 実際、菅氏は自身のブログで何度も最新省エネ技術を駆使した新居について、こんなふうに取り上げている。

「新居のエネルギー自給ができるかどうかは少しデータが蓄積されないとはっきりしないが、二重ガラス窓の断熱効果は顕著だ」(2月25日付)

「エコ住宅の我が家を『エコカンハウス』と呼ぶことにし、時折エコカンハウス報告を載せるつもりだ」(3月3日付)

「(週刊誌)アエラに、我が家が『脱原発ハウス』と紹介された」(3月25日付)
 確かに、自分のお金を何に使おうと家を建てようと自由だし、うれしいのは理解できるが、少しはしゃぎすぎではないか。

 菅氏の首相時代に起きた震災と原発事故により、いまなお約31万人が避難し、11万人以上が狭小な仮設住宅で不便な生活を強いられているのである。

 首相退陣後の菅氏は、事故の最高責任者として被災地を回るのではなく、個人的趣味の四国霊場八十八カ所巡りを再開した。結局、国民や被災者よりも、自分探しの旅の方が大切なのだろう。菅氏自慢の「エコカンハウス」の「エコ」は、「エゴ」の間違いなのではないかとすら感じる。

「鳩山由紀夫元首相と菅氏の名前は、できるなら日本の政治史から抹消したい」

 政治評論家の屋山太郎氏はこう語る。だが、その名は、ある意味で長く語り継がれることになりそうだ。

古賀茂明「日本再生に挑む」 参院選の争点から消えた「原発問題」~たった5年で大事故は“なかったこと”に… あの恐怖を忘れたのか フォーラム4 2016年06月17日

風化のスパイラルに陥っている
7月10日に行われる参議院選挙。民意を問う貴重な機会だが、そこで争点から外されようとしている重要なテーマがある。

今回の選挙で国民が重視する政策分野は何か。6月6日の朝日新聞デジタルでは、参院選で重視する政策を選択肢から2つ選ぶ世論調査の結果を報じた。

答えには、「医療・年金などの社会保障」53%を筆頭に、「景気・雇用対策」45%、「子育て支援」33%、「消費税の引き上げ延期」23%と経済・生活関連分野が並んだ。市民連合などが最も重視し、野党共闘の結節点となっている「安全保障関連法」は17%、次いで「憲法」10%、「外交」9%といずれも関心度は低い。

しかし、私が驚いたのは、この調査の「結果」ではなく、「質問」のほうだ。並べられた7つの選択肢の中に、「原発政策」がない。3・11の福島の事故からわずか5年で、朝日新聞は「原発は参院選の争点ではない」と考えたのだ。

このところ、マスコミは重要な原発関連のニュースをスルーしたり、形ばかりの小さな扱いで終わらせることが多い。特にテレビ局は顕著だ。スポンサーを意識しているのだろうが、それが続くと国民の関心も徐々に弱まる。国民の関心が低くなれば、新聞も扱いを小さくする。そして、国民の関心はさらに下がる。

このスパイラルが続き、ついに、「原発」は世論調査の選択肢から消えた。選挙の争点にすらならず、「原発推進・容認」が当たり前の世の中になって行くのだろうか。

安倍政権の戦術も巧妙だ。原発に関する重要な決定は、静かに目立たない形で行う。例えば、廃炉必至と見られた高速増殖炉「もんじゅ」の存続を事実上決めた文科省の検討会の報告書発表は、当初の予定の5月20日から突然、27日に延期された。オバマ大統領の広島訪問にぶつけるためだろう。これで、「もんじゅ」はニュースから消えた。

次に解決策がないといわれる福島第一原発の汚染水問題。トリチウム汚染水を除染しないまま薄めて海に流してしまうという驚きの方針を提案した経産省の作業部会報告も、同じ27日で、ほとんど報道されなかった。

また、本来は廃炉にすべき古い原発、高浜1・2号機の40年超の運転延長の審査も同時期に終わった。さらには、事故が起きたときの電力会社の賠償責任を国が肩代わりするという究極の原発支援策も、制度設
計の議論が開始されている。どれも、国民はほとんど知らないままだ。

頼みの野党第一党の民進党は、参院選が近づくにつれて連合支配が強まり、原発を争点から外そうとしている。

福島原発事故を受けて原発の延命を止めたドイツの環境相は、「原子力は最も割高。国の補助金なしには建設不可能で財務上最悪」と切って捨て、「今や再生エネは電力消費の3分の1を賄い、原子力の2倍だ」と脱原発・自然エネルギー推進を柱とする成長戦略に自信を示す。

一方、事故から5年が経った日本の成果はほぼゼロ。

それどころか、原発について考えることさえ放棄しようとしている。こんな状況は、誰がどう見てもおかしい。

もう一度、「原発」を選挙の争点にするべきではないか。
『週刊現代』2016年6月25日号より

高浜原発 運転停止継続 3、4号機 関電の申し立て却下 東京新聞 2016年6月17日


関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転差し止めを命じた三月九日の大津地裁の仮処分決定に対し、関電が決定の効力を一時的に止めるよう求めた執行停止の申し立てを認めるかどうかについて、同地裁(山本善彦裁判長)は十七日、却下する決定をした。

 仮処分の手続きを規定した民事保全法上、関電は今回の決定に対してさらに争うことはできず、二基は三月の仮処分決定に基づき運転できない状態が続く。関電が執行停止と同時に申し立てた異議の審理で三月の決定が取り消されない限り、再稼働はできない。

 決定は三月の内容をほぼ踏襲。関電側に対し、「東京電力福島第一原発事故の原因に関する説明が不足している」と指摘し、現状では一応の原因究明を終えているとも認められないとした。

 さらに「(原子力規制委員会の)新規制基準に適合したことだけをもって安全性が確保されたとはいえない」と判断し「新基準に従って、少なくとも原発の設計や運転の規制がどう強化され、関電がどう応じたかを主張、説明すべきだ」とした。

 山本裁判長は三月の仮処分決定やその後の異議審も担当。異議審は五月十日に第一回の審尋が開かれて既に審理を終え、近く結論が出る見込み。異議審の決定に対しては大阪高裁に抗告できる。

 三月の決定は高浜3、4号機について、福島での原発事故を踏まえた設計思想や耐震性のほか、津波対策や避難計画などに問題があると指摘。「住民の人格権が侵害される恐れが強い」と結論付けた。

 関電は執行停止の申し立てで「安全対策は詳細に立証済みで、決定は科学的、技術的知見に基づかず到底承服できない」と主張した。

 また、訴訟の判決と異なり、仮処分決定はすぐに効力が発生。民事保全法は決定内容の執行で「償うことができない損害が出る恐れがある時」などに限って一時的に効力を止めることができると規定しており、関電は運転できずに生じる損失が一日当たり三億円に上ると訴えていた。

はなはだ不誠実で選挙妨害の疑いもある。強く抗議する」枝野幹事長が緊急記者会見で BLOGOS 2012年6月17日

枝野幸男幹事長は17日午前国会内で緊急の記者会見を開き、「東京電力第三者検証委員会報告書」についての反論を述べるとともに、報告書の内容が信用を毀損(きそん)させかねないものであると、強い抗議の意を表明し、法的措置をとる検討を始めたと述べた。

 枝野幹事長は、昨日発表された東京電力による第三者と称する検証委員会の報告書について、「厳重に抗議の意思を示したい」と述べた上で、「当時、菅総理や私から、清水社長に対してはもとより、いかなる場面においても炉心溶融という言葉を使わないよう指示、または要請をした事実は無い。充分かつ公平・公正な調査に基づくことなく、菅元総理や私の信用を棄損させかねない報告書を発表したことは著しく不適切であり、厳重に抗議をする」と語気を強めた。

 枝野幹事長は、「第三者検証委員会と称し、菅元総理や私の関与を示唆しておきながら、この二人はもとより、東電部外者からの聞き取りはなされていない。内実は東電関係者からの一方的な釈明を並べたにすぎないもので、調査としては不十分ではなはだ不誠実だ。また私が民進党の幹事長という職にあることから、民進党の信用をも毀損するものだ。参院選を目前とする中で、このように一方的で不誠実な調査結果と称するものを公表することは、選挙妨害の疑いを免れない」と厳しく指弾し、東電と第三者委員会への法的措置を検討する考えを示した。

 また報道機関に対して枝野幹事長は、「こうした不誠実、不公正な一方的な発表を垂れ流しすることなく、中立・公正な報道をするよう強く求める」とも述べた。

高浜原発、核燃料取り出しへ 原子炉、長期停止が確定 朝日新聞デジタル 2012年6月17日

関西電力は17日、大津地裁の運転差し止め仮処分決定を受けて停止中の高浜原発3、4号機(福井県)の原子炉から、核燃料を取り出すと発表した。この日、関電が求めていた執行停止の申し立てが地裁に却下されたことで「一定期間、原子炉が動かせないことが確定したため」(同社)としている。

 炉内の温度は100度以下の冷温停止状態だが、燃料は装?(そうてん)されたままだ。これから原子炉容器のふたを開ける作業などに取りかかり、4号機は8月上旬、3号機は同月下旬にも燃料を取り出す。取り出した燃料は、使用済み燃料プールで保管する。

 3号機は今年2月、原子力規制委員会の検査を終えて営業運転に入っていたが、関電は3月に仮処分決定を受けて運転を停止。4号機は2月に再稼働したものの、発電機と送電線をつなぐ作業中のトラブルで緊急停止したままだった。

福島県 東電報告に「極めて遺憾」と抗議 NHK News Web 2012年6月17日

福島第一原発の事故を巡り、東京電力が依頼した委員会が当時の社長が“炉心溶融”ということばを使わないよう指示していたと明らかにしたことを受けて、17日、東京電力の担当者が福島県庁に報告に訪れ、県側は「不安に満ちた県民の気持ちを無視したもので極めて遺憾だ」と抗議した。

東京電力が、福島第一原子力発電所の事故のあと、2か月以上、炉心溶融、いわゆるメルトダウンが起きたことを認めなかった問題で、東京電力が依頼した弁護士らの委員会は、16日、当時の社長が、官邸からの指示だとして、“炉心溶融”ということばを使わないよう指示していたという検証結果を発表した。

これを受けて17日、東京電力原子力・立地本部の守正樹立地部長が検証結果の報告のため県庁を訪れ「“炉心溶融”に当たると自治体や県民に伝えるのが妥当だったという結果だった。ご迷惑とご心配をかけおわびします」と謝罪した。

これに対して福島県原子力安全対策課の菅野信志課長は「都合の悪いことばは使わない体質があったと言わざるをえない」と指摘した。

そのうえで菅野課長は「当時の不安に満ちた県民の気持ちを無視したもので極めて遺憾だ。こうしたことが2度とないよう今後の対応を示してほしい」と抗議した。

東京電力は検証結果を受けた対応を今月中にも示すことにしている。

「マムシの善三」、東電「第三者委員会」でも依頼者寄りの“推認” BLOGOS 2016年6月17日

昨日(6月16日)、東京電力が設置した「福島第一原子力発電所事故に係る通報・報告に関する第三者検証委員会」の検証報告書が公表され、委員全員による委員会の記者会見が行われた。

3人の委員の一人が、舛添要一東京都知事の「第三者調査」で厳しい批判を浴びた元東京地検特捜部副部長の佐々木善三弁護士(現役時代のあだ名が「マムシの善三」)だ。

委員長の田中康久弁護士は、元仙台高裁長官。このような方を委員長に担ぐ場合、委員長は、調査結果に大所高所から「お墨付き」を与える立場で、実質的な調査は、別の調査担当弁護士が総括するのが通例だ。
今回の「第三者検証委員会」の調査も、佐々木善三氏が総括したとみて間違いないであろう。記者会見でも、重要な事実関係についての質問には、佐々木氏が答えていた。

問題は、その調査結果の内容である。

そこには、舛添氏の「第三者調査」と同様に、極めて重大な問題がある。

報告書では、当時の清水正孝社長が「首相官邸からの指示」として広報担当者に伝えていたことに関して、

清水社長が官邸側から、対外的に『炉心溶融』を認めることについては、慎重な対応をするようにとの要請を受けたと理解していたものと推認される。


と書かれている。表現としては、「清水社長の理解」についての「推認」だが、その後、

この点につき、当第三者検証委員会は、重要な調査・検証事項の一つと捉え、清水社長や同行者らから徹底したヒアリングを行ったが、官邸の誰から、具体的にどのような指示ないし要請を受けたかを解明するには至らなかった


と書かれていることからすると、「官邸からの指示ないし要請はあった」と「推認」されるが、「官邸の誰がどのように指示したかが特定できなかった」という趣旨であることは明らかである。

実際に、この検証委員会報告書公表についての報道では、「官邸からの指示」が重く扱われている(日経新聞6月17日朝刊「指示、官邸の意向か」「官邸の圧力未解明」等)。

そして、報告書では、その後の記述で、

重要な事柄をマスコミ発表する際には 事前に官邸や保安院の了解を得る必要があり、対外的に「炉心溶融」を肯定する発言を差し控えるべきとの認識が、東電社内で広く共有されていた可能性が濃厚である。
本件事故当時の原災マニュアルに「炉心溶融」の判定基準が記載されていたことを知っていた社員もいたが、技術委員会において「炉心溶融」 や「メルトダウン」の定義・判定基準が問題となっているという事実を知らず、また、原子炉の物理的現象を示す言葉としての「炉心溶融」に定義がないこと から、技術委員会への対応が社内において問題視されることもなかった。

平成 23 年 3 月 18 日、新潟県知事に対する東電社員らの説明の際に、「炉心溶融」を否定する内容と受け止められる説明を行ったものと判断し得る。しかし、前記のとおり、当該社員らが、意識的又は意図的にそのような説明を行ったものとは認められなかった。

東電が技術委員会に対して、「炉心溶融の用語の定義がない」 旨誤った説明をしていたことは明らかである。その説明が不正確かつ不十分 なものであったことは明らかであるが、それが故意ないし意図的になされたものとまでは認められない。


などと、述べている。

東電側には、「炉心溶融」の隠ぺいの意図はなく、技術委員会への対応は不適切だったが、それも原災マニュアルの判定基準を知らなかっただけで悪意ではない、東電の側ではなく、「炉心溶融」という言葉を使わないように指示した当時の(民主党政権の)「官邸」が悪かったのだという、思い切り「東電寄り」の認定を行っているのである。

「第三者委員会」として、独立かつ中立的な立場で行われた調査とは思えない。
そもそも、東電が「炉心溶融」という用語を意図的に避けていた疑惑が生じた発端は、3月 14 日夜の記者会見に臨んでいた武藤副社長が、その席上、東電の広報担当社員から、『炉心溶融』などと記載された手書きのメモを渡され、「官邸から、これとこの言葉は使わないように」との耳打ちをされたことが記者会見のテレビ映像に残されていることだった。

報告書は、テレビ映像に残された「手書きのメモを示しながらの耳打ち」と、それを行った広報担当社員が、その指示を清水社長から直接受けたと説明していることを根拠に、「官邸の指示ないし了承」を「推認」している。

つまり、客観的に明らかな「記者会見での耳打ち」の事実、つまり、調査の前提事実だけで、「官邸からの指示」という依頼者の東電にとって有利な事実を認定しているのであるが、この「記者会見での耳打ち」を「官邸からの指示」に結びつけることには、いくつかの重大な疑問がある。

第一に、「官邸からの指示」について、清水社長に対しては、複数回のヒアリングを実施し、同社長に説明を求めたが、同社長の記憶が薄れている様子であり、明確な事実を確認できなかった。また、清水社長に同行した小森常務らのヒアリングの結果からも、明確な事実を確認するには至らなかった、としているが、清水社長は、震災の2日後の3月13日に記者会見を行って以降、姿を見せなくなり、めまいや高血圧で入院するなどして、公の場に姿を見せたのは事故から1ヶ月目の4月11日だった。つまり、清水社長が行った福島原発事故への対応は、極めて僅かなものでしかない。そのような清水社長が、「炉心溶融」という言葉を使わないように官邸から指示を受けたのだとすれば、それは強烈に印象に残っているはずだ。「記憶が薄れる」などということはありえない。重大な原発事故を起こした企業の経営トップでありながら、長期にわたり公の場に現れないなど無責任極まりない対応を行った清水社長の説明は、到底鵜呑みにすることはできないはずだ。

第二に、この時広報担当者は、なぜ、武藤副社長に手書きのメモを渡す際に、わざわざ、マイクに音声が残るような「耳打ち」を行ったのであろうか。もし、本当に官邸側からそのような指示があったとすれば、そのようなことは、むしろ、絶対に秘匿しようとするのが通常のはずだ。それを、手書きのメモで伝えるだけではなく、わざわざ声に出して「官邸からの指示」のことを伝えるだろうか。なぜ、そのような無神経な「耳打ち」が行われたのか、そのような武藤副社長への伝え方も清水社長が意図的に指示したのではないかという疑問もある。

これらからすると、「炉心溶融」という言葉を避けるというのは、清水社長自身の意向で、それを官邸側に責任を押し付けるために、「官邸からの指示」の事実を「創作」した疑いもないとは言えない。その点も含めて、十分な事実解明を行わなければ、「官邸からの指示」など「推認」できないはずだ。

私も、原発事故に関連する企業不祥事に関して、第三者委員会委員長として調査検討を行い、報告書を取りまとめたことがある。福島原発事故が発生した2011年に表面化した、玄海原発再稼働をめぐる県民説明会に対して九州電力社員が組織的に行った「やらせメール」問題に関して九州電力が設置した第三者委員会だった。

この問題では、第三者委員会の中間報告書で、古川康佐賀県知事が九電幹部と会談した際の発言が発端となって、組織的な「やらせメール」の送付が行われたことを認定した。その会談での発言については会談に同席した九電幹部のメモがあり、しかも、委員長の私が直接、古川知事に発言の外形的事実を確認し、古川知事は、自ら記者会見を開いて、その事実を認めていた(ただし、「再稼働賛成の投稿を求めたのは『真意』ではなかった」としていた。)。それでも、その古川知事発言を第三者委員会報告書に記載することについて九州電力側が反発し、報告書公表後、第三者委員会との対立が生じた。(拙著【第三者委員会は企業を変えられるか】毎日新聞社)

古川知事の側の「真意」がどうであれ、九州電力側に知事発言が伝わり、それが発端となって組織的な「やらせメール」が送信されたことは客観的事実なのであるから、それを、問題行為の動機・背景に関する重要な事実として調査結果に含めるのは当然だろう。

しかし、そのような不祥事の当事者の企業にとって外部者の行動・発言を、当該組織が設置した第三者委員会で認定する際は、それ自体が、その外部者に影響を与える可能性があり、特に相手が政治家の場合は、重大な政治的影響を生じさせる可能性があるので、事実認定を慎重に行わないといけない。だからこそ、古川知事への確認、佐賀県職員からのヒアリング等も行い、慎重に事実認定を行った。

それと比較すると、今回の東京電力の第三者委員会のやり方は、あまりに粗雑だ。

そもそも、知事発言について九電幹部のメモという客観的証拠があり、知事も認めていた九電「やらせメール」とは異なり、「清水社長から広報担当者への指示」という間接的な事実があるだけで、「官邸からの指示」に関する直接的証拠は全くない。

このような証拠関係で「官邸からの指示」を「推認」するというのは、それによって、依頼者の東京電力に有利な認定を行おうという意図がなければ考えられない。

舛添氏の問題で、あれだけ厳しい批判を受けた佐々木弁護士が、その「第三者調査」も大きな原因となって都知事辞任に追い込まれた直後に、別の問題の「第三者調査」について、同様に依頼者寄りの事実認定を行い、平然と記者会見で説明していることには、驚きを禁じ得ない。長谷川豊氏のブログ【最悪の幕引きとなった舛添狂奏曲】でも、舛添氏を担いだ都議会与党は、次の都知事候補のことなどで騒いだりせず、舛添氏の問題についての責任を感じて、1回お休みをしたらどうかと述べているが、それは、第三者調査で厳しい批判を受けた佐々木善三氏についてもいえることだろう。

このような「第三者調査」をのさばらせておいたのでは、弁護士の第三者調査そのものへの信頼が著しく損なわれてしまうことになりかねない。

枝野氏、法的措置も検討=東電第三者委報告書に抗議 時事通信 2016年6月17日

民進党の枝野幸男幹事長は17日の記者会見で、東京電力の第三者検証委員会が公表した報告書に関し、「(当時官房長官だった)当職の信用を毀損(きそん)させかねない報告書を発表したことは著しく不適切だ。厳重に抗議する」と述べ、法的措置も含めた対応を検討する考えを示した。
 
 報告書は、当時の清水正孝社長が「首相官邸からの指示」として、「炉心溶融(メルトダウン)」との言葉を使わないよう社内に指示したとしている。これに関し、枝野氏は「当時の菅直人首相と私から、いかなる場面においても『炉心溶融』という言葉を使わないよう指示、要請した事実はない」と否定した。

 一方、菅義偉官房長官は17日午前の記者会見で、「今後も検証は続くと思っている。一層の事実解明に取り組んでもらいたい」と述べた。政府による新たな調査については、「考えていない」と否定した。

当時の東電社長、「炉心溶融」使わぬよう指示 第三者委 朝日新聞 2016年6月17日

東京電力福島第一原発事故で、炉心溶融(メルトダウン)の判断基準があったのに公表が遅れた問題で、東電の第三者検証委員会(委員長=田中康久・元仙台高裁長官)は16日、「当時の清水正孝社長が『炉心溶融という言葉を使うな』と社内に指示していた」などとする報告書をまとめた。清水元社長が首相官邸側から、「炉心溶融」を認めるのに慎重になるよう要請を受けたと理解していたと推認されるとしたが、意図的な隠蔽(いんぺい)と評価することは困難とした。報告書は同日、東電に手渡された。

 一方、当時、首相だった菅直人・衆院議員は「私自身が東電に『炉心溶融』という表現を使わないように指示したことは一度もない」などと、関与を否定するコメントを出した。

 東電は、事故から約5年後の今年2月になって、社内マニュアルの存在を明らかにした。柏崎刈羽原発を抱え、福島第一原発事故の検証を独自に続ける新潟県の技術委員会の求めで行った調査で存在が分かったという。東電は問題の経緯や原因を検証する第三者委を3月に設置。田中委員長や元東京地検特捜部副部長の佐々木善三氏ら3人が、東電の社員ら60人に聞き取り調査した。

高浜原発は引き続き運転できず 大津地裁、関電の申し立て却下 福井新聞ONLINE 2016年6月17日

関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転差し止めを命じた3月の大津地裁仮処分決定を不服として、関電が申し立てた決定の効力を一時的に止める執行停止について、同地裁(山本善彦裁判長)は17日、請求を却下した。決定の効力は継続し、高浜2基は法的に運転できない状態が続く。

 仮処分を巡っては、同地裁(山本裁判長)が3月9日、滋賀県の住民側の請求を認め、運転差し止めを命じる決定を出した。関電は同14日、「科学的、技術的検討を行っていない」として、取り消しを求める異議と執行停止を申し立てていた。

 異議審については5月10日に第1回審尋が開かれ、双方がそれぞれの主張に対する反論書面を6月10日に提出し、実質的審理が終結。決定の時期はまだ示されていない。

メルトダウン問題 報告書の主な内容 NHK ニュース 2016年6月17日

炉心溶融、いわゆるメルトダウンの公表が遅れた原因などを検証する、東京電力が設置した外部の弁護士などによる委員会の報告書の主な内容だ。検証の対象は、炉心溶融を巡る事故当時の通報、報告の内容、社内マニュアルにしたがって炉心溶融を判断、公表できなかった原因などだ。

炉心溶融を巡る国などの指示は
当時の清水社長が、事故から3日後の夜の記者会見にあたって、広報担当社員に「官邸からの指示で炉心溶融ということばを使わないように」という趣旨の耳打ちをさせた経緯を指摘し、清水社長が官邸側からの意向を受けて、対外的に炉心溶融を認めることについて、慎重な対応をするよう指示していたとしている。ただ、清水社長らにヒアリングをしたものの、官邸の誰からどのような指示や要請を受けたかは解明できなかったとしている。

東電社内の指示は
社内の連絡文書に記載はなく、本店と発電所などを結ぶテレビ会議でも、本社から福島第一原発に対する直接の指示もなかったが、重要な事柄をマスコミに発表する際には、事前に官邸や保安院の了解を得る必要があり、対外的に、炉心溶融を肯定する発言を差し控えるべきという認識が、社内で広く共有されていた可能性が高いとしている。

マニュアルを見ていたか
検証委員会は、事故のあと、福島第一原発の緊急時対策班が、国に通報が必要な緊急事態を判断するためのマニュアルを確認しながら、業務にあたっていたことを確認したとしている。この通報の運用から考えれば、炉心損傷割合の数値から「炉心溶融にあたる」と記載されるのが自然であるのに、記載がないとして、記載を避けたようにみられるとした。その背景として、「炉心溶融にあたる」と自治体などに通報した場合、マスコミに知られる可能性が高かったといえるとしている。

なぜ炉心溶融と通報しなかったか
福島第一原発の担当者が、炉心溶融にあたるとの記載をしないで、炉心損傷割合の通報で済ませた真意は分からなかったとしたうえで、当時、炉心溶融の使用を事実上、控える必要があるという認識が、東京電力の社内で、ある程度共有されていた結果と推測するしかないとした。

炉心溶融を通報しなかった影響は
当時の原子力安全・保安院は、炉心溶融が法令上の用語であり、各電力会社から基準の報告も受けていたことから、炉心損傷割合の通報であっても、炉心溶融にあたると判断ができたはずだとしている。このため、国の避難指示などの実施に影響はほとんどなかったとしたが、地元への説明としては、不十分だったと言わざるをえないとしている。

もっと早く炉心溶融を判断できなかったか
炉心の状態を直接見て確認することができないため、原子炉のさまざまなデータを総合して判断せざるをえなかったとして、判断材料がそろうのにある程度、時間がかかるのはやむをえないとした。このため、東京電力が炉心溶融を認めた事故の2か月後よりも前に判断できなかったことは、不当であったとは言えないとした。

一方で、事故から3日後には、社内のテレビ会議の中で本店のフェローが「1号機と3号機が炉心溶融している」という発言をしていることから、より早く、炉心溶融を対外的に認めることが可能だったとの見方もできるとして、委員会として、当時の判断の是非はできないとしている。

メルトダウン問題 官邸の誰が指示したか 検証の課題に NHK ニュース 2016年6月17日

東京電力が福島第一原子力発電所の事故のあと、2か月以上、メルトダウン、いわゆる炉心溶融が起きたことを認めなかった問題で、東京電力が依頼した弁護士らの委員会は、当時の社長が官邸からの指示を受けて炉心溶融ということばを使わないよう指示していたことを明らかにした。官邸の誰が指示したのかなど未解明の部分もあり、今後の検証の課題となっている。

福島第一原発の事故では、1号機から3号機まで3つの原子炉で核燃料が溶け落ちる、メルトダウン、いわゆる炉心溶融が起きたが、東京電力は事故から2か月後まで正式に認めなかった。

この問題を検証するため、東京電力が依頼した弁護士らで作る委員会は16日、調査結果を公表し、当時の清水社長が官邸からの指示を受けて、炉心溶融ということばを対外的に使わないよう指示していたことなどを明らかにした。しかし、官邸側への調査は行われず、具体的に官邸の誰がどのような指示をしたのかは明らかになっていない。

また、報告書では、東京電力の幹部が事故の3日後、社内のテレビ会議で「1号機と3号機が炉心溶融している」という趣旨の発言をしていることなどから、「早い段階で炉心溶融を対外的に認めることが可能であったとの見方もできる」としているが、当時の判断の是非を「委員会は判断できない」とするなど結論があいまいな部分もある。

東京電力は、この問題を追及してきた新潟県の技術委員会と合同で検証を続けるとしており、全容の解明が課題となる。新潟県の技術委員会の委員で多摩大学の山内康英教授は「炉心溶融を使わなかった背景や社会的影響、それに、故意はなかったのかなど、報告書で判断できなかった部分を追及していきたい」と話している。

「意図的隠蔽と理解していない」
当時の清水社長がメルトダウンにあたる炉心溶融ということばを使わないよう指示していたことが隠蔽に当たるかどうかという質問に対して、第三者委員会の田中康久委員長は、当時の原子力安全・保安院の広報担当者が記者会見で炉心溶融ということばを使ったあとに交代したことに触れ、「保安院でさえ炉心溶融ということばを使えないなかで、東京電力も使うことが難しかったと推察される。炉心溶融ということばを避ける雰囲気があったとしか言えず、意図的に隠していたとは理解していない」と述べた。

  「炉心溶融ということば使うな」 当時の社長が指示 NHK ニュース 2016年6月16日

東京電力が福島第一原子力発電所の事故のあと、2か月以上、メルトダウン、いわゆる炉心溶融が起きたことを認めなかったことについて、原因などを調べてきた外部の弁護士らで作る委員会は、当時の清水正孝社長が官邸からの指示で炉心溶融ということばを使わないよう指示していたなどとする検証結果をまとめた。

福島第一原発の事故では、1号機から3号機まで3つの原子炉で核燃料が溶け落ちるメルトダウン、いわゆる炉心溶融が起きましたが、東京電力は事故から2か月後まで正式に認めなかった。

事故の大きさを端的に示す重要なことばが、なぜ長期間使われなかったのか、東京電力の依頼を受けた弁護士らで作る第三者委員会が、ことし3月から原因や経緯の検証を進めていた。

その結果がまとまり、16日、東京電力に報告された。それによると、当時の清水社長が事故から3日後の3月14日夜、記者会見中だった武藤副社長に対し、広報の担当者を通じて、炉心溶融と書かれた手書きのメモを渡させ、官邸からの指示として、「炉心溶融ということばを使わないよう」指示していたことが分かったということだ。

この問題を巡っては、新潟県が技術委員会を作って追及を続けていて、東京電力のこれまでの説明では、「正確な定義があるわけではなく、誤解を与えるおそれがあり、使わなかった」などとされていて、具体的な指示関係が明らかになったのは初めてだ。

しかし、清水社長などへのヒアリングで官邸の誰から、どのような指示や要請を受けたかは解明できなかったとしている。

一方、炉心溶融の判断が事故の2か月後になったことの是非について、第三者委員会は、炉心の状態を見て確認できない当時の状況を考えると、「不当であったとは言えない」としながらも、当時、すでに炉心溶融の発言が出ており、対外的に認めることが可能だったとの見方もできるとして、委員会としての判断は示さなかった。

この問題を巡っては、この委員会とは別に、新潟県と東京電力で作る合同の検証チームで今後、より詳しい調査を行うことになっている。

東電社長「今月中には再発防止策を」
報告書を受け取った東京電力の廣瀬直己社長は内容をまだ十分に把握していないとしたうえで、「報告書の内容をしっかりと受け止め、今月中には再発防止の対策をまとめて改めて報告したい」と話した。

炉心溶融の公表 遅れたいきさつ
メルトダウン、炉心溶融の公表遅れは、政府の事故調査・検証委員会が報告書の中で経緯をまとめている。

それによると、炉心溶融ということばが最初に使われたのは事故発生翌日の12日午後、当時の原子力安全・保安院の記者会見で、広報の担当者が「炉心溶融の可能性がある」と発言した。

しかし、その日の夜の会見では急きょ担当者が交代、「炉心が破損しているということは、かなり高い確率だと思うが、正確には分からない」と述べ、ここから炉心溶融ということばが使われなくなる。

東京電力も事故の3日後の3月14日に、炉心溶融を判断するための核燃料の損傷の割合が1号機で55%、3号機が30%に達していることを把握し、翌日、公表しますが、核燃料が溶けているのではないかという報道陣の質問に対して炉心損傷と表現し、炉心溶融やメルトダウンということばを使わなかった。

結局、国や東京電力が炉心溶融を認めたのは事故から2か月たった5月になってからで、解析の結果として1号機から3号機の3つの原子炉でメルトダウンが起きていたことを正式に認めた。

新潟県の追及が真相解明に
メルトダウンの公表遅れがなぜ起きたのか、政府の事故調査・検証委員会の報告書でも、当時の経緯は整理されているが、原因などの真相は、事故から5年がたった今も、解明されていない。

そこにメスを入れたのが、新潟県が設置した技術委員会だ。東京電力の柏崎刈羽原発がある新潟県は、福島第一原発の事故の検証なしに再稼働の議論はできないとして、徹底した事故の検証を続けていて、その中で事故の深刻さを示すメルトダウン、炉心溶融が起きていたことをなぜ、事故から2か月もの間、東京電力が認めなかったのか、追及してきた。

こうしたなかで、ことし2月、重大な事実が明らかになった。東京電力の社内調査の過程で、炉心損傷割合が5%を超えていればメルトダウンと判定すると明記したマニュアルが見つかったのです。事故から5年近くがたっていた。

メルトダウンの公表が遅れたことについて、東京電力は技術委員会に対し、「判断の根拠がなかった」などという説明を繰り返していましたが、その説明が誤っていたことになる。

新潟県は「意図的に隠蔽していたのではないか」と、東京電力にさらなる調査を求め、その結果、東京電力は外部の弁護士らに問題が起きた経緯や原因の究明を依頼し、調査を行っていた。

新潟県知事「極めて遺憾」
検証結果について、新潟県の泉田知事は「県の技術委員会に対して虚偽の説明をしていたことになり、極めて遺憾だ。東京電力と合同で設置することとした検証委員会で徹底した追及を行う。東京電力は組織として何事も包み隠さず、真摯(しんし)に対応してほしい」とするコメントを発表した。

専門家「東電がつくった委員会の限界」
今回の検証結果について、新潟県の技術委員会の委員で多摩大学情報社会学研究所の山内康英教授は、「社長の指示があったことなど経緯を明らかにしたことは大きい」と一定の評価をする一方で、炉心溶融を認めるまで時間がかかったことの是非を委員会が判断しなかったことなどから、「不十分であいまいな結論であり、東電がつくった委員会の限界だ」と指摘した。山内教授は、新潟県の技術委員会が東京電力と合同でつくる検証チームでこの問題の調査を続けるということで、「炉心溶融ということばを使わなかった背景や社会的影響、あるいは、果たして故意はなかったのかなど、報告書で判断できなかった部分を追及していきたい」と話した。

福島 浪江町長「ふんまんやるかたない」
福島県浪江町の馬場有町長は「東電の姿勢には、いつも、ふんまんやるかたない。事故がわい小化、小さくされていると思う。当時、かたくなにメルトダウンということばを使わず、5年もたってそういうことを言い出すのは、とんでもない話で、徹底的に情報公開し説明責任を果たさなければならない。今後の廃炉作業も適切な監視が必要だ」と話した。

一部原発の地震想定 過小評価のおそれ 大飯原発で再評価を NHK ニュース 2016年6月16日

原子力規制委員会の元委員が、一部の原発の地震の想定が過小評価になっているおそれがあると指摘していることについて、16日、規制委員会の委員長らと面談した元委員は影響が比較的大きい可能性がある原発として、まず、福井県にある大飯原発の想定を再評価する必要があると述べた。

原子力規制委員会をおととし退任した地震学が専門の島崎邦彦元委員は、西日本の一部の原発で想定される最大規模の地震の揺れ、「基準地震動」が過小評価になっているおそれがあると指摘している。

これについて、16日、規制委員会の田中俊一委員長らが島崎元委員から聞き取りをした。島崎元委員は「基準地震動」を求める計算式のうち、「入倉・三宅式」と呼ばれる式が、断層面の傾斜が垂直か、それに近い横ずれ断層で使われた場合、過小評価されるおそれがあることが、ことし4月の熊本地震のデータなどから分かったと説明した。

そのうえで、「別の計算式を使ったらどうなるか確認し、必要であればいろいろな判断をするのがいちばんではないか」と述べ、まず、影響が比較的大きい可能性がある大飯原発の想定を別の計算式で評価する必要があると指摘した。

規制委員会は今月20日の定例会で、今後の対応を議論することになった。

面談のあと、島崎元委員は「熊本地震の新たな知見を取り入れた場合と、取り入れていない場合とで違うのか、きちんと計算をしてもらうのが出発点ではないか」と話していた。



  世界のトヨタを上回る2兆4千億円。原発再稼働の流れに沿って息を吹き返す「原発広告」の特殊すぎる実態 週プレNews 2016年 6月7日


世界有数の地震大国である日本がなぜ54基もの原子力発電所を抱える原発大国となり、多くの日本人が40年以上も「原発の安全神話」を信じ続けてきたのか?

電力会社を中心とした「原子力ムラ」と大手広告代理店が一体となり、巨額の広告費を通じて「安全神話」の刷り込みやメディアの「支配」を続けてきた実態を、広告業界出身の本間龍(ほんま・りゅう)氏が著書『原発プロパガンダ』で明らかにする。

―本間さんは過去にも「原発と広告」に関する著作を出されていますが、今回、あらためてこの本を書かれたのはなぜですか?

本間 最大の動機は去年の夏頃から、原発再稼働の動きに合わせるように、3・11後に姿を消したはずの「原発広告」が再び復活し始めたことです。

そうした動きは一部の原発立地県で話題になりますが、電力の最大の消費地である東京圏など大都市ではほとんど注目を集めません。また、「原発」と「広告」の結びつきが、原発推進のための世論操作にいかに影響を与えてきたのか、その実態をより広い層の人たちに知ってほしいと思い、手軽に手にとれる新書という形でまとめました。

―まず驚かされるのが、電力各社と政府が費やしてきた「原発関連広告費」の巨大さです。

本間 いわゆる電力9社(原発がない沖縄電力を除く)が過去約40年で原発推進のために使った「普及開発関係費」と呼ぶ広告宣伝費の総額は、約2兆4千億円といわれています。これを1年当たりに換算すると約600億円。例えば、トヨタのようなグローバル企業ですら、国内単体の広告費は年間500億円程度といわれていますから、それを上回る額です。

また、これに加えて電力10社が運営する電気事業連合会(電事連)、さらに経産省や環境省などによる原発関連広告があります。これらの総額は、前述した2兆4千億円の数倍になると考えていい。原発広告は広告業界にとって重要なお得意さまなのです。

―本来、商品の宣伝などいらないはずの電力会社が、なぜ原発のためにこれほど巨額の宣伝広告費を費やすのでしょう?

本間 一般の企業は普通、自社の製品やサービスを消費者に買ってほしくて広告費を投じます。その前提として同業他社の「ライバル」がいるから、お金を使って広告宣伝を打つ必要があるのです。

しかし、電力会社はこれまで地域ごとの独占状態でしたから基本的に競争はありません。それにもかかわらず、これほど多くのお金を原発の必要性や安全性を訴える「意見広告」などにつぎ込んできた理由は非常に単純で、彼らがどうしても原発をやめたくなかったからです。

価格変動の大きい石油などに頼る火力発電と違い、少量のウランで大きなエネルギーを生む原発は「儲(もう)かる」という考え方が電力業界では一般的でした。また、原子力産業は「原子力ムラ」と呼ばれるように、発電所の建設から運用・維持管理まで関連業界の広い裾野があり、国や業界が一体となって、この構造を絶対に維持したかった。

東京電力の広告費が、1979年にアメリカで起きたスリーマイル島原発事故後に年間50億円を突破し、1986年のチェルノブイリ原発事故後、数年で年間200億の大台を超えるなど、大きな原発事故の直後に必ず原発関連広告が増加しているのは、それらの事故によって「反原発」の世論が高まるのをなんとしても抑え込む必要があったからだと思います。

―それにしても、トヨタのような大企業を上回るほどの広告費というのは驚きです。
本間 それを可能にしたのが、電力会社が広告宣伝費などの「経費」も原価として電力料金を決められる、「総括原価方式」と呼ばれる仕組みです。

一般の企業なら、広告宣伝費に費やしたコストはその企業の商品やサービスの「利益率」や「価格競争力」に影響しますが、事実上の独占企業である電力会社には競争がないので広告宣伝費は遠慮なく電気料金に上乗せできる。そのため広告費が湯水のように使えるのです。

―もうひとつ、この本の中で本間さんが指摘しているのが、電通、博報堂など一部の大手広告代理店による「広告の寡占状態」がもたらす弊害です。

本間 日本の広告業界は国際的に見ても極めて特殊で、電通や博報堂といった大手数社の寡占状態にあるため、代理店がメディアに対して非常に大きな影響力を持っています。

特に「原発広告」に関する電通の存在感は圧倒的で、巨大クライアントである原子力ムラと電通が巨額の
「原発関連広告宣伝費」を媒介に結びついた構造が、長年にわたってメディアに多大な影響を与えてきました。

そうした傾向が特に顕著になったのが90年代のいわゆるバブル崩壊以降です。多くの企業が広告費を縮小せざるをえない中で、ふんだんに広告宣伝費が使える「原発広告」の占める位置は相対的に大きくなった。

原発に批判的な記事に対して、直接的な圧力がかかることはなくとも「こんな記事を載せると電力業界からの広告がなくなるかもしれませんよ」と耳元で囁(ささや)かれれば、あるいはそうした影響を想像するだけでも、普段から広告収入の確保に苦心しているメディアの広告営業担当をビビらせるには十分です。

こうして巨額の広告宣伝費は国民や原発立地自治体に「安全神話」を刷り込むだけでなく、「反原発」を訴えるメディアを間接的に封じ込める機能も担ってきたというわけです。

―そんな原発広告が3・11後の今、どんな形で復活しているのでしょうか?
本間 2013年3月、六ヶ所村の核燃料再処理施設を抱える青森県の『東奥(とうおう)日報』という地方紙に、日本原燃と電気事業連合会(電事連)が30段の意見広告を載せたのが最初でした。

その後、2014年に『週刊新潮』が芸能人、文化人を起用した広告連載企画を掲載。特に昨年の夏頃からは原発立地県の地方紙を中心に続々と原発広告が復活し、東電も新潟でのTVCMを再開しています。

こうした動きが「原発再稼働」の流れに沿ったものであることは明らかですし、この先、「電力自由化」を口実に再び巨大な広告マネーがメディアに流し込まれる可能性もある。電力料金を支払う我々は、こうした実態を知っておく必要があると思いますね。
(インタビュー・文/川喜田 研 撮影/岡倉禎志)

メルトダウン問題 新潟県の技術委員会と合同で検証へ NHK ニュース 2016年6月14日

東京電力が、福島第一原子力発電所の事故の3日後には核燃料が溶け落ちる「メルトダウン」が起きたことを判断できたと明らかにした問題で、東京電力はより詳しい調査を行うためとして、問題の発覚のきっかけになった新潟県の技術委員会と合同で検証を行うことになった。

東京電力は、福島第一原発でメルトダウンが起きたことを事故の2か月後に正式に認めたが、当時の社内マニュアルには判断基準が明記され、事故の3日後にはメルトダウンと判断できたことが明らかになっている。

この問題の経緯や原因について東京電力は元裁判官などでつくる第三者委員会で調査を進めているが、より詳しく解明するには、発覚のきっかけになった独自の調査を行っている新潟県の技術委員会の協力が必要だとして、検証を合同で行うことになった。

検証チームは東京電力側の元常務ら2人と新潟県の技術委員会の専門家3人の合わせて5人で、第三者委員会が近く取りまとめる検証結果を踏まえて、より詳しい調査を行うとしている。

技術委員会側から参加するメンバーで、多摩大学の山内康英教授は「東京電力の内部だけでなく外部からの情報もしっかり検証して実態を明らかにしたい」と話している。


原発事故「自主避難者」が主張していること 住宅の無償提供支援打ち切りに抗議 岡田 広行 :東洋経済 記者 東洋経済オンライン 2016年05月31日

2017年3月末で災害救助法に基づく原発事故「自主避難者」への住宅の無償提供支援が打ち切られる方針が示されていることに、避難者や支援する人たちが抗議の声を上げている。

5月25日夕刻、東京・新宿駅西口では原発事故避難者の救済を求める署名活動が行われ、避難者らが福島県による方針の撤回や受け入れ先である東京都への支援継続を訴えた。

福島県は「地域の除染やインフラの復興が進んでいること」などを理由に、福島市や郡山市、いわき市など避難指示区域以外からのいわゆる「自主避難者」(区域外避難者)に対する仮設住宅や無償での公営住宅の提供を来年3月末で終了する方針だ。これに伴い、約1万2600世帯(約3万人)が、今まで住んでいた避難先の住宅からの立ち退きや家賃の負担を迫られる。

「放射能で汚染された自宅には戻れない」
自主避難者の中には放射線被ばくから身を守るために着の身着のままで避難してきた母子だけの世帯も多く、住宅支援の打ち切りが生活の困窮や子どもの就学環境の激変を招くことに危機感を強めている。

大学の非常勤教員・鴨下祐也さん(47歳)は、放射線による被ばくを避けるために、福島県いわき市に自宅を残したまま、現在は築年数が経過した都内の旧公務員住宅で妻および2人の子どもと避難生活を送っている。

鴨下さんは、「放射能で汚染されたままの自宅に帰るという選択肢はない。支援を打ち切られても今の住宅に住み続ける以外に手だてはない」と言い切る。

熊本美彌子さん(73歳)は、田舎暮らしにあこがれて移り住んだ福島県田村市の自宅を後にして東京に逃れてきた。現在は都内の「みなし仮設住宅」(民間賃貸住宅)での一人暮らし。「現在も放射線量が高い。有機農業もできないところには、戻りたくても戻れない」と語る。

福島県は今年1月、住宅無償支援の打ち切り対象となる約1万2600世帯のうち、借り上げ住宅で暮らす9944世帯を対象にした「住まいに関する意向調査」を実施した。同調査の中間とりまとめ(3月25日現在)によれば、回答した6091世帯(回収率61.3%)のうち、約7割に当たる4285世帯が、「17年4月以降の住宅が決まっていない」と答えている。中でも福島県外に避難している世帯では、回答した3186世帯のうち2501世帯(78.5%)が「決まっていない」にマルを付けた。

福島県では生活再建に向けた新たな施策として、民間賃貸住宅家賃の一部補助などを打ち出しているが、金額も所得に応じて1カ月当たり最大3万円、2年目で最大2万円と少ないうえ2年で終了することもあり、「支援策とは到底呼べない内容だ」と前出の鴨下さんは指摘する。
東京都は「支援終了は福島県の判断」
このように打ち切り後の住まいの見通しが立たない家庭が多いことを踏まえ、福島県は避難者の多い全国10都県と連携して、「住宅が決まっていない」と答えた世帯を対象とした戸別訪問活動を5月中旬からスタートさせた。東京都では5月17日から職員が福島県の担当者とともに戸別訪問や都営住宅団地の集会所での個別面談を開始。6月末まで続ける方針だ。

しかし、こうした訪問調査について、鴨下さんが代表を務める「ひなん生活をまもる会」では「事実上の追い出しを狙ったもの」とみなし、「訪問に応じる必要はない」と呼び掛けている。

都の担当課である住宅施策専門課によれば、「今回の支援終了決定は福島県の判断によるもの。来年4月以降も避難先の都営住宅に住み続けたいのであれば、原則として都営住宅の入居募集に申し込んでいただきたい。災害救助法に基づいて都が借り上げている民間賃貸住宅の場合も3月末で所有者との賃貸契約が終了するため、避難者が所有者と直接話をしたうえで契約を結んでいただかないといけない」という。

そうしない場合は「期限が来た後は形のうえでは不法占拠になる」といい、「そうならないように避難者の皆様に個々の事情をうかがい、アドバイスをしている」(同課)。

もっとも、都営住宅の入居はきわめて狭き門だ。15年11月の都営住宅(一般募集)の抽選倍率は平均で26.2倍。障害者や高齢者、一人親であれば、避難者も含めて当選率で5~7倍の優遇があるものの、「落ちる可能性のほうが高い」(前出の熊本さん)。

神奈川県川崎市の民間アパートで高校3年生の二女と避難生活を送る松本徳子さん(54歳)の携帯電話には「来年3月末で住宅支援が終了するがどうしますか」との連絡が最近、福島県の担当者からあった。

「私だけでは判断できない」という松本さんは、「体調も思わしくなく、今は仕事もない。住宅支援を打ち切られると生活が成り立たなくなる」と語る。

避難指示区域以外の地域からの避難であるため、自主避難者は「自己都合で避難している」と誤解されることが少なくない。だが、一人一人の事情は想像を超えるものであり、原発事故被害の深刻さを改めて認識せざるをえない。

「今すぐ自宅に戻って暮らすことはできない」
前出の松本さんの場合は、「二女の鼻血や下痢が続いたことが避難を決意した直接の理由。もしそれがなかったら、郡山の自宅にとどまっていたと思う」と話す。

渡辺加代さん(40歳)は、数年後に取り壊しが予定されている山形県米沢市内の雇用促進住宅で3人の子どもと避難生活を続けている。避難元の福島市の自宅周辺では、事故直後に市民グループに測ってもらったところ、毎時1~2マイクロシーベルトの高い空間線量が計測された。自宅内でも、事故前の10倍にも相当する毎時0.5マイクロシーベルトもあったという。「子どもが鼻血を出し、私もかゆみがひどくなり、このまま住み続けることはできないと決意した」(渡辺さん)。

現在も自宅の庭には除染した土が埋まっており、除染後も元の地区の中学校の敷地からは高い数値の放射性物質が検出されたという。そうしたこともあり、「今すぐ自宅に戻って暮らすことはできない」と渡辺さんは考えている。

全国の自治体の中には、自主避難者に配慮して来年4月以降、独自の支援策を打ち出した都道府県も現われてきた。埼玉県は4月の県営住宅の募集の際に、自主避難者向けの専門枠10戸を用意し、うち4戸で申し込みがあった。今後も要望を踏まえて、「100戸程度に枠を増やしていきたい」(県住宅課)という。

鳥取県では、来年4月から19年3月末までの3年にわたって、県営住宅や職員住宅を家賃全額免除のうえで原発事故の自主避難者を含む東日本大震災からの避難者に幅広く提供する。しかし、こうした支援実施は一部の自治体にとどまっている。

郡山氏から大阪市内に避難している森松明希子さん(42歳)は、現在、小学校3年生の長男、保育園児の長女と3人暮らし。郡山市内の賃貸マンションに住む夫(46歳)とは原発事故後、5年にわたって離ればなれの生活を余儀なくされている。

自宅が地震被害で住めなくなった森松さんは原発事故直後、夫が勤務する病院内で当時3歳の長男、5カ月の長女と避難生活をした。そのとき、テレビを通じて東京の金町浄水場の水道水から放射性ヨウ素が検出されたとのニュースを知り、衝撃を受けた。

「当時、放射性物質が含まれているとは知らずに、原発からはるかに近い郡山で水道水を飲んでいたし、娘には母乳を飲ませていた。避難するまで2カ月にわたって被ばくを強いられていた」と森松さんは語る。

脅かされる「避難の権利」
「なぜ福島に戻らないのか理解できない」「過剰反応ではないか」――。多くの自主避難者は二重生活の過酷さのみならず、心ない差別や偏見にもさらされている。「自主避難者は風評被害を助長する存在だ」と罵倒する者もいる。

だが、「被ばくは人権問題であり、人の命や健康にかかわるもの」と森松さんは確信している。そして、夫および2人の子どもとともに、国および東京電力を相手に損害賠償請求訴訟を提起したのも、命や健康という基本的人権を守るためだ。

放射線被ばくから身を守る「避難の権利」は、日本国憲法に記された「すべての国民が恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存することを保障された基本的人権である」と、森松さんは「『脱被ばく』を考える」と題した「『子ども脱被ばく裁判』の会」会報への寄稿文で記している。そして、避難の権利は、原発事故後に与野党全議員の賛成によって成立した「子ども・被災者支援法」でも明記されている。

にもかかわらず自主避難者への支援は手薄なままだ。それどころか住宅支援打ち切りにより、避難者の人権が脅かされている。

「原発ゼロ、生きているうちに」~小泉元首相講演~ 2016年5月26日、東京・有楽町で講演 時事ドットコム 2016年6月17日

放射能被害、断定できないが…
 「私が生きているうちに原発ゼロを成し遂げたい」。5月26日、東京・有楽町で小泉純一郎元首相の講演会が開かれた。小泉氏は東京電力福島第一原発事故で放射能に被ばくしたとみられる元米兵に会い、記者会見で涙を流した話も披露。ちょうど主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が開かれ、27日のオバマ米大統領の広島訪問が注目を集めていたが、小泉氏は記者団に「核廃絶よりも原発ゼロの方が易しい」と強調した。(時事通信社編集委員・村田純一)

◇    ◇    ◇

 小泉氏は5月中旬、日系米国人の知人に依頼され、米カリフォルニア州サンディエゴを訪れた。2011年3月11日の東日本大震災後、米軍の「トモダチ作戦」に参加し、福島第一原発事故で放射能に被ばくしたと思われる元米兵の話をじかに聞くためだった。

 「5年前の米軍のトモダチ作戦、原子力空母ロナルド・レーガンの乗組員が救援活動をしてくれた。その兵士たちの中で、放射能被害(被ばく)と思われる方々が今どんどん増えている。(原発事故後)2カ月間ほどあの東北沖に空母を止めて、ヘリコプターで被災地に救援物資を送り、津波で海に流された人たちを救う救援活動をしていた。(11年3月12日に)福島の原発が爆発して放射能が海に来た。それを知らされないまま救援活動をした。

 もちろん防護服なんて着ていない。あの救援活動に参加したのは海軍、海兵隊、空軍、陸軍合わせて2万人以上。原子力空母はガイガーカウンターを持っている。当時、救援活動が終わってガイガーカウンターが鳴り出した。これは放射能じゃないか。(兵士たちは)そういう大変な思いをしながら、よく分からないまま活動していた。半年ぐらいたった。どうも体がおかしい。海軍関係の病院は原因不明という。頑健な兵士が体をむしばまれて活動できなくなっている。放射能被害という断定はできない。

 3年たち、(被ばくしたと思われる兵士は)200人から300人に。ところが、報道機関はあまり報道してくれない。(兵士たちの話を聞いてほしいと頼まれ)これが本当だったら黙っているのは無責任じゃないかと思って、『行きますよ』と言った。5月15日から3日間、10人ほど、割合被害の軽い兵士たちの話をじかに聞いたんです」

病に苦しむ元米兵に支援を、涙の記者会見
 2012年12月、東京電力が原発事故について誤った情報を伝え、危険なレベルまで被ばくさせたとして、同社を相手に損害賠償などの支払いを求める訴えを米サンディエゴの連邦地裁に起こした原告は、空母ロナルド・レーガンの乗組員8人だった。今、その原告団は400人を超えているという。

 「当初はわずか8人の原告団を組織した。体が動かなくなると除隊せざるを得なくなる。海軍関係の兵士に対する医療が十分に受けられない。健康保険制度がないので、高い医療費は払えない。当初、(空母レーガンは)サンディエゴから韓国に行く予定だったが、東北へ行けという指令が来たから東北に行った。(原発事故から)5年2カ月。今は400人を超える原告団を結成している」

 「(話を聞いた元兵士は)あまり愚痴っぽいことは言わない。でも、苦しい病にめげず、『仕事だから一生懸命やった』と話すわけです。私は3日間の(元兵士らとの)会見が終わったあと、記者会見に応じた。私が行けば少しは病に苦しんでくれる人を報道してくれるだろうと(思った)。かなりマスコミが来て、米国でも(テレビ映像を)流していた。

 そのとき、涙が記者会見で出ちゃってね。困ったなと思った。政治家は涙を見せてはいけない。政治家が公開の場で涙を見せるのは政治家失格だと多くの米国人は受け止めるからね。『何か日本に言いたいことは』と(元兵士に)聞いた。『自分はもう自らの任務を果たすのに精いっぱい』と。それを思い出して、つい涙が出ちゃったんですけど。これはかわいそうだ、気の毒だと言うだけでは済まないと思った。今、病に苦しんでいる兵士の役に立ってもらうために基金を設立しようじゃないかと考えているんです」

 「原発の放射能汚染は目に見えない、においがない。当時の状況を兵士たちが携帯電話に映していた。それを見たら、ガイガーカウンターが鳴っている。服を脱いでシャワーを浴びる。服を脱いでもまだ鳴っている。実態を聞いてみると、2カ月半ぐらい放射能を避けて(東北)沖合に出ていた。救援物資を運びながら、自分たちは海水の塩分を取って真水でシャワーを浴びていた。料理も海水の塩分を取った真水で料理したが、放射能物質は取れない。それを食べたから、外部被ばくと内部被ばくと両方受けている(可能性がある)。日本の救援にかけつけた兵士が除隊せざるを得なくなり、体が動かなくなり、仕事がなくなり、つらい思いをしている。こういう方たちに何がしかの支援の手を差し伸べたいなと思っているんです」

都知事選敗北後も屈せず
 「原発は安全で、コストが一番安くて、クリーンエネルギーだ。推進論者が言っている3大スローガン、これは全部うそだと分かった。うそだと分かって、総理大臣をやめて国会議員を引退したからといって、黙っていていいか。原発ゼロはやればできる夢の事業、壮大な事業だ」

 続いて、フィンランドの核廃棄物最終処分場の「オンカロ」を視察した話を披露したが、本サイトでも過去の小泉氏の講演内容を既に詳述しているので、ここでは省略する。以下、2014年2月投開票の東京都知事選に出馬した細川護煕元首相を支援した話に入り、いつもの持論を展開した。

 「大都市・東京で、『原発ゼロでオリンピックをやろう』と言えば、原発ゼロ(運動)に弾みがつくんじゃないかと思って、(候補者に)若い人を探したが誰も出てくれない。細川さんが義侠心を出して都知事選に出てくれることになった。寒い中よく人が集まってくれた。勝つと思ったが、敗れた。そうしたら、『そらみろ、これで小泉の原発ゼロ運動はおしまいだ。小泉は晩節を汚した』と言われた。ところが、都知事選に敗れたけれども、あの都知事選の最中より現在の方が、ますます原発はゼロにしなければならない、原発は絶対にやめなければならない、という確信を持ちました」

「安全第一」じゃなかった原発
 「原発は安全だ? あの映像、地震、津波を見て、ひどい状況だなと。5年以上たって、いまだにメルトダウンの中は分からない。ロボットだって入れられない。核燃料を抜くのは大変。メルトダウンの原因は地震か津波かいまだにはっきりしない。ふるさとを追われた東北地方の方々は40年、50年戻れない。最近、推進論者がよく私に言う。小泉さん、絶対に安全な機械や産業はありませんよ。

 何事も機械はどれだけの便益をもたらすか、危険を承知して研究して、発展させていく。しかし、飛行機事故や自動車事故と違って、事故の頻度は少ないかもしれないが、ひとたび事故を起こしたら取り返しのつかない災害になるのが原発、放射能ですよ」

 「米国のスリーマイル、(旧)ソ連のチェルノブイリで事故を起こし、いまだに(人は)帰れない。大きな事故が二つ起きながら、『日本は大丈夫です。チェルノブイリは日本みたいに多重防護していません。日本は一つの事故が起きても、またもう一つの防御態勢があるから大丈夫です。日本人は安全に敏感だ。日本の技術水準は高い。そんなに安全、安全(対策を)と言っていたら、採算取れませんよ』。そのころから(電力会社は)安全第一じゃなかった。経営第一、原発第一、収益第一だった」

 「(原発は)コストも安い。これもよくこんなうそが言えたなと今あきれている。原発を受け入れる自治体(のため)にわざわざ税法をつくって、自治体にお金が入るから受け入れてくださいと。税金をつくってやらないと立地を受け入れてくれるところがない。事故を起こしたら損害賠償。1東京電力(だけ)では支払えない)」

 「今、除染作業とか(のため)現場で働いている作業員は1日6000人。ちょっと前まで3000人だった。あの防護服は使い回しができない。1回着れば、全部捨てなければならない。捨て場所がない。自治体は受け入れない。燃やせば放射能が出る。どこに捨て場所をつくるのか。東電は(原発)敷地内にあの防護服を焼却する工場をつくると言っている。廃炉にしたって、人材養成から費用、原発1会社ではできない。これまた税金を使う。どの産業よりも税金、国民の金を使うのが原子力産業だ」

もう1回事故ないと原発ゼロにできない?
 「(原発が)クリーンエネルギーだなんてとんでもない。原発は沿岸にある。原発の熱を、大量の海水を取って冷やさなければならない。原子炉を冷やして温水になったものを、また別の海岸に流す。温水を流すと海水の温度は上がる。1度上がるだけで、貝や魚に大きな変化が生じる。生態系が壊れる。パイプに海水を取った微生物の死骸がたまる。パイプの水はけが悪くなり、微生物を溶かすために薬品を使う。これが海に流れる。原発産業というのは環境汚染産業なんです。今だって、汚染水なんかコントロールされていませんよ。誰か(コントロールされていると)言ったけど」

 「去年の(鹿児島県の九州電力)川内原発(の再稼働)。これもおかしいと思うのは、原子力規制委員長が事故後に新しい基準に合格したと。しかし、『私は安全とは申し上げない』と後で言っている。政府は、規制委員長が世界一厳しい安全基準に合格したから再稼働させると言いだした。世界一安全? どこか比べてくれ、と言いたくなる。米国よりはるかに緩い安全基準だと分かる。避難計画をつくらなかったら米国は(原発を)つくらせない。事故起こった場合の避難計画はつくってないじゃないですか。テロ対策はどうなるか。原発のテロ対策がないと、その放射能は日本に向けられる。一つでも米国の基準と比べてくれと言いたい。世界一厳しい基準だから動かせる、これも大うそですよ」

 「(原発は)安全、コストが安い、クリーン。全部うそだと何回も言っているけど、政府も経済産業省も環境省も資源エネルギー庁も、『小泉さん、うそを言わないでください』と文句は言ってこない。本当だから。できるだけ原発の依存度は減らすと言っていたのが、今、将来20%程度と言っている。こういうことを考えると、もう1回、事故が起きなければ、日本は原発ゼロにしないのではないかと危惧している」

自然エネルギーでやっていける
 「原発は全エネルギーの30%だった。私は2、30年で原発ゼロ。自然エネルギーだけで、日本のエネルギーはやっていける(と言っている)。原発で使った金の何分の1かを自然エネルギーの支援に回せば、できると思う」

 「米国でさえも、高速道路、鉄道に太陽光発電をつけようと実験が始まっている。高速道路の横の壁かと思ったがそうじゃない。自動車の走る道路を太陽光発電にしようと。鉄道のレールとレールの間の空き地を太陽光発電にしようと。これができれば日本なんて十分ですよ」

 「風力だって太陽光だって、風がなければ、日が当たらなければ駄目だというが、蓄電技術はどんどん発達している。原発に回す金をこちらに回せば、30年たたずして、今まで原発に依存していた30%程度の電源は十分に自然エネルギーで(賄え)無限にある。自然環境を大事にするエネルギーと共存しながらやっていけるんじゃないかと、ますます確信を持っている。原発を使うより、自然を大事にし、自然に無限にあるエネルギーを使う方がはるかにいい時代が来ると思いませんか。まだ生まれて来ない将来の世代に重い負担を与えるよりも、より良い時代をつくっていこうと思うならば、原発ゼロを直ちにした方がいい」

 「3年前、原発直ちにゼロと言ったら、推進論者や経済界は『小泉さん、直ちにゼロは無理ですよ。将来、先の話ならまだ分かるが、直ちにゼロなんてやったら、日本経済は発展できない。寒い冬、暑い夏が来れば、当面、原発は必要だなと分かってくる』と言っていました。ところが、今、原発事故から5年に至る。2011年3月から2013年9月まで、たった2基しか原発は動いてなかった。

 2013年9月から15年8月まで原発ゼロで、今、たった2基しか原発は動いていない。実質的に原発ゼロで5年2カ月、江戸時代には戻ってない。原発2基なんて自然エネルギーの数%でしょう。日本は原発ゼロ宣言をしていない。ドイツよりも先に、実質5年2カ月、原発ゼロでやって、たいして不自由していない。耐乏生活、窮乏生活なんて送ってない。事実が証明している。こんな分かりやすいことがどうして分からないのか」

次の原発事故が起きる前に
 「同じ政治家で有名な『憲政の神様』と言われた尾崎行雄氏がいる。1890年、第一回帝国議会(議員の総選挙)に(数え)33歳で立候補した。以来、明治、大正、昭和。大選挙区、中選挙区、小選挙区。全部勝ちぬいてきて、連続当選25回。亡くなったら、尾崎記念会館という政治資料館をつくった。今、憲政記念館に名前が変わった。玄関の石碑の中に尾崎行雄氏の揮毫が刻まれている」

 「『人生の本舞台は常に将来にあり』。亡くなった年に書いている。人生の活躍する場は常に将来にあるんだと。いつ自分も役に立つ場が出てくるかわからない、努力せよ、という意味に受け取っている。私もまさか総理をやめて、この原発ゼロ運動にいそしんでいるなんて、夢にも思っていませんでした。今、私はね、古希を過ぎた。人生古来希(まれ)なりといったところが、最近まれじゃない。

 尾崎行雄氏は死ぬ年まで将来のことを考えていた。人生の本舞台は常に将来にあり、その言葉に励まされて、そうだなあと。元気な限り、できたら私の生きているうちにこの原発ゼロを成し遂げたいなあと思っているんですよ。これからですよ。次の原発事故が起きる前に原発ゼロにしなきゃいかん。より良くする、希望を持って、この原発運動、皆さんと共に頑張っていきたいと思います」

核廃絶より原発ゼロの方が易しい

 講演後、小泉氏は記者団のインタビューに応じた。主なやりとりは次の通り(順不同)。

 ―米国から帰国して、政府関係者に(元兵士と面会した)説明の機会は。

 (帰国)翌日、外務省の北米局長にこういう事情だったということは話した。

 ―広島を訪問する安倍首相に一言ないか。放射能被ばくということでは原爆被爆者もトモダチ作戦で被ばくした兵士も同じではないかと思うが。

 これ(元米兵への支援)はね、政府とは関係なしにやろうと思っているんです。(原発)推進論者もゼロ論者も賛否を超えて。あの放射能被害で苦しんでいる方に何かできないかなと。政府にあれこれ言っても仕方ないと思っている。

 ―基金の具体的内容は?
 これから心ある有志と相談してみようと思う。今、何かしてみたいと思っていることは共通しているんですよ。

 ―いつごろまで、どれぐらいの規模か。
 別に急ぎませんから。基金を仮につくるとしても半年や1年はかかる。

 ―政府として切り離してやるということだが、理由は?
 言っても無駄だと思っているんですよ。米国もそういうことをやってない。だが、日本に救援に来てくれたからね。そりゃあ、話を聞いて、かわいそう、気の毒ですねえと言って済むかと。そうじゃないだろうという思いからやってる。

 ―最近、福井県が廃炉作業に入った原発にも税金をかける方針を出した。再生エネルギーへの動きがある一方、自治体の財政事情でなかなか原発依存から抜け出せない状況もあるが、どう思うか。

 政府を動かすことが一番大事だと思う。行政が決める。廃炉になる、(原発が)なくなるところに支援すると。現状のままだったら、自治体には、原発産業がなくなったら今までもらっていた金がもらえない、という不安が出てくると思う。政治を動かす。これが一番手っ取り早い。

 ―国政選挙に脱原発候補を立てる考えは。
 今、原発ゼロ論者を立てることは考えていません。

 ―参院選で原発が争点にはなっていない現状をどう思うか。
 これは不思議でしょうがないね。与党が原発ゼロについて、もし言ったらね、野党とは戦いにならないね。なぜ、野党が原発ゼロを言わないのか、これも不思議だ。

 ―(2015年3月の)安倍首相と元首相らとの懇談の場で、直接安倍さんに原発ゼロを訴えたが、安倍さんの姿勢は全然変わってない。
 変わってないね。

 ―なぜか。
 そのへんは分からないね。こんな当たり前のことがなぜ分からないのか。政治家として総理として。野党と対立しているが、これは対立しないぞと。苦笑いしながら聞いているだけだったからね。

 ―もう1回安倍さんに会って、直接訴えることはないか。
 いや、私からは。会いたいと言えば会うけど。まあ、あそこまで言っているんだから、もう無理だろう。

 ―オバマ米大統領が(5月27日に)広島を訪問するが、何か所見は。
 いいことだからね。しかし、核廃絶よりも原発ゼロの方が易しいよ。核廃絶やるんだったら、原発ゼロをやってほしい。米国と日本が手を組んで原発ゼロをやったら世界は変わりますよ。米国は資源国だから。

 ―米国の現職大統領が広島を訪問することはどう思うか。
 それは、いろんな意見がある中で、よく決断してくれたなあと。いいことだと思います。

 ―米国でも、小泉進次郎さんに対する期待の声が出ていたが、訪米について進次郎さんに話は。
 いや、まだ会ってないんだよ。

 ―(進次郎さんに)「動いてほしい」という希望は。

 それは、(進次郎は)分かっているんですよ。私の話を聞いているから。(今は)黙っているんだよ。いずれ分かると思いますよ。帰ってから、会って話してみようかなと、思います。

菅元首相「私は指示せず」=東電事故報告書に反論 時事通信 2016年6月17日

民進党の菅直人元首相は16日、東京電力福島第1原発事故の「炉心溶融(メルトダウン)」公表遅れ問題で提出された東電第三者検証委員会の報告書に対し、「当時首相であった私自身が東電や旧原子力安全・保安院に『メルトダウン』や『炉心溶融』という表現を使わないよう指示したことは一度もない」などと反論するコメントを発表した。
 
 報告書は、事故当時の社長が首相官邸の要請を受け、炉心溶融などの言葉を記者会見で使わないよう内部で指示したと指摘している。これについて菅氏は、「『官邸側』とは具体的に誰なのか明らかにすべきだ」と主張。第三者委員会から菅氏本人への問い合わせも一切なかったと説明している。 

  「当時の東電社長が指示」原発事故巡り第三者委 テレビ朝日系(ANN) 2016年6月16日

当時の社長の指示があったことを明らかにした。

 福島第一原発事故を巡り、東京電力は発生から3日後の3月14日には1号機から3号機で最大55%の炉心溶融、いわゆる「メルトダウン」が起きたことを知りながら、2カ月後まで明らかにしなかった。

 調査した第三者委員会は、当時の清水正孝社長が「炉心溶融という言葉を使わないように」と指示していたことを明らかにした。

 第三者検証委員会・田中康久委員長:「武藤副社長が説明している最中にメモが渡されて、社長の指示だと。官邸からこの用語を使うなと。炉心溶融と使うなと指示された」

 一方、第三者委員会は清水社長らからヒアリングを行ったものの、官邸から指示などがあったかどうかは解明できなかったということだ。

マニュアルの存在知らず=炉心溶融の公表遅れ問題?広瀬東電社長 時事ドットコム  2016年06月16日

東京電力の広瀬直己社長は15日の記者会見で、福島第1原発事故の際、核燃料が溶け落ちる炉心溶融(メルトダウン)の定義を記したマニュアルがありながら判定と公表が遅れた問題に関し、「私は事務屋なので(マニュアルの存在を)知らなかった」と述べた。

 この問題をめぐっては、弁護士らで構成する第三者委員会が、東電社内でマニュアルがどの程度共有されていたかなどを調査している。広瀬社長は「(第三者委の調査に)雑音は入らない方が良い」と述べ、詳しい説明は避けた。

「炉心溶融」使わぬよう指示=当時の東電社長、役員に―公表遅れで第三者委報告 時事通信  2016年06月16日

東京電力福島第1原発事故で、原子炉内で核燃料が溶け落ちる「炉心溶融(メルトダウン)」の公表が遅れた問題で、東電が設置した第三者検証委員会(委員長=田中康久・元仙台高裁長官)は16日、当時の清水正孝社長が記者会見を行っていた役員に対し、「炉心溶融」の言葉を使わないよう指示したなどとする報告書を公表した。

 報告書によると、清水氏は事故発生から3日後の2011年3月14日夜、記者会見に出席していた武藤栄副社長(当時)に対し、広報担当社員を通じて「炉心溶融」などと記載された手書きのメモを渡し、「首相官邸からの指示により、この言葉は使わないように」などと耳打ちをさせた。 

フィンランドの放射性廃棄物最終処分場「オンカロ」 AFPBB News 2016年6月16日

【6月16日 AFP】フィンランドで、高レベル放射性廃棄物を半永久的に地中に埋める最終処分場の建設が進められている。

 世界で最も費用がかかり、使用期間も最長のこの処分場は、フィンランド西岸のオルキルオト(Olkiluoto)島に建設される。複数のトンネルで構成するこの施設の名前は「オンカロ(Onkalo)」。フィンランド語で、洞窟という意味だ。

 初期の原発が建設された1950年代から、各国は長年にわたって放射性廃棄物の処理に取り組んできた。ほとんどの国は廃棄物を地上の一時的な保管施設に貯蔵しているが、オンカロは永久に廃棄物を埋める、初の最終処分場だ。

 フィンランドは2020年から、5500トンの廃棄物を地下420メートル超に埋める方針だ。

 オルキルオトには、既に2基の原発がある。最終処分場の費用は、2120年代までに最大35億ユーロ(約4200億円)かかる見通しとなっている。

 昨年、オンカロ建設の承認を得たポシバ(Posiva)社のイスモ・アールトネン(Ismo Aaltonen)氏は、「この計画には、あらゆる新たなノウハウが求められた」と説明した。

 現時点で完成しているのは、曲がりくねった全長5キロのトンネルと、作業員の移動や換気などに使われる3つの立て坑。最終的には、全長42キロになる計画だ。

 内部は低温に保たれ、岩盤は極度に乾燥している。廃棄物を水分による腐食から保護するために、重要な条件だ。

■「安全性の問題」

 鉄の鋳造物で囲った使用済み核燃料棒を、分厚い銅の容器の中に封印した上で、トンネルに運び込む。この容器を、周囲の岩盤の揺れや、浸水を防ぐ働きをするベントナイト(bentonite)と呼ばれる粘土で覆う。最終的には、さらに多量のベントナイトや粘土の塊を使い、トンネルを埋める。

 この手法は、同様の計画が進んでいるスウェーデンで考案された。ポシバは、安全な技術だと主張するが、環境保護団体グリーンピース(Greenpeace)などの原発反対派は、放射能漏れの可能性に懸念を示している。

福島第一原発を視察した「田原総一朗」(4)“東電はダメだ、だけどあんたは信用する。これが大事ですね” デイリー新潮 2016年6月13日

福島第一原発の事故から5年が経とうという今年3月1日、ジャーナリストの田原総一朗氏(81)が初めて現地に足を運び、座談会を行った。メンバーは澤田哲生・東京工業大学助教授(原子核工学)、増田尚宏氏(東京電力・福島第一廃炉カンパニープレジデント)、そして石崎芳行氏(東京電力副社長・福島復興本社代表)。最終回の本稿では、この日見た「東京電力の社員」について田原氏は語った。

 ***

【澤田】 これから喫緊の重要なポイントは何でしょう。

【増田】 デブリ燃料の位置を特定して取り出す作業においては、被曝の問題を考えないといけません。作業をする人たちの被曝はどうしても生じますが、彼らが仕事を辞めれば、地元の方々に与えるリスクは下がらない。誰も経験のない仕事が増えていく中、必ず判断を迫られる難しい問題です。

【田原】 7000人を超える従業員、特に東電の社員ではない人たちに、いかにやる気を持たせるかですよ。

【澤田】 従業員の顔を出したポスターは、いいですね。

【増田】 最初は会社名や名前にマスキングしたり、顔が写らない角度で撮ったりしていましたが、最近は撮ってくれと言っていただく方が増えて、嬉しいです。

【田原】 顔を出すことをオーケーしたということは、自分の仕事にプライドを持っている。大事なことです。

■日本の企業の体質
【澤田】 地域復興ということでは、次は何をやろうと思っていますか。

【石崎】 避難指示解除になった楢葉町には、まだ400人ほどしか戻られていませんが、戻った一軒一軒に見回り隊と称して社員を行かせています。そういうきめ細かいふれあいに、制服を着て行かせています。最初、社員はみな“このヤロウ”って言われるんじゃないかって、制服着るのを嫌がったんですよ。でも最近、住民の皆さんから“東電は絶対許さないけど、東電のあんたは来てくれ”と言われるようになってきました。

【田原】 東電はダメだ、だけどあんたは信用する。これが大事ですね。

【石崎】 福島に来た東電の社員は、延べ22万人を超しました。全社員が3万3000人ですから、全員が数回は来ています。でも、廃炉でまたトラブルでもあれば、やはり住民の方の不安が高まってしまいます。

【澤田】 とはいえ、トラブルをゼロにはできません。

【増田】 起こったことをわかりやすく、タイムリーにお知らせするのが大事だと思いますが、そこがなかなかうまくできていなかった点は、あるかと思います。

【田原】 日本の企業の体質には、都合の悪いことはいかに知らせないかというのがあるんですよ。だけど事故を起こしたからには、いかに都合の悪いことも知らせるかって、価値観を変えないといけない。ただ、東電の社員たちが数回ずつ福島に来て、地域を歩いているわけでしょ。信頼されているのは大きいと思うな。

【澤田】 では、トリチウム水の問題も何とかなりますか。

【田原】 信頼されるかどうかですね、結局。それと現場を見て、僕は、作業員たちがプライドを持っていると思った。目つきがそうだった。歩き方も。みな颯爽と歩いているんですよ。

「特集 原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて 特別篇 福島第一原発を視察した『田原総一朗』」より

『週間新潮』2016年3月17日掲載

福島第一原発を視察した「田原総一朗」(3)“事故前にこれだけ細やかにやっていれば、こんなことにならなかった” デイリー新潮 2016年6月13日

ジャーナリスト田原総一朗氏(81)が、初めて福島第一原発を訪れ、“フクシマ”を語る。同席するのは澤田哲生・東京工業大学助教授(原子核工学)、増田尚宏氏(東京電力・福島第一廃炉カンパニープレジデント)。そして前回、東京電力副社長で福島復興本社代表の石崎芳行氏も加わった。いつしか話題は、“司令塔なき”日本の原子力総合政策に。「形としては原子力委員会がありますが」という澤田氏には、田原氏は「担当大臣は島尻安伊子だ。あれが委員会を仕切っているんですよ」という意見。座談会が行われたのは3月1日、原発事故から丸5年が経とうという時である。

 ***

【澤田】 政治がだらしないとの話ですが、帰還の問題でも、地域住民の考え方や期待と、自治体の首長や政府の考えが噛み合っていない。

【田原】 丸川珠代担当大臣が余計なことを言って。

【澤田】 言っていることは正しいんですけどね。

【田原】 だったら撤回しなきゃいい。誰かから聞いた話を、生半可な知識で言ってしまった。で、非難されたら全面撤回してしまった。

【澤田】 内閣で撤回を迫られたらしい。本当に困ったことです。

【田原】 帰還の問題で難しいのは、人が住んでいない地域に帰ってきて、どうやって生きるのか、仕事をどうするのかということ。それと生活インフラですね。
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【澤田】 今日も福島第一の中にコンビニができましたが、外側にはできていない。

【田原】 人が帰ってきて生活できるようにする、ということに、東京電力は相当責任を負っていると思う。

【石崎】 復興に携わる社員を県内に1800人常駐させていて、うち50人ほどJヴィレッジにいますが、それを富岡町に移して100人くらいの事務所を作ります。すると食べ物を売る店ができ、飲食店もできるかもしれない。住民はまだ帰ってこないけれど、我々が先陣を切ろうと思います。また給食センターを大熊町に作りまして、最初は発電所から9キロしか離れていないところで食べ物を作れるのか、安心して働けるわけないだろう、と思われましたが、CGを作ってPRしたら、100人の募集に200人くらいの応募があったんです。

【田原】 大事なのは、東京電力が新しい地域づくりをしなきゃいけないということ。それは復活ではないと思う。新しい、未来の福島を作るんだ、ということですね。

【澤田】 大熊町って、ほぼ全域が帰還困難区域ですけど、給食センターが作れるんですね、その気になれば。

【石崎】 形を見せることが大事だと思うんですよ。

■「事故前にこれだけ細やかにやっていれば」
【田原】 東京電力は福島県とか自治体とは協力し合っているわけですね。

【石崎】 それは密接に、各町単位にグループを作って、頻繁に接触しています。

【田原】 皮肉を言えば、事故前にこれだけ細やかにやっていれば、こんなことにならなかった。

【澤田】 津波対策も、大震災が起こる前にどうにかできたのでは。

【田原】 それは東電の大きな責任だと思う。2008年、1100年前の貞観地震で、福島の原発のところに15メートルの津波が来た、と指摘されていた。ただ、対策にお金がかかるから、そのうちやろう、と言っている間に津波が来ちゃった。それからもう一つ、事故当時の原子力委員長の近藤駿介氏が面白いことを言ったね。日本では99・9%大丈夫だ、と言っても通用しない。絶対安全と言わないと地元も受け入れてくれない。仕方なく、東電は“絶対安全”と言ってしまったと。

【澤田】 給食センターは、住民が町に帰るひな形としての意義があると思いますが、ほかにも似たような事業はなさっていますか。

【石崎】 大熊町が3000戸の復興公営住宅棟を計画するコンパクトタウンの近傍に、給食センターを設置し、さらにその周りに社宅を750戸建て、給食センターや我々社員が大熊町のコンパクトタウンの核となるように、先に入っていきます。

【田原】 いいですね。

【石崎】 悩みどころは、東電がこうして先んじて入っていくとき、各町が「俺んとこ来い」と引っ張り合いになった。すると、どこに作るかという全体調整を誰がするかが問題なんです。

【田原】 それは県がやるべきです。もう国に期待するのはやめたほうがいい。東電と県ががんばり、国を巻き込んでいくんですよ。だいたい日本はね、昔から陸軍で言うと、下士官は世界一で、将校はまあまあ、ゼネラルは世界最悪だという。今もそうと言えます。

 ***

(4)へつづく(2016年3月31日(木)掲載予定)

「特集 原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて 特別篇 福島第一原発を視察した『田原総一朗』」より

『週間新潮』2016年3月17日掲載

恩師に抱いた初めての疑問/『湯川博士、原爆投下を知っていたのですか:“最後の弟子”森一久の被爆と原子力人生』 [評者]山村杳樹(ライター) デイリー新潮 2016年6月13日

「森一久」という名前を聞いてピンとくる人は果たしてどれほどいるだろうか。氏は、政財官界にわたる広範な人脈を持ち“原子力村のドン”と呼ばれた人物。本書は、黒衣に徹しつつも黎明期から一貫して日本の原子力業界を見据えてきた森氏の生涯を描くドキュメンタリーである。

広島出身の氏は一九四四年に京大理学部に入学し、湯川秀樹博士に師事することになる。入学の翌年、偶々帰郷していた折に被爆、両親など五人の親族を失う。母を探し求めて(結局、見つけることはできなかった)爆心地をさまよい歩いた結果、原爆症で瀕死の状態に陥るが奇跡的に恢復。卒業後は湯川博士の奨めで中央公論社に入社、科学月刊誌「自然」の編集に携わった後、一九五六年に社団法人「日本原子力産業会議」を創設する。

ところが、七〇歳を過ぎた頃、気になる事実を知る。森氏と同郷で京大同期の人物が、一九四五年五月に担当教授から呼び出され、「広島に新型爆弾が落とされるから家族を疎開させろ」と告げられたが、その場に湯川博士が同席していたというのだ。

森氏は、なぜ湯川博士は自分にそのことを教えてくれなかったのかという疑問に苛まれる。被爆者である自分こそ原子力を監視する資格があると博士は考えたのか。氏は湯川博士を知る人々を訪ね歩くが、結局、疑問が解けることはなかった。

森氏の生涯を辿ることで本書は、日本の原子力村が、官僚化、劣化、無責任化してゆく過程を描き出す。森氏は、自分が関与する原子力界が、独善的で閉鎖的な組織へと変質していくことを危惧し、日本型システムの歪みが次々と表面化していく事態を「どこまでつづく、ぬかるみぞ」と記す。氏は、原発反対の論者とも交友を持った。氏にとっては、原子力に対する「畏れ」こそが、この世界に携わる者が立脚すべき原点だった。氏は福島原発の惨事を見ないまま二〇一〇年、八四歳で死去。本書の最後に置かれた夫人の言葉が胸を衝く。

福島第一原発を視察した「田原総一朗」(2)“歯舞が言えなかった大臣、あれが原子力委員会を仕切っているんですよ” デイリー新潮 2016年6月13日

福島第一原発の事故から5年が経とうという2016年の3月1日、ジャーナリストの田原総一郎氏(81)が初めて現地を訪れた。同行するのは、澤田哲生・東京工業大学助教授(原子核工学)と、出迎えた増田尚宏氏(東京電力・福島第一廃炉カンパニープレジデント)。前回はバスで視察を行った後、福島第一の小野明所長と対面した。

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 事故収束の前線基地・Jヴィレッジに戻ると、東京電力副社長で福島復興本社代表の石崎芳行氏も加わり、意見を交換した。

【澤田】 田原さん、今日1日ご覧になって、全体的な印象と、これから何をやらないといけないと思われたか、伺ってよろしいですか。

【田原】 いろんな面で配慮されて、万全を期されていたと思う。大きな問題は四つあると思うんですね。一つは汚染水の問題。ALPSできれいにするんだけれど、福島の漁協がその水に抵抗を示している。

【澤田】 トリチウムの問題ですね。

【田原】 ええ。それをどうするか。もう一つは、1~3号機のデブリ燃料が、まだどこにあるのかわからない。これをどうやって探し出し、抜き出して廃炉にするのか、という問題。それから、廃炉作業が高等技術を要するものから単純労働まである中で、事故を起こして反発を受けている東電の仕事をする人の気持ちに、配慮されているなと。もう一つ大きいのは、事故で住めなくなった地域の人たちに対してどうするのか。この四つがあると思う。

【増田】 デブリは、ご指摘のように、まずはどこにあるのか見極める必要があります。来年度中に場所を見極め、2021年からの取り出しに向け、方策を考えていこうと思っています。

■「遅すぎだよ!」
【澤田】 その技術には、世界が注目しています。

【田原】 世界中の国がどんどん原子力発電をやっているわけで、いずれの国もいつかは廃炉に向き合う。そういう意味では、東京電力が最先端の作業をやっているわけですよ。しかも、世界中で原発が新設されれば、事故は起きると思う。ということは、東電の今のデブリの取り出しを含む廃炉作業には、世界中からものすごい関心が集まっている。

【澤田】 水は今、どのくらい溜まっていましたっけ。

【増田】 70万トンを超えるくらいです。また毎日150トンくらいが地下水として建屋に入り込み、ほかにも処理するものが加わっている状況です。

【澤田】 ALPSが3台あって、今は5割ほどの稼働率だと。それで問題は、残ったトリチウムですね。

【田原】 トリチウムの問題は、経産省がまだ結論を出していないのは、遅すぎる!

【増田】 資源エネルギー庁には、トリチウムの扱いに関するタスクフォースで議論していただいており、この3月にはそこで、トリチウムをどう扱えばいいのかという選択肢の案が決まるという状況です。

【田原】 遅すぎだよ! この5年間に、資源エネルギー庁長官は4人代わっている。無責任です。原発の問題は、東電もメーカーも一生懸命で、一番無責任なのは政府。一番の問題は、日本には原子力総合政策がないこと。司令塔がないんです。

【澤田】 原子力委員会が形としてはあるんですが。

【田原】 そこを仕切っているのは、どこですか。

【澤田】 内閣府ですね。

【田原】 担当大臣は……、島尻安伊子だ。歯舞が言えなかった人ね。あれが委員会を仕切っているんですよ。

■世界的な観光センターに
【澤田】 ところで、田原さんは、ここを国際的な技術開発センターにすべきだと。

【田原】 そう、廃炉のね。世界廃炉センターみたいなのを福島に作るべきだと思う。

【増田】 今は福島・国際研究産業都市という構想を推進していただいていて、今後出てくるデブリ燃料は、よい研究材料になるでしょうし、遠くに持っていくわけにいかないので、周りに施設を作ることになっています。

【田原】 僕はね、福島が将来、廃炉をやり終えたら、世界的な観光センターにすべきだと思う。チェルノブイリの何十倍も素晴らしい観光地になると思う。

 ***

(3)へつづく(2016年3月30日(水)掲載予定)
「特集 原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて 特別篇 福島第一原発を視察した『田原総一朗』」より

『週間新潮』2016年3月17日掲載

福島第一原発を視察した「田原総一朗」(1)“核燃料サイクルのメドが立たなければやめざるをえない” デイリー新潮 2016年6月13日

もう30年以上前から、原発の危険性を訴えつつも、感情的な反原発もまた危険であることを冷静に主張してきたジャーナリストの田原総一朗氏(81)。福島第一原発が未曾有の事故に見舞われて5年になるのを機に、初めて現地に足を踏み入れた。その視察の一部始終。

 ***

 着々と進んでいるというものから、絶望的な状況だというものまで、福島第一原発の廃炉作業の描写は、報じる側のスタンスによって著しく異なる。結局は訪れて、確認するほかない。

 あと10日で、不幸な事故から丸5年の3月1日、ジャーナリストの田原総一朗氏と、本誌(「週刊新潮」)「御用学者と呼ばれて」シリーズでおなじみの東京工業大学の澤田哲生助教は、JRいわき駅から、まずは事故収束の前線基地となってきたJヴィレッジへ向かった。
 出迎えたのは、東京電力の福島第一廃炉推進カンパニーのプレジデント、増田尚宏氏である。

【増田】 5年経って現場はかなり変わってきました。火の粉を振り払うような状況から、落ち着いて、先を見ながら仕事ができるようになったと思います。今、ようやく汚染水対策に一定のメドをつけることができ、使用済燃料やデブリ(融け落ちた)燃料の取り出しという、廃炉の核心に近づいています。

【澤田】 汚染水の除染は間に合っているんですか。

【増田】 今、76万トンのうちの約60万トンは、多核種除去設備を通した水になり、残り16万トン超がセシウムやストロンチウムだけを除いた水で、その処理を順次やっているところです。

【田原】 トリチウムはどうするんですか。

【増田】 世界的には希釈して、トリチウムの濃度を下げて管理し、排水するのが普通の考えです。

【田原】 いやいや、だからここではどうするんですか。

【増田】 まずは保管です。

【田原】 保管って、将来はどうするんですか。

【増田】 みなさんと決めていかなくては。

【田原】 みなさんって?

【増田】 資源エネルギー庁のトリチウムのタスクフォースで処理案を整理してもらっています。希釈して排水、スリーマイル島でやった蒸発、分離して貯蔵と、いくつか案があって、この3月に整理が終わるとうかがっています。原子力規制委員会の田中俊一委員長らは、法律を満たしたうえで排水するのがいいだろう、とおっしゃいますが。

【田原】 漁協がオーケーしませんものね。漁協との話し合いはどうするんですか。

【増田】 タスクフォースの議論を踏まえてしっかりとご説明いたします。一番大事なところです。
 いよいよ、バスで福島第一原発に向かった。昨年9月、避難指示が解除された楢葉町を通る。

【増田】 人口7500人ですが、まだ400~500人しか戻られていないです。

【田原】 400人くらいで住むのは大変ですね。スーパーマーケットも400人じゃ商売にならないね。

【増田】 だから、この界隈には東京電力の社員が多くいるので、期待はされます。

■作業員の姿をプロのカメラマンが撮影
 続く富岡町は帰還困難、居住制限、避難指示解除準備の3区域で全域が占められている。だが、除染が進み、スーパーの開店や住民帰還の計画があるという。大熊町に入ると、かつての水田に低木が生い茂っている。

 福島第一原発に着くと、わずか1年前と大きく異なるのは、作業員たちが普通の服装で歩いていること。以前はみな防護服を着ていたのだ。

 まず大型休憩所へ。2階には食堂ができ、この日、ローソンもオープンした。上階には休憩所も。以前はみな雑魚寝していたから、労働環境は雲泥の差だ。展望台から原子炉建屋やタンク群を眺めたあと、1階のモニターの前へ。そこではエリアごとの放射線量がリアルタイムで確認できる。

【田原】 作業員は今、どこに行くんですか。

【増田】 今までは建屋まわりの凍土壁が多かったですが、建屋の中も増えてきました。

【田原】 中に入ってるの?

【増田】 線量が高い場所に近寄らないように作業してもらい、時間も絞っています。
 さて、各自線量計を持ち、バスで構内を回るが、その前に、作業員たちが写されたポスターの前で増田氏が立ち止った。

【増田】 福島第一がテレビや新聞に出るのは、悪いニュースの時ばかりです。そこで、ここでの仕事に矜持を持ってもらうため、作業現場をプロのカメラマンに撮ってもらって、それをHPにアップしています。

『週間新潮』2016年3月17日掲載

「日本のエネルギーは100%中国に依存することになる」と予言 〈原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて(4)〉 デイリー新潮 2016年6月13日

 正論を述べるゆえに“御用学者”と誤解されることもある専門家たちが、福井県敦賀市の高速増殖炉「もんじゅ」を考える。第1回では資源小国の日本におけるもんじゅの役割を取り上げ、続く2・3回にて、原子力規制委員会がおこなった「事業主体変更勧告」と、規制委員会という組織について語った。最終回となる今回のテーマは、日本の核燃料サイクル戦略の未来、である。

 ***

【澤田哲生/東京工業大学助教(原子核工学)】 仮に、今回の勧告でもんじゅが廃炉に向かうとしたら、日本のエネルギー政策、原子力政策にどんな影響が及ぶでしょうか。核燃料サイクルはフランスのアストリッドと協力してやる話もあるようですが、国内の六ヶ所村などの再処理施設はどうなるのか。エネルギー小国の日本がもんじゅを捨てるのは、あまりにもったいないと思います。

【岡本孝司/東京大学大学院工学系研究科原子力専攻専攻長・教授】 エネルギーを司る役所は経産省と文科省に分かれますが、今回の勧告に関し、経産大臣は「もんじゅは文科省の所管です」とにべもなく語っている。経産省は核燃料サイクルを推進しているはずですが、地震が多い日本では使えないフランスのアストリッドに期待しているのか。そもそも、もんじゅがつぶれたらアストリッドもありません。

【高木直行/東京都市大学大学院共同原子力専攻 工学部原子力安全工学科原子力システム研究室教授】 経産省はもんじゅに見切りをつけ、アストリッドとの協力で核燃料サイクルを進めるというのでしょうか。でも、もんじゅをやめた時点で多くの人は、日本が高速増殖炉開発をやめたと思いますよ。

【奈良林 直/北海道大学大学院工学研究院教授】 もんじゅをやめてしまうと、日本では二度と高速炉を建設できないと思います。ナトリウムを流して高速炉を運転するのは特殊な技術で、日本は30年かけてナトリウムを使える人を育ててきた。それを絶やしてしまえば、アストリッドと協力しても、日本側から適切なアドバイスをする人がいなくなってしまう。

【高木】 福島の事故を受けて規制も変わり、もんじゅもそれに対応することが再稼働の条件になってくる。新基準に対応するのにさらにお金がかかるので、動かす必要があるのかという声が聞こえてきそうですが、今の化石燃料購入額を考えると、その予算は十分に未来に見合う。もんじゅの設計は古いですが、あれを動かすことで重要な知見はまだまだ得られます。

【澤田】 科学技術立国のわが国において、自前のデータを持っているかいないかは、すごく大きな違いです。その意味で宝があるのに、使えない状況にある。

■ウクライナと同じになる
【岡本】 よく脱原発したと言われるドイツでは、今も軽水炉は動いているし、実は、ドイツの研究者が中国にどんどん乗り込んでいるんです。日本も中国で高速炉を作る研究開発に加わるという手はある。冗談で言っているんじゃないですよ。中国人の若手研究者と話して、彼らのほうが本気で研究していると思ったんです。ただ、安全性は日本のものをデッドコピーしているだけなので、改良する必要がありますが。日本にとって他国、特に中国にエネルギーを握られるのが一番やっかいです。日本がエネルギーをちゃんと確保する術を長期的に考えることが重要で、もんじゅというオプションを失くすことはありえません。もんじゅをやめると、今の若い人たちは将来、中国製の安い原子炉を輸入するという選択肢に確実になります。もう予言しておきます。日本のエネルギー・セキュリティは100%中国に依存して、天然ガスをロシアに頼り切っているウクライナと同じ状況になりますよ。

【澤田】 今、身の回りに中国製品があふれていますけど、原子力もそうなると。

【岡本】 ですから、もんじゅという国産の技術を持っておかないと、結局、全部がドミノ倒しの、最初のドミノになってしまいます。

【奈良林】 アメリカにデービス・ベッセの奇跡というのがあります。原子炉の上蓋が腐食して大穴が開くというトラブルがあったデービス・ベッセ原発で、新所長が全職員から1万件の改善提案を集め、重要度分類してNRC(原子力規制委員会)に提出し、すべて実行した。すると職員の意識が俄然前向きになり、全米で最低に近かった運転成績がトップクラスになった。規制当局から1万件の的外れな指摘を受けるか、自分たちが重要だと思う1万件の改善を自ら実施するかの違いです。私は“もんじゅの奇跡”を信じています。

「特別読物 原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて 第12弾 高速増殖炉『もんじゅ』と日本の核燃料サイクル」より

『週間新潮』2016年1月28日掲載

「田中俊一原子力規制委員長は総理大臣よりも偉い」規制委員会の越権行為を指摘 〈原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて(3)〉 デイリー新潮 2016年6月13日

時に“御用学者”と誤解をされる、4名の専門家による座談会。原子力規制委員会が、馳浩文科相に対して行った勧告は、高速増殖炉「もんじゅ」の運営を日本原子力研究開発機構(JAEA)に代わる主体に委ねるべき、というものだった。この勧告に対し、岡本氏は“もんじゅの安全性とは関係がなく、世間に誤解を与えてしまう”と指摘。今回は、規制委員会という存在を考える。

 ***

【澤田哲生/東京工業大学助教(原子核工学)】 モノの本質が見えていない規制委員会が、もんじゅに関する勧告を出したわけですが、安全を監視すべき規制委員会が、運営主体を交代しなさいと勧告して、もんじゅの運営に切り込むのはおかしい。

【奈良林 直/北海道大学大学院工学研究院教授】 越権行為です。国の原子力政策を決めるのは国民であり、それを代表する国会、内閣です。ところが一人の人間がこういう勧告を出すと、何十年も続けてきた日本の原子力政策を変えてしまえることがわかった。今、ナトリウムを使った高速増殖炉をハンドリングできるのは、もんじゅをやっているJAEAの人たちしかいません。彼らが力を発揮できるように規制をすべきなのに、全否定してしまっては受け皿がない。それこそ中国やインドの人を連れてくるしか……。

〈※中国はFBR(高速増殖炉)の試験炉を建設し終え、インドも出力50万キロワットのPFBR(高速原型炉)が臨界間近。(1)を参照〉

【岡本孝司/東京大学大学院工学系研究科原子力専攻専攻長・教授】 中国人にやってもらいましょうよ。

【奈良林】 規制委員会がいわゆる3条委員会として、強大な権限を与えられた以上、そのトップは公正で高い見識を持っていることが条件だったはずですが、強大な権限を持つと、『スター・ウォーズ』のダース・ベイダーそのものになってしまい、誰も逆らえません。

【澤田】 規制委員会の田中俊一委員長は以前、東海村のエネルギー政策のアドバイザーを務めた際、明確に脱原発を打ち出していました。今の立場をたくみに利用して、国家規模で脱核燃料サイクルをやろうとしているのは、いかがなものか。

【岡本】 アメリカならNEIや議会、ACRS(原子炉安全諮問委員会)が監視しますが、日本では自分で勝手にできる。総理大臣でもできないことができる。たぶん日本で一番偉い人です。今回の勧告自体、世界中から「どうしてそうなったの?」と、驚きをもって受け止められ、世界で最も危険な規制をする日本の規制委員会の、実力のなさを示しちゃった。核燃料やナトリウムの安全な運用はJAEAにしかできません。安全とは直接関係ない部分のトラブルを受けて全部変えろとは、原子力を知らない人の言うことです。

【澤田】 保安規定に関して形式的なミスをあげつらって、安全が確保できていないと言っていますが、根拠が示されていません。

【高木直行/東京都市大学大学院共同原子力専攻 工学部原子力安全工学科原子力システム研究室教授】 事業者と規制委員会がもう少しコミュニケーションを取っておけば、事前にやれたことがあったのではないか。通常、勧告が出る前には、相当な根回しが必要だと聞きますが、今回はそれがなかったので特異な感じがします。JAEAは旧原研(日本原子力研究所)と旧原燃公社(原子燃料公社)が一緒になったもので、両者の間には今も確執があるとされ、それが今回の勧告にもつながったという話もありますが。

【奈良林】 13年4月30日付の北海道新聞で、菅直人元首相は、記者の「原発ゼロは、自民党政権に代わり白紙に戻されましたが」という質問に対し、「そう簡単に戻らない仕組みを民主党は残した。その象徴が原子力安全・保安院をつぶして原子力規制委員会をつくったことです」と答えている。彼が狙ったことが、本当に機能しているんです。

■法律違反を指摘して戦えばいい
【澤田】 勧告では、JAEAは「もんじゅを運営する主体として必要な資質を有していない」とされましたが、具体的な判断基準はまったく示されていません。規制委員会設置法第4条第2項に、規制委員会は「原子力利用における安全の確保に関する事項について勧告」できるとは書かれていますが、新たな運営主体を探せというのは、「安全の確保に関する事項」から大きく逸脱しています。

【岡本】 安全と関係ない勧告なのだから、法律違反を指摘して戦えばいい。福島の事故の原因は、真ん中に大きな穴が開いているのに端っこばかり一生懸命突いたからです。今回は、真ん中はちゃんとやっているのに、真ん中はいいから端っこをやれと言っている。これは原子力安全とは100%逆方向です。

【奈良林】 裁判官は法律に基づいて判断を下すので、自分が反原発でも反原発の判決は出せませんが、規制委員長はなんでもできてしまっている。20年間止まっているもんじゅは、機能すべき機能は炉心周りをはじめ自ずと限定され、そこをしっかり見ればいい。また運転中に関しては、もんじゅを動かすときの重要度分類に基づいたプログラムを作らなければいけない。ところが、それをJAEAの人が「作らせてください」と言っても、認めてもらえない。安全にするための提案を否定し、一方的に死刑宣告する。そんな規制委員会ってないと思います。

「特別読物 原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて 第12弾 高速増殖炉『もんじゅ』と日本の核燃料サイクル」より

『週間新潮』2016年1月28日掲載

  世界ではおかしくなってきたら取り替える、日本では「1年経ったから」取り替える 〈原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて(2)〉 デイリー新潮 2016年6月13日

1995年12月8日のナトリウム漏洩事故以後、福井県敦賀市の高速増殖炉「もんじゅ」はほとんど動いていない。ついには、運営を日本原子力研究開発機構(JAEA)に代わる主体に委ねるよう、原子力規制委員会からの勧告もなされた。日本はもんじゅから手を引くべきなのか――時に“御用学者”と誤解をされる、4名の専門家たちによる座談会である。

 ***

【澤田哲生/東京工業大学助教(原子核工学)】 では、もんじゅは安全なのでしょうか。関係者に聞くと、安全かどうか以前に悪いイメージがついている。20年前のナトリウム漏洩事故は、現場のビデオ映像隠しもあり、事件のように扱われました。10年5月に再度臨界を達成しましたが、炉内の中継装置が落下。チョンボ続きです。しかし、私自身、高速炉の研究からこの世界に入ったのですが、ナトリウム高速炉は軽水炉にくらべて固有の安全性が格段に高い。

【岡本孝司/東京大学大学院工学系研究科原子力専攻専攻長・教授】 ナトリウム漏れは原子炉本体とは関係ない温度計や管の設計ミスで、不正会計問題を起こしたT社の子会社のチョンボです。その後の炉内中継装置の落下もメンテナンスのからみで、運転せずに機器が古くなったので取り替えた際、溶接に不具合があった。工学的に基本的なところでチョンボが続いたのは残念です。

【澤田】 設計を含めた保全保守に手が回っていなかったのは問題ですが、そのトラブルが原子炉の安全性にどう関わるかです。原子力規制委員会、原子力規制庁は、関連性があるような勧告の出し方でしたが。

【岡本】 安全とはほとんど関係のないところです。

【澤田】 専門家の目から見るとそうなんですが、勧告が出れば、世間は安全性に問題があると誤解します。

【奈良林 直/北海道大学大学院工学研究院教授】 フランスなど高速増殖炉で、20回も30回もナトリウムを漏洩させている。形状や溶接が原因でトラブルが発生しているんですが、それも運転を継続する中でわかることです。

■世界一遅れた日本の規制
【澤田】 それに、不具合が炉心の安全性を脅かすかどうかを考える必要がある。

【奈良林】 もんじゅの関係者に、なぜこんなに非難囂々になったのかと聞きました。彼らは最初、保全プログラムを軽水炉のそれをまねて作ったそうですが、点検を繰り返すと、高速炉用のプログラムを作らないといけないとわかった。それを規制委員会に出そうとしたら、「じゃあ、今までのは全部ダメなんですね」と、すべて保安規定違反にさせられた。軽水炉に準じたプログラムに違反していることがやり玉に挙げられ、肝心の点検が全然できていないというんです。180台のテレビカメラが点検できていないというのも、安全とは関係ない。全世界の保全プログラムと比較し、日本の規制の問題点を挙げていかないと、世界一遅れた日本の規制は直りません。

【岡本】 アメリカでは、事業者の創意工夫で発電所をどんどん安全にしていくメンテナンス・ルールを決めています。そこでは守るべきは厳しく守り、それ以外は壊れたら直す。自転車に乗っていてベルが鳴らなくなっても、交換すればいいだけの話です。だけど日本のプログラムでは、ベルが壊れたら全部をチェックする。世界ではおかしくなってきたら取り替えるのに、日本では「1年経ったから」「3年経ったから」と言って取り替える。創意工夫の「創」の字もなく言われた通りにやるだけでは、発電所はどんどん危険な状態になりますが、規制庁に怒られるので、安全よりも保安規定を守ることが重要になってしまっている。

【澤田】 保安規定と安全確保とは、ちょっと違う。

【岡本】 全然違います。規制委員会から文句を言われているのは、安全と関係ない周辺のこと。保安規定にも重要な部分とそうでない部分があり、後者は品質保証の問題であったりする。たとえるとハンコの有無などどうでもいいのに、書類に1万個のハンコが押してないと言って規制委員は怒っている。こうして書類上の不備ばかり突いても発電所は安全になりません。保全の本質は、トラブルがあったときにどう対処するかですが、規制委員会はトラブルゼロを求める。保全の本質に忠実であれば、フランスのようにナトリウムが20回漏洩しても、経験を積むことができますが、もんじゅの場合、一つのトラブルですべて止まってしまう。

【澤田】 失敗はつきもので、それを次にどう生かすかが重要なはずです。

【岡本】 大きな失敗は絶対にしてはいけないけど、小さな失敗を重ねると大きな失敗をしなくなる。子供もそうやって成長しますよね。

■規制庁の役人は原子力の素人
【高木直行/東京都市大学大学院共同原子力専攻 工学部原子力安全工学科原子力システム研究室教授】 私が一番言いたいのもそこで、原型炉もんじゅは、失敗から学んでいいものを作るという役割を担っている。車のプロトタイプと同じなのに、1回の失敗も許さない雰囲気では、新しい技術の芽が摘まれてしまう。福島第一原発が絶対安全だと言わざるをえないムードになっていたのと似ていて、もんじゅも「何も問題を起こしません」と言わざるをえないムードです。でも、これから再稼働すれば必ずトラブルはある。そこから学んでいく、という原子炉プラントの位置づけを理解したうえでの規制でないといけません。

【奈良林】 保全について補足すると、よりよく点検するためのルールを規制庁に提案すると、その行為自体が保安規定となり、達成できないと法令違反とされる。アメリカNEI(原子力エネルギー協会)は「あれだけの事故を起こしながら、日本の規制は福島以前より悪くなっている」と言っています。書類の誤字脱字やハンコの有無ばかり確認するような検査をしていると、福島のような、津波が入ったらECCS(非常時冷却装置)が全滅するといった根本的な問題は見つけられません。私が会長の日本保全学会で、それが福島の反省事項ですよ、という報告書を作って、規制庁に持って行ったんですが、今になってみれば、彼らは全然反省していない。

【岡本】 それから、規制庁の役人は原子力の素人で、一方、規制委員は専門家です。規制委員は事業者とじかにコミュニケーションを取れず、規制庁の役人の言っていることだけで判断しているから、まさに裸の王様になっている。事業者は、原子力発電所を危険なものにするつもりなんて毛頭ないのに、規制委員は彼らと議論をしない。たとえば台湾では、規制する側と事業者が激しく議論したうえで、すごく改善しています。

「特別読物 原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて 第12弾 高速増殖炉『もんじゅ』と日本の核燃料サイクル」より

『週間新潮』2016年1月28日掲載

高速増殖炉「もんじゅ」維持費に年200億円は高いのか? 資源のない日本で考える〈原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて(1)〉 デイリー新潮 2016年6月13日

 トラブルが続く高速増殖炉「もんじゅ」。往年の「夢の原子炉」への期待がウソのように危険視されている。そこに原子力規制委員会の勧告。日本はもんじゅから手を引くべきなのか。正論を述べるがゆえに「御用学者」と誤解されることもある専門家が語り合った。

 ***

 福井県敦賀市の高速増殖炉「もんじゅ」。使った以上に燃料のプルトニウムが増殖する「夢の原子炉」のはずが、1995年12月8日のナトリウム漏洩事故以後、ほとんど動いていない。原子力規制委員会はついに、運営を日本原子力研究開発機構(JAEA)に代わる主体に委ねるよう、馳浩文科相に勧告した。核燃料サイクル戦略の中核が、存続が危ぶまれる事態に陥ったのだが、実際にもんじゅは危険なのか。核燃料サイクル戦略に未来はないのか。澤田哲生氏を進行役に、専門家たちが本音で議論した。

 ***

【澤田哲生/東京工業大学助教(原子核工学)】 最初に、もんじゅに期待されていた役割を整理しておきます。日本が原子力に突き進んでいった根源的動機は、資源小国だからです。戦後の復興は製造業の発展に支えられ、それには大量の電力が必要で、オイルショック後、原子力を有力なオプションとして選んだ。そんな中で、日本にたくさんある軽水炉と違い、使える燃料をさらに増やして有効活用できるのがもんじゅです。日本はそこにチャレンジし、世界のトップを走っていました。すでに1兆円以上が投じられ、今後も維持費が毎年200億円ほどかかると言いますが、それは高いのでしょうか。

【岡本孝司/東京大学大学院工学系研究科原子力専攻専攻長・教授】 日本には資源がないですが、核燃料サイクルをやると、もんじゅが鉱山になり、それをうまく使えば、日本は100年単位でエネルギーを心配しなくてすむ。今、原子力をやめて石炭とLNG(液化天然ガス)を焚いているので、燃料代が年間10兆円近くかかっていますが、その10%、20%でも、もんじゅ鉱山に置き換えられれば安いものです。20年前にナトリウム漏洩事故が起きなければ、今ごろもんじゅがプルトニウムを生産し、あと100年エネルギーの心配は要らない、という話になっていました。今は次の20年をどうするかを考えるべきです。

【澤田】 アメリカは昔からエナジー・インディペンデンス(自給化)を重要課題に掲げ、図らずもシェールガスが出たことで、向こう100年自給できることになった。日本も高速炉を核燃料の鉱山にできれば、自給率を上げられます。軽水炉は燃料の輸入が必要ですが、高速炉も使えば新たなエネルギー源を得られる。これは何ものにも代えがたい価値があると思います。

【高木直行/東京都市大学大学院共同原子力専攻 工学部原子力安全工学科原子力システム研究室教授】 ちょっと違った観点からお話しします。核分裂すると中性子が複数個出てきて、一つは臨界を維持してエネルギーを出し、発電するために使う。もう一つは、燃料でない物質に当てて燃料を作ることに使える。その際、スピードの速い中性子を使うので高速増殖炉と呼ぶんです。また最近、廃棄物の燃焼という価値も加わっている。高速炉には中性子が豊富にあり、臨界を維持しながら燃料を作れて、さらにゴミに中性子を当てて燃やすこともできる。もんじゅはそういう研究開発にも利用しましょう、という流れになっています。

【澤田】 高速炉1基で軽水炉数基分のゴミを焼却できる、というイメージですね。

【高木】 はい。ですからナトリウム漏洩事故を起こすまでは、電力会社も力を入れていました。発電と増殖を目的に安い高速炉を作ってやっていくんだと。

■中国とインドに抜かれた

【奈良林 直/北海道大学大学院工学研究院教授】 結局、ウランがなくなると軽水炉も成り立たない。そこで軽水炉が出すプルトニウムを回収し、それで高速炉を運転して、ウラン238をプルトニウム239に変えながら次の燃料サイクルに移行していく、というのが当初の目的でした。使っていないウラン238を有効活用し、人類2500年分のエネルギー供給を可能にするという壮大なプロジェクトです。ところが研究炉「もんじゅ」はナトリウム漏洩事故を起こし、なかなか動かせなくなった。10年にも金具が外れて中継装置が落ち、福島の事故でも基準が変って運転できずにいる。しかし、エネルギーをしっかり確保しようとする国は、高速炉を動かしています。

【高木】 中国はFBR(高速増殖炉)の試験炉を建設し終え、インドも出力50万キロワットのPFBR(高速原型炉)が臨界間近。ロシアではBN?800が先日、送電を開始しました。フランスはアストリッドという工業用実証のための改良型ナトリウム炉を開発、建設する計画に精力的です。

【岡本】 先日、中国の大学に行くと、オリジナルで設計した高速炉の模型があって、大洗のJAEAで勉強した中国人准教授が熱心に研究し、中国はエネルギー源が必要なので軽水炉だけでは足りないと話していました。今、中国のエネルギーのうち原子力の割合は1%以下ですが、毎年、東シナ海沿岸に4基、5基と作っている。それでも不十分だということで、高速ガス炉や高速増殖炉などを作ろうとしているんです。

【高木】 新型の増殖炉に関しては、中国とインドに抜かれそうですね。

【岡本】 もう抜かれています。

【高木】 ベンチャーの話もさせてください。アメリカはFBRから撤退しましたが、高速中性子を使う原子炉が必要だという認識は今もあって、再処理なしにウランを効率的にプルトニウムに変えて多くのエネルギーを得る、という概念のベンチャー研究は行われています。あのビル・ゲイツが筆頭オーナーの企業、テラパワーもそういう研究を行い、中国も関心を示しています。

【岡本】 もんじゅは、いったん燃料を取り出して再処理しますが、アメリカのは取り出さずに、そのまま燃やしちゃおうというもの。本当なら3%くらいしか燃えないのを、50%くらい燃やしちゃうんです。

「特別読物 原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて 第12弾 高速増殖炉『もんじゅ』と日本の核燃料サイクル」より

『週間新潮』2016年1月28日掲載

恩師に抱いた初めての疑問/『湯川博士、原爆投下を知っていたのですか:“最後の弟子”森一久の被爆と原子力人生』 [評者]山村杳樹(ライター) デイリー新潮 2016年6月13日

「森一久」という名前を聞いてピンとくる人は果たしてどれほどいるだろうか。氏は、政財官界にわたる広範な人脈を持ち“原子力村のドン”と呼ばれた人物。本書は、黒衣に徹しつつも黎明期から一貫して日本の原子力業界を見据えてきた森氏の生涯を描くドキュメンタリーである。

広島出身の氏は一九四四年に京大理学部に入学し、湯川秀樹博士に師事することになる。入学の翌年、偶々帰郷していた折に被爆、両親など五人の親族を失う。母を探し求めて(結局、見つけることはできなかった)爆心地をさまよい歩いた結果、原爆症で瀕死の状態に陥るが奇跡的に恢復。卒業後は湯川博士の奨めで中央公論社に入社、科学月刊誌「自然」の編集に携わった後、一九五六年に社団法人「日本原子力産業会議」を創設する。

ところが、七〇歳を過ぎた頃、気になる事実を知る。森氏と同郷で京大同期の人物が、一九四五年五月に担当教授から呼び出され、「広島に新型爆弾が落とされるから家族を疎開させろ」と告げられたが、その場に湯川博士が同席していたというのだ。

森氏は、なぜ湯川博士は自分にそのことを教えてくれなかったのかという疑問に苛まれる。被爆者である自分こそ原子力を監視する資格があると博士は考えたのか。氏は湯川博士を知る人々を訪ね歩くが、結局、疑問が解けることはなかった。

森氏の生涯を辿ることで本書は、日本の原子力村が、官僚化、劣化、無責任化してゆく過程を描き出す。森氏は、自分が関与する原子力界が、独善的で閉鎖的な組織へと変質していくことを危惧し、日本型システムの歪みが次々と表面化していく事態を「どこまでつづく、ぬかるみぞ」と記す。氏は、原発反対の論者とも交友を持った。氏にとっては、原子力に対する「畏れ」こそが、この世界に携わる者が立脚すべき原点だった。氏は福島原発の惨事を見ないまま二〇一〇年、八四歳で死去。本書の最後に置かれた夫人の言葉が胸を衝く。

凍らない凍土壁に原子力規制委がイライラを爆発「壁じゃなくて『すだれ』じゃないか!」 税金345億円は何のために 産経ニュース  2016年6月12日


「本当に壁になるのか?壁じゃなくて、“すだれ”のようなもの」
 「壁になっているというのをどうやって示すのか? あるはずの効果はどこにあるのか?」

 東京電力福島第1原発で汚染水を増やさないための「凍土遮水壁」が運用開始から2カ月たっても、想定通りの効果を示さない。廃炉作業を監視する原子力規制委員会は、6月2日に開かれた会合でイライラを爆発させた。

 凍らない部分の周辺にセメント系の材料を入れるという東電の提案に対しても、規制委側は「さっさとやるしかない」とあきれ果てた様子。約345億円の税金を投じた凍土壁の行方はどうなってしまうのか。

 会合は、冒頭からピリピリと緊迫した空気が漂っていた。

 東電の担当者は2分間程度の動画を用意していた。凍土壁が凍っている証拠を視覚的にアピールするため、地中の温度の変化を動画でまとめていたのだ。

 ところが、規制委の更田豊志委員長代理は「温度を見せられても意味がない。凍らせてるんだから、温度が下がるのは当たり前。動画とか、やめてください」とバッサリ。東電の担当者は遮られたことに驚いた様子で、「あ、はい、分かりました。はい。それでは…」と次に進むしかなかった。
セメント注入、それでも「凍土壁」か?

 規制委側から質問が集中したのは、最初に凍結を始めた海側(東側)の凍土壁の効果だ。

 地中の温度は9割以上で氷点下まで下がったが、4カ所で7・5度以上のままだった。さらに、壁ができていれば減るはずの海側の地盤からの地下水のくみ上げ量が、凍結の前後で変わっていないことも判明した。

 更田氏は「『壁』と呼んでいるけれども、これは最終的に壁になるのか。壁じゃなくて『すだれ』のようなもので、ちょろちょろと水が通るような状態」と指摘した。

地下水のくみ上げ量も減っていないことについて、「あんまりいじわるなことは聞きたくないが、これは当てが外れたのか、予想通りだったのか」と東電の担当者を問いただした。

 セメント系の材料を注入し、水を流れにくくする追加工事が東電から提案があったものの、これではもはや「凍土壁」ではなくなってしまい、仮に水が止まっても凍土壁の効果かどうかは分からなくなる。

 検討会はこの日、追加工事に加えて、凍土壁の凍結範囲を拡大し、海側に加えて山側も95%まで凍結する計画も了承した。だがそれは、凍土壁の効果や有用性を認めたというわけではない。「安全上の大きな問題はなさそう」だから、どうせ温度を下げるなら、早いほうがいいという合理的な判断だ。

遠い「完全凍結」 根強い不要説
 最も注目すべきなのは、更田氏がこの日、山側もすべて凍らせる「完全凍結」について、「今のままでは、いつまでたっても最終的なゴーサインが出せない」と大きな懸念を示したことだ。

 規制委は当初から、凍土壁にはあまり期待していなかった。むしろその費用対効果などをめぐり「不要説」が出るなど、懐疑的な立場をとっていた。それでも計画を了承したのは、最も大きなハードルだった「安全性」を東電が担保すると約束したからだ。

 凍土壁のリスクは、完全凍結の状態で発生する。予想を上回る遮水効果が発現し、建屋周辺の地下水が急激に低下した場合、建屋内の汚染水と水位が逆転して汚染水が環境中に漏れ出す危険がある。

 このため、東電は地下水の流れで下流側にあたる海側の凍土壁から段階的に凍結させ、水位の低下を防ぐ計画だったが、仮に海側の壁が「すだれ」の状態のまま上流の山側を完全凍結すれば、水位がどんどん下がっていく可能性がある。

東電は計画で、山側を完全凍結して遮水効果が80%以上になった場合、水位逆転の危険を回避するためいったん凍結をやめるとしているが、この「80%」を正確に判断するすべがないというのが現状だ。

 「凍土壁の遮水性を示せない限り、このまま膠着状態になる可能性がある」。更田氏は、はっきりとそう指摘している。

 安全上のリスクを抱え、膨大な国費をかけながら、なぜ凍土壁を推進しなくてはならなかったのか。仮に失敗した場合、どこが責任を取るのか。今後も目が離せない状況に変わりない。(原子力取材班)

《用語解説》凍土遮水壁 凍土壁は、1~4号機の建屋周辺の土壌を取り囲むように長さ約30メートルの凍結管を埋め込み、マイナス30度の冷媒を循環させて地下に総延長約1500メートルの氷の壁をつくる工法。この巨大な「壁」で建屋に流れ込む地下水をせき止め、汚染水の発生そのものを抑えるのが狙い。

凍らない凍土壁に原子力規制委がイライラを爆発「壁じゃなくて『すだれ』じゃないか!」 税金345億円は何のために 産経ニュース  2016年6月12日


「本当に壁になるのか?壁じゃなくて、“すだれ”のようなもの」
 「壁になっているというのをどうやって示すのか? あるはずの効果はどこにあるのか?」

 東京電力福島第1原発で汚染水を増やさないための「凍土遮水壁」が運用開始から2カ月たっても、想定通りの効果を示さない。廃炉作業を監視する原子力規制委員会は、6月2日に開かれた会合でイライラを爆発させた。

 凍らない部分の周辺にセメント系の材料を入れるという東電の提案に対しても、規制委側は「さっさとやるしかない」とあきれ果てた様子。約345億円の税金を投じた凍土壁の行方はどうなってしまうのか。

 会合は、冒頭からピリピリと緊迫した空気が漂っていた。

 東電の担当者は2分間程度の動画を用意していた。凍土壁が凍っている証拠を視覚的にアピールするため、地中の温度の変化を動画でまとめていたのだ。

 ところが、規制委の更田豊志委員長代理は「温度を見せられても意味がない。凍らせてるんだから、温度が下がるのは当たり前。動画とか、やめてください」とバッサリ。東電の担当者は遮られたことに驚いた様子で、「あ、はい、分かりました。はい。それでは…」と次に進むしかなかった。
セメント注入、それでも「凍土壁」か?

 規制委側から質問が集中したのは、最初に凍結を始めた海側(東側)の凍土壁の効果だ。

 地中の温度は9割以上で氷点下まで下がったが、4カ所で7・5度以上のままだった。さらに、壁ができていれば減るはずの海側の地盤からの地下水のくみ上げ量が、凍結の前後で変わっていないことも判明した。

 更田氏は「『壁』と呼んでいるけれども、これは最終的に壁になるのか。壁じゃなくて『すだれ』のようなもので、ちょろちょろと水が通るような状態」と指摘した。

地下水のくみ上げ量も減っていないことについて、「あんまりいじわるなことは聞きたくないが、これは当てが外れたのか、予想通りだったのか」と東電の担当者を問いただした。

 セメント系の材料を注入し、水を流れにくくする追加工事が東電から提案があったものの、これではもはや「凍土壁」ではなくなってしまい、仮に水が止まっても凍土壁の効果かどうかは分からなくなる。

 検討会はこの日、追加工事に加えて、凍土壁の凍結範囲を拡大し、海側に加えて山側も95%まで凍結する計画も了承した。だがそれは、凍土壁の効果や有用性を認めたというわけではない。「安全上の大きな問題はなさそう」だから、どうせ温度を下げるなら、早いほうがいいという合理的な判断だ。

遠い「完全凍結」 根強い不要説
 最も注目すべきなのは、更田氏がこの日、山側もすべて凍らせる「完全凍結」について、「今のままでは、いつまでたっても最終的なゴーサインが出せない」と大きな懸念を示したことだ。

 規制委は当初から、凍土壁にはあまり期待していなかった。むしろその費用対効果などをめぐり「不要説」が出るなど、懐疑的な立場をとっていた。それでも計画を了承したのは、最も大きなハードルだった「安全性」を東電が担保すると約束したからだ。

 凍土壁のリスクは、完全凍結の状態で発生する。予想を上回る遮水効果が発現し、建屋周辺の地下水が急激に低下した場合、建屋内の汚染水と水位が逆転して汚染水が環境中に漏れ出す危険がある。

 このため、東電は地下水の流れで下流側にあたる海側の凍土壁から段階的に凍結させ、水位の低下を防ぐ計画だったが、仮に海側の壁が「すだれ」の状態のまま上流の山側を完全凍結すれば、水位がどんどん下がっていく可能性がある。

東電は計画で、山側を完全凍結して遮水効果が80%以上になった場合、水位逆転の危険を回避するためいったん凍結をやめるとしているが、この「80%」を正確に判断するすべがないというのが現状だ。

 「凍土壁の遮水性を示せない限り、このまま膠着状態になる可能性がある」。更田氏は、はっきりとそう指摘している。

 安全上のリスクを抱え、膨大な国費をかけながら、なぜ凍土壁を推進しなくてはならなかったのか。仮に失敗した場合、どこが責任を取るのか。今後も目が離せない状況に変わりない。(原子力取材班)

《用語解説》凍土遮水壁 凍土壁は、1~4号機の建屋周辺の土壌を取り囲むように長さ約30メートルの凍結管を埋め込み、マイナス30度の冷媒を循環させて地下に総延長約1500メートルの氷の壁をつくる工法。この巨大な「壁」で建屋に流れ込む地下水をせき止め、汚染水の発生そのものを抑えるのが狙い。

玄海原発の再稼働反対9万人署名 佐賀の市民団体、知事に提出 東京新聞 2016年06月10日

脱原発を訴える佐賀県内の市民団体は十日、九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)の再稼働に同意しないよう求める約九万人分の署名を山口祥義(よしのり)知事に提出した。直接受け取った山口知事は、署名が県外からも多く寄せられたことを受け「佐賀だけの問題ではなく、福岡や長崎とも関係する。そういう意識を持って(再稼働の是非を)考えていきたい」と述べた。

 署名は今年一月から、県内八団体で作る「脱原発佐賀ネットワーク」が全国で集めた。市民団体は「原発を不十分な規制基準で運転すれば、また東京電力福島第一原発事故のような惨事が繰り返される」と訴え、県と住民との公開討論の場を設けるよう要望した。

 玄海原発は1号機の廃炉が決まり、3、4号機は再稼働に向けた審査が進んでいる。山口知事は再稼働について、幅広い意見を聴いた上で判断するとしている。

「川内原発の許可取り消しを」 鹿児島住民らが提訴 東京新聞 2016年06月10日

九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の許可は不当だとして、提訴の準備を進めていた住民らの弁護団は十日、許可取り消しを求める訴状を福岡地裁に郵送した。原告は鹿児島や熊本、福岡など十都県の住民三十三人。

 二〇一一年の東京電力福島第一原発事故以降、新規制基準に基づく原子炉設置許可の取り消しを求める訴訟は初。原告側は、川内原発は世界で最も火山のリスクが高い原発と主張。「火山の影響を審査する基準が不合理で、判断過程に多くのミスがある」としている。

 規制委は一四年九月、新規制基準への適合を認め、九電の原子炉設置変更申請を許可。再稼働に反対する住民らは同十一月、行政不服審査法に基づき規制委に異議を申し立て、規制委は一五年十二月にこれを棄却した。

 当初は棄却決定の取り消しを求める方針だったが、「許可自体の問題点を問う裁判にすべきだ」として許可取り消しに切り替えた。

 川内原発を巡っては、一四年五月、住民らが再稼働差し止めの仮処分を申し立てたが鹿児島地裁は却下。福岡高裁宮崎支部も今年四月、住民側の即時抗告を棄却した。十日、都内で記者会見した海渡雄一弁護士は「仮処分申請を退けた高裁宮崎支部も、噴火で原子力災害が起きれば被害は深刻だと認めた。こうした事実認定を基に勝訴を取りたい」と話した。

 規制委は「訴状を受け取っていないため、コメントは控えたい」としている。

原発の巨大市場争奪へ 米WHがインドに建設 日本経済新聞 2016年06月09日


【ニューデリー=黒沼勇史】オバマ米大統領とインドのモディ首相は7日の首脳会談で、東芝傘下の米ウエスチングハウス(WH)がインドに原子力発電所を建設することに合意した。経済成長で電力不足が深刻なインドは、原発を今後の電源開発の主軸に位置付けている。原発を国産化してきたインドが市場開放を進めることで、フランスや日本などを加えた市場争奪戦が激しくなる。

 訪米中のモディ氏とオバマ氏は共同声明に「2017年6月までにWHと印原子力発電公社が契約を完了させることを歓迎する」と明記。原子炉設計や立地選定は「すぐに始める」とした。

 WHは30年までに原発6基を新設する。発電能力は計600万キロワット。総事業費は非公表だが、200億ドル(約2兆1千億円)規模とみられる。

 印市場に熱い視線を送るのは米だけではない。フランスは16年初めに「印西部で17年に開発計画に着手する」と合意。正式契約はまだだが、西側諸国として約40年ぶりの原発納入を米と競う。日本も15年末に原子力協定締結に原則合意し、将来の輸出を視野に入れる。

 インドでは現在、原発21基が稼働する。発電能力578万キロワットは世界14位だが、目を引くのは今後の拡大計画だ。32年までに約40基を追加し、発電能力を10倍超に引き上げる方針。国際エネルギー機関(IEA)によると40年までの原発の新増設規模は中国に次ぐ。

 11年の東京電力福島第1原発事故を受け、先進国の原発需要は頭打ち。今後の主戦場は新興国でインドはその中心だ。

 インドは発電量の7割を二酸化炭素(CO2)排出量の多い石炭火力に頼る。政府は2%にとどまる原発比率を大幅に引き上げ、発電能力増強とCO2排出量の抑制を両立させる青写真を描く。

 ただ従来は国産原発しか選択肢がなかった。1974年、核拡散防止条約(NPT)に非加盟のまま核実験を強行し、世界の原発市場から閉め出されたためで、かつて導入した米製技術を元に国産化した。74年以降に納入された外国製原発はロシアの2基で、うち1基が稼働しているだけだ。

 原子力供給国グループ(NSG)が08年、核技術や燃料の対印供給を解禁したため、米仏両国は同年にインドと原子力協定に調印。高効率な輸入原発導入に道が開けた。

 インドは10年に事故時の賠償責任をメーカーにも負わせるとした国内法を施行、外資との商談は一時滞った。このほど賠償を一定額まで自国が負担し、それ以上は締約国が分担拠出する国際ルールを批准。外資のリスク懸念の払拭に努めるが、対外条約と矛盾する国内法の改正に課題が残る。

米原子力専門家、日本の原発は再稼動する オピニオン 2016年06月08日

原子力エネルギーは今後発展するものの、現在それは苦しい時代に直面している。先日、モスクワで開催された「アトムエキスポ」フォーラムでこうした評価がもらされた。

原子力エネルギーの人気が落ち込んだ最大の理由について、TENEM(ロシアの原子力企業「ロスアトム」の対外貿易会社「テフスナブエクスポルト」が米国におく子会社)のフレッチャー・ニュートン社長は、5年前に起きた福島第1原発事故がその一因として次のように語っている。

「この事故は計り知れない意味を持った。日本は直ちにウランの使用およびウラン濃縮作業への支払を一時停止した。現在、世界ではウランが非常に余っている。福島の事故までのウランの価格は1ポンド(0.453 592 37 kg)あたり73ドルだったが、現在それは28ドルにまで下がっている。ウラン濃縮作業代もSWUあたり128ドルだったのが今や60ドルだ。これは多大な打撃だ。なぜなら燃料の全ての材料の需要が減ったからだ。こうした現象が起きたのは日本に限らない。ドイツでもベルギー、スイスでも同じで、米国でさえ過去5年ですでに5基の原子炉が閉鎖された。なんでドイツで津波に襲われないようにという理由で原発を稼動停止する必要があったのか理解に苦しむ。私の見解ではこうした反応は正しくないのだが、実際には我々全員がこれに直面してしまったのだ。」
スプートニク:日本の原子力産業は将来どうなるだろうか?

ニュートン氏:「福島の事件は5年前におきた。日本政府が全ての原子炉を稼動停止するなど誰も予期しなかった。だが日本人はまさにそうしたのだ。その決定を他の者たちは、(まぁ、仕方ない。それでも1年か2年たてば、徐々に全部の原子炉を再稼動するだろう)と考えた。これだけ長期に渡って全部の原子炉が閉鎖状態になることなど誰も考えもしなかった。現在日本で稼動しているのはわずが2基。福島の事故前までは53基が稼動し、電力の約30%を生産していたのだ。1月から2月にかけて2基が再稼動されたが、すぐに稼動は停止された。なぜなら地元民が裁判所に訴えたからだ。この先再稼動計画のある数箇所の原子炉に対してもすでに裁判プロセスが準備されている。だからこの先何が起きるかを口に出来る人は誰もいないと思う。

日本はエネルギー依存の観点から原発なしには立ち行かない反面、すでに5年もそれなしでやってきた事実がある。これがどこに行き着くのかは正直いって分からない。私からすれば、これはあまりに大きな誤りであり、欠如だ。日本政府内には市民に対し、『確かにこれは深刻な事故でしたが、これには感情的ではなく科学的に対処する必要があります』と正面切って言える人が誰もいない。日本が原発なしの営みを長く続ければ続けるほど、市民は全部廃炉にしてしまえと思うだろう。ただし私はそうはならないと思う。日本は最終的には原発を再稼動すると思う。ただそれがいつ、何基になるかはわからない。」

原発立地・周辺への交付金 京都府内で対象拡大を 京都新聞 2016年06月08日


京都府は8日、原子力発電所の立地、周辺自治体に配分される「原発交付金」について、対象範囲を拡大し、府内の交付先を増やすよう求めた。府内では高浜原発(福井県)5キロ圏内に舞鶴市の一部が含まれ、30キロ圏内に12万8千人が居住しており、「福井県と同様の避難行動が必要」との理由からだ。範囲が広がれば現行の交付自治体の収入が減る可能性があり、反発も予想される。

 府は従来も原発事故に備えた財源充実を求めているが、来年度の政府予算編成に向けた提案で初めて具体的に交付金を求めた。

 範囲拡大を要望する交付金は2種類。そのうち原発周辺地域交付金は原発の立地自治体と、隣接自治体に電気契約数などを元に配分されている。府内でも高浜町、大飯原発のおおい町に隣接する舞鶴市と綾部市に毎年各2億円が交付。府は30キロ圏内の宮津市や福知山市など他の6市町でも防災対策が必要だとして、拡大を求めた。

 立地道県に対象が限られている原発立地地域特別交付金も、即時避難が必要な高浜原発5キロ圏内に舞鶴市が含まれていることを踏まえ、府も交付先に加えるよう要求した。

 2014年度決算で、福井県内の自治体が受け取った両交付金の総額は約64億円で、府内とは16倍の開きがあり、他の原発関連交付金を加えればさらに差は広がる。府原子力防災課は「高浜で事故が起これば福井と京都の影響に差はない。避難道路を確保する財源に使いたい」という。

 しかし、交付金の財源は電気料金にかかる税金で、総額には限りがある。対象が広がれば、1団体当たりの交付額が減る可能性が出てくる。また所管する経済産業省は交付金を「地域振興」と位置付けており、府の主張する「防災」の目的は否定している。

 山田啓二知事は「原発事故以降、現実として避難が突きつけられている。避難路確保が目的であり、福井県の広域避難にも役立つはずだ」と述べている。

世界のトヨタを上回る2兆4千億円。原発再稼働の流れに沿って息を吹き返す「原発広告」の特殊すぎる実態 本間龍(ほんま・りゅう) 週プレNEWS 2016年6月7日

世界有数の地震大国である日本がなぜ54基もの原子力発電所を抱える原発大国となり、多くの日本人が40年以上も「原発の安全神話」を信じ続けてきたのか?

電力会社を中心とした「原子力ムラ」と大手広告代理店が一体となり、巨額の広告費を通じて「安全神話」の刷り込みやメディアの「支配」を続けてきた実態を、広告業界出身の本間龍(ほんま・りゅう)氏が著書『原発プロパガンダ』で明らかにする。

―本間さんは過去にも「原発と広告」に関する著作を出されていますが、今回、あらためてこの本を書かれたのはなぜか?

本間 最大の動機は去年の夏頃から、原発再稼働の動きに合わせるように、3・11後に姿を消したはずの「原発広告」が再び復活し始めたことだ。

そうした動きは一部の原発立地県で話題になりますが、電力の最大の消費地である東京圏など大都市ではほとんど注目を集めない。また、「原発」と「広告」の結びつきが、原発推進のための世論操作にいかに影響を与えてきたのか、その実態をより広い層の人たちに知ってほしいと思い、手軽に手にとれる新書という形でまとめた。

―まず驚かされるのが、電力各社と政府が費やしてきた「原発関連広告費」の巨大さだ。

本間 いわゆる電力9社(原発がない沖縄電力を除く)が過去約40年で原発推進のために使った「普及開発関係費」と呼ぶ広告宣伝費の総額は、約2兆4千億円といわれている。これを1年当たりに換算すると約600億円。例えば、トヨタのようなグローバル企業ですら、国内単体の広告費は年間500億円程度といわれているから、それを上回る額だ。

また、これに加えて電力10社が運営する電気事業連合会(電事連)、さらに経産省や環境省などによる原発関連広告がある。これらの総額は、前述した2兆4千億円の数倍になると考えていい。原発広告は広告業界にとって重要なお得意さまなのだ。

―本来、商品の宣伝などいらないはずの電力会社が、なぜ原発のためにこれほど巨額の宣伝広告費を費やすのか?

本間 一般の企業は普通、自社の製品やサービスを消費者に買ってほしくて広告費を投じる。その前提として同業他社の「ライバル」がいるから、お金を使って広告宣伝を打つ必要があるのだ。

しかし、電力会社はこれまで地域ごとの独占状態だったから基本的に競争はない。それにもかかわらず、これほど多くのお金を原発の必要性や安全性を訴える「意見広告」などにつぎ込んできた理由は非常に単純で、彼らがどうしても原発をやめたくなかったからだ。

価格変動の大きい石油などに頼る火力発電と違い、少量のウランで大きなエネルギーを生む原発は「儲(もう)かる」という考え方が電力業界では一般的だった。また、原子力産業は「原子力ムラ」と呼ばれるように、発電所の建設から運用・維持管理まで関連業界の広い裾野があり、国や業界が一体となって、この構造を絶対に維持したかった。

東京電力の広告費が、1979年にアメリカで起きたスリーマイル島原発事故後に年間50億円を突破し、1986年のチェルノブイリ原発事故後、数年で年間200億の大台を超えるなど、大きな原発事故の直後に必ず原発関連広告が増加しているのは、それらの事故によって「反原発」の世論が高まるのをなんとしても抑え込む必要があったからだと思う。

―それにしても、トヨタのような大企業を上回るほどの広告費というのは驚きだ。

本間 それを可能にしたのが、電力会社が広告宣伝費などの「経費」も原価として電力料金を決められる、「総括原価方式」と呼ばれる仕組みだ。

一般の企業なら、広告宣伝費に費やしたコストはその企業の商品やサービスの「利益率」や「価格競争力」に影響するが、事実上の独占企業である電力会社には競争がないので広告宣伝費は遠慮なく電気料金に上乗せできる。そのため広告費が湯水のように使えるのだ。

―もうひとつ、この本の中で本間さんが指摘しているのが、電通、博報堂など一部の大手広告代理店による「広告の寡占状態」がもたらす弊害だ。

本間 日本の広告業界は国際的に見ても極めて特殊で、電通や博報堂といった大手数社の寡占状態にあるため、代理店がメディアに対して非常に大きな影響力を持っている。

特に「原発広告」に関する電通の存在感は圧倒的で、巨大クライアントである原子力ムラと電通が巨額の「原発関連広告宣伝費」を媒介に結びついた構造が、長年にわたってメディアに多大な影響を与えてきた。

そうした傾向が特に顕著になったのが90年代のいわゆるバブル崩壊以降だ。多くの企業が広告費を縮小せざるをえない中で、ふんだんに広告宣伝費が使える「原発広告」の占める位置は相対的に大きくなった。

原発に批判的な記事に対して、直接的な圧力がかかることはなくとも「こんな記事を載せると電力業界からの広告がなくなるかもしれませんよ」と耳元で囁(ささや)かれれば、あるいはそうした影響を想像するだけでも、普段から広告収入の確保に苦心しているメディアの広告営業担当をビビらせるには十分だ。

こうして巨額の広告宣伝費は国民や原発立地自治体に「安全神話」を刷り込むだけでなく、「反原発」を訴えるメディアを間接的に封じ込める機能も担ってきたというわけだ。

―そんな原発広告が3・11後の今、どんな形で復活しているのだろうか?

本間 2013年3月、六ヶ所村の核燃料再処理施設を抱える青森県の『東奥(とうおう)日報』という地方紙に、日本原燃と電気事業連合会(電事連)が30段の意見広告を載せたのが最初だった。

その後、2014年に『週刊新潮』が芸能人、文化人を起用した広告連載企画を掲載。特に昨年の夏頃からは原発立地県の地方紙を中心に続々と原発広告が復活し、東電も新潟でのTVCMを再開している。

こうした動きが「原発再稼働」の流れに沿ったものであることは明らかだし、この先、「電力自由化」を口実に再び巨大な広告マネーがメディアに流し込まれる可能性もある。電力料金を支払う我々は、こうした実態を知っておく必要があると思う。

(インタビュー・文/川喜田 研 撮影/岡倉禎志)

本間龍『原発プロパガンダ』 岩波新書 ☞ 原発プロパガンダ 

ドイツ、脱原発から5年 再生エネ拡大 総電力の3割に 佐賀新聞 2016年06月06日


■送電網整備が課題
 ドイツのメルケル政権が2011年の東京電力福島第1原発事故を受け、22年までの脱原発を閣議決定してから6日で5年。代替として期待される再生可能エネルギーは15年に総電力の3割に達するなど普及は順調だが、風力発電が発達した北部沿岸と南部の工業地帯をつなぐ送電インフラの整備が課題だ。

 「送電網整備と再生可能エネルギー拡大を連動させなければならない」。メルケル首相は1日の記者会見で、陸上の風力発電の新設を19年から年間2800メガワット、大規模な太陽光発電を600メガワットに制限する考えを示した。

 ドイツは11年に原子炉全17基の22年末までの稼働停止を決め、現在は8基が稼働中。電力消費に占める再生可能エネルギーの割合を25年までに40~45%に引き上げる目標に着実に近づく一方、このままの勢いで伸び続ければインフラが追い付かなくなる恐れがある。

 しかし、最も重要視される北部ウィルスターと南部グラーフェンラインフェルトを結ぶ送電線約800キロは完成のめどが立っていない。近所に高圧電線が整備されることに地元住民が反発、電線の地中埋設が必要となり、建設計画の練り直しを迫られている。

 再生可能エネルギーの割合が高まると、電線への負荷は大きくなる。風や日差しの強い時間帯は発電量が電線の許容量を超えることが多く、停電防止のため火力発電所などの出力を低下させる。再生可能エネルギーが少ない時間帯は出力を上げる必要がある。

 DPA通信は送電各社の情報として、15年はこうした対応に総額で10億ユーロ(約1210億円)超かかったと伝えた。メルケル氏の記者会見に同席したガブリエル経済・エネルギー相は「将来的なコスト増大を防がなければならない」と指摘。大量に発電した再生可能エネルギーを「消費者に届けられない事態は避けたい」と強調した。(ベルリン共同=桜山崇)

<チェルノブイリ原発事故>国が健康調査公表せず 毎日新聞 2016年6月4日


1986年に旧ソ連で起きたチェルノブイリ原発事故の健康影響について、日本政府が東京電力福島第1原発事故後の2012~13年に5000万円をかけて調査しながら報告書を公表していないことが分かった。調査報告書は、国際機関の認定より深刻な健康被害があるとした現地文献を否定する内容だが、情報公開の専門家は「原発を巡る議論は多様で、意見は大きく分かれている。公費を使う以上、批判的な面からも検証する材料として公表すべきだ」と指摘している。【日野行介】

 この調査報告書は「チェルノブイリ事故の健康影響に関する調査報告書」。民主党政権末期の12年11月に文部科学省の予算で着手し、自民党の政権復帰後の13年3月にまとまった。電力各社も出資する東京都内のコンサルタント会社が調査を担い、結果を評価する委員会の委員長には放射線影響研究所元理事長の長滝重信・長崎大名誉教授が就任。現地文献の「ウクライナ25周年国家報告書」と「ヤブロコフ報告書」の二つを主に調査・評価した。

 ウクライナ報告書は同国の非常事態省が11年に作成し、事故処理作業員のうち健康な人の割合が88年の67.6%から08年には5.4%まで低下したなどと指摘。ヤブロコフ報告書は現地の研究者らが09年にまとめ、事故後の継続的な被ばくによりがんのほか心臓や血管などの病気が引き起こされたとして、事故の影響を受けた86年4月~04年末の死者数を計98万5000人と推計するなどしている。

 両文献は原発事故による健康被害を国際機関より深刻に捉え、福島原発事故後に国内メディアで広く報じられて関心が高まった。評価委員会は血液・リンパ系の疾患など計124カ所の指摘について、被ばくと健康被害を関連付ける放射線量の評価がされているかを中心に分析。現地調査も行い検討した結果、「被ばく線量との関係を科学的な根拠で判定できるものは確認できない」と否定的な結論を示した。その後、調査の事務方だった文科省の担当課が13年4月に原子力規制庁に移管され、調査報告書は公表されないまま、規制庁から環境省を通じて国会図書館に納本された。

 長滝氏は「文科省に届けたら担当部署が規制庁に移ってしまい、どうなったか分からなくなった。人づてに国会図書館へ納めたと聞き、ふに落ちない感じだったが、僕らが『発表しろ』というのも筋違いかなと思った」と取材に回答。政府関係者は「民主党政権時に決まった調査で予算を消化しなければならなかった。政権も交代し積極的に公表する意図はなかった」と話した。一方、別の政府関係者は「福島の人を不安がらせないようにする面もあった。風評被害対策もあった」と述べ、当初から両文献に対する否定的な観点で調査したことを示唆した。

 ◇行政の責任回避

 原発事故に関する公文書を収集・整理しているNPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長の話 原発を巡っては国民の意見が大きく分かれており、官僚にすれば、公表して議論を呼び起こせば手間がかかる。国会図書館への納本は公開情報として誰もが利用できる状態にあるとしたかったのだろうが、特定して探さないとなかなか見つからないし、行政の責任から逃げている。

 国際原子力機関などの国際機関は、事故後の小児甲状腺がんや作業員の白血病・白内障の増加を被ばくによる健康被害と認め、被ばくによる死者を4000人と2005年9月に推計。しかし、調査に携わった組織や団体が9000人や1万6000人といった新たな推計を報告し、評価は定まっていない。

チェルノブイリ事故 国が健康調査公表せずに国会図書館に納本 フジテレビ系(FNN) 2016年6月4日


調査結果を公表していなかった。
1986年に起きた、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故の作業員や住民などの、健康への影響について、政府は、福島第1原発事故が起きたあとに調べた。

報告書では主に、現地の2つの文献について評価していて、文献は、ともに原発事故による健康被害を国際機関より深刻にとらえたものだったが、検討した結果、「被ばく線量との関係を、科学的な根拠で判定
できるものは、確認できない」と否定的な結論を示している。

しかし、調査報告書は公表されないまま、国会図書館に納本されていることがわかり、政府の対応には疑問が残る形となった。

<米国>原発離れが加速 「シェール革命」で押され…  毎日新聞   2016年6月3日


◇建設構想、半数は頓挫

 【ワシントン清水憲司】米国の電力業界で、原子力離れの動きが続いている。電力大手エクセロンは2日、赤字に陥った原子力発電所を閉鎖し、原子炉3基を廃炉にすると発表した。「シェール革命」で安価になったガス火力発電や再生可能エネルギーに価格面で押されているためで、米原子力業界によると、政府支援の強化がなければ今後10年以内に15~20基が廃炉になる可能性があるという。

 エクセロンは、いずれも中西部イリノイ州にあるクリントン原発の原子炉1基を2017年6月に、クアド・シティーズ原発の2基を18年6月に廃炉にする。ともに運転認可が切れるまで10年以上を残しており、老朽化ではなく、政府支援で最近10年で発電能力が1・4倍に増えた風力など再生可能エネルギーや安価になったガス火力との競争が激しくなったことが原因だ。クレイン最高経営責任者(CEO)は「6年間で8億ドル(約880億円)の損失を出した。利益を上げる道筋が見いだせない」として、州政府に助成を求めていたが、実現の見通しが立たなかった。13年以降、米国内での原発の廃炉・廃炉計画は9原発の計10基となった。

 米国では、今夏、テネシー渓谷開発公社(TVA)が国内20年ぶりとなる新設原発の運転開始を予定している。また、米南部のジョージア州とサウスカロライナ州では、東芝子会社の原子炉メーカー、ウェスチングハウスの最新鋭原子炉「AP1000」を設置するボーグル原発3、4号機、サマー原発2、3号機が建設中だ。ただ、「原子力ルネサンス」と呼ばれ、地球温暖化対策の必要性から原発の復権が唱えられた約10年前に10基以上あった建設構想は、そのうち半数が計画段階で頓挫している。

 「長期的には原発は明るい未来がある。しかし、今後5~10年間で15~20基が廃炉になるリスクがある」。米原子力エネルギー協会のファーテル理事長は5月、ワシントンでの講演で訴えた。原発の廃炉に歯止めをかけるため、温暖化対策の柱に原発を位置づけ、従来の債務保証に加え、補助金や優遇税制など再生可能エネルギーと同等の支援を求めている。ただ、米原子力規制委員会(NRC)のヤツコ前委員長は「政府支援が必要ということは、米国では原発にあまり将来性がないことを示唆している」とみている。

10年後、エネルギーの主役が代わる? Wedge 2016年 年5月30日


大転換はどのようにして起きるのか?  「主に石炭や石油で動く経済から、太陽や風を動力源とする経済へと私たちを導く転換」が次の10年間に起こるだろう、と予測するのが、本書である。

 著者は、長らくワールド・ウォッチ研究所長を務め、2001年からは非営利研究機関アースポリシー研究所を率いるレスター・ブラウン。筋金入りの”環境派”の視点として読む必要はあるが、それでもなお、「大転換」が起こりつつある事実に目を見開かされる。

 「視点はグローバルなものであるが、『世界のエネルギー経済に関する包括的な調査』を意図したものではない」と、序文にもあるとおり、原子力をはじめ、エネルギー効率やスマート・グリッド、省エネルギー、燃料電池といったテーマについては、表面的な記述にとどまる。第4章「衰退する原子力」では事実誤認と思われる記述もある。

 とはいえ、本書の目的は「この大転換がどのように展開しはじめているかを描くこと」であり、その試みは成功している。

シェール革命も応急処置
 「注目」の技術の一つで、「エネルギー革命の創造主」と称賛される水圧破砕法でさえ、本書では「短期的な応急処置」と斬られている。

 シェール岩層に閉じ込められている石油や天然ガスを取り出す水平掘削や水圧破砕法の利用が急拡大したことで、米国の天然ガス生産量は増加に転じた。いわゆる「シェール革命」である。

 ところが、「クリーンエネルギー経済への橋渡し的燃料」といわれてきた天然ガスも、「その輝きを失いつつある」と、著者はいう。

 〈エネルギー生産時、天然ガスの燃焼で排出されるCO2は石炭燃焼の場合のわずか半分である。だが、ガス田やパイプライン、タンクから、温室効果がCO2よりもはるかに高いメタンが大量に漏出する場合が多いことから、実は、天然ガスは気候に対してより大きな悪影響を与える可能性があることが、最近の研究によって明らかになっている。〉

 「よりクリーンな、枯渇しないエネルギー源を選んで、化石資源から離れていく動き」が、石油、石炭、原子力の衰退に続いて、ソーラー、風力、地熱、水力発電の順で、さまざまなデータや発言を連ねながらあぶりだされる。

 とりわけ、石炭、石油、天然ガスの多くが「座礁資産」と呼ばれるものになるだろう、という予測には、戦慄を覚えた。

受け皿見当たらず、「もんじゅ」廃炉の危機 岡田 広行 東洋経済オンライン   2016年5月30日

MOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料の使用により、発電で消費したプルトニウム燃料よりも多くの燃料を作り出す“夢の原子炉”の実用化を目指して建設された、高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)。1980年代から、1兆円以上もの国費を投じて進められてきた巨大プロジェクトが、存亡の瀬戸際にある。

 原子力規制委員会は2015年11月13日、もんじゅを運営する日本原子力研究開発機構(以下、「機構」)による安全管理体制に問題があることを理由に、運営主体の変更を求める勧告を、もんじゅを所管する文部科学相宛てに出した。勧告は新たな運営主体を特定できない場合には、安全上のリスクを明確に減少させるべく、発電用原子炉としてのもんじゅのあり方を抜本的に見直すように求めた。

 これは事実上の「失格宣言」にほかならない。廃炉が現実味を増してきた。

■ 電力会社、経産省も距離を置く

 もんじゅでは20年間にわたり、事故や法令違反が繰り返されてきた。95年12月、ナトリウム漏洩事故を起こして以来、15年近く運転を中止。10年5月に試運転を再開したものの、同8月には炉内中継装置の落下事故を起こし、再び運転中止に追い込まれた。

 さらに東京電力福島第一原子力発電所の事故後は、規制当局によるチェック体制が強化される中で、おびただしい数の機器の点検期限超過や重要度分類の誤りが判明。田中俊一・規制委委員長も安全管理上の理由から、「機構に(運転を)安心して任せることはできない」と言い切っている。

 規制委の勧告を踏まえて文部科学省が立ち上げたのが、有識者による「『もんじゅ』の在り方に関する検討会」(有馬朗人座長)だ。同検討会は5月27日の報告書で、規制委が求めた新たな運営主体の特定には至らず、「運営主体が備えるべき要件」を記述するにとどまったようだ。

 今後、具体的な受け皿探しは文科省の手に委ねられるが、当初期待された電力業界は「(冷却に使う)ナトリウム取り扱い技術の知見がない」(八木誠・電気事業連合会会長)などとして、火中の栗を拾うことには否定的。

 核燃料サイクル政策を推進する経済産業省が検討会に参加していないなど、もんじゅの受け皿探しは「オールジャパン」からは程遠い状況だ。

 にもかかわらず文科省は、「核燃料サイクル政策の中核を担う施設としてのもんじゅの役割はいささかも変わることはない」(同省幹部)として、もんじゅのあり方そのものの議論には踏み込まなかった。規制委の勧告文に記載された新たな運営主体が特定できなかった場合のもんじゅの扱いについても検討会では議論されなかった。

 だが、こうした進め方には、原子力の専門家からも疑問の声が上がっている。

 14年3月まで内閣府の原子力委員会委員長代理を務め、核燃料サイクル政策のあり方の見直しを進めた鈴木達治郎・長崎大学教授は、「研究開発にはさまざまな方向性があるにもかかわらず、高速増殖炉という特定の技術にこだわって何が何でも実用化させようとした。そうした硬直的な政策がもんじゅという計画をダメにした」との認識を示す。そのうえで「今回の勧告は高速増殖炉サイクルの研究開発全体を見直すうえでよい機会。今からでも見直しは遅くない」とも語る。

■ 核燃料の再処理そのものの見直しに波及? 

 「もんじゅは運営主体変更ではなく、廃炉にすべき」と指摘するのは、原子力資料情報室の伴英幸共同代表だ。冷却材に火災事故の危険性が高いナトリウムを使用するなど、施設自体のリスクが大きいうえ、現政権の「エネルギー基本計画」で打ち出された、もんじゅを利用しての放射性廃棄物の減容化・有害度低減の取り組みも、「技術的な実現性可能性は乏しく無意味だ」と伴氏は批判する。

 受け皿が見つからずに発電用原子炉としての役割を終え、廃炉に追い込まれた場合、何が起こるのか。

 前出の伴氏は「核燃料の再処理そのものが必要なくなる」と解説する。というのは「現在進められつつある軽水炉(現行の原子炉)を活用したプルサーマル発電は、そこで発生した使用済みMOX燃料を再処理することを想定している。が、高速増殖炉が稼働しなければ、同燃料は再処理しても使い道がない。プルサーマルは高速増殖炉が稼働しなければ、経済的にも技術的にも意味を持たないからだ」(伴氏)という。

 仮に高速増殖炉をやめるなら、使用済みMOX燃料をわざわざ再処理して長寿命の核物質を取り出し、プルトニウムなどと混ぜて新たなMOX燃料を作る必要もない。

 そうしたことが知られると、核燃料サイクルが成り立つのか、政策自体に国民が疑問を抱くことになる。「そうなると困るので、もんじゅを続けるふりをしようとしている」と伴氏は解説する。もんじゅの存廃は、国の原子力政策を大きく左右するだろう。 

トモダチ作戦での被爆を訴える元米兵と面会した小泉純一郎元首相「素人の私でも病気の原因は放射能と感じる…」 産経新聞  2016年5月28日

小泉純一郎元首相(74)が5月中旬、米カリフォルニア州サンディエゴ近郊を訪れた。東日本大震災の「トモダチ作戦」の活動中に東京電力福島第1原発事故で被ばくしたとして、東電などを相手取り、損害賠償訴訟を起こした原告の元米兵らと面会するのが目的だった。元米兵らはいずれも体調不良を訴えている。面会後の記者会見で小泉氏が語った内容は…。

 小泉氏は今月15日から17日までの3日間に、元米兵ら10人から話を聞き、会見に臨んだ。サンディエゴ中心部から北方に約50キロのカールスバッドのビーチ沿いのリゾートホテル。小泉氏は面会した元米兵らとともに会見場に姿を見せた。小泉氏は、トモダチ作戦後に体調を崩し苦しんでいる兵士たちの話を先月、日本で知人から聞いたという。

 「トモダチ作戦に参加し、放射能に汚染されたと思われる兵士が、かなり多く出てきている。病状も悪化している。日本の被害に対して救援活動を行ってくれた兵士が今、重い症状に苦しんでいる。このことがなぜ、日本国民にも知らされていないのか、不思議に思いました」

 静かに語り始めた小泉氏だったが、次第に熱を帯びる。

 「直接話を聞いて、これは放射能の影響による病気だということがわかりますよ。原子炉が爆発して、メルトダウンして、放射能が放出されたのです」

 「東電は兵士の病気や健康被害は福島の事故とは関係ないと否定しているようですよ。アメリカでも病気になった兵士が医者にみてもらっても『これは放射能の被害によるものではない』とか、『分からない』という説明をしているそうです」

 原告らは、東電などは事故で放出された放射能の危険性など、適切な情報提供を行わなかったとして、2012年に年に提訴。原告側関係者によると、原告は約400人にふくらんでいるという。

 「素人の私でも、病に苦しんでいる10人の話を聞いて、病気になっている原因は放射能だという感じがする。事故後、東京電力も隠している情報がいくつかあったということが今、分かっている。兵士から当時の状況を聞いて、米海軍も何か隠していることがあるんじゃないかと感じた。日本のメディアでも、放射能に関して隠していることがあるんじゃないか、伝えたくない状況にあるんじゃないか、そう感じています」

 首相在任当時をほうふつさせる口調で語った小泉だったが、訴訟で最も重要なのは、被ばくと健康状態の悪化の因果関係の立証ということになる。兵士から話を聞いた小泉氏によると、医者は因果関係が「ない」「わからない」という見方を示している。米国防総省が14年に公表した報告書でも、被ばくは「極めて低線量」とし、健康被害との因果関係には否定的な見解を示している。科学的なデータや根拠が気になるところだ。

 会見中に兵士たちをおもんぱかって涙をみせた小泉氏だが、原告への支援の仕方を質問されると、「これから何ができるか考えていきたい」と話すにとどまった。

 だが、「脱原発」の持論の展開は忘れなかった。

 「総理の時代は原発を推進していた立場でした。原発は必要だという専門家や原子力関係者から話を聞いて、安全で、コストは一番安く、永遠のクリーンエネルギーだという3つの大きな主張を信じていた。総理をやめて、こういう事故が福島で起こり、私なりに原発に関する書物を読み、今まで原発に反対してきた方から意見も聴いてみて、分かりました。原発は『安全、一番コストが安い、クリーン』。全部嘘だということです」

 会見はゆうに1時間を超えていた。

元米兵支援基金創設へ 小泉元首相が表明 カナロコ by 神奈川新聞  2016年5月27日

 小泉純一郎元首相は26日、都内で講演し、東日本大震災の「トモダチ作戦」に従事した際、東京電力福島第1原発事故で被ばくしたとして、東電などを相手に損害賠償訴訟を起こしている元米兵らを支援する基金を創設する意向を明らかにした。

 「日本に救援に駆け付けた頑健だった若者たちが、体をむしばまれてつらい思いをしている。支援の手を差し伸べないといけない」と語った。小泉氏は15~17日に米国で原告の元米兵らと面会し、病状などを聞いていた。

 講演では「安全、低コスト、クリーンという原発推進論者の3大スローガンは全部うそだと分かった。政治家を引退してから、原発ゼロ運動にいそしむとは夢にも思わなかったが、私の生きているうちに原発ゼロを成し遂げたい」と強調、約800人の聴衆から大きな拍手を受けた。

 小泉氏は講演後、記者団の取材に応じ、オバマ米大統領が27日に被爆地・広島を訪れることを評価する一方、「核廃絶より原発ゼロの方が易しい。米国と日本が手を組んで原発ゼロをやったら世界が変わる」と訴えた。今夏の参院選で原発問題が目立った争点となっていないことについては「不思議でしょうがない」と嘆息し

小泉元首相が基金設立へ 「トモダチ作戦」で被爆訴える元米兵を支援 産経新聞   2016年5月26日

小泉純一郎元首相は26日、都内で講演し、東日本大震災の救援活動「トモダチ作戦」に参加した米海軍の原子力空母「ロナルド・レーガン」の元乗組員が、東京電力福島第1原発事故で被(ひ)曝(ばく)したとして健康被害を訴えていることを受け、元乗組員を支援する基金を立ち上げる考えを示した。

 小泉氏は、米カリフォルニア州で元乗組員と面会したことに触れ「『かわいそう』『気の毒』というだけでは済まないと思った」と強調。「病に苦しむ兵士のために、役に立ててもらう基金を設立しようと考えている」と明かした。

 小泉氏は講演後、基金の設立時期について「半年や1年はかかるだろう」と記者団に指摘。オバマ米大統領が27日に被爆地の広島で所感を述べる予定については「核廃絶はいいことだが、原発(ゼロ)のほうがやさしい」と述べた。

凍土壁建設、被曝15ミリシーベルトとの闘い 多大な代償を伴い東電の汚染水対策が前進 岡田 広行 :東洋経済 記者 東洋経済オンライン   2016年4月2日

東京電力・福島第一原子力発電所で3月31日、凍土方式の「陸側遮水壁」の凍結運転が始まった。今後、3段階に及ぶ凍結作業を経て原子炉建屋を凍った土で囲うことにより、原子炉建屋への地下水の流入量を現在の日量500~600トンレベルから、最終的には70トン程度に減らすことができると東電は見込んでいる。

31日午前11時20分に、30台ある冷凍機のうち第1号機のスイッチを福島第一の小野明所長が押すと、関係者から拍手が起こった。東電が汚染水削減のための抜本対策と目してきた設備が当初の計画よりも1年遅れてようやく稼働にこぎつけた瞬間だった。

大手ゼネコンの鹿島が施工した陸側遮水壁の総延長は約1.5キロメートル。1568本もの配管を地下25~30メートルの深さまで打ち込み、配管内に零下30度の冷却材を流す。総工費は350億円近くにのぼり、経済産業省の「実証事業」として国の予算が投じられた。

凍土壁の効果を原子力規制委員会は疑問視
原子炉建屋内の汚染水の水位が周辺の地下水の水位よりも高くなって建屋の外に汚染水があふれ出すことを防ぐため、当初は下流部分の海側全面を凍らす一方で、上流の山側は半分程度の凍結にとどめる。その後は水位のコントロールができていることを確認したうえで、山側の凍結を95%まで進めていく。ただ、原子力規制委員会による認可は現時点ではここまでで、陸側遮水壁を完全に閉じるまでの手順についての認可は得られていない。

凍土壁の効果についても見方が分かれている。東電や経済産業省が地下水流入量抑制に大きな効果を期待しているのに対して、原子力規制委員会の田中俊一委員長は「汚染水問題の本質的な解決にはつながらない」との見方を示している。また、凍土壁は地下鉄工事などで用いられてきたものの、今回のような巨大な規模かつ長期にわたる運用実績はないため、効果の発現に未知の部分もある。

2年以上にわたる凍土壁の建設に際しては、延べ27万4000人・日(1日平均約520人)という膨大なマンパワーが投入された。東電や鹿島では作業に伴う放射線被曝を抑えるために、作業箇所の除染や遮蔽、作業時間の短縮などの対策を徹底してきたという。それでも被曝量が大きな値になったことが判明した。
3月31日の記者会見での鹿島の浅村忠文・福島第一凍土遮水壁工事事務所現場代理人の説明によれば、施工に従事した作業員は約2200人。従事した期間はさまざまだが、1人当たりの平均被ばく量は15.3ミリシーベルトだったという。

国の規則で定められた被ばく線量の限度は年間50ミリシーベルト、5年間では合計100ミリシーベルトだが、鹿島が管理目標とする年間38ミリシーベルトに達したことで2年間に21人が作業現場からの離脱を余儀なくされた。この中には、放射線管理が適切さを欠いたことで、2年間累計で66ミリシーベルトの被ばくをした作業員もいた。

福島第一では現在の作業員1人当たりの年平均被曝線量は約6ミリシーベルト前後。単純な比較はできないとはいえ、原子炉建屋近くでの凍土壁の建設工事がいかに被曝リスクを伴うものであったかがわかる。

途方もない年月がかかる廃炉作業
汚染水の発生抑制に一定のメドを付けるとともに、福島第一では今後、使用済み燃料プールからの燃料の取り出し、「燃料デブリ」と呼ばれるメルトダウン(炉心溶融)した燃料の位置や性状の確認など、「廃炉に向けた作業の核心に入っていく」(東電の増田尚宏・常務執行役福島第一廃炉推進カンパニー・プレジデント)。その際、「被曝との闘いになる」と増田氏は説明する。

被曝量を抑えつつ作業員を確保するためにも、東電では元請け企業に対して複数年の業務量を保証することで、作業員ごとに高線量下での作業とそうでない作業を組み合わせるなどの対策を講じるように働きかけているともいう。構内でのコンビニエンスストアの開店やシャワー室の設置、全面マスク装着エリアの縮小など、職場環境の改善も進みつつある。

ただ、「廃炉作業を山に例えると1合目は何とか越えられたかなというところ」(2月3日の小野所長インタビュー)。40年ともそれ以上とも言われる廃炉作業の行く手には難題が待ち構えている。

(追加情報)
記事掲載後、4月4日の東京電力の定例会見で、鹿島からの情報として、陸側遮水壁の工事に関わり、約2年間で50ミリシーベルト以上被曝した作業員数116人、最大被曝量は75.51ミリシーベルトであるとの説明があった。

  チェルノブイリ原発 爆発事故30年 廃炉計画立たず 毎日新聞 2016年4月2日


【チェルノブイリ(ウクライナ北部)で真野森作】旧ソ連・ウクライナのチェルノブイリ原子力発電所4号機での爆発事故から今月26日で30年となる。東京電力福島第1原発事故と同じレベル7という事故の処理は今も続き、4号機を密封するための新シェルターの建設工事が完成に近付く。

 首都キエフから北へ約100キロ。今年2月に現場を訪れると、大型クレーンが並び、工事の金属音が響いていた。4号機は現在、事故直後に建てられた「石棺」と呼ばれるコンクリート製シェルターに覆われているが、傷みが激しい。崩落すれば内部に残った大量の放射性物質が拡散する恐れがある。

 11月下旬に新シェルターをレールで移動し、石棺ごと4号機を覆う。耐久年数は100年。その間に廃炉作業を進める計画だが、内部に残された約190トンの核燃料をどう取り出すかなど難題が山積している。

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 事故があった4号機の隣接地で4年前に始まった金属製の新シェルターの建設は終盤に入った。高さ108メートル、幅257メートル、長さ162メートル。今年11月下旬の移動後、1年間かけて密閉する。だが、これはまだ本格的な廃炉作業の入り口に過ぎない。

 今年2月に取材した新シェルター建設現場では、工事関係者の大半は線量管理を受けながらも通常の作業着姿で働いていた。放射線量が毎時100マイクロシーベルトという4号機近くに対し、約300メートル離れた建設現場は6マイクロシーベルト程度まで除染されているためだ。野良犬も多数すみ着き、番犬のように振る舞っている。

 2015年完成を目指した当初の予定通りには進まなかったが、昨年7月、二つに分けて建造されたシェルターを合体し、外側が組み上がった。監理部門の担当者によると現在は内部のクレーン取り付けや、4号機周辺での準備工事が進められている。技師や作業員はウクライナのほかロシア、トルコ、イタリアなどからも参加。フランスの合弁企業が建設に当たり、15億ユーロ(約1900億円)の建設資金は欧州各国や米国、日本など40カ国以上が拠出する国際プロジェクトだ。

 原発事故では激しい爆発が起こり、建屋の一部が吹き飛ばされた。その後の事故処理で4号機は「石棺」と呼ばれるコンクリート製シェルターで覆われた。新シェルター完成後の作業見通しについて、同原発のノビコフ副技師長(安全担当)は「内部のクレーンを使って23年までに不安定な石棺を解体する。大部分の作業は遠隔操作で行うが、人が入っての作業も避けられない」と語る。石棺の解体後、廃炉作業に本格着手することになるが、具体的なスケジュールは決まっていない。

 汚染が激しい4号機から核燃料を取り出し、安全に地下保管する技術の開発も今後の課題だ。これは福島第1原発にも共通する。ノビコフ氏は「仮に最初の1キロを取り出せたとしても、どこに保管できるだろうか? 国内に適した土地はいくつかあるが、地元住民は誰一人賛成しない。福島の事故を受け、原子力への不信感は再び高まった」と首を横に振った。

 事故直後に十数万人が強制避難させられたチェルノブイリ原発から半径30キロの立ち入り禁止区域。今では森林が広がり、オオカミやイノシシ、シカといった野生動物が暮らす。国立原発安全問題研究所の環境専門家によると、その体内から事故に由来する放射性物質のストロンチウムやセシウムが検出されるという。ウクライナのポロシェンコ大統領は昨年12月、政府に対して今年7月までに居住制限区域の見直しと一部の自然保護区化を検討するよう指示した。主な汚染物質であるセシウムの半減期が30年であるため、汚染地の空間線量が下がったことが背景にある。

 【ことば】チェルノブイリ原発事故
 ソ連時代のウクライナ共和国のチェルノブイリ原発で1986年4月26日未明に起きた事故。4号機の非常用電源を検査していたところ、出力が急上昇し爆発。消火作業などに当たった数十人が死亡したと発表されたが、脳出血や白血病などにかかった人が後を絶たず、世界保健機関(WHO)は2006年に犠牲者数を9000人と推計した。

大規模太陽光発電


  再生可能エネルギー飛躍の切り札になるか!? 日本気象協会2つの取り組み マイナビニュース 2016年06月06日


1 太陽光発電の無駄を解消できるか?

太陽光発電や風力発電、地熱発電、バイオマス発電など、火力発電などから再生可能エネルギーによる発電への移行が進められている。この移行を加速するために2012年にFIT(固定価格買い取り制度)が導入されたが、環境アセスメントなど課題が多い地熱発電や風力発電に比べ、(稼働までの)リードタイムが小さい太陽光発電に参画企業が集中した。結果、発電バランスが崩れた格好となった。それを少しでも是正できるかもしれない取り組みが日本気象協会からリリースされた。

需要と供給のミスマッチを減らせるか

FIT制度については問題が噴出している。FIT制度認定を受けた発電会社から電力会社が電気を買い取るのだが、その買い取り価格が高額だったため、そのしわ寄せが消費者に転嫁されるのではないかと批判が殺到したこと。発電が未稼働のままの案件が多かったり、保守・点検が不適切だったりといった問題もある。資源エネルギー庁は今年4月にFIT制度見直しの検討状況を示し、こうした問題の是正を図ると報告した。

だが、制度見直しではどうにもならないのが、太陽光発電の不安定さだ。夜間に発電できないのはもちろん、季節、天候にも左右される。

日本気象協会 事業本部 環境・エネルギー事業部 副部長 小玉亮氏は「太陽光発電は明日の発電計画が困難なばかりか、現在の発電量も不明」と太陽光発電が抱える根本的な問題を示した。
こうした問題が引き起こすのが電力の「需要と供給のミスマッチ」だ。太陽光発電の供給が落ちた際は、火力発電などで補わなくてはならない。反対に全国的に天候が安定して太陽光発電の供給量が十分な状態で、火力発電を稼働させた場合、電気を余らせてしまうことが考えられる。これは、エネルギーの無駄だ。

そこで日本気象協会が眼につけたのが衛星を活用した日照量推定システムだ。実は気象衛星「ひまわり7号」の観測データ使って日照量を推定し、配信するシステム「SOLASAT-Now」はすでにあった。これを最新の気象衛星「ひまわり8号」の観測データに置き換えた「SOLASAT-8 Now」を5月に開始。さらに2016年夏までに3時間先までの日照量推定を行う「SOLASAT-8 Nowcast」を開始予定だとアナウンスした。

2 最新の気象衛星の観測データを生かす

ひまわり7号の観測データは「更新30分ごと」「1000m解像度」「観測バンド数5バンド」だったが、ひまわり8号では「更新2.5分ごと」「500m解像度」「観測バンド数16バンド」となる。利用する観測データの精度が大幅に増すので、日照量推定の精度も上がり、より正確な情報を配信できるようになるとしている。

一方、日本気象協会が独自に開発した気象モデルを利用して日射量を予測する「SYNFOS-solar 1kmメッシュ」というサービスについてもリリースした。これまで提供していた「SYNFOS」に比べ20%程度の精度向上が見込めるという。

「SOLASAT-8 Nowcast」と「SYNFOS-solar 1kmメッシュ」のちがいは予測期間の幅だ。前者は現在もしくは3時間先までの日照量を予測するリアルタイムなものだが、後者は72時間先までの日照量を30分ごとに予測する。

前出の小玉氏は、発表会の冒頭で「現在の発電量が不明」「先の発電予測が難しい」と、太陽光発電の問題を挙げたが、その両方の解消に対処したといえる。

2016年4月に出された資源エネルギー庁の報告では、これまで再生可能エネルギーによる電力の買い取り行っていた電力小売から、配電事業者へと変更されるという。効率よくエネルギーを活用するには、PPS(特定規模電気事業者)よりも、配電事業者による買い取りのほうが向くかもしれない。日本気象協会も、そうした事業者へ「SOLASAT-8 Nowcast」と「SYNFOS-solar 1kmメッシュ」を活用してもらうことをにらんでいる。


  住民主導再エネ考える 福島県・富岡メガソーラー計画でシンポ  福島民友ニュース  2016年6月5日

福島県富岡町で進められている住民主導の大規模太陽光発電所(メガソーラー)計画で、町民らでつくる一般社団法人富岡復興ソーラー(遠藤陽子代表理事)は4日、事業開始を記念したシンポジウム「富岡から住民主導でエネルギー未来を拓(ひら)く」を郡山市で開いた。町民をはじめ県民約80人が参加して再生可能エネルギーの取り組みに理解を深めた。

 全国ご当地エネルギー協会代表理事の佐藤弥右衛門会津電力社長(大和川酒造店会長)=喜多方市=が「太陽光発電をどう生かしていくか。収益を地域に返す民間主体の復興の形になる」とあいさつした。

 東大大学院総合文化研究科教授で哲学者の高橋哲哉氏が「福島からエネルギー自立を目指すことの意味」と題して基調講演。いわき市生まれで、高校卒業まで県内で過ごしたことを紹介しながら、「東京電力福島第1原発事故の記録と記憶を発信し、福島から人の営みで持続可能になるような再生可能エネルギーを提案してほしい」と訴えた。

 続いて、事業を支援するNPO法人環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長をコーディネーターに4人が太陽光発電事業の取り組みを説明した。

 富岡町から、いわき市に避難する遠藤代表理事は「地権者39人の協力で事業化できた。住民主導の事業で、歴史的なことだと評価されるように持っていきたい」と述べた。えこえね南相馬研究機構(南相馬市)の高橋荘平理事長は昨年9月に開所し、8カ所で発電している現状を報告、「太陽光発電を通して浜通りの交流につなげたい」とした。飯舘村から避難している飯舘電力の小林稔社長は65人の出資で年内に11カ所で稼働する予定を示し、「同じ思いの仲間がいることは心強い」と述べた。佐藤社長は「会津には歴史と文化、産業がある。原発事故をきっかけに、ここでエネルギーを自分たちでつくれないか考えて実行した」とした。

 富岡復興ソーラーの事業は、出力約3万キロワットで、年間発電量は一般家庭約1万世帯分に相当する。10月に着工、2018(平成30)年3月の稼働を目指す。


  東広島のゴルフ場跡に18MWのメガソーラー、九電工やプロスペクトなど開発 パネルはソーラーフロンティア製、パワコンはTMEIC製 加藤 伸一=日経BPクリーンテック研究所 日経BP  2016年6月2日

分譲マンションなど不動産開発を手掛けるプロスペクトは6月1日、広島県において、出力約18MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)を開発すると発表した。

 九電工、JFEエンジニアリング、ユニ・ロット(大阪市)と共同で開発する。4社が共同で出資する匿名組合を通じて、発電事業者となるSPC(特定目的会社)、KPJU東広島に出資する。

 事業総額は約70億円で、匿名組合の出資総額は約13.3億円としている。匿名組合への出資比率は、九電工が45%、プロスペクトが40%、JFEエンジニアリングが6%、ユニ・ロットが9%となっている。プロスペクトによる匿名組合への出資額は約5.3億円となる。

 開発資金として、みずほ銀行を幹事行(アレンジャー)とするプロジェクトファイナンスを組成し、5月30日付で融資の一部が実行されている。

 メガソーラーは、広島県東広島市志和町に立地する。敷地面積は約113haで、ゴルフ場「セントパインズゴルフクラブ」の跡地を活用した。

 6月に着工し、2018年7月に売電を開始する予定となっている。稼働後の年間発電量は、約2052万4000kWhを見込んでいる。売電価格は36円/kWh(税抜き)で、20年間の平均で年間約7.3億円(同)を見込んでいる。

 EPC(設計・調達・施工)サービス、O&M(運用・保守)は、九電工が担当する。太陽光パネルはソーラーフロンティア製を採用し、10万9900枚を並べる。パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製を採用する。


  霧ヶ峰に約10MW、ガソリンスタンド運営などの日新商事がメガソーラー開発 加藤 伸一=日経BPクリーンテック研究所 日経BP  2016年6月2日

ガソリンスタンド運営などを手掛ける日新商事は5月27日、長野県諏訪市において、出力約10.0MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)「NSM諏訪ソーラーエナジー発電所」を開発すると発表した。

 連結子会社のSPC(特定目的会社)であるNSM諏訪ソーラーエナジーが発電事業者となる。

 諏訪市四賀霧ケ峰にある、敷地面積約16万5000m2の土地に立地する。2016年6月に着工し、2018年8月に売電を開始する予定としている。

 山林だった土地で、長野県から林地開発許可を得て開発している。

 稼働後の年間発電量は、一般家庭約3000世帯分の消費電力に相当する、約1万2000MWhを見込んでいる。

 売電価格は36円/kWh(税抜き)で、中部電力に売電する。

 霧ヶ峰は、雄大な高原地域として知られる。長野県では、こうした地域への再生可能エネルギー発電所の開発に関して、「長野県環境影響評価条例」を2016年1月に改正し、水力・地熱・太陽光発電所の開発計画に、環境影響評価の手続きを義務づけている。

 今回のメガソーラーは、敷地面積の規模が、この条例が定めている要件に該当せず、環境影響評価の対象外となっている。

 EPC(設計・調達・施工)サービスは、NTTファシリティーズが担当した。採用した太陽光パネル、パワーコンディショナー(PCS)については、非公開としている。

 日新商事では、同じ諏訪市四賀において、出力約1.5MWのメガソーラー「日新諏訪太陽光発電所」が稼働済みとなっている。


  米ジョージア州の陸軍基地で30MWのメガソーラーが稼働 大場 淳一=日経BPクリーンテック研究所 日経BP  2016年6月2日

米国のエネルギー事業大手であるジョージア・パワー(Georgia Power)社は6月1日、米ジョージア州西部のコロンバス近郊にあるフォート・ベニング(Fort Benning)陸軍基地で出力30MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)が運転を開始したと発表した。

 今回のメガソーラーは、現在同社が陸軍および海軍省(Department of the Navy)と連携して州内の5カ所で建設している基地内の太陽光発電プロジェクトの最初の一つである。

 他の4カ所は、海軍省のアルバニー海兵隊兵站基地(Marine Corps Logistics Base Albany)とキングスベイ海軍潜水艦基地(Naval Submarine Base Kings Bay)、陸軍のフォート・ゴードン(Fort Gordon)とフォート・スチュワート(Fort Stewart)である。いずれの基地で建設中のメガソーラーも、今後1年以内の連系と稼働を見込んでいる。

 フォート・ベニングのメガソーラーでは200エーカー(約81万㎡)以上の面積の用地に、約13万4000枚の太陽光パネルを設置した。

 同社はメガソーラーの建設、保有、運転を担い、発電した電力は同州の系統網に供給される。電力のコストは、系統に接続されたほかの電源の平均的な発電コストと同等かそれ以下になるという。総投資額は7500万ドルと見積もられ、陸軍のエネルギーとセキュリティに関する目標達成を支援する。

 米国では、陸海空軍の基地においても再生可能エネルギーの導入が積極的に進められている。背景には増大する防衛関連予算の削減があり、遊休資産の有効活用や燃料コストの削減、広報などの目的からメガソーラーを基地内に設置する事例などが増加している。

 また、軍を再エネ推進に活用することで、再エネに必要な人材を育成しつつ退役軍人の再雇用先を確保できるといった「一石二鳥」の取り組みという意味もある。


  南米チリで最大、伊Enel社が160MWのメガソーラーを稼働 大場 淳一=日経BPクリーンテック研究所 日経テクノロジーオンライン  2016年06月01日

イタリアの大手エネルギー事業者であるEnel社は5月27日、チリで最大のメガソーラー(大規模太陽光発電所)「Finis Terrae」が完成、系統への連系が完了したと発表した。同社の現地子会社であるEnel Green Power Chile(EGPC)社が建設した。
 同メガソーラーは、首都サンティアゴの北に約1300kmのアントファガスタ(Antofagasta)州にあるマリアエレーナ(María Elena)にある。出力160MWで、年間に400GWhの発電量を見込む。これはチリの家庭約19万8000世帯分の消費電力に相当し、年間19万8000tの温室効果ガス排出量を削減できるという。

 長期の電力購入契約(PPA)を締結しており、発電した電力は同国の北部地域送電網「SING」(Sistema Interconectado del Norte Grande)を介して供給される。

 Enel社は、事業戦略の一環として同メガソーラーの建設プロジェクトでは約2億7000万ドルを投資したという。

 同社は子会社のEGPCを通じて、現在同国内で再エネ発電所の資産ポートフォリオ、880MW以上を運営している。このうち、364MWが風力、430MWが太陽光、92MWが水力となっている。

 さらに、現在300MW分のプロジェクトを建設中であり、完成すると同社の設備容量の合計は約1200MWになるという。この中には、南米で初めてとなる48MWの地熱発電所も含まれている。

 チリは近年、再生可能エネルギーの導入に力を入れており、アントファガスタ州ではEnel社以外にも122MWのメガソーラー、首都サンティアゴでも100MWのメガソーラーなどが建設されている。


  別々の高圧送電線に連系する京都・綾部のメガソーラー 積雪対応の自社製アルミ架台を初投入 加藤 伸一=日経BPクリーンテック研究所 日経BP  2016年5月31日

京都府綾部市の工業団地に、出力4.87MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)「LIXIL綾部Solar Power」が立地している。発電所名の通り、建築材料や住宅などの室内設備を手がけるLIXILが開発・運営している。


  世界初、太陽光で走る地下鉄、100MWのメガソーラーで実現 チリの首都・サンティアゴの地下鉄が年間300GWhの電力購入契約 大場 淳一=日経BPクリーンテック研究所 日経BP  2016年5月24日

太陽光パネル大手の米SunPower社は23日、チリのサンティアゴ地下鉄(Metro de Santiago)に年間300GWhのクリーンな電力を供給する電力購入契約(PPA)を締結したと発表した。

 この契約によって、サンティアゴ地下鉄は、ほぼ太陽光のエネルギーで走行する世界初の公共交通機関になるとみられる。サンティアゴ地下鉄は、チリの首都であるサンティアゴで市民の「足」となっており、現在1日に220万人が利用している。

 サンティアゴ地下鉄に供給される電力は、「El Pelícano Solar Project(ペリカン太陽光プロジェクト)」と呼ばれる出力100MW(AC)のメガソーラー(大規模太陽光発電所)で発電する。同発電所は、コキンボ(Coquimbo)地域のラ・イゲラ(La Higuera)とアタカマ(Atacama)地域のバエナル(Vallenar)という2つの町の近くに建設される。今年中に着工し、2017年中の稼働を目指している。

 SunPower社は、メガソーラーの設計と建設、竣工後の運用や保守も行う。同社のモジュール型太陽光発電システム「SunPower Oasis」を採用することで、工期を短縮しコストを削減するという。同システムはロボット技術による太陽光パネルの清掃機能を装備しており、従来のメガソーラーと比較して75%の節水と最大15%の発電性能の改善が見込めるとしている。


  三菱総研、太陽光と風力の「自立電源化」へ対策案 電氣新聞  2016年04月15日

◆課題まとめ報告書に
三菱総合研究所は、太陽光発電と風力発電を長期安定的に発電する「自立電源」とするための対策案を、報告書にまとめた。太陽光発電は現状の課題を「安全性」「維持管理」「地域」「廃棄・リサイクル」の4項目に分類。設備保守ガイドラインの策定、使用前の安全確認の義務付け、発電量を点検する仕組みの構築などを対策案として整理した。一部は新たな安全規制や、再生可能エネルギー特別措置法(FIT法)改正案の中に取り入れられている。

風力発電は、円滑な建て替えの促進、適切な設備の保守管理と廃棄・リサイクルを進める観点から対策案を整理した。廃棄に関しては「設備認定時の廃棄計画の提出義務化」など、制度面の対応策を審議会などで検討するべきとした。

太陽光発電と風力発電は、再生可能エネの中でも天候次第で出力が変わる「変動電源」。国民が賦課金を負担するFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)で電力が買い取られている中、コスト低減を進めながら長期的に安定して発電する電源にしていくことが政策課題になっている。


  チリの熱帯砂漠地域にメガソーラー、中国ジンコソーラーが122MW分のパネル供給 加藤 伸一=日経BPクリーンテック研究所 日経BP  2015年12月22日

中国の大手太陽光パネルメーカーのジンコソーラーホールディングは12月18日、チリで開発されるメガソーラー(大規模太陽光発電所)に、出力122MW分の太陽光パネルを供給すると発表した。

 メガソーラーは、2016年夏まで完成する予定。

 チリ北部にあるアントファガスタ州のタルタル(Taltal)に立地する。砂漠地帯にあり、熱帯気候のため、空気が乾燥し、最高気温は60~70℃に達する。太陽光パネルにとって、苛酷な環境にあるという。

 ジンコソーラーは、これまでにチリの複数のメガソーラーに太陽光パネルを供給しており、稼働中のこうしたメガソーラーにおける発電の実績が評価され、今回の採用につながったとする。


  太陽光発電のタイ・ソーラー・エナジー、MAI上場 newsclipニュース 2014年10月31日

【タイ】タイの太陽光発電会社タイ・ソーラー・エナジーが30日、タイ証券取引所(SET)2部市場(MAI)に上場した。

 銘柄コードは「TSE」。公開価格3・9バーツ、初日終値は7・3バーツだった。

 新規株式公開(IPO)で調達した17・6億バーツは事業拡張、債務返済などに充てる。

 2008年設立。従業員約80人。筆頭株主はテレビ局チャンネル3を運営するBECワールドのオーナー、マリーノン家。2014年末時点で、全額出資および合弁の太陽光発電所11カ所(出力、計84・5メガワット)が稼働。2014年1―6月期最終利益は6・5億バーツ。


  中国:太陽光発電容量が急増、独を抜いて年内にも世界トップ newsclipニュース 2015年10月27日

【中国】太陽光発電装置の設置容量で、中国は2015年にも世界トップに立つ見通しだ。

 今年1~9月の設置容量は、前年同期比161%増の990万キロワット(kW)。9月末時点で3795万kW。通年で1500万kW拡大し、総容量はドイツを追い抜いて世界最大の4300万kWに達する可能性があるという。国家発展改革委員会エネルギー研究所の王斯成・研究員の予想として、経済参考報などが26日付で伝えた。

 国の支援を受けて、今後も急ピッチな整備が続く見込み。2020年には1億kW、2030年には4億kWを超えると予測されている。

 中国の太陽光関連設備メーカーは景気の回復期を迎えた。今年通年の生産額は2000億人民元を超える見通し。太陽光発電用のシリコンウエハ、パネル、モジュールの輸出額は、100億米ドルの大台を突破する公算が高い。太陽光発電業協会の資料によると、太陽光発電関連企業の投資額は、今年1~8月の累計で前年同期比39.4%増の684億7000万人民元(約1兆2972億円)に拡大した。伸びは前年同期から33.4ポイントも加速したという。

 2014年末時点の統計によれば、各国の太陽光発電容量はドイツが世界最大の3800万kW(前年比1.9%増)。これに中国の2800万kW(10.6%増)、日本の2300万kW(9.7%増)などと続く。


  国際石油開発帝石/新潟県上越市に太陽光発電所竣工 LNEWS 2015年08月18日

国際石油開発帝石は8月18日、子会社のインペックス ロジスティクスを通じて、新潟県上越市で建設工事を進めていたグループとして2件目の太陽光発電所が、竣工したと発表した。
<INPEX メガソーラー上越>

建設した発電所は、インペックス ロジスティクスが新潟県上越市に保有する敷地内で最大出力約2000キロワット(2メガワット)の太陽光パネルを設置。
7月から発電を開始し、その全量を東北電力へ売電している。予想される年間発電量は、一般家庭約860世帯分の年間電力消費量に相当するもの。
竣工した同発電所の隣接地において、国際石油開発帝石が初めて建設した太陽光発電所が既に2013年3月から稼働しており、グループは、上越市地域でのこれら太陽光発電所を「INPEXメガソーラー上越」と総称して、上越市を始めとする地域の多様なエネルギー供給に引き続き取り組んでいくとしている。
■発電所の概要
名称:「INPEX メガソーラー上越」
建設場所:新潟県上越市大潟区渋柿浜535
敷地面積:8万119m2
所有:インペックスロジスティクス
操業主体:インペックスロジスティクス
年間予想発電量:約285万kWh/年(キロワット時/年)
一般家庭約860世帯分の年間電力消費量に相当
最大出力:約2000キロワット
太陽電池モジュール容量約2513キロワット
太陽電池パネル:ソーラーフロンティア製 CIS パネル


  中国:太陽光パネルメーカーのデフォルト相次ぐ、上場企業にも余波 newsclipニュース 2014年10月12日

【中国】中国の太陽光発電パネルメーカーが続々と債務不履行(デフォルト)に陥っている。

 無錫尚徳太陽能(サンテックパワー)、*ST上海超日太陽能科技(002506/SZ)に続き、新たに索日新能源公司のデフォルトが明らかとなった。その余波は上場企業を含む取引先にも広がるなど、拡大の動きを見せている。広州日報などが9日伝えた。

 アパレル販売や不動産事業を手がける浙江東方集団(600120/SH)は8日、索日新能源の資金繰り悪化を受け、同社に対する債権3億8800万人民元(約68億円)の回収が困難となっていると情報開示した。これは14年上期売上高の8.5%に相当する規模という。

 浙江東方集団によれば、業況の悪化による経営不振が続き、索日新能源は現時点で債務の返済が不可能な状況という。そのうえで、債権の保全に向けて、索日新能源と協議を続けていく考えを明らかにした。

 中国の太陽電池業界では、欧米との貿易摩擦や供給過剰による価格下落を受けて数年前から厳しい事業環境が続く。政府は過剰生産問題の是正に向け、業界再編を加速させる方針を示している。



  中国の太陽光発電市場が急成長、ドイツ抜き世界トップに浮上 logly_title_end newsclipニュース 2014年6月10日

【中国】中国の太陽光発電市場がドイツに代わって世界最大規模に拡大したようだ。漢能控股集団などが7日、業界リポート「全球新能源発展報告2014年」で明らかにした。

 世界全体の太陽光発電容量は、13年末時点で前年比38.7GW増の合計130.6GWに拡大。うち中国の純増分は、前年比で232%増の12GWを記録し、世界最大の規模に成長した。中国全体の13年投資額は、世界最多の235億6000万米ドル(世界投資シェア21.1%)に膨らんだという。

 世界全体の総発電量は、13年通年で前年比4.3%増の2万2513.8テラワット時(TWh)。うち70%は環境負荷の重い火力発電で占められた。ただ、太陽光をはじめとする新エネルギーは13%のハイペースで拡大し、全体に対する比率が52.2%に上昇したという。

 漢能控股集団はここ数年、太陽光発電分野で頭角を表し、足元では年産力300万キロワットを誇る世界最大級の薄膜太陽光電池メーカーに躍進した。


  スマートシティ: 気温40度でも問題なし、アラブの砂漠にエネルギー都市 スマートジャパン  2014年06月04日

アラブ首長国連邦(UAE)が2006年に発表した化石燃料を使わないゼロカーボン都市「マスダールシティ」。世界同時不況のあおりを受け、当初の予定通りには進捗していない。しかし、中東で最もエネルギー効率の高いビルや、大規模な太陽熱発電所など、少しずつ計画が実を結び始めている。高温環境下でのスマートシティとはどのようなものなのか、現状を紹介する。
[畑陽一郎,スマートジャパン]

アラブ首長国連邦(UAE)は7つの首長国からなる中東の国だ。国土はアラビア半島の東側にあり、ペルシャ湾を抱くように広がっている。日本にとってはサウジアラビアに次ぐ原油の供給源であり、2012年には4600万kL以上の原油を輸入している。これは日本の全輸入量の22%にも達する。

 アラブ首長国連邦=原油、というイメージが強かったため、同連邦内最大の国、アブダビが2006年に「マスダールシティ」と呼ばれる未来の都市プロジェクトを打ち出したときにはかなりの驚きをもって迎えられた。

 マスダールシティは、太陽光や太陽熱、風力、地熱などの再生可能エネルギーを利用し、二酸化炭素を排出しないゼロカーボンの未来都市として計画された*1)。現在でいうゼロエネルギー都市の先鋒である。化石燃料に依存しないだけではない。海水から再生可能エネルギーを使って淡水を得、廃棄物もゼロにすることを目指した。

 規模も大きい。都市建設のために最大220億米ドル(当時の換算レート116円で換算すると2兆5500億円)と、8年の歳月をかける計画だった。6.5km2の土地*2)を確保、住宅や公共施設の他に、商業施設やオフィスビルも配置するという壮大なもの。5万人が居住し、6万人が通勤する都市だ。日本人の感覚ではそれほど大きな都市と思えないが、同国首都アブダビの人口が2006年時点に60万人程度(2013年時点では90万人)だったことを考えるとかなりの規模だといえる。

*1) 国営の再生可能エネルギー事業会社として2006年に設立されたアブダビMasdar(マスダール)が建設する。同社は国内外で再生可能エネルギーに関する不動産開発事業やインフラ投資事業の他、再生可能エネルギー技術や教育にも投資している。


*2) アブダビは大部分のインフラが海岸線沿いに集中している。首都アブダビ市は周囲を「運河」で囲まれた東西約16kmの細長い島。島の西の端から15kmほど東にマスダールシティを建設する。マスダールシティのすぐ東側にはアブダビ国際空港が広がる。
鳴り物入りで始まったが……

 アブダビは連邦内で最大の経済規模を持つ。原油埋蔵・生産量でも連邦中トップだ。従って、2006年当時に再生可能エネルギーに傾倒する必然性はなかった。

 それにもかかわらずマスダールシティ建設に取り組んだ理由はさまざまだ。まず、化石燃料を使い続けることにはさまざまなリスクがある。地球温暖化はもちろん、石油の価格が長期的に上昇していくリスクも大きい。アブダビにとって価格上昇にはメリットもあるが、結果的に世界経済が縮小するなどのデメリットもある。

 当時既に一部の再生可能エネルギーには、化石燃料に取って代わるだけの潜在能力があることが分かっていた。そこでゼロカーボンを旗印として「石油後」の都市モデル、経済モデル作りにいち早く取り組んだ形だ。

 2008年に建設が始まった当初は計画通りに進んでいた。ところが、米国のサブプライムローンに端を発した世界同時不況の影響を受けてしまう。当初の8年間、4フェーズだった建設期間を、2010年時点で2025年まで延長。2009年に終わるはずだった第1フェーズは、2014年時点でまだ完成度が50%という段階にある。居住者の数は4万人に、通勤者の数は5万人に下方修正されている。

 建設が遅れるマスダールシティはどのような状態にあるのだろうか。荒れ地のままなのだろうか。そうではない。再生可能エネルギーの利用は進んでおり、中東の伝統的な省エネルギー手法なども取り込んでいる。

 オフィスビルなどの建設も進んでいる。ドイツSiemens(シーメンス)の中東本社ビルは2014年1月に完成した*3)。一般企業向けのテナントビルは第1棟が完成し、米GEと三菱重工業が入居している。マスダール科学技術研究所のキャンパスは最終的に6つのビルからなる。第1フェーズは既に建築が終わり稼働中、第2フェーズが建築中だ。

*3) LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)のプラチナ認証を受けており、中東で最もエネルギー効率の高いビルだという。

さまざまな再生可能エネルギー技術を利用
 マスダールシティに組み込まれる技術はゼロカーボン以外に大きく6つに分かれる。スマートビル、グリーンサプライチェーン、新交通、ICT、高効率照明、熱エネルギー利用だ。このうち、ゼロカーボンとスマートビル、新交通について成果を紹介しよう。

 ゼロカーボンを実現するために利用する技術は太陽光発電と集光型太陽熱発電(CSP)、太陽熱利用、二酸化炭素の回収・貯蔵(CCS、関連記事)、地熱システムだ。エネルギー源のうち、53%を太陽光発電、26%を集光型太陽熱発電、14%を太陽熱利用で得る。

 太陽光発電システムは順調に稼働しており、2014年3月時点の規模は出力10MW。5MWを米FirstSolarのCdTe薄膜太陽電池で、残り5MWを中国Suntech Powerの単結晶シリコン太陽電池で得ている。低緯度であり、日照条件が良いため、年間発電量は1750万kWhに達する。日本に設置した場合の平均的な発電量と比較すると1.7倍も多い。

 太陽熱発電所「Shams 1」は2013年3月に完成している。マスダールシティから南西に約120km離れた砂漠の土地(2.5km2)を使い、出力は100MWと大きい。雨どいのような放物面鏡の前に長いパイプを置き、パイプ中の油を熱し、タービンを回して発電する。

 3本の柱で凸面鏡を支え、その周囲に平面鏡を大量に配置するビームダウン型太陽熱発電施設の建設も進んでいる。現時点では出力が100kWと小さいものの、規模拡大がたやすい設計になっているという。

 エネルギー三本柱の最後にある太陽熱利用は、このような発電所とは大きく異なる技術を用いる。給湯に太陽熱を使う技術だ。真空の管の中にヒートパイプを封入した太陽熱温水器(ETC:Evacuated Thermal Collector)である(関連記事)。この技術は日本国内でも大量に導入されている。

 CCSでは技術研究から実用の段階に移行中だ。天然ガスと石油の燃焼ガスから二酸化炭素を分離、回収し、地下の油層に送り込む「ESI Carbon Capture Facility」計画は、2015年に運転を開始し、2016年に最大能力に到達する。これは2014年2月時点の予定だ。

 CCS技術を油田と組み合わせると、面白い現象が起きる。二酸化炭素を蓄積できることは当然ながら、老朽油田が再生し、再び石油を産出できるようになるのだ(増進回収法:EOR)。

 マスダールシティで計画されている地熱システムは、いわゆる地熱発電とは異なる技術だ。約2500mの深さの井戸を掘り、100度前後の温水を循環させて熱吸収冷却装置に通じ、冷房などに使う。発電には使わない。日本でいう地中熱利用に近い。

中東らしいスマートビル
 スマートビルは日本国内でも建設が相次ぎ、難易度が高いゼロエネルギービルの実現も視野に入ってきた。

 アブダビに立地するマスダールシティには、日本とはかなり異なる不利な条件がある。高温環境だ。毎年5月から10月の期間、アブダビの最高気温は連日のように40度を超える。実際に2014年6月2日の最高気温は43度、最低気温は24度だ。この熱をうまく処理できなければスマートビルは絵に描いた餅になる。

 マスダールシティでは最新のICT技術と中東の伝統的な都市の構造とを組み合わせた。ICT技術の利用は徹底している。マスダールシティには照明のスイッチがない。水道にもハンドルがない。モーションセンサーを全面的に導入したためだ。モーションセンサーによって、人が利用するときにだけ照明や水道が機能する。これでアラブ首長国連邦の平均と比較して、消費電力の水準を51%、水使用量を54%と低く保つことができた。いわゆるスマートメーター技術を取り入れており、電力事業者が住民ごとの電力使用量を把握しており、需要供給分析に生かしている。

 中東の伝統的な都市の構造とは次のような考え方だ。太陽から受ける熱を最小にし、影を作り出す。柱を組み合わせて影を作ることで生活空間を確保する。同時に冷たい風を上空から取り入れる。曲がりくねった細い道が複雑に絡み合う中東の伝統的な市場のような構造だ。

 マスダールシティでは道路の端にあるビルによって上昇気流を作り出すように設計されている。道路の温度を低く保つ効果があるという。中東の伝統建築「ウインドタワー」も現代風にアレンジした。ウインドタワーは上空の冷たい風を地表面に導くために使われてきた設備だ。

 マスダール科学技術大学にはウインドタワーを現代風に改良した設備が設けられている。図4の中央にあるタワー(高さ45m)だ。センサー技術を利用して風の向きに応答できる他、上部にミスト発生装置を設けている。気化熱を利用して風の温度を下げることが可能だ。アブダビ市内の典型的なビル街では気温が37度の場合、ビルの表面温度は38度、道路(アスファルト)の温度は57度に達する。これでは路面からの輻射熱だけで参ってしまう。

 図4(省略)の周囲では気温が39度の場合、ビルの壁面は35度、地表は33度に保たれる。エネルギーをほとんど使わない「冷房」である。

 ビルの壁面にも伝統的な工夫がある。図5の左側にある茶色のビルは同大学の居住棟。壁面には砂嵐に強いガラス強化コンクリートを利用している。壁に開いた穴は、プライバシー保護のための工夫だ。中からは外が見えるが、外からは中が見えない。これはMashrabiyaと呼ばれるイスラム建築の伝統的な格子模様だ。

 図5(省略)の右側のビルは同大学の研究棟だ。こちらは外壁にフッ素樹脂コーティングを施し、内側に気密性の高いパネルを用いて断熱効率を高めている。窓にある斜めの板は「ルーバー」だ。太陽の高度によって、縦のルーバーと横のルーバーを使い分ける構造を採る。建物の色は白いが、光をあまり反射せず、地表の温度を低く保つ。研究棟では屋根に設置した太陽電池モジュールによって、電力需要の30%を満たしており、建物内で使われる温水の75%は太陽熱で作り出している。

 図6(省略)にあるゴツゴツした外観の建物は同大学のナレッジセンター(図書館)だ。屋根が手前に大きくせり出しているため、効果的に日陰を作り出すことができる。このため、建物の内側では太陽熱の影響を考えなくてもよくなり、大きな窓を設置できた。奇妙な屋根の形状は太陽電池モジュールの設置にも適しているという。

使いやすい公共交通機関を追求
 マスダールシティの公共交通機関は、そもそものあるべき姿を追求している。そこに最新の技術を組み合わせた。

 あるべき姿とは利便性のことだ。市内のどの位置からでも200m歩くだけで公共交通機関を利用できるように設計されている。自転車やセグウェイも併用する。

 マスダールシティではガソリンで動く自動車の使用が認められていない。2種類の電気自動車が代わりに使われている。1つが個人用高速輸送機関(PRT)、もう1つが電気自動車(三菱自動車のi-MiEV)の実験的な利用だ。「世界初のゼロエミッション交通網」を自称する。

 PRTは運転手のいないタクシーとして機能する*4)。車内には行き先などを入力するタッチパネルがあるだけで、ハンドルなどは備わっていない。大人4人、子ども2人が乗車でき、最高時速40kmで走行する。各PRTは走行ルートの地図を内蔵し、車輪の回転数を利用して移動距離を積算する他、道路に格子状に埋め込まれた小さな永久磁石によって、位置をキャリブレーションする仕組みを持つ。もともとはフォークリフトの無人運転のために開発された技術(FLOG technology)を利用している。

*4) ただし、1台当たり日本円に換算して1600万円ほどの費用を要するため、導入規模は現時点で1.2kmに限られている。PRTの代わりに次世代路面電車システム(LRT)の導入が検討されている。
卓越した再生エネ技術を表彰

 アラブ首長国連邦政府は、世界各地の優れた再生可能エネルギー技術や持続可能性を高める技術を表彰する「ザイード・フューチャー・エネルギー賞」(Zayed Future Energy Prize)を設けている。運営するのはアブダビMasdarだ。アブダビを再生可能エネルギー研究のハブとして確立しようとする試みの1つといえる。

 1年に1回、総額400万米ドルの賞金を5つの部門に与えている。対象部門は大企業(功労賞)、中小企業(賞金150万米ドル)、非政府組織(150万米ドル)、生涯功労賞(50万米ドル)、グローバル高校賞(5地域に最大10万米ドルずつ)。


  自然エネルギー: 目指すは全てが「0」の世界、未来の建物が実現 スマートジャパン  2014年04月25日

大林組は2014年4月、東京都にある技術研究所で、国内初の「ソースZEB」を実現するための工事を完了したと発表した。ソースZEBは、一般的なゼロエネルギービルよりもさらに進んだ取り組み。土木建築にかかわる全てのエネルギーを0にしようとする同社のマイルストーンの1つである。
[畑陽一郎,スマートジャパン]

大林組は2014年4月、建物が消費するエネルギーを自ら作り出す、国内初の工事を完了したと発表した。運用中の「大林組技術研究所」(東京都清瀬市、図1)の本館テクノステーション(図2)に「ソースZEB」を実現するための工事を施したものだ。

 ZEBとはゼロエネルギービルのこと。建物が年間に消費する一次エネルギー、これと同じ量のエネルギーを建物が生み出すことで、エネルギーの収支を0にする建物を指す。

 ZEBは建設業界全体が取り組むテーマだ*1)。2010年には経済産業省が「エネルギー基本計画」を発表、ここでZEB化の方針が固まった。同計画では「ビル等の建築物については、2020年までに新築公共建築物等でZEBを実現し、2030年までに新築建築物の平均でZEBを実現することを目指す」とある。

 この流れは先進国に共通したものだ。米国では2007年に定められた「エネルギー自立安全保障法」で「Net-Zero Energy Commercial Building Initiative」を定めている。日本よりもさらに長期的な計画であり、2030年までに全ての新築業務用ビルをZEB化するための技術や政策を立ち上げる。2040年には全ての業務用ビルの50%をZEB化、2050年には100%のZEB化を狙う。欧州や英国にも時期や比率は異なるもの同様の取り組みがある。

*1) 国内では戸建て住宅などでゼロエネルギーが実現しつつある。従来スマートハウスと呼ばれていた住宅をさらに効率化し、ゼロエネルギーハウス(ZEH)として各社が商品化している(関連記事)。オフィスは住宅よりもエネルギー消費量が大きい。さらに建物が大きくなるほどゼロエネルギー化が難しくなる性質がある。ZEHよりもZEBの方が難易度は高い。

さらに厳しいソースZEB
 大林組が今回取り組むソースZEBは、ここまでに紹介してきたZEBよりもさらに実現が困難だ。ZEBでは消費エネルギーと同じ量のエネルギーを生産すればよい。ソースZEBでは建物「運用時」の一次エネルギー消費量が対象になる。諸外国の一般的な定義では建物へ一次エネルギーを輸送するために必要なエネルギーや、エネルギーを電力に変換する際のロスも計算に入っている。つまり、ソースZEBでは建物が生産するエネルギーはZEBよりも増える。

 ソースZEBを実現するには徹底した省エネ、それも人手を介さない、建物自体に組み込まれた省エネの仕組みが必要だ。

 大林組のテクノステーションは、ソースZEB化に取り組む以前から、東京都の基準ビルを比較するとかなりの省エネビルになっている。図3(省略)の左端にある基準ビルは延べ床の単位面積当たり年間2577MJ*2)のエネルギーを消費している。テクノステーションは当初からさまざまな省エネ策が組み込まれており、その後も改善を重ねてきたため、2013年度の一次エネルギー消費量(緑)は基準ビルの46%にすぎない。このとき、消費量の約4分の1を再生可能エネルギー(白)が担っているため、実質的な消費量は34%まで下がる。なお黄色の棒は年間の一次エネルギー収支を表している。

 ソースZEB化を終えた後、2014年度の計画値を見ると、再生可能エネルギーが大幅に増える。消費量よりも生産量が増える見込みだ。「余剰分のエネルギーは約100MJになる見込みだ」(大林組)。多数の人々が常時活動するような大規模な建物で本格的なソースZEBが達成できれば、国内初の事例になるという。

 テクノステーションには常時約200人の研究者が活動している。海外でソースZEBに成功したといわれている事例は、大林組によれば使用期間が限定されていたり、利用者が少ない小規模な建物がほとんどなのだという。

*2) 世界の一次エネルギーの90%以上は各種の化石燃料が占める。燃料によって単位となる量も熱量も異なるため、MJ(メガジュール)という単位を用いて統一して扱う。エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)によれば、1L当たり、灯油が持つエネルギーは36.7MJ、A重油は39.1MJ。都市ガス(13A)は1m3当たり46.1MJ、液化石油ガス(LPG)は1kg当たり50.2MJだ。昼間電力は1kWh当たり9.97MJとして扱う。

ソースZEBを支える技術は多岐にわたる
 ソースZEB化を実現するには1つの技術だけでは足りない。大きく3つの分野の技術を生かした。第1が空調や給排水、照明機器の高度な制御と高効率化だ。図4にあるように潜熱蓄熱槽や地中熱利用、太陽熱給湯など、熱資源をうまく使って空調を改善する。「図に挙げたものは主な技術だけであり、他にも断熱など有効な手法を数多く取り入れている」(大林組)。

 第2がコージェネレーションだ。「研究室内にある大型の遠心分離器から発生する熱なども融通している」(大林組)。土木建築用の機械は研究用とはいえ大型だからだ。

 第3が太陽光発電システムだ。図5中央に写るテクノステーションと、周囲の建物の屋上に約1200kW分の太陽電池を設置した。「テクノステーション以外の建物はさまざまな規模の実験設備が設置されており、実験の際だけ、人が出入りする」(大林組)。
どこまでも「0」にこだわる

 同社は2010年9月に完成したテクノステーションをZEBに必要な技術を研究開発する拠点と考えている。例えば、2011年度には「エミッションZEB」を達成している。エミッションZEBとは二酸化炭素(CO2)の年間排出量を0にする取り組みだ。

 一般事務所ビル(二酸化炭素排出量97kg/m2)と比べて省エネで45%、各種の創エネで12%、合計で57.2%削減し、残りの42.8%をカーボンクレジット*3)を購入することでまかなった。2012年度は削減率を64.7%まで高めており、これは国内最大級だという。

 エミッションZEBに続く取り組みが、今回の取り組みを開始したソースZEBだ。さらに先進的な目標もある。「ZEC(ゼロエネルギーコンストラション)」と「LCZ(ライフサイクルZEB)」だ。ZECは大林組が独自に打ち出した指標であり、国内の土木・建築施工において、エネルギー使用量を0にするというもの。2020年の実現を目標としている。

 工期を短縮し、溶接などをなるべく使わない省エネ工法や省エネ建設機械を開発、節電や再生可能エネルギーと組み合わせることで実現する。
 
LCZはさらに包括的な取り組みだ。建物を新しく立ち上げ、運用し、改修し、最終的には解体する。このような建物のライフサイクルを100年にまで伸ばし、全期間を通してエネルギー収支を0にするという同社の独自の取り組みだ。図6にあるZEM(ゼロエネルギーマテリアル)とは資材生産をゼロエネルギー化するという意味。建物にかかわる全てのエネルギーが0になっていることが分かる。

 LCZの目標は2050年。35年後にはこのような手法が一般化していることに期待したい。

*3) 二酸化炭素などの温室効果ガスの削減努力を行った後、避けることが難しい排出量が残る。この残った分量に応じて、温室効果ガスの削減活動に投資するという考え方がある。カーボンクレジットは排出権取引を利用した手法の1つだ。



  自然エネルギー: 灼熱の国に向く再生可能な「太陽熱発電」、数百MWが可能 スマートジャパン  2013年04月19日

太陽エネルギーを直接利用する発電方式は太陽電池だけ。これは誤った常識だ。低コストで電力を得られる集光型太陽熱発電の大規模化が進んでいる。どのような特徴がある発電方式なのか、どの程度の発電量が可能なのか、日本企業の動向は? 現状と将来の姿を紹介する。
[畑陽一郎,スマートジャパン]

太陽をエネルギー源とする発電方式は太陽電池だけではない。「集光型太陽熱発電」(CSP)もある。太陽光を鏡などで集め、熱を使って蒸気を作り、発電する。いわば太陽を使った火力発電だ。

 集光型太陽熱発電所は既に大規模実用化への道を歩んでいる。例えば、2013年3月にはアラブ首長国連邦アブダビに出力100MWの集光型太陽熱発電所Shams 1が完成した。米Googleなどが出資する発電所Ivanpah Solar Electric Generating System(カリフォルニア州モハーベ砂漠)は、2013年内に完成を予定しており、最大出力は392MWとさらに巨大になる。

 安価で可動部がなく、メンテナンスもたやすい太陽電池が普及しているにもかかわらず、蒸気などを使う集光型太陽熱発電所が建設されるのはなぜだろうか。幾つかの理由がある。

 一番簡単な理由は材料コストだ。半導体部品を必要とせず、金属板(鏡)とパイプ、タービン、発電機という高コストではない部材を使うからだ。

 安定した出力が得やすいという理由も大きい。集光型太陽熱発電では、日照が陰っても出力の変動が小さい。日没後にも余熱を利用して小規模な発電を維持できるほどだ。太陽電池よりもピークシフトに貢献できることになる。例えば2011年にスペインのセビリアに完成したGemasolar集光型太陽熱発電所(最大出力19.9MW)は、溶融塩に蓄熱した後に発電する仕組みだ。日没後15時間発電を維持できるため、冬季においても24時間送電が可能だ。

 変換効率でも利点が2つある。まず、極端な高温にさらされる土地では太陽電池の変換効率が寒冷地と比べて下がってしまう。次にシリコン太陽電池は例え品質の高い単結晶を使ったとしても変換効率を30%よりも高めることはできない。しかし、集光型太陽熱発電は違う。太陽光を熱に変える効率は100%に近く、太陽熱を利用した熱機関の効率は最大40%以上にできる。つまり理想的な条件であれば、集光型太陽熱発電は効率40%を超えるということだ。

 集光型太陽熱発電の適地は、年間の日照強度が大きい地域。サハラ砂漠周辺、アラビア諸国、オーストラリア、北米南部などだ。スペインには100MWを超える発電所が10カ所以上あり、国別では最も導入が進んでいる。

 国際エネルギー機関(IEA)の「Energy Technology Perspectives 2012」によれば、集光型太陽熱発電の潜在能力は高く、2030年から2050年にかけて、全世界を合計すると太陽光発電とほぼ同等の発電量を見込むほどだ。

各種方式が競う
 現在主流の集光型太陽熱発電の方式は4種類に大きく分かれる。トラフ式、フレネル式、タワー式、ビームダウン式だ*1)。いずれも太陽光を鏡で集中して液体(熱媒)を加熱する。

*1) このほか、電波望遠鏡のような形状、すなわち直径数mのパラボラ型の鏡(ディッシュ)1枚1枚にマイクロタービンなどを配置したディッシュ式も研究の初期段階にある。

 トラフ式は雨どいのような形をした鏡の中央に液体の流れるパイプ(集熱管)を通して加熱するというもの。アラブ首長国連邦のShams 1はこの方式。鏡のサイズは長さ数m程度のもの。フレネル式はトラフ式と似ているが、鏡が平面状だ。上方にある集熱管を加熱する点はトラフ式と似ている。

 タワー式では可動式の平面鏡を数百~数千枚、円形に並べ、その中央に高さ数十mのタワーを立て、タワーの先端に集熱器を配置する。スペインのGemasolarやカリフォルニアのIvanpah Solar Electric Generating Systemがこの方式を採る。ビームダウン式はタワーではなく、円すい状のミラーを高い位置に釣り、直下の集熱器に光を真上から照射する(ビームダウン)。

 トラフ式は最も歴史があり技術が成熟している。大規模化にも向く。しかし、熱損失が大きい。1カ所に(点状に)光を集中できないため、高温を得にくい。そのため、最高効率が下がる。さらに鏡が固定されているため、太陽高度に応じて光を最大限集めることが難しい。システム効率は15%程度だ。フレネル式は集光倍率が低いため、8~10%とトラフ式よりもさらに効率が劣るが、製造コストを抑えやすい。さらに曲面部分がないため、風の影響を受けにくい。砂漠では大面積の土地を得やすく、強風の影響が大きいため、フレネル式は魅力的だ。

 タワー式はトラフ式、フレネル式とは逆の特徴がある。比較的少ない面積で発電ができ、光を一点に集めて高温が得られるため効率が高い。20~35%程度だ。太陽の動きも追尾できる。その代わり、鏡1枚1枚を時々刻々とコンピュータ制御しなければならない。システムコストが上がるということだ。ビームダウン式はタワー式とほぼ同じだが、光が集まる集熱器が地上にあるため、メンテナンス性に利点がある。

実は先行していた日本の太陽熱発電
 集光型太陽熱発電の実用化では、海外企業が先行している。だが、研究開発では、本来日本が先頭を走っていた。今から32年前の1981年のことだ。当時の仁尾町(現在の香川県三豊市)では、新エネルギー総合開発機構(現在のNEDO)が、世界初の太陽熱発電の実験を進めていた。石油ショックの衝撃から、サンシャイン計画が始まり、その目玉として研究が進んだ。2種類の方式の太陽熱発電システムの開発に成功し、いずれの出力も1000kWに達した。しかし、好天に恵まれる香川県であっても十分な日照量がないことが分かった。装置が巨大化してしまうということだ。このため、研究への公的支援が止まってしまった。

 現在、国内企業による研究開発が再び進み始めている。いずれも日本の国内市場を狙ったものではなく、開発したプラントを海外に輸出することを目指した動きだ。

 集光型太陽熱発電に関心のある企業は、鉄鋼や造船などを得意とする製造業に多い。例えば、JFEエンジニアリングは神奈川県においてリニアフレネル式とタワー式の集光型太陽熱発電を実験できるプラント施設を2011年に建設している。

 2012年には三井造船と太陽建設がアフリカのチュニジアでガスタービンコンバインドサイクル発電とタワー式の集光型太陽熱発電の複合システムの技術実証を開始、これはNEDOの実証事業の一環だ。千代田化工建設は2012年、溶融塩集熱管製造技術を持つシェア最大の企業イタリアArchimede Solar Energyの株式を15%取得、太陽熱発電事業分野を強化した。

 日立造船はフレネル式に取り組む。サウジアラビア海水淡水化公団と協力し、2013年3月から1年間の予定で実証プラントを建設し、実証実験を開始した。熱出力は390kWth。

 同社の技術は「超低設置フレネル式太陽光集光装置」と呼ばれる。特徴は2つ。まず、従来のフレネル式とは異なり、太陽高度に応じて反射鏡の角度と曲面の形状を制御可能だ。これにより、トラフ式と同程度以上、最大80倍の集光が可能だ。フレネル式の欠点ともいえる効率改善に役立つ。次に集熱管を設置する高さが低い。一般にフレネル式は反射鏡の上方に集熱管を設置するが、設置位置が高いことが課題になっていた。日立造船は3.8mに抑えたことが特徴である。耐風強度が高まり、メンテナンス性も向上するという。

 直接太陽光が当たる集熱管ではオイルを循環させ最大340℃まで加熱する。オイルが水を加熱し、200℃弱の水蒸気が発生、これがタービンを回す形だ。既にタービン以降の発電技術を確立しているため、今回の実証実験では水蒸気を発生させる時点までを検証するという。


  法制度・規制: 「ゼロ・エネルギー・ビル」に最高5億円の補助金、BEMSの導入が条件に スマートジャパン  2012年05月25日

再生可能エネルギーの活用や節電対策によってエネルギーの消費量を実質的にゼロにする「ゼロ・エネルギー・ビル」の補助金制度が始まる。新築ビルで30%以上、既築ビルで25%以上のエネルギーを削減することが条件で、高機能なBEMS(ビル向けエネルギー管理システム)も必要になる。
[石田雅也,スマートジャパン]

節電に欠かせないエネルギー管理システムや蓄電システムなどの補助金制度を運営する「環境共創イニシアチブ」(SII)が、新たに「ゼロ・エネルギー・ビル」の補助金制度を5月28日から開始する。オフィスビルのほかに、エネルギー消費量が多いホテルや店舗、病院や学校なども補助金の対象になる。

 SIIが経済産業省からの委託を受けて運営するもので、すでに住宅向けには「ゼロ・エネルギー・ハウス」の補助金制度が5月11日から始まっている。ビルと住宅の双方でゼロ・エネルギーの取り組みを推進するプロジェクトが本格化する。

申請期限は6月29日、補助率は2/3まで
 ゼロ・エネルギー・ビルは、石油などによって作られる再生が不可能な「一次エネルギー」の消費量を、再生可能な太陽光発電などの活用や電力使用量の削減などによって、相殺効果を計算してゼロに近づける(図1)。温室効果ガスの排出量を低減することが最大の目的だ。

 SIIの補助金制度では、一次エネルギー消費量の削減率によって補助金の対象を審査する。新築ビルや増築・改築の場合は決められた計算式による一次エネルギーの消費量を30%以上、既築ビルの場合は過去3年間の実績値の平均から25%以上を削減できることが条件になる。

 ゼロ・エネルギー・ビルを実現するための設備費やBEMS(ビル向けエネルギー管理システム)などの計測装置費、さらに工事費が補助金の対象になり、総額の3分の1まで支給される。ただし節電と発電のための設備が対象で、蓄電システムは対象外である。

 エネルギー消費量の削減率が30%を超える場合には、削減率によって3分の2まで補助率が上がり、1件あたりの上限は5億円と高額に設定されている。補助金の総額は約40億円を見込んでいる。6月29日まで申請を受け付け、補助金を支給する案件は8月上旬に公表する予定である。

4つの基本要件から1つ以上を実現
 経済産業省の試算によると、一般的なビルにおける一次エネルギーの消費量は、床面積1平方メートルあたり年間で2030MJ(メガジュール)とされている。これを電力に換算すると、平均で約65ワットを1年間にわたって使った場合とほぼ同等である。例えば延べ床面積が1万平方メートル程度の中規模なビルでは、平均で650kWの電力を年間に利用した量に相当する。

 これだけのエネルギーを節電と再生可能エネルギーでカバーするためには、さまざまな対策が必要になる。典型的な「ゼロ・エネルギー・ビル」は、太陽光発電や廃熱の利用、エネルギー効率の高い照明・空調・給湯のほか、換気や外壁なども省エネを考慮した設計仕様が盛り込まれる。

BEMSアグリゲータよりも高い制御機能
 では具体的に、どのような設備を導入すれば補助金をもらえるのか。補助金の条件として4つの基本要件と構成要素が挙げられている。このうち最低1つの基本要件を満たす必要がある。

 さらに2つ以上の基本要件を満たしてエネルギー削減率が40%以上になると補助率が2分の1まで、3つ以上の基本要件で削減率を50%以上にできると補助率は3分の2まで上がっていく。

 BEMSを導入してエネルギー消費量をきめ細かく管理・制御できることも補助金の必要条件の1つだ。SIIが4月末から開始した「BEMSアグリゲータ」の補助金制度があるが、その要件よりも高い制御機能が求められる。

 具体的には、複数の建物を含めたエネルギー管理や、気象条件に合わせた機器の負荷制御など、5項目が規定されており、そのうち1つ以上を実現しなくてはならない。補助金を受けてビルを建設した後には年間の実績値を報告する義務があり、その点でもBEMSは不可欠である。


  <第4部・2050年 未来の旅>2.次世代型太陽電池 内外の企業が覇権争い 東京新聞 2008年06月16日

東京・駒場の森の漆黒に包まれた東京大学・瀬川浩司教授(47)の研究室。オレンジ色の小さな板にサーチライトが照らされると、電線をつないだモーターのプロペラが勢いよく回りだした。

 再生可能エネルギーの最右翼である太陽光発電。研究室は、従来のシリコンを原料にした黒いパネルからデザイン性を高め、建築物から生活分野まであらゆる方面への応用を目指す次世代太陽光発電の開発現場だ。

 これまでの太陽光発電は、半導体のシリコンに太陽光が当たることでプラスとマイナスの電極が生じることを原理にしている。そのシリコン不足が日本企業の国際競争力低下の遠因とされた。

 次世代太陽光発電は色素と酸化チタンが原料。色素が太陽光を吸収するとその色素の中にあった電子が酸化チタンに吸収され、電気が流れる仕組みだ。

 瀬川教授は「原料が入手しやすく、小学生でも作れるほど簡単。透明でカラフルな太陽電池もでき、屋根だけでなく、ステンドグラスなどあらゆる用途に応用可能。蓄電池との融合で充電しなくても光が当たるだけで電気がたまる新型電池もできる」と話す。

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 政府は革新的な太陽光発電の技術開発を促し、二〇三〇年までに全世帯の三割に太陽光発電を導入する目標を立てている。

 瀬川教授は「千四百万世帯が対象になる。これを賄うには、安価に大量につくれる次世代型太陽電池が必要。色素を使った太陽電池の試作品のエネルギー効率はまだ低くて数%だが、三〇年を過ぎたころには20%以上にしたい」と展望する。

 瀬川教授の研究室には、電機メーカーはじめ、新日本石油が研究員を送り込むなど、次世代のエネルギーをめぐって企業がせめぎ合う。激しい国際競争の表れだ。昨年の太陽光発電メーカーの年間生産量では、三百八十九メガワット分を生産したドイツのQセルズ社が、七年間一位だったシャープを抜いた。

    □

 三位は中国・江蘇省に本社を置くサンテック・パワー社。前年の倍の伸びを示し、三百二十七メガワット分を生産した。同社は〇六年に太陽光発電の本体部品を製造する日本企業「MSK」(東京・新宿)を買収した。同社の笠原唯男社長は「サンテックは低コストで高性能の製品を開発している。MSKは屋根や壁の建材として使えるデザイン性の高い製品が強みで、相乗効果で欧州や国内に売り込みを図りたい」とする。

 躍進する中国企業。だが、日本企業からは「中国は京都議定書でCO2削減義務がない。片手で先進国から環境対策資金、技術援助を受け、もう一方で切り込みを図る。したたかだ」の声も。

 瀬川教授はこう訴える。「日本でサミットのある今年は、クールアース50を標語にCO2削減に向けて大変な数値目標が出ている。しかし『五十年』を語るなら、着実に長期研究が進められるスキームと予算を政府に求めたい。そうでないと、未来で、米国や中国に太刀打ちできない」
 (温暖化問題取材班)


  太陽光発電 1400万戸目標 政府「30年まで」 全世帯の3割相当 東京新聞 2007年12月31日

政府は三十日、地球温暖化対策の一環として、太陽光発電の普及を進めるため、一般住宅への太陽光パネル設置を現在の約四十万戸から、二〇三〇年までに全世帯の約三割に当たる千四百万戸に拡大する方針を明らかにした。この目標を盛り込んだ「エネルギー革新技術計画」をまとめ、来年の主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)で表明する。一般家庭でも購入できるよう、低コストの新型太陽光パネル開発に向け、内外の専門家を集めた国際研究機関を〇八年度に設立。関連経費として〇八年度予算に二十億円を計上した。

 標準的な三・七キロワットの太陽光発電設備を導入した場合、四人家族の消費電力がほぼ賄える上、地球温暖化対策にもなる。今後はこうしたメリットを享受できる家庭が増えることになりそうだ。

 太陽光発電では、シャープなど日本のメーカーが世界の生産量の約半分を占めるが、海外市場向けが多く国内での普及は遅れている。国際エネルギー機関(IEA)によると、企業も含めた発電容量は百七十一万キロワット(〇六年実績)で、一位のドイツとの差が拡大している。住宅用の太陽光発電設備は二百万円程度と高く、発電コストも含めた低価格化が課題だ。

 このため政府は、エネルギー効率を現在より二−三倍に高めた新型パネルを開発し、発電コストを現在の一キロワット当たり四十六円から三〇年までに七円に低下させ、火力発電とほぼ同水準にする計画。京セラが一〇年度に生産量を三倍に引き上げる方針を打ち出しており、メーカーが増産体制に入れば、初期費用の低下が期待できる。政府としては、住宅用の電力容量(現在は百三十万キロワット)を三〇年までに三十倍に拡大することを目指す。

 新研究機関は、全国の大学や研究所に公募して設置場所を決め、〇八年度中に設立する。太陽光発電を導入する企業向けの補助制度などを活用してビルや工場への設置も広げ、世界最先端の「太陽光エネルギー社会」の実現を図る。



オフグリッド生活


  電気代タダ!東京・団地での「オフグリッド」生活のぞき見 女性自身 2016年05月13日

電力会社の送電網に頼らず、電気を自給でまかなっていくのが『オフグリッド生活』。私がそれを始めて、もうすぐ4年です。電力自由化は、今のところ私には関係ありませんが、自分の使いたい電力を自由に選べる時代が来るのは歓迎すべきことだと思います」

 コードが外され、ピクリとも動かない電力メーターを指さしながら笑うのは、都内に住む藤井智佳子さんだ。オフグリッド生活というと、地方の古民家などで不便を強いられながらの暮らし、という想像を抱いてしまう人も多いかもしれない。しかし、藤井さんがオフグリッドを実践しているのは、東京都内の公営住宅。3階建ての団地群の中で、最上階のベランダに設置されたソーラーパネルが、藤井さん宅の目印だ。

「パネルの発電量は、1日1キロワットくらいです。東京電力の電気代に換算すると、1カ月800~1,000円ほどの料金を自給自足しています。冬場は太陽が低いので、朝7時くらいからパネルに直射日光があたり、発電した電気が余るくらいなんです」

 ホームページ「ソーラー女子」を立ち上げ、各地のワークショップセミナーに招待されるほどの藤井さん。電力を意識したきっかけは、’11年の東日本大震災による、福島第一原発の事故だった。

「原発の建屋が吹き飛ぶ映像を見て、東京で使う電気のために、あんな危険なものを地方に押し付けていたのかと申し訳ない気持ちになって……。電気の知識はゼロだったんですが、少しでも力になろうと思ったのが始まりでした」

 そこでまず手をつけたのが、ソーラーパネルだ。

「知り合いの電気屋さんにお願いして、全部込みで14万円ほどで設置できました。当時はまだ計画停電もあったので、いざというときのためという意識でした」

 ところが、実際にソーラーパネルを導入してみると、小さいパソコン程度なら十分に電力をまかなえることがわかった。これが、藤井さんの“節約魂”に火をつけた。掃除機をやめてほうきとちり取りをつかったり、夜は早く寝て照明を使わないようにしたり、節約に節約を重ねた結果、電気使用料は1,000円を切るまでに。そして’12年9月、冷蔵庫なしの生活を1年間続けたことで、藤井さんは東電との契約を解除。晴れてオフグリッド生活をスタートさせた。

 その後も藤井さんはソーラーパネルを次々に増設。太陽エネルギーの素晴らしさを知ることで、新たな節約にもつながっているという。

「黒く塗ったガラスの筒に水を入れて、太陽に当てておくと、85度くらいのお湯になります。水ばかりではなく、筒にさつまいもを入れると“ソーラー蒸し芋”に、りんごを入れると甘味たっぷりの“ソーラー焼きりんご風”に早変わりします。気が付くと、ガス代も20%ほど安くなっていました」

 電力会社を選ぶ時代から、さらに一歩先の電力自給自足へ。藤井さんにとって、オフグリッド生活は修業のようにつらいものではなく、「節約できて楽しめる」もののようだ。



  電気代ゼロ! 100%自家発電、オフグリッド生活に挑む5人のパイオニアに学ぼう。 eA[イーエ] 2015年06月01日

電気を自分の家で作り出すという発想の住まい。

2011年3月11日の東日本大震災による原発事故。電気のあり方について考え直した人も多いのではないだろうか。電気は有限なもので、それを作り出すには背景に高いリスクもあることを知るきっかけになった。

ひとりひとりが使わない電気をこまめに切る、無駄に使わない、そんな気持ちを持つだけでも違ってくるはずだ。

なかでも、原発事故をきっかけに100%自家発電の家に住む、オフグリッド生活を送る人たちが話題になっている。グリッドとは電力会社の送電網のこと。つまり電力会社の送電を断ち、電気を自給している人たちだ。彼らの決意やどのような生活を送っているのか、またどのような装置があればオフグリッド生活を送れるのか、ブログを通して学ぼう。

実際にオフグリッド生活を送る人たちから学ぼう。

いろいろなことをきっかけに、オフグリッド生活を始めている人たちがいる。よく考えると電力会社から送られる電気がまったくない生活をするってすごいことだと思わないか?

彼らがどのような生活をし、何を思っているのか。電気について一度でも考えたことがあれば、興味を持っている方も多いと思う。

さらに、完全オフグリッドまではいかないけれど、これから自家発電をしてみたいとか、なるべく電気を無駄に使わなくてすむ家をつくりたいという方にも参考になるアイディアがたくさん見つけられるはずだ。

サトウチカさん
自然療法士のチカさんは、サラリーマンの旦那さまと神奈川県横浜市内の新築のお家で完全オフグリッド生活を送っている。きっかけは東日本大震災。屋根の上の太陽光パネル8枚(2kw/hを発電)と再生鉛バッテリーで蓄電(最大27kwhを蓄電)をしてすべての電気をまかなっている。

サトウ家の1日の消費電量は3kwh。日本の一般的な世帯の約1/3だそう。とは言っても、オフグリッドのモットーは「無理せず楽しく、みんなと同じように暮らす」ことなのだとか。太陽光パネル発電の電気の使い方など、おしゃれなナチュラルライフのヒントがいっぱいだ。
ブログ:ameblo.jp/green-note-page

カナコさん

オフグリッドの先駆者で環境活動家、田中優さんの奥さまのカナコさん。2012年末に岡山に移住し、2013年2月に自宅の電線をカット。電気の自給自足を実証されている。

晴れの日、雨の日、それぞれの電気の使い方、発電状況を見ることができ、オフグリッドの楽しさ、大変さがよくわかる。さらに初めての移住というテーマでも参考になるブログだ。
ブログ:ameblo.jp/kanako77

藤井智佳子(ソーラー女子)さん
2012年9月に電力会社との契約をやめて、賃貸アパートのベランダにソーラー発電機を設置。以降、電力自給生活を続けている染織作家の藤井智佳子さん。約1年かけてアンペア数を減らしていき、月800円代まで節電。それをきっかけにオフグリッド生活を始めたそうだ。

公団のベランダは狭く、生活に十分足りるほどパネルを立てられないことから、冷蔵庫とテレビはなしの生活。後悔したこともあったそうだが、電気が常に足りない生活ながら、エアロバイク発電など、自然と暮らす生活の楽しみ方を教えてもらえる。
ウェブサイト:ouen.org/solargirl

高橋雄也さん
高橋さんは24歳のミュージシャン。東日本大震災をきっかけに自身の暮らし方、生き方に疑問を持ち模索し始め、坂口恭平さん「独立国家のつくりかた」のモバイルハウスにインスピレーションを得て、自ら家を建てたオフグリッド男子。

現在は、神奈川県藤野で暮らしている。コンクリートの固定された基礎がないことから住宅ではなく、税金もかからないと言う。太陽光パネルで発電しているので、電気代もタダ。製作日数約20日、材料費69,800円のモバイルハウスは動画で作り方も公開されている。

鈴木菜央さん
鈴木菜央さんはエコ系ウェブマガジンgreenz.jpの編集長。2014年に千葉県いすみ市に土地を購入し、35㎡の中古のトレーラーハウスに家族4人(奥さま、お子さま2人)で住むことに。こちらも高橋さん同様住宅ではなく、車なのでローンはオートローンなのだとか。

完全オフグリッドを目指しているけれど、今はまだ電力量を減らしつつ様子をみる準備段階だそうだ。分母が大きい状態でオフグリッドにすると設備投資にお金がかかってしまうからというのも学べるところ。オフグリッドを目指す様子や熱い思いを知るだけでも楽しいブログだ。
ブログ:suzukinao.com

オフグリッド生活、こんなことから始められる。

5人のオフグリッド生活を送っている方をご紹介した。突然オフグリッドにするのではなく、普段から使用電気量を気にして、少しずつ減らしていくこと、無理しないことが大切なようだ。

いきなりは難しいので、たとえば太陽光パネルを作るワークショップに参加してみたり、ソーラーチャージャーを使って、スマートフォンを充電したり、ラジオを聞いたり、太陽の光があるうちは電気をなるべくつけないようにしたり。そんなほんの小さな心がけが大切だ。限りある資源を大切に使い、ナチュラルライフを楽しもう。


  「つくるだけ」から「使いこなす」へ。再エネ電力のマネジメントで地域づくりを目指す、宮古島の挑戦 Greenz 2015年12月7日


「わたしたちエネルギー」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトだ。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指している。

太陽光発電や風力発電が増えていくと、今までの送電のしくみでは配りきれなくなってしまうことをご存知だろうか?

すでに、東京電力・関西電力・中部電力以外の7つの電力会社が管轄する地域では再生可能エネルギーの発電設備を送電線につなげられないという問題が発生し、普及のボトルネックになっている。

いちはやく問題が顕在化した沖縄県宮古島市では、この課題の解決策のひとつを4年間(2011年度~2014年度)にわたる公共事業「島嶼(とうしょ:大小さまざまな島のこと)型スマートコミュニティ実証事業」で試し、今もチャレンジを続けている。

実験のゴールは、再生可能エネルギーでのエネルギー自給率を上げること。そして、発電に化石燃料を使うことでかかるコストやCO2排出を減らし、地域に新しい仕事を生み出すことだ。

事業の柱のひとつである「すまエコプロジェクト」を中心に、地域ぐるみでエネルギー問題に取り組む宮古島を取材した。

送電線が足かせになって再生可能エネルギーが増やせないってどういうこと?

そもそも電気には、送電網の中でつくる量と使う量が常にバランスしていないと、周波数が変動して品質が下がったり、最悪停電する、という性質がある。

そこで、需給バランスを維持するため、電力会社は太陽光や風力の発電量が増えたら火力や水力の発電量を減らす、という細かい仕事をしている。

ところが、調整のしやすい火力や水力の発電設備の調整能力には限界があり、その限界までしか太陽光や風力を増やせない、というのが送電線の現実だ。

沖縄県宮古島市は、宮古本島を中心とした6つの小さな島々に約5万5000人が暮らす地域だが、2008年にエコアイランド宮古島宣言をして、市役所にエコアイランド推進課を設置。2009年には国の「環境モデル都市」認定を受け、2020年度に2003年度比-23%、2030年度に-44%、2050年に-69%という高いCO2排出削減目標を掲げている。

2015年9月の段階で、4.8MWの風力発電と4MWのメガソーラー、合計16.856MWの小規模のものを中心とする太陽光発電が導入済み。島全体の年間電力消費量は26万2,500MWhで、試算上(※)では12.4%を風力と太陽光でまかない、残りを重油を使ったディーゼル発電に頼っている。
 
4MWの「宮古島メガソーラー実証研究設備」。島きってのリゾートエリア「シギラリゾート」と随一の名勝地「東平安名崎(ひがしへんなざき)」を結ぶ県道235号線沿いにある。合計4.1MWの蓄電設備を併設。太陽光発電や風力発電の「発電量が変動する」という課題を、多すぎるときに蓄電し、足りないときに放電することで解決するアイデアを試している(経済産業省資源エネルギー庁の離島独立型系統新エネルギー導入実証事業)。

また、2011年に立ち上がった「すまエコプロジェクト」は、住民を巻き込んで電力消費量を減らしたり、使うタイミングを最適化するプロジェクト。

これまでの「コンセントにつないで使い、使った分だけ料金を払う」というスタンスを、いつどこでどの部屋でどのくらい使っているのかを見える化することで、「ムダをなくし、使うタイミングを考えて使う」というスタンスに変えていこうという取り組みだ。
 
「すまエコプロジェクト」Webサイト
具体的には、 200世帯の家庭と25の事業所に、電力の使用状況をリアルタイムで知らせるシステムとタブレット端末を設置。どこでどのくらい使っているかを見える化することで、省エネを促した。

また、そのデータを集約して全体での使用状況を把握し、島全体の電力消費量がピークを迎えるタイミングで、省エネの協力依頼メールを送る「ディマンド・リスポンス」を試行。この機能を活用して、太陽光発電や風力発電の発電量が多いときに使い、少ないときは使わない、という動きをみんなでできれば、再生可能エネルギーの導入余地が広がる。

すまエコプロジェクトは当初、住民主体の省エネにより島全体の電力コストとCO2排出量を下げる目的で始まったプロジェクトだが、2012年7月のFIT(固定価格買取制度)開始により太陽光発電が急増。

CO2フリーで地産地消の太陽光発電は、「環境モデル都市」としての目標にアプローチする有効な手段にもかかわらず、需給バランスの問題が足かせとなってこれ以上増やせない、という課題が表面化したことにより、「再生可能エネルギー導入の余地を拡大する」という第3の意義が加わった。

「宮古島は、住民どうしが声をかけあえるつながりの強い地域。みんなでやれば、自給自足も夢じゃない気がする」

実際に「すまエコプロジェクト」に参加した島民の人は、どんな効果を感じたのだろうか。

「琉球王国さんご家」は、島内では知らない人がいないという居酒屋さん。県産食材を半分以上使用している飲食店などを県が認定する「おきなわ食材の店」でもある。オーナーの平戸新也さんは、以下のように話してくれた。

平戸さん みんなで「せーの!」で節電することで、全体としてムダがなくなり島のエネルギー事情の改善に役立つと聞き、参加した。

宮古は、地元の人が多くて人と人のつながりが強い場所。声をかけ合える環境なので、みんなでやればいつかは「自給自足」もできそうな気がする。

続けていけば進歩していくだろうし。すまエコプロジェクトへの参加をきっかけに、16時まではエアコンをつけなくなり、電球もLEDに変えた。行政が旗を振ってくれると、従業員に「節電して」って言いやすい、といううれしさもあった。

「各家庭に再生可能エネルギーと蓄電池を設置することを支援しては?」
「面白いかな、と思って参加した」という主婦の下地克子さんは、すまエコプロジェクトに参加することで、夏場は毎月17,000円から25,000円かかっていた電気代が、年間を通して毎月2,000円から5,000円削減できた。

今は10,000円を目標にしているとのこと。「行政のプロジェクトに参加する、と言うと家族を巻き込みやすい」という点で、前述した「琉球王国さんご家」さんと同様の効果を実感したようだ。

下地さん 電気はコンセントにプラグをさせば使えるもの、となんとなく使っていた意識から、エアコンの待機電力をやめたり、21時になったら外灯を消すことをルール化するなど、意識が変わったことで行動が変わった。そして、行動は2年ぐらいで習慣になることを実感している。

また、エネルギー利用に関して考えるようになったことで、「緑のカーテンを増やしたり、外に出るライフスタイルを推奨しては?」「最終的には、再生可能エネルギーを各家庭で蓄電池に貯めることを支援しては?」といった、さまざまなアイデアが湧いてきたようだ。
 
「前年同月比で、電気代が10万円節約できた。屋根では20kWの太陽光が稼働中。ゆくゆくはオフグリッドにしたい」

下地さんと同様、「節電効果を実感した」と語るのは「障害者総合支援施設 青潮園」の下地徹さんと下地和彦さんだ。「無料の資源があるのだから、使わない手はない」と、10年前から再生可能エネルギー発電に興味を持っていたことがプロジェクト参加の動機。

青潮園は100名の利用者と30名のスタッフが過ごす施設で、年間1000万円近い光熱費を支払っている。タブレット端末によって「どこにどのくらいムダがあるのか」が明らかになり、大きな節減効果が得られた。

実証が始まった2014年7月から年度末までの電気代は570万円。これは、前年同期間の580万円と比べて2%減という実績だ。

下地徹さん・下地和彦さん 大人数で大きな施設を管理しているので、これまでは気づけなかった”うっかり”がたくさんあった。見える化されていれば、窓を開けっ放しでクーラーをつけていたら、すぐにわかる。

施設の屋根では、20kWの太陽光発電システムが稼動中。現在は売電収入を得ており、「ゆくゆくはオフグリッドにしたい」という展望を持っている。

「冷蔵庫とエアコンを買い換えました」「電気を使う量の目標を決めて、3分の1や3分の2に到達するとメールが来た」

5人家族で暮らす嵩里公敏さんは、「タブレットひとつで、家じゅうの家電のON OFFがすぐにわかっておもしろかった」と話す。導入後に冷蔵庫とエアコンを省エネ性能の高いものに買い換え、外出先からもスマホで使用状況をチェック。

家にいる子どもたちがルールを破ってエアコンをつけていることがわかり、電話してやめさせたこともあるそうだ。「コーヒーメーカーの保温機能を使うと、すぐに電力消費量が上がることがわかった」と話すのは、宮城さん。

プロジェクトに参加したことで、就寝後にタイマー機能でクーラーを消すように工夫したり、LEDへの買い替えを検討したそうだ。

宮城さん 毎月の電力消費量の目標に対して、3分の1や3分の2に到達するとメールが来る。これが来ると「どこかに無駄はないかな?」と意識する。

宮古島市役所エコアイランド推進課のみなさん。一列目の左端が事業を担当した三上暁さんだ。

参加した住民の間では、意識の変化が実感できたようですが、事業を担当する宮古島市エコアイランド推進課係長の三上暁さんは、
三上さん 「すまエコプロジェクト」の名前は知られてきたけれど、まだまだ「再生可能エネルギーを増やして電力自給率を上げることにつながる」という意義の部分の理解が進んでいない。
と話す。そこで、事業の一環として開発したのが「すまエコシミュレーター」。これまで電力会社が担ってきた電力の需給調整の仕事を体感するゲームだ。

すまエコシミュレーター。需給バランスを維持するため、太陽光や風力の発電量が増えたら火力や水力の発電量を減らす。電力会社がしている細かい仕事を体験することで、再生可能エネルギーについての理解が飛躍的に深まる。画面左の需要と供給がぴったり同じ高さになるように、画面右の火力発電の発電量をマウスを使ってコントロールするゲーム。

すまエコプロジェクトに4年間、現場で携わった三上さんは、
三上さん 家庭単位で独立するオフグリッドは「わたしたち電力」じゃなくて、”わたし電力”なんじゃないかと思う。

なんでも効率を優先する考え方は好きではないが、電力供給に関しては、家庭単位で発電や蓄電を行うより、地域単位で考えたほうが効率がいい。

地域のみんなで、電気をつくって賢く使いこなすことを理解し、ジブンゴト化することが、わたしたちが目指す「わたしたち電力」だ。
と事業が基盤とする考え方を語る。

宮古島市エコアイランド推進課係長の三上暁さん
この世界観を実現し、再生可能エネルギーで電力自給率を高めるために、地域にひとつ、電力の需要量と供給量を把握し、必要に応じて節電を促したり、使ったほうがいいときは農業揚水ポンプなどの大規模設備を動かす会社をつくる。4年間の実証事業を終えた今、宮古島市が目指すのは、こういった新しいコンセプトの”起業”だ。

起業への展開を一緒に模索しているのは、地元ケーブルテレビ局の「宮古テレビ」。
宮古テレビは、メディア(テレビ・広告)と通信サービス(インターネット・電話)を担う民間企業で、すまエコプロジェクトでは、普及啓蒙と、各家庭で見える化した電力使用データを中央管理システムに集約する通信機能を担った。

いち企業としての成長戦略上、テレビ、インターネット、電話に続く次の一手が必要な時期だったことから、すまエコ事業が宮古テレビにとっての新規事業に成長するかもしれない、という期待もあったようだ。

地元のケーブルテレビ局「宮古テレビ」の大窪将介さん。宮古テレビは、メディア(テレビ・広告)と通信サービス(インターネット・電話)を担う民間企業で、この事業の民間のカウンターパートだ。

大窪さん この4年間で、実証事業の参加者を募るための認知度向上や、一般家庭への電力消費計測機器やデータを飛ばすためのルーターの設置など、地味な作業を積み重ね、なんとか実証にこぎつけて結果が得られたところだ。

普及啓蒙を目的に、宮古テレビの発案で実現した戦隊ヒーロー「雷神ミエルカ」。放映が始まるやいなや島の人気者となり、「すまエコプロジェクト」の認知度向上に大きく貢献した。

新会社(設立は未定)の働きで、沖縄電力は燃料の消費や発電設備の数を削減でき、家庭や事業所は電気代を削減できる。電力会社・家庭・事業所が、削減分の一部をこのサービス会社に支払うことで、この会社は収益化している。

島の送電網に、知的で機動力の高い需要調整機能が加わることで、送電網に入れられる再生可能エネルギーは増え、地域全体のエネルギー自給率が上がり、燃料コストが下がってCO2排出量は減り、新しい雇用が生まれる、という発想。

地域レベルでの「エネルギーのジブンゴト化」がすまエコプロジェクトの収益化に帰結するゴールを見据えながら、宮古島市のチャレンジは次の3年間へと続いている。
 
今、日本全国で地域で地域の電力供給をマネジメントするチャレンジが始まっている。みなさんが暮らす自治体の取り組みに、注目してほしい。


  未来型エコ校舎は日本にもあった! 90%以上の電力自給、CO2排出量6割カットを実現した東工大「環境エネルギーイノベーション棟」にお邪魔してきました Greenz 2015年11月5日


昨年greenz.jpでご紹介した、太陽光発電と蓄電池、そして水素エネルギーをフル活用したオーストラリア・グリフィス大学の環境配慮型校舎。ビル丸ごとオフグリッドを実現した実績が話題となり、多くの反響をいただいた。

そして読者の方から寄せられたのは、「東京工業大学の“環境エネルギーイノベーション棟”を思い出しました」というコメント。国内にもあるのなら、行くしかない! ということで、早速足を運んだその校舎には、日本ならではの高度な技術と綿密な設計がぎっしりと詰まっていた。

電力をほぼ自給自足し、CO2排出を6割もカットしたという日本版エコ校舎の見学レポートをお届けする!

エネルギー分野の中核施設として誕生
国立大学法人・東京工業大学(以下、東工大)の大岡山キャンパスに、太陽電池パネルに包まれた校舎がある。「環境エネルギーイノベーション棟」、略して「EEI(イー・イー・アイ)棟」だ。

これがウワサのEEI棟(東京工業大学ホームページより)

東急線の線路に面している南東側(写真では手前側)は、壁一面、太陽電池パネルがびっちり。車窓からの眺めは壮観だ。

実は東工大には、約230人ものエネルギー分野の教員がいる。この先生たちが2009年に研究組織「環境エネルギー機構」を立ち上げ、同機構の中核施設として企画したのが、このEEI棟だった。

意匠と構造は、学内の建築家(建築学専攻の塚本由晴教授と竹内徹教授)がサポート。企業の協力や文部科学省の補助金も得て、建築中に発生した東日本大震災も無事に乗り切り、2012年に完成した。

理系の研究施設でありながらCO2排出量の大幅な削減を着実に実現してきたEEI棟。その実績が国内外の熱い視線を集め、完成以来、この校舎には毎年1000人を超える見学者が訪れているそうだ。

技術を集結し、CO2の60%減を達成!
グリフィス大学の校舎は文系専用だったが、こちらはバリバリの理系施設。クリーンルームやドラフトチャンバー(排気装置)などが24時間ずっと電力を消費している。

にもかかわらず、EEI棟で使うエネルギーは、ほぼ自給自足できているのだとか。そんなこと、本当に可能なのだろうか。

そのカラクリを、EEI棟の環境・エネルギー設計を担当した東工大大学院教授の伊原学(いはら・まなぶ)先生に教えていただいた。
 
伊原先生は太陽光電池開発やスマートグリッド設計などを専門とする化学工学博士
EEI棟設計の最大の目標は、既存研究棟比60パーセント以上のCO2排出量の削減を実現することだった。

そのために全ての技術を集約し、慎重に発電効率や構造の計算をした。

太陽電池パネルが4570枚も使われているEEI棟の印象的な外観は、「CO2排出量の徹底的な削減」というコンセプトから生まれたものだったのだ。

太陽光発電は昼間のみで、しかも天気次第だが、発電容量計650キロワットものパネルを使って、平均すると電力需要の3割を賄えていると言う。

東工大は東京都内でも指折りの電力消費の多い事業体だ。中でもEEI棟は本来、電力を多く消費する研究設備が多い研究棟だ。

その3割を賄えているということは、ほとんどのビルでは少なくとも5割以上の電力を太陽光発電で賄えると期待できるそうだ。

EEI棟では、太陽光発電の不足を補うために、燃料電池を設置した。火力発電で1キロワットアワーの電気をつくるときのCO2排出量と、燃料電池で同じ量の電気をつくるときの排出量を比べたら、燃料電池のほうが少なかったからだ。

伊原先生によると、太陽光発電と燃料電池でエネルギーを年間平均約90%以上、自給自足できているとのこと。でも、EEI棟の最大の目標はオフグリッドではなく、CO2削減です。既存の技術を組み合わせて、最も排出量が少なくなるように設計されているのが、EEI棟の大きな特徴と言えるだろう。

CO2削減のポイントは「熱利用」
EEI棟のエネルギー効率をさらに上げるため、2015年の春には105キロワットのガスエンジンが増設された。なぜ、燃料電池ではなく、ガスエンジンを追加したのだろう?

燃料電池はガスエンジンよりも効率が高いが、需要に合わせた素早い起動や停止ができないからだ。

それに実は、燃料電池もガスエンジンも、電気だけを使っている間は、CO2削減はそれほど期待できない。

ポイントは熱だ。より効率よく排出量を減らすには、発電に伴う排熱を上手に使う必要がある。いわゆるコージェネレーションだ。

熱利用に伴うCO2排出量まで減らすことを考え、増設されたガスエンジン。しかも、その選択の背景には、季節が巡る日本ならではの事情があった。

燃料電池は付けたり消したりすると効率が落ちるので、常に稼働している。そして、その排熱をEEI棟内に供給している。電線を使って容易に送り出せる電気と違って、熱は運ぶとロスが多いので、その場で利用するしかないのだ。

ただ、暑い夏や寒い冬は、燃料電池から出る熱だけでは足りない。

冬は理解できるが、夏にまで棟内に熱をめぐらせたら、大変なことになりそうな気がする。でも、「夏にこそ熱は必要」と伊原先生は続ける。

夏は、熱を使って冷水をつくっている。吸収式冷凍機(打ち水と同じように水が蒸発するときの気化熱を利用して冷温を得る仕組み)で効率良く水を冷やし、冷たい風をファンで各フロアに送って空調としている。また、湿度を下げる際にも熱が必要だ。

だから年中、熱は使う。でも、常に稼働する燃料電池を増設したら、春や秋に熱が余り、無駄になってしまる。

そのため、EEI棟では、燃料電池は年間を通して必要最低限の分しか持たず、付けたり消したりしやすいガスエンジンを追加するという選択をしたとのこと。

それにしても、なんと細かい計算と調整だろう。四季のある日本で最大限にCO2を削減するためには、季節ごとに電気と熱のエネルギー需給バランスを見て、最も効率が良い組み合わせを割り出す必要があるわけだ。

これを、いちいち人が計算して手動で設定を変更していたら大変だ。全体を自動管理できるシステム(後述)が開発されたのも納得。

自然エネルギーの利用技術や人工光合成などの研究者が結集しているEEI棟のラボは、異分野融合型で間仕切り無しのオープンなつくり(教官には個室も)。何をやっているのかが見えたり気軽に会話できたりするのが、良い刺激になっているそうだ。なお、廊下との仕切りは古い図書館の本棚のリユースだった。

太陽光パネルの角度ひとつにもひそむ周到な設計
まるでビルが太陽電池パネルのコートを羽織っているようなユニークないでたちと、これまでにないエネルギー設計が高い評価を得て、2012年にはグッドデザイン賞も受賞したEEI棟。その太陽光パネルにも、ただ張り巡らせただけではない、こだわりの設計が施されているようだ。

EEI棟の太陽電池パネルは、外壁に直接付いているのではなく、太陽に向かって少し傾斜した「ソーラーエンベロープ」と呼ばれる外部構造に付いている。
 
パネルが貼り付けられているのが「ソーラーエンベロープ」。建物とパネルの間の空間を風が吹き抜けるため、パネルの温度上昇による発電効率の低下を防げる。キャットウォーク(細い廊下)があり、メンテナンスも容易だ。

細長いクサビ形の敷地を活かし、昼の間ずっと太陽光を受け止められるような形の建物にした。南側の広い壁面から屋上を通って西の壁面側に沈む太陽の動きを追えるような位置に、パネル付きの平面がある独特の形なのだ。

パネルに壁全体が覆われた建物の中は真っ暗になりそうだが、それを防ぐ工夫については、伊原研究室の大学院1年生の高澤千明さんと村上和生さんが教えてくれた。
 
EEI棟の中を案内してくださった高澤さんと村上さん。昨年度から東工大に入った高澤さん(左)は、EEI棟を初めて見たとき、「こんなのあるんだ~!」と圧倒されたそうだ。

面積的には垂直に並べたほうが、より少ない太陽電池パネルで同等の発電ができる。でも、壁をパネルで覆って、暗いからと照明を増やしたら、省エネではなくなってしまう。

だから、学生が出入りする研究室のフロアと、むしろ遮光したい実験室のフロアを分けて、研究室フロアには光が入るように、パネルを敢えて斜めに固定して設置してある。

なるほど。それで、EEI棟の南面はパネルの付き方が違うフロアが交互に重なり、しましまのデザインになっていたのだ。

その他、EEI棟(地上7階、地下2階)には、通風や換気や採光や断熱など、建物全体にCO2削減のための念入りな設計が施されていた。廊下や室内のLED照明も、人感センサーや照度センサーが作動して適度な明るさに自動調整されている。

窓は二重窓。断熱&省エネはもちろん、線路が近いため防音にも役立っている。空調には、排熱に加えて、年中ほぼ一定温度が保たれている地下の「地中熱」が使われている。なお、夏は外気温が23℃を下回ると、基本的にエアコンは付けずに窓を開けるというルールもあるそうだ。

キャンパス丸ごとエネルギー管理
注目すべきはEEI棟だけではない。東工大の大岡山キャンパスは約245平方メートルもの敷地に複数の校舎や施設棟が点在しているが、その全ての建物のエネルギーが、なんと一括管理されている。いわゆるスマートグリッド(賢い電力網)でつながっていて、キャンパス内で電力を融通し合っているのだ。

そのために開発されたのが、「エネスワロー」という画期的なアプリケーション。太陽電池や燃料電池、空調機器など、さまざまな設備のデータを集約し、分散した電源を制御している。
 
EEI棟の入り口にある「エネスワロー」の見える化パネル。いつでもリアルタイムで発電量や消費状況をチェックできる。

ネーミングの由来は、東工大のシンボルマークでもあるツバメ。東京ヤクルトスワローズとは関係無いそうだが、先生は、ちょうどスポーツにたとえて説明してくださった。

サッカーなどと非常によく似ている。各エネルギー機器が選手であれば、エネスワローは監督。ポジションによって選手の得意な部分は異なる。例えばフォワードの本田選手が11人いても勝てるわけではないけれど、本田選手自身の能力が上がる必要もある。

エネスワロー開発の目的は、個々の能力向上に加えて、みんなの力で勝っていこう、効率を上げていこうということだ。

太陽電池や燃料電池、蓄電池、系統連系した外部電力といった選手を、うまく使うのがエネスワローの役割。この技術は、災害時の停電のときにも活かせると、伊原先生は言う。
 
伊原先生たちはEEI棟のエネルギーシステム設計で、「2014年日本建築学会作品選奨」を受賞した。エネスワローはNTTデータなど数社と共同開発された。

いざ停電が起きれば蓄電池の出番。でも、1時間ほどで全部を使い切ってしまう。自家発電できる太陽光発電や燃料電池、ガスエンジンが頼りだが、電力の供給と消費のバランスが崩れると、電圧が保てず使えない。

こういった電力需給のバランスを見つつ、建物を上手に自立させることができるのが、エネスワローの特徴だ。

この災害にも強いシステムを日本に広め、いずれは世界のスタンダードにしていくことが、伊原先生の研究グループの願いなのだそうだ。

EEI棟をオフグリッドやR水素にしなかったのは、なぜ?
グリフィス大の校舎は、自然エネルギーと水素を活用したオフグリッドのR水素ビルだった。一方、東工大のEEI棟は、再生可能な自然エネルギーと再生不可能な化石エネルギーをミックスして使っている。その理由について、伊原先生はこう語る。

水の電気分解で得た水素を燃料電池に持って行く方法では、確かにエネルギーを蓄えることはできる。でも現在の技術では、電気分解の段階で効率がぐんと下がり、そこから燃料電池で発電するときに、また効率が少し下がってしまう。

それであれば、現時点では、一次エネルギーの天然ガスから水素を取り出して燃料電池に送ったほうがいいだろうと判断したのだ。

全てはCO2排出量を最大限カットするために、綿密な計算をして決めた。ただ、将来H2による蓄エネルギーの技術開発が進めば、導入したいと考えている。

あくまで「CO2排出量」にこだわって、既存技術の組み合わせを比較した結果、たどり着いたのが現在のスタイルとのこと。そしてもうひとつ、伊原先生が重視したのは、普及を見据えた「コスト」だ。

環境負荷を下げることも大切だが、普及のためには、コストも大切だ。

オフグリッドにするなら、フロア数を減らして電力需要を減らす必要があるが、土地代は同じなので、コスト的に厳しくなる。燃料電池の台数を増やせば発電量は増えるが、高価だし、熱が余り、かえってエネルギー効率が悪くなってしまう。

理工系の大学として、エネルギー的にもコスト的にも見合う、近隣地域にも導入が可能なレベルの建物を検討した。

実際、EEI棟だけで、年間約3000万円もの光熱費が浮いているそうだ。建築や設備に掛かった億単位の初期投資も、メンテナンス費用を含め、おそらく20年以内に回収できるのだとか。CO2削減を最優先にした上でのコスト重視の設計が功を奏している。

というわけで、EEI棟は今の形に落ち着いたわけだが、もしも燃料電池がとても安価になったり、太陽電池の発電効率がぐんとアップしたりすれば、話は変わってくる。

私の研究室ではプラズモニックという次世代型の太陽電池を開発研究中で、目標とする発電効率は32パーセントぐらいだ。これが実現すれば、今の約2倍の効率だから、状況は一変するだろう。

確かに、技術は日進月歩だし、化石燃料の価格も流動的だ。枯渇しかねない化石燃料が安価に入手できてしまう陰では、世界で年間200兆円もの補助金が動いているとも言われている(国際通貨基金の資料より)。

これからの技術革新や政策の変更によって、計算の前提となる諸条件はガラリと変わっていきそうだ。
 
村上さんも高澤さんも、太陽電池や燃料電池の開発に打ち込む現役の研究者です。村上さんが手にしているのは、発電効率を将来ぐんと上げるかもしれない謎の赤い試薬。その正体は、なんと金だそうだ。(色のワケは、金のナノ粒子が光に反応して振動し緑色を吸収して……以下略!)

今後の伊原研究室の高効率発電技術の開発成功に、おおいに期待したいところ。インタビューの最後に、自然エネルギーの可能性について、伊原先生のお考えをお聞きした。

「自然エネルギーを最大限入れていく努力をすべき」というのが、私の考えだ。
もちろん、いろいろ我慢してまで入れたくないという人もいるだろう。だからこそ、このEEI棟のように分散した小さな電源をミックスして、できるだけ平準化する。つまり、エネスワローのような技術で、ばらつきを無くしていくことが大事だ。

この「平準化」こそ、自然エネルギーの普及に不可欠なキーワードと言えるだろう。
2015年6月には、伊原先生たちのアドバイスを受けて、信州大学が新しい環境配慮型施設(国際科学イノベーションセンター)を誕生させた。エネスワローは導入されていいないが、太陽光発電がふんだんに取り入れられたビルだ。

全国の大学にエコ校舎が増え、そこで研究する学生や先生から画期的なアイデアが飛び出し、さらに上をゆく校舎が建設される。そんな動きが加速し、キャンパス発の未来型建築が街にも広がっていったら楽しい。

人権に対する罪


  米、金正恩氏に初の制裁 人権侵害で非難 CNN 2016年7月7日  

ワシントン(CNN) 米政府は6日、北朝鮮の国民に対する人権侵害にかかわったとして、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長をはじめとする指導部の11人に対する制裁を発表した。

米政府が金氏個人を制裁の対象としたのは初めて。北朝鮮による悪名高い人権侵害の最終責任は金氏にあると指摘、「金正恩氏の下で北朝鮮は何百万もの人民に対し、法に基づかない処刑、強制労働、拷問などの耐えがたい残虐行為や苦難を負わせ続けている」とした。

米財務省によると、制裁に基づいて米国の管轄下にある資産を凍結するほか、米国人と制裁対象の人物との取引を禁止する。

国際金融機関の多くも米国と取引するために、制裁対象の人物との取引は避ける見通し。

強制収容所を統括しているとされる人民保安部と同部トップも制裁対象に加えられた。収容所では拷問、処刑、強姦(ごうかん)、飢餓、強制労働が横行していると伝えられる。

米当局者は記者会見で、新たな制裁が「世界的な波及効果」をもたらし、制裁対象の人物や機関と世界の金融機関との取引が一層難しくなることを期待すると語った。北朝鮮の高官多数を名指しするのも今回が初めてだとしている。

さらに、今回の制裁が一助となり、北朝鮮政権の中堅から下層部がブラックリストに載ることを恐れて人権侵害を思いとどまるかもしれないとの期待を示した。

米国は北朝鮮の核実験やミサイル実験に対して既に重い制裁を科しているが、人権侵害を理由とする制裁は今回が初めて。

これに合わせて米国務省は、北朝鮮の人権侵害や弾圧に関する報告書を発表した。


  チベット族の著名映画監督、警察に拘束後入院 読売新聞 2016年6月30日  

【上海=鈴木隆弘】中国映画監督協会は29日、チベット族の著名な映画監督ペマ・ツェテン氏が、公共秩序を乱した疑いで警察に拘束されたとの声明を発表した。

 具体的な拘束理由は明らかになっていない。同氏は25日、青海省の西寧空港で警察に拘束され、その後、体調を崩して27日に入院した。病院で体に傷やあざが確認されたとの情報もある。同氏はチベットに関する作品で知られ、国内外で受賞歴がある。


  レディー・ガガ、ダライ・ラマと平和を語る BLOGOS ローリングストーン日本版 2016年06月30日  

チベット仏教の最高指導者のダライ・ラマが、摂食障害、自傷行為、そして自殺についてレディー・ガガと語った。

レディー・ガガは6月26日、ダライ・ラマ14世と会談し、その模様はフェイスブックのライブ動画で放映された。20分ほどの会話の中で、レディー・ガガとダライ・ラマは、優しさと思いやりの力と、心の平穏を見出すこと、そして個人的な問題で苦しむ人々へのダライ・ラマの智慧について語り合った。

「自己否定、摂食障害、中毒、自傷行為、そして自殺の問題を抱える若い人々をどのようにお救いになりますか?」とガガはダライ・ラマに尋ねた。精神的指導者は、この時代にあって重要なのは、物質主義に囚われないことと「我々の生の一部としての思いやり」だと説明する。「あなたの心の姿勢が大切なのです」と、ラマは言う。「あなたの心の姿勢は、自信と未来を見る力で安定するのです」

「つまり、おっしゃっているのは、他人を慈しみ、思いやりの心を持てということですね。それが目的意識をもたらす。そしてそれは孤独感や疎外感を和らげてくれる。だから私たちは皆すべてつながっているということが分かる」とガガが加えた。

フェイスブックでライブ中継されたこのガガのインタビューは、放映から約300万人が視聴しているが、ラマはこれを見ている若者たちに向けてメッセージを続けた。「未来は、若い世代に委ねられています。過去は、誰にも変えることはできません。未来は、それでもやって来ます。ですから、そこには変化の可能性があるのです」と彼は言った。「若い世代は、今よりも健全な環境を作らなければならないのです」。


  レディー・ガガの楽曲を放送停止 中国当局が通達 ダライ・ラマと面会で締め出し 産経ニュース  2016年06月29日

【北京=西見由章】訪米したチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世と米人気歌手レディー・ガガさんとの面会が波紋を広げている。ガガさんが面会の様子を交流サイト(SNS)に投稿したところ、中国人とみられるユーザーから「(ダライ・ラマは)イスラム国のテロ分子と同じ人物だ」などと非難が殺到。中国当局側はメディアを通じ中国市場からの“締め出し”もちらつかせている。

 AP通信によると、ガガさんは26日、米インディアナポリスで開かれた討論会で、ダライ・ラマと人種問題などをテーマに意見交換。ガガさんがその様子を撮影した写真や動画をフェイスブックなどに投稿したところ、「もうファンはやめた」「中国人の気持ちを考えていない」といった書き込みが相次いだ。

 中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は29日、全国人民政治協商会議で宗教政策を担当する朱維群主任の「西側の一部の芸能人や企業家は、ダライとの面会で騒ぎを起こそうとしているが、中国民衆の反感を引き起こすだけだ」と牽(けん)制(せい)する談話を掲載した。

 一部の香港メディアは中国共産党中央宣伝部などが国内メディアに対し、ガガさんの曲の放送を直ちに停止するよう通達を出したと報じた。

 中国当局はダライ・ラマを「チベット独立主義者」として敵視。中国外務省の洪磊報道官は27日、「国際的な人物は(ダライ・ラマの)本性をしっかり認識してほしい」と主張した。ダライ・ラマはチベットの高度な自治を求めているが、独立運動は行っていない。


  中国、ガガさんをけん制 ダライ・ラマと意見交換 産経ニュース 2016年06月27日

AP通信によると、米人気歌手レディー・ガガさんは26日、米インディアナポリスで開かれた討論会で、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世と人種問題などをテーマに意見交換した。これに対して中国外務省の洪磊副報道局長は27日の定例記者会見で、ガガさんの名指しは避けつつ「国際的な人物は(ダライ・ラマの)本性をしっかりと認識してほしい」とけん制した。

 洪氏は、ダライ・ラマは国際社会で「チベット独立を宣伝している」と非難した。中国はこれまでも、ノーベル平和賞受賞者でもあるダライ・ラマを「チベット独立主義者」と見なして敵視し、ダライ・ラマを支持するミュージシャンの中国公演を中止に追い込むなどしている。

 討論会は全米市長会の会合の中で行われ、ダライ・ラマは基調講演も行った。
(共同)


  ガガさんとダライ・ラマ14世が会見、中国ネットユーザーは激怒 AFPBB News 2016年06月27日

6月27日 AFP】米歌手のレディー・ガガ(Lady Gaga)さんが27日、訪米したチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ(Dalai Lama)14世とのツーショット写真をインターネット上に投稿したところ、中国のソーシャルメディア・ユーザーたちの間で怒りの声が爆発している。

 チベット仏教の最高指導者であり、ノーベル平和賞(Nobel Peace Prize)受賞者のダライ・ラマ14世はインディアナ(Indiana)州で開かれた全米市長会議(United States Conference of Mayors)に出席し、この場でガガさんと会った。 

 しかし、ガガさんが2人で撮影した写真を画像共有サービスのインスタグラム(Instagram)に投稿すると、罵倒のコメントであふれかえった。

 あるユーザーは、「中国人は今、あなたがビンラディン(国際テロ組織アルカイダの元指導者)と握手をしているように感じている」と書き込んだ。「彼女(ガガさん)が中国のテロリストを敬愛していることの証拠。彼女はそもそも中国のファン、いや中国人全員を見下している」という投稿もあった。

 一方、AFPが中国の洪磊(Hong Lei)外務省報道官に、2人の会見は中国当局とガガさんの関係を悪化させないか尋ねたところ、洪氏はガガさんが誰かを知らなかった。「それは誰か?」と質問し返した洪氏は、ダライ・ラマ14世は「チベット独立政策を世界に売り込んでまわっている。人々が彼の本性を見抜けるといいのだが」と語った。

 現地紙インディアナポリス・スター(Indianapolis Star)によれば、全米市長会議でのダライ・ラマ14世の基調演説は未来への希望に関する内容で「思いやりある世界を実現するために慈悲の心、人類愛を広める上で米国が指導的立場の国となる時がやって来た。私が生きている間に実現できると思うが、今すぐ努力を始めなければならない」と語った。


  【文革半世紀 第2部(4)】 数多くの冤罪に怒り 死刑牢から生還した男「死んだ仲間を後世に伝えるのが私の使命」 産経ニュース  2016年06月23日

文化大革命(文革)始動後の1968年夏。北京にある名門、中央美術学院の大学生だった張郎郎が逮捕され、「死刑牢」に入れられた。当時の中国の裁判は一審制で、死刑牢に入ることは死刑確定とほぼ同意義だった。

 毛沢東夫人、江青を批判したことを意味する「党中央指導者に悪辣(あくらつ)な攻撃を加えた」罪などに問われたが、納得しなかった。「江には毛沢東との結婚前、別の恋人がいた」などと、両親から聞いた話を仲間にしただけだった。

 張の父親は中国共産党の古参幹部、張●(=にんべんに丁)。有名な芸術家でもあり、中華人民共和国の国章の設計者として名高い。母親は首相、周恩来の秘書だった。文革により特権階級から地獄に突き落とされたのだ。

 「今にして思えば、党中央の権力闘争に巻き込まれていた。江青らが父に近い老幹部たちを失脚に追い込もうとしていた」

 70年5月、張は死刑牢から出された。彼の母親を知る周恩来が「生き証人を残せ」と指示したのが理由のようだ。さらに刑務所で7年以上を過ごし、文革終了後の77年に出獄した。張は70歳を超えた今も健在だ。
   
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 「お前は国を裏切った」 取り調べで張を怒鳴った担当警察官は、高級幹部の子弟である「太子党」の仲間で幼なじみの兪強声だった。元第1工業相、兪啓威を父親に持ち、国家安全省の局長級幹部まで出世したが、86年に多くの国家秘密を携えて米国に亡命。本当の意味で国を裏切ったのは彼の方だった。強声の弟、兪正声は現在、共産党最高指導部で序列4位の全国政治協商会議主席を務める。

「少年時代の仲間たちは、みな浮き沈みの激しい人生を送っている。この国に生きていると、何が正しいのか、何が間違っているのか分からなくなる」。張は苦笑した。

 文革は数え切れないほどの冤罪(えんざい)を生んだとされる。処刑された政治犯の数についての統計はないが、断片的な資料として、70年2月から11月の10カ月に全国で28万5000人が「反革命」で逮捕されたという統計がある(中国国情総覧)。そのうちの多くが処刑されたとみられる。
   
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 張が死刑牢で出会った人物のほとんどが政治犯だった。中でも「反文革の闘士」といわれた遇羅克は最も印象に残っているという。知識人を両親に持つ遇は、受験で清華大学の合格ラインに達したにもかかわらず、「出身が悪い」との理由で入学が認められなかった。党幹部の子弟や労働者家庭の出身者が重要視されていたからだ。

 遇はこうした血統主義に反旗を翻し、書いた論文を北京の大通りに壁新聞として張り出した。「党に悪辣な攻撃を加えた」との容疑で逮捕されるまでに、そう時間はかからなかった。

 張によれば、死刑牢に入れられた人の大半は頭の中が真っ白になり、激しく動揺してしまう。しかし、遇は詩を書くなどして最後まで取り乱すことはなかったという。

 「世の中の理不尽さと戦う勇気を持っていた。死刑牢の中で最も尊敬を集めていた」。張がそう評する遇は70年3月、27歳の時に処刑された。

 一方、出獄後に名誉回復された張は母校で数年間、教鞭(きょうべん)を執った後、香港を経て米国に渡り、米国の国籍も取得した。現在は評論家として米中両国を往復する生活を送っている。

 「死刑牢での経験や、死んだ仲間たちのことを後世に伝えることは、私の使命だと思っている。あのような時代を二度と繰り返さないために」。張は語気を強めた。   (敬称略)


  【文革半世紀 第2部(3)】 追放された産経の柴田記者「これは権力闘争だ」 中国の実態を壁新聞から看破  一党独裁のいまも同じことが起きる 産経ニュース  2016年06月22日

防寒帽とオーバーに身を包み、凍りそうになるボールペンの先に息を吐きかける。「あれは何という字か」。地方から来た紅衛兵と肩を寄せ合い、読みにくい字を尋ね合い、メモをとった。

 北京支局長を務めた柴田穂(1930~92年)が67年秋の帰国直後、当時のサンケイ新聞で連載した「わたしは追放された」の一場面だ。柴田が書き写したのは北京市内に連日、張り出された壁新聞だった。

 「この国はどうなっていくのだろう」。当時高校生だった60代の女性も毎日、そんな思いで北京大学などに出かけて壁新聞を読んだという。「政治が激しく変化し、指導者が突然、失脚することがよくあった。壁新聞は当局の発表に先駆けて動向を伝えていた」

 地方出張も中国共産党幹部のインタビューも許可されなかった柴田は、始動したばかりの文化大革命(文革)の実像に迫るべく、壁新聞を書き写し続けた。文革支持派と実権派が激突した「武漢事件」(※1)の一報を人民日報が1面で伝えたときも、壁新聞は前もって伝えていた。


「壁新聞をみていなかったならば、一体何が起こったのか見当もつかなかったろう」。柴田は連載で振り返っている。

   ■    ■

 「一大権力闘争の開始だ。1面トップ!」

 文革開始直後の66年6月。共産党の重鎮だった彭真(※2)が北京市長を解任されたというニュースが流れたとき、東京の外信部記者だった柴田は即座にこう叫んだといわれる。

 その3カ月後、北京支局長として中国に赴任して文革の進行を活写した。しかし、柴田はその核心を突く報道のために中国から追放される。1年後の67年9月のことだった。

 その後、産経新聞は31年にわたり、北京に常駐記者を派遣できなかった。二度と中国で取材することができなかった柴田は後にソウルに赴任、韓国語を学んで朝鮮半島の専門家となった。

 共同通信記者として柴田と親交があり、産経新聞の中国総局開設後に総局長を務めた伊藤正は、「中国語が堪能で、何よりも記者としてセンスはすばらしく、予見も分析も群を抜いていた。本人は中国報道に携われないことを悔しがっていた。日本にとって大きな損失だ」と語った。

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 日本の“進歩派”論壇がもてはやした文革。しかし、柴田はいち早く本質を見抜いていた。先の連載でも、文革とは「劉少奇氏を頂点とする“党内実権派”打倒の政治闘争である」と言い切っている。

 だが、朝日新聞は67年8月の社説で、文革について「積極的な意義をも、無視するわけにはいかない」とし、「派閥争い的な意味での権力闘争とみる考えかた」には、賛同しがたいと書いていた。

 党副主席だった林彪(※3)の失脚についても、柴田が71年11月26日付で「ほぼ確定的となった」と書いたのに対し、朝日は同年12月4日付でも、「党首脳の序列に変化があったのではないか、と断定するだけの根拠は薄い」としていた。

  中国の文化大革命(文革)について、朝日新聞などは「“道徳国家”ともいうべきものを目指す」(1966年5月2日付社説)といった見方を示してきた。影響を受けた日本の学生らは文革に好印象を抱き、毛沢東を偉大なる指導者だと持ち上げた。紅衛兵のスローガン「造反有理」などを合言葉に、日米安保やベトナム戦争などに反対する運動を展開する学生もいた。

しかし、当時の中国で文革の惨状を目の当たりにした日本人は、国内の学生らと全く違った印象を持つ。

 「紅衛兵たちが、校庭で学校の先生たちに殴る蹴るの暴行を加えていた。尊敬する先生たちは悲鳴をあげて逃げ回っていた。何が始まったのか全く理解できず、息をのんでみていた」

 北京の芸術系大学に留学した日本人女性は66年夏、学校のトイレに隠れて、窓から目にした光景が今も忘れられない。

 教師に対する批判大会やつるし上げは当初「中国の内部問題」とされ、外国人留学生には伏せられたが、やがて当局は気にかけなくなり、学校中で毎日のように暴力沙汰がみられるようになった。授業はなくなり、教師たちは雑巾などを持たされてトイレ掃除をさせられた。

 「この国ではおかしなことが起きている。こんなことをして社会がよくなるのか、人民は幸せになるのか」。答えを見つけたくて、必死で毛沢東の著書を読んだが納得できなかったという。日本の左翼活動家の家庭に育ち、社会主義中国や毛沢東に好印象をもっていたこの女性は、やがて中国共産党に幻滅した。

■    ■

 文革の異様さをいち早く見抜いた日本の文化人もいた。作家の川端康成、石川淳、安部公房、三島由紀夫の4人は文革開始から9カ月後の67年2月28日、「文化大革命に関する声明」を連名で出した。

 「時々刻々に変貌する政治権力の恣意(しい)によって学問芸術の自律性が犯されたことは、隣邦にあって文筆に携はる者として、座視するには忍ばざるものがある」。声明文は三島由紀夫が起草した。

 文芸界の大御所、郭沫若が「私が以前に書いた全てのものは、厳格に言えば全て焼き捨てるべきで、少しの価値もない」と自己批判した内容が日本に伝えられた。また、65年に中国作家代表団の団長として訪日し、日本の作家らと親交を深めた北京市文連主席の老舎が帰国後、消息を絶ち、連絡が取れなくなったことで、三島らは中国で学問・芸術の自由が圧殺されていると判断したようだ。

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 当時の日本には伝えられていなかったことだが、三島らの声明文が出る前の66年8月、紅衛兵から暴行を受けた老舎は、北京郊外の湖で入水自殺していた。老舎同様、文革中に自殺した作家や芸術家、スポーツ選手、俳優などの著名人は少なくとも数百人に上ることも、後に明らかになった。

 中国の改革派知識人は、「中国全土が狂気と破壊と虐殺で満ちていたとき、当局の宣伝にまどわされず、冷静なまなざしで真実を書き続けた柴田穂記者や、隣国の言論・芸術の圧殺に声をあげてくれた日本の作家たちに敬意を表したい」と語り、こう続けた。

 「一党独裁体制はいまも続いており、この国でまた文革のようなことが起きる可能性がある。これからも人権問題などに関心を持ち続けてほしい」(敬称略)

【用語解説】

※1武漢事件 1967年7月、武漢で軍を巻き込む抗争から文革支持派が軟禁、拉致された事件。被害者は18万人ともいわれる。

※2彭真(1902~97)51年から北京市長を務め、66年に失脚。復権し長老の一人として活躍した 

※3林彪(1906?7~71)軍人出身。55年に元帥。毛沢東の後継者に指名されたが毛と対立し、海外逃亡中に墜死。


  【検証・文革半世紀(1)】 「黒い懐刀」の異名持つ男の復帰が示す習近平政権の未来…「恥を捨てねば生き残れなかった」嵐は再来するか 産経ニュース  2016年05月21日

4月24日、上海市中心部で盛大な葬儀が営まれた。400人が参列し、祭壇を無数の白い花が囲んだ。生前、多くの権力者を追い落として「黒打手」(黒い懐刀)の異名を取った男は、30年近く世間と関係を断った後、再び表舞台に現れたばかりだった。男の名は戚本禹(せき・ほんう)(84)。毛沢東の秘書を務め、35歳で中国共産党の要職に抜擢(ばってき)された戚は、文化大革命(文革)の推進者だった。

 劉少奇(※1)の批判論文を党機関誌に発表し、失脚に追い込む急先鋒(せんぽう)となった。党最高幹部が居住・執務する中南海に紅衛兵(※2)を入れ、指導者だったトウ小平らをつるし上げた。

 1983年、戚は文革の責任を問われて懲役18年の判決を受け、共産党の党籍も剥奪された。出所後、上海市内で偽名を使いひっそりと暮らしていたが、「時代」が彼を呼び戻す。

 講演や執筆を通じて文革の正当性を主張する一方、戚を断罪したトウ小平が主導する改革開放路線(※3)を、「革命を裏切った修正主義」と痛烈に批判した。

戚が活動を再開したのは2012年秋。習近平が党総書記に就任したのとほぼ同じ時期だ。

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 赤い嵐。そう呼ばれる文革は、1966年から約10年にわたり中国全土で吹き荒れた。文革直後の高官によると全人口の9分の1に当たる1億人が迫害され、約2千万人が死亡、政府幹部の75%が失脚した。

 東北部に下放され重労働を強いられた作家、梁暁声は、「強大な政治圧力の中で、人々は良識だけでなく羞恥心すら捨てなければ生き残れなかった。中国の歴史の中で最も暗黒の10年だった」と振り返っている。

 毛沢東の死去に伴い、文革を推進した十数人の中心メンバーは反文革派に一網打尽にされた。筆頭副首相だった張春橋は獄死、毛夫人の江青は自宅で首をつって自殺した。多くが悲惨な末路を迎えたが、戚だけが習近平の時代に再び脚光を浴びた。

 戚は江沢民、胡錦濤には否定的だったが、習近平だけは高く評価していた。

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 2013年の香港紙、明報の取材で戚は、「習氏には毛主席の後継者になってほしい。特権階級を倒し、中国の進路を資本主義の道から社会主義の道に戻してもらいたい」と語っていた。

「戚の後ろにいるのは習近平国家主席だ」

 そう語る関係者によると、習は上海市書記だった07年ごろに戚と面会しており、ここ数年は側近を通じ「何も恐れることはない。積極的に発言してほしい」などと伝えていたという。

 戚の葬儀には中国の左派系団体関係者らが参列。直接面識はないが理念に共鳴した人も多かったとされ、贈られた花には「毛主席の忠実な教え子」などの言葉が添えられていたという。

 中国で長くタブー視されてきた文革を肯定する動きが、ここにきて加速しているようにみえる。米誌タイムは4月、習近平と毛沢東の統治手法の類似性を指摘する記事を掲載。赤一色の表紙は習近平の後ろに毛沢東が控えているイメージのものだった。

 習が党トップ就任の5年も前に戚に面会していたのなら、その理由は何か。そして、文革は形を変えて再来しつつあるのだろうか。

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 トラックの荷台で数人が立ったまま後ろ手に縛られ、首から「死刑」と大きく書かれたプラカードをぶら下げている。記された個々の名前には大きな×印が付けられている。

 「本当に狂った時代だった」。そう話す北京の大学教授は小学生だった文革の時代に、何度も目撃した見せしめの光景が今も忘れられない。ほとんどの罪状は「反革命罪」だが、「毛沢東像を壊した」といった行為が多かったことを後で知った。

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 文革は1966年5月、中国共産党主席だった毛沢東(1893~1976)が急進的な社会主義建設を掲げて始まった政治、思想、文化をめぐる闘争だ。毛が進めた大躍進(※4)が大量の餓死者を出す惨状を招き、劉少奇やトウ小平らが路線修正を図ったのを受け、毛が彼らに「走資実権派」とのレッテルを貼って反撃に出た。

 「造反有理」(造反には道理がある)のスローガンの下、学生や労働者が古参幹部や知識人らを追い詰め、社会を大混乱に陥れた。犠牲者については1千万人から4千万人まで、今も諸説ある。

 毛の死去に伴って文革は終わりを告げ、中国共産党は81年に中央総会でいわゆる「歴史決議」を採択。文革について「毛沢東が誤って発動し、反革命集団に利用され、党、国家や各族人民に重大な災難をもたらした内乱だ」として、「完全な誤りであった」と公式に確認した。この評価は今も変わっていない。

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 文革が始まって約1年後の67年9月。産経新聞の北京支局長、柴田穂(みのる)は突然、中国外務省から「国外退去」を命じられた。理由は「反中国報道」。取材活動が制限されている中で、北京市内の大学や工場などに出かけては壁新聞を書き写し、記事にした。当局が隠したい都合の悪い内容を含んでいたことが逆鱗に触れたとみられる。

その後、文革の全国拡大に伴い、北京駐在の外国人記者らは次々追放された。産経新聞は98年に中国総局が再開するまでの31年間、北京での記者常駐が認められなかった。柴田は自らの追放について、「文化革命下の中共の厳しい報道管制の表れ」と分析した。

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 文革の開始から50年が過ぎた今、中国では往時を思わせる現象が起きている。

 昨年末には、ウイグル政策を批判したフランス人女性記者が事実上、追放された。2年前には香港の大規模な民主化デモを取材したドイツメディアの助手が約10カ月間も拘束されたほか、日本経済新聞重慶支局の中国人助手も約1カ月間にわたり拘束された。北京駐在の外国人記者の間では、「いまの雰囲気は、文革が始まったときと似ている」とささやかれている。

 共産党の古参幹部は一般論と断った上で、「独裁者が権力集中を進めるために大規模な政治運動を展開するときには、まずは雑音を消さなければならない。外部との情報を遮断することが何より重要だ」との見方を示す。

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 中国駐在の外国人記者たちは今年に入り、文革当時の記事や書物を引用し、現状と比較する形で自国に向けて発信している。しかし、中国の官製メディアは沈黙を守っている。

共産党宣伝部が国内メディアに「文革には一切触れるな」という内容の通達を出しているため、関連する報道は皆無だ。文革のときに各地で起きた殺戮(さつりく)や破壊が再び話題になれば、共産党の正統性と権威が傷つくとの考えがにじむ。

 文革に限らず、大躍進や天安門事件(※5)といった負の遺産は、全て封印されているのが実情だ。



 中国で文化大革命が始まってから50年となる。政治、経済、社会全般に及ぶ激動の爪痕を追い、この国の行方を探る。(敬称略)



【用語解説】

※1 劉少奇(1898~1969)
 毛沢東の後に国家主席となったが文革初期に失脚、監禁中に死亡した。

※2 紅衛兵
 文革を支持する学生組織。糾弾や旧秩序破壊の中心となった。

※3 トウ小平(1904~97)と改革開放路線
 文革の際などに3度失脚したトウはそのたびに復活し、78年以降は事実上の最高権力者として、経済特区設置や外資導入などを進めた。

※4 大躍進
 1958年に毛沢東が始めた急進的な農工業の増産運動。未曽有の経済混乱と餓死者を招いた。

※5 天安門事件
 1989年6月、民主化運動で集まった天安門広場の学生らを軍が弾圧した(第2次天安門事件)。76年に周恩来首相の追悼に集結した民衆が弾圧され、トウ小平が3度目の失脚をした事件を第1次天安門事件と呼ぶ。


  【検証・文革半世紀(2)】 サクラ総動員で習近平主席の「肉まん」逸話を喧伝…「自信のなさ」の表れか 文化・芸術の政治介入ますます 産経ニュース  2016年05月21日

♪肉まんの店に入ったら、あのお方が私の後ろに並んだ
 中国の少女グループ「56輪の花」が5月2日、北京の人民大会堂で行ったコンサートで披露した新曲「包子舗」(肉まんの店)の一節だ。国家主席、習近平がテーマになっている。

 習は2年前の冬、北京市内の肉まんチェーン店を訪れた。笑顔でネギ入り肉まんを注文して21元(約340円)を払い、周囲の人々と談笑しながら肉まんをほおばった。このときの様子を描いた歌詞は「偶然の出会いが、真冬の暖流のように市民の心を温めた」と結んでいる。

 官製メディアはこぞってこの歌を宣伝したが、取材した中国人記者によると、店にいた客はほとんどが動員された人々で、リハーサルも行ったという。

 習に関する歌はここ数年、急増している。毛沢東をたたえる「東方紅」の替え歌で、習を毛同様に「赤い太陽」と賛美するものもある。これらの歌はまずインターネットに投稿され、数カ月後にはカラオケで歌えるようになり、やがて有名歌手のコンサートなどに登場する。

 歌を流行させようという当局の動きが見え隠れする。

文化大革命(文革)後に復権し、1978年に中国の最高実力者となったトウ(=登におおざと)小平は、文革中の毛沢東に対する個人崇拝が社会に大きな弊害をもたらした−との反省から、政治家個人を賛美するのを厳しく禁じた。

 江沢民と胡錦濤はトウの方針を尊重したが、習政権の下、約40年ぶりに個人崇拝が復活しつつあるようだ。

 ある中国共産党関係者は、この傾向を「習氏の自信のなさの裏返し」とみる。地方指導者として実績が乏しく、派閥間の協議で最高指導者に選ばれた習は、「党内の意志を統一するために、個人の権威に頼るしか方法がなかった」というのだ。

 党内にはこうした動きに対する反発もある。3月の全国人民代表大会(全人代=国会)の期間中、「171人の中国共産党員」による公開書簡がインターネット上で出回り、「習近平同志の独裁と個人崇拝が党内組織をひどい状態にした」といった理由で、習に党総書記辞任を求めた。

 最高指導者に公然と反旗を翻す動きは近年なかったものだ。書簡に関係があるとみられたジャーナリストなど多数が拘束された。

 個人崇拝をめぐるせめぎ合いに加え、習近平政権は文革当時を彷彿(ほうふつ)させる文化・芸術の締め付けに乗り出している。

4月のある日曜日の午後、北京市東部の映画館で「白毛女(はくもうじょ)」と題する映画の上映が終わった。約100人が収容できる館内から出てきた観客はわずか十数人。「休日は家でゆっくりしたかったが、会社の命令なので仕方なく来た。映画はつまらなくてほとんど寝ていた」。同僚と来たという政府系シンクタンクの30代の男性職員が話した。

 「白毛女」は中国共産党が宣伝に熱を入れ、3月末には全国の公務員に鑑賞を求める通達を出した。それは国家主席、習近平の夫人の彭麗媛(=ほう・れいえん※1)が、この映画の芸術指導を行ったことと無関係ではなかろう。

 ただ、無料でもらったチケットも捨てる人もあり、宣伝効果はそう芳しくなかったという。

 映画の基になった「白毛女」は文化大革命(文革)の時代、上演が許された8大革命歌劇の一つだ。中国国民党(※2)の統治下、地主から借金をした貧農が金利を払えず自殺する。その娘は山奥の洞窟に隠れているうちに、髪の毛が真っ白になってしまう。娘はやがて人民解放軍(※3)の前身である八路軍に救出され、国民党打倒の運動に参加する中で人間性を回復し、黒髪に戻る−という筋書きだ。

「国民党支配下の旧社会は人を鬼(妖怪)にするが、共産党の新社会は鬼を人にする」というメッセージが込められている。

 1940年代に創作されたものだが、毛沢東の4番目の妻で女優出身の江青(※4)が毛沢東思想の正しさを宣伝する内容を大量に取り入れて改編し、全国で繰り返して上演された。「白毛女」の音楽を聴くと、迫害された体験を思い出す知識人も多いという。

 習近平は2014年10月、小説家や俳優、画家など著名な文化人約70人を集め、「今の文化・芸術界は拝金主義が蔓延(まんえん)している」と批判し、「文芸は社会主義のために奉仕しなければならない」という内容の講話を発表した。政権による文化、芸術分野への介入を公に宣言した形だ。

 習の講話は毛沢東が1942年に革命聖地の延安で行った「文芸講話」を強く意識したものといわれた。

 「文芸は革命的でなければならない」と強調した「文芸講話」は文革中に絶対視され、「革命的でない」と判断された作品は次々に「毒草」と決めつけられ、発禁処分を受けた。

 習の講話は「党の文芸に対する指導を強化しなければならない」と連呼する内容で、毛と同じような絶対的な指導者になりたいという強い思いがうかがえる。


「白毛女」の映画化の話は、習の講話の発表を受けてにわかに浮上したという。3Dという新技術を取り入れ、若い時にこの歌劇のヒロインを演じた経験がある彭が製作に参加すると発表された。しかし、「文革中の毛沢東夫婦」を連想させるとして、「おそろいの夫婦が、またも中国を政治的混乱に陥れようとしているのか」といった書き込みがインターネット上でみられた。

 文革時代、鎖国状態だった中国では多くの芸術活動が禁止され、民衆の娯楽は8大革命劇の鑑賞などに限られた。

 「白毛女」が当局の思想教育工作で大きな役割を果たしたことは事実だ。しかし、インターネットで日本のアニメやゲーム、韓国ドラマなどが簡単に見られる現代に革命劇を持ち出して、当局が期待するような効果が上がるかは見通せない。(敬称略)

【用語解説】

※1 彭麗媛(1962~) 18歳で軍に入隊、国民的歌手として活躍。87年に習近平と結婚した。

※2 中国国民党 孫文らを中心に1919年結党。蒋介石が指導者となって南京に国民政府を組織したが49年、共産党との内戦に敗れ台湾に逃れた。 

※3 人民解放軍 中国共産党直属の軍隊組織。1927年の武装蜂起が建軍の起源。47年から現在の名称となった。

※4 江青(1914~91) 38年に毛沢東と結婚。文革時に権勢を振るったが毛の死去後に失脚。81年に死刑判決(後に無期懲役に減刑)。91年に自殺。


  【検証・文革半世紀(3)】 習近平政権下で「政治犯」600人拘束 前政権の10倍…「改革開放の時代」終焉か 産経ニュース  2016年05月21日

「親愛なる和平さん、もう10カ月も会っていないね。娘は6歳になったよ」。5月初め、こんな書き出しの手紙が中国のインターネット上に出回った。

 著名な人権派弁護士、李和平に宛てて妻が書いたものだ。李が連行された後、北京での居住許可を取り消され、アパートから追い出されたとつづり、「最も悔しかったのは、娘が一番望んでいた小学校に入学できない、と当局者に告げられたとき。涙が止まらなかった」と告白している。

 2015年7月9日は「暗黒の木曜日」と呼ばれる。中国全土で弁護士や人権活動家ら約100人が一斉拘束されたこの日、李も囚(とら)われの身となった。

 「盲目の人権活動家」として名高い陳光誠(4年前に米国に亡命)の弁護を担当するなど、政府に陳情する者や人権活動家らの支援に努めた李。16年1月に「国家政権転覆罪」の疑いで正式に逮捕されたが、治安当局は家族や弁護士との接見を現在も認めていない。

 米国に本部を置く国際人権団体の統計では、12年まで10年間続いた胡錦濤政権下で投獄された政治犯や思想犯は66人。欧米や日本の常識ならおびただしい数といえる。しかし、習近平政権下では発足以降の3年余りで500~600人を拘束、胡の時代の10倍に到達しそうな勢いだ。

胡錦濤時代の逮捕者は2010年度のノーベル平和賞受賞者、劉暁波のように、中国共産党の一党独裁体制を批判する活動家が多かった。しかし今は、李のような共産党政権を否定しない体制内の弁護士も弾圧の対象となっている。進学や就職を含む日常生活の妨害も露骨になってきた。

 北京のある民主化活動家は、「当局の言うことを聞かないとひどい目に遭う、という見せしめのためにやっている」と指摘した。

 文革中、「反革命」「裏切り者」などを理由に投獄された政治犯は少なくとも数百万人に上るといわれる。家族までも「黒五類」と呼ばれる敵対階級と位置付けられ、徹底的な差別を受けた。そこから抜け出すため夫婦が離婚したり、つるし上げられた親を子が殴ったりする悲劇が起きた。

 しかし、毛沢東時代の政治犯は民衆に軽蔑されることが多かったのに比べ、近年の政治犯は英雄視されることも少なくない。ある陳情者は、「弱者を支援する人権派弁護士が国家政権の転覆を企てたなんて、誰が信じるものか」と話した。

 習政権下の政治犯は毛の時代とは違い、家族から離縁されるケースはほとんど聞かない。そうした家族を支援する市民団体も多くできた。

 昨年12月に北京で行われた人権派弁護士、浦志強の判決公判では約100人の陳情者らが裁判所前に集まり、「無罪だ」と訴え警察ともみあう場面もあった。

毛の時代と習の時代。締め付けの傾向に類似点はあっても、民衆の心情は様変わりしている。

 文化大革命(文革)さなかの1968年4月5日、中国東北部の黒竜江省ハルビン市で行われた公開裁判で、反革命罪に問われた電気計器工場の技術者、王永増と巫炳源(ふへいげん)に対し、判決が言い渡された。

 「被告人を死刑に処す。直ちに執行する」

 判決を聞いた巫は突然、天を仰ぎ見て「この世界は暗すぎる」と叫び、目を閉じた。その後、処刑されるまで目を開けることはなかったという。

 「抗議の気持ちを表そうとしたのだと思う。目を開けても閉じても世の中は暗いと言いたかったのかもしれない」。この裁判を取材した地元紙のカメラマン、李振盛が振り返る。

 判決後、2人はすぐトラックに乗せられ、道の両側が人々で埋め尽くされた市街地を引き回された後、郊外で銃殺された。

 文学青年だった王と巫は、「向北方」(北の方角へ)という同人誌を作り、知人などに配ったが、地元の革命委員会はその題名を問題視した。黒竜江省の北に位置するのは当時、中国と激しく対立していたソ連。2人は国を裏切ってソ連への内通を図った疑いで逮捕されたのだ。

毛沢東時代の中国当局は、市民が外国と関わりを持つことを極端に嫌った。外国人もさまざまな被害に遭った。中国古典の名著「紅楼夢」を英訳した英国人女性で、著名な翻訳家のグラディス・ヤンも、中国人の夫とともに英国のスパイだという濡れ衣を着せられ、4年間投獄された。

 トウ小平の改革開放に伴って中国は鎖国路線を改め、外国との交流が再開した。しかし、外国人排斥の動きは習近平政権下で再び台頭しつつある。

 反テロ法や反スパイ法、NGO(非政府団体)規制法など、外国との交流を制限する法律が施行され、中国人であれ外国人であれスパイ容疑での摘発が急増した。法律におけるスパイや国家機密の定義は曖昧で、公開資料を入手しただけで逮捕される可能性もある。

 2014年夏以降、中朝国境付近でコーヒーショップを経営していたカナダ人の老夫婦や、ビジネスツアーで訪中した米国人女性企業家のほか、日本人4人もスパイ容疑で逮捕された。

 日本人の場合、元パチンコ店員や日本語学校職員など、情報の分野とは縁遠い人ばかりだった。

 「中華民族の偉大なる復興」といったナショナリズムをあおるスローガンを掲げる習政権は、大学などで思想教育の強化を推進している。昨年、政府の名義で全国の大学に送られた通達では、「マルクス主義(※1)の価値観を確立させ、敵対勢力の浸透を断固として阻止せよ」と強調されていた。

敵対勢力。この用語に知識人らは大きな衝撃を受けたという。ある大学教授は「外国人と接触したり、授業などで政府に厳しい意見を言ったりすれば、敵対勢力の一味にされてしまう可能性がある」と話した。

 北京の改革派知識人によると、共産党の一党独裁体制を強化したい習指導部は、人権尊重や民主主義といった欧米で重視される価値観を一掃し、マルクス主義の下で思想統一を図りたいと考えている。そのため、投資目的以外の外国勢力の流入や国内での外国人との接触を、可能な限り絞る狙いがあると分析する。

 北京の日本大使館の関係者は「中国の外交官たちはみな萎縮してしまい、仕事以外で私たちと全く接触しようとしない」と話した。

 これに歩調を合わせるかのように、欧米のある外交官が次のように言った。「トウ小平が主導した改革開放の時代はいま、終わろうとしている。中国は外国人にとって、ますます住みにくい場所になるだろう」
(敬称略)

※ 1マルクス主義 ドイツの思想家カール・マルクスによる理論の体系。社会主義は資本主義社会から必然的に生まれるとし、その変革は労働者階級により実現されると説いた。


  【検証・文革半世紀(4)】 報道の自由の行方は…記者、習主席視察時に「われわれは党の代弁者 どうぞ検閲を」のプラカード掲げる 産経ニュース  2016年05月22日

ある中国共産党高官が5月9日、日刊紙「環球時報」の編集幹部数人を北京市朝陽門内の党施設に呼びつけ、言い放った。「勝手に世論調査を行うな」

 環球時報は党機関紙・人民日報の傘下にある。台湾で独立志向の民主進歩党(※1)政権が発足するのを前に4月末、インターネット上で世論調査を実施した。結果は回答者の約85%が「台湾問題(※2)の武力解決を支持」し、そのうち約6割が武力行使を「5年以内に実施すべきだ」というものだった。

 台湾メディアは騒然となり、こぞって中国批判を展開した。環球時報は「敏感な政治問題で世論調査を実施しない、という党の規定に違反して劣悪な政治的影響をもたらした」と厳重に注意され、1カ月以内に組織内部を徹底的に「整頓」するよう命じられた。

 知識人らが愛読する改革派の新聞は別として、党中央と常に歩調を合わせる環球時報が、これほど厳しく指導されることは珍しい。

 党関係者は「自由主義の立場で新聞を作ってはならないのはもちろんだが、民族主義をあおりすぎて勇み足になるのも駄目だ。いかなる時でも党中央と絶対的な一致を保つことが求められる」と解説した。
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 「中国共産党を支えるには2本の棒が必要だ」と言ったのは毛沢東だ。2本の棒は銃とペンを意味し、メディアは軍と同じぐらい重要だと考えていたことが分かる。

文化大革命(文革)の期間中、すべての新聞が毎日、1面の最も目立つ場所に必ず毛沢東語録を掲載し、ほとんどの記事は「偉大なる毛沢東思想の指導の下」という書き出しで始まっていた。

 当時、国営新華社通信で記者をしていた男性は、「ものすごい緊張感の中で毎日、仕事をしていた。毛語録を引用するときに誤字や脱字があれば、反革命の現行犯として即刻逮捕されるからだ」と振り返った。

 毛が政敵を倒すとき、まずは新聞や雑誌にその政策や主張を批判する論文を掲載させ、「問題あり」とのサインを党内に送ってから徐々に追い詰めることが多かった。新聞は毛の権力闘争の道具そのものだった。

   ■    ■

 しかし、改革開放以降はメディアに競争原理が導入され、発行部数や売り上げが記者らの給料と連動するようになった。当局の指示を聞かずに事件や事故を詳しく報じ、読者拡大を目指す新聞が増えた。

「メディアは党と政府の宣伝の拠点であり、党の代弁者でなければならない」

 習近平は2月19日に人民日報、新華社、中央テレビの3大官製メディアを相次いで視察し、こう強調した。「棒」の一つである「ペン」に対する党の絶対的な支配が揺らいだという危機感がにじむ。

 中央テレビの幹部はこのとき、「われわれは党の代弁者であり、絶対に忠実ですから、どうぞ検閲してください」というプラカードを掲げ、話題となった。

 習政権は同時に、メディア各社への人事介入を強化した。ネットのニュースサイトの管理も強化され、娯楽の要素を減らして指導者の動向を毎日、ポータルサイトのトップニュースに置くことを義務付けた。

 一連の“改革”で、習のメディアへの露出が増えた。「気骨ある優秀な記者が別の業界に流れてしまう」という懸念も聞かれるが、メディアは「党の喉と舌」たるべしという伝統の信念の前では、真の報道の自由は望むべくもない。
      (敬称略)

     ◇

【用語解説】

※1 民主進歩党(民進党)

 1986年に台湾で結成された政党。2000年の総統選で陳水扁が当選し、初めて台湾の政権に就いた。党綱領に台湾の独立に関する条項がある。

※2 台湾問題

 「一つの中国」原則を主張する中国は「中華民国」を認めず、「台湾は中国の切り離すことのできない一部分」だとして統一を目指している。統一のための武力行使を放棄していない


  【文革半世紀 第2部(2)】 反腐敗・粛清の裏で租税回避 高級幹部の特権は“中国の伝統” 時代変わり毛沢東の姪は資本家に  産経ニュース  2016年06月21日

中国河北省の海辺の避暑地、北戴河。中国共産党の老幹部や指導層がこの地で非公式会議を開き、数々の重要方針を決定してきた。2007年には現首相、李克強を抑えて習近平が最高指導者に就くことが決まったことで知られる。今夏に開かれる会議について、共産党関係者が語った。

 「党内の非主流勢力が問題を厳しく追及し、運営に疑義を唱えようと画策しているという話がある」

 問題とは、世界中の政治家や企業がタックスヘイブン(租税回避地)を利用している実態を記した「パナマ文書」のことだ。暴露から約2カ月が過ぎ、中国国内で静かに波紋が広がっている。

 文書には国家主席、習近平の義兄をはじめ、序列5位の政治局常務委員、劉雲山や序列7位の筆頭副首相、張高麗の親族の名があった。元首相の李鵬、元国家副主席の曽慶紅ら、少なくとも5人の元指導者の親族も登場する。当局はインターネット上で文書に関連する言葉の閲覧を禁じているが、電子メールや口コミで内容が拡散した。

 現指導部は約3年にわたり、全土で「反腐敗」キャンペーンを展開し、多数の党官僚を失脚させてきた。それだけに、国民の不信感の深さは想像に難くない。

 「指導者の親族が租税回避地を利用したのは、節税だけでなく、特権を利用して手にした巨額の資産を隠すためだと、多くの国民が知っている」。別の共産党関係者が証言した。

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 パナマ文書は、近年の歴代指導部メンバーの親族が不正蓄財に手を染めてきた可能性をうかがわせる。しかし、高級幹部の特権はいわば中国の伝統だ。1966年から10年に及んだ文化大革命(文革)の時代、毛沢東の周辺もぜいたくな暮らしを送っていた。

 王朝時代からある北京市中心部の北海公園と景山公園が突然、閉鎖されたのは69年のことだった。晩年、乗馬に入れ込んだ毛夫人の江青が「練習場が欲しい」と言ったためだ。要職にあった江青は多忙を極めたため、2つの公園はやがて毛沢東の子供や、その友人である共産党幹部の子弟らが遊ぶ場所となった。

 公園だけではない。北京市中心部の北京病院も文革中、党幹部の専用病院に指定され、一般外来を排除した。北京の銀座と称される王府井の最大級のデパート、北京百貨大楼の4階は、高級幹部とその家族の「特供商店」に指定され、市民とは無縁の外国製高級時計や香水などが格安の値段で売られていた。

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 一般市民が毎日のように毛沢東語録を暗唱した文革期、恵まれた生活を送った毛沢東の子孫は今、一般市民とほとんど変わらない暮らしを送っている。毛の死去後、復活したトウ小平により文革路線が実質的に否定され、党などの要職からも外されたからだ。

半面、江青の一言で貸し切り状態となった公園で、毛沢東の子供らと夏は釣り、冬はスケートに興じた子弟たちは現在、「太子党」と呼ばれる共産党内の一大勢力にのし上がった。

 文革は党幹部はおろか、その子弟や一族の命運をも左右し、今も中国を広く覆っている。

 北京の南郊に「韶膳」という大きなレストランがある。店の名は毛沢東の故郷である湖南省韶山の料理という意味だ。毛が好んだ食べ物を出すのが売りで、全国各地からファンが大型バスでやってくる。

 巨大な毛沢東像が迎える店に入ると、毛をたたえるスローガンや語録が張られ、文化大革命(文革)を今に伝えている。創業者の毛小青は60代前半になる毛沢東の姪(めい)で、毛一族の中で唯一、ビジネスの世界で成功した人物だ。

 約20年前に商売を始めるときには、大いに迷ったという。毛沢東は資本家を排斥し、貧しい農民や労働者を率いて革命を起こした。その親族が事業を行ってよいものか−と思い悩んだ。

 背中を押したのは毛の次女で70代の李(り)訥(とつ)。「時代が変わったのだから、思い切ってやった方がよい。毛家のみなが支持する」と言葉をかけたという。

李訥はしばしば母親が違う毛沢東の長女、李敏と「韶膳」を訪れる。文革中、犬猿の仲といわれた2人は和解し、毛の墓参にも毎年一緒に行くとされる。

 「韶膳」には強力なライバルがいる。同じく毛沢東ブランドで知られるレストラン・チェーン「毛家菜」だ。晩年の毛の身の回りの世話をした秘書、張玉鳳が創業した。「自分こそ毛沢東の味の好みをよく知っている」と主張し、シェア争いを展開しているという。

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 毛沢東の死去後、文革路線の否定により一族の運命は一転した。軍幹部だった長女の李敏は退職後、入院するにも親族から費用を借りるほどの貧しさだった。数年前、長女の孔東梅が著名企業家と結婚し、経済的支援を受けるようになり、生活が楽になったという。

 文革を推進した江青を母親に持つ李訥はかつて、「公主」(お姫さま)ともてはやされた。北京大学を卒業して軍機関紙「解放軍報」の見習い記者となったその1年後、「毛沢東思想を裏切った」として編集幹部らを失脚に追い込み、自ら編集長に就任した。

 時の人物として脚光を浴びたが、文革後の暮らしは暗転。北京市郊外の刑務所で服役する江青と面会するにもバスを何度も乗り継ぎ、往復に丸1日かかったという。

後年、迫害した解放軍報の元編集幹部らに「謝罪したい」と申し入れたが、「会う気にはなれない」と拒まれた。文革の負の遺産の重さを物語る後半生だ。

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 生存する毛沢東の孫の中に1人だけ男の軍人がいる。2010年に少将に昇進した毛新宇だ。軍付属の研究機関、軍事科学院の副部長という地位にあるが、軍関係者は「名誉職に近い」とした上で、「毛沢東の影響力を考えれば、その子孫を1人ぐらい将軍にする必要がある」と話した。

 複数の女性との間で多くの子供を残したとされる毛沢東が認知した子供は、2男2女の計4人。新宇は2男、岸青の一人息子だ。

 中国誌「炎黄春秋」2013年9月号は、毛新宇は人工授精で生まれたとする寄稿を掲載した。特別医療チームを統括した軍総参謀長の長男が、父親の日記を元に執筆した寄稿によると、毛沢東の心情を推し量った首相の周恩来らがひそかに計画を進めた。

 しかし、孫の誕生の知らせを受けた毛沢東は、「ああ、世界でものを食べる口が1つ増えた」とだけ述べ、あまり喜ぶ様子も見せず、死ぬまで面会しなかったという。西洋医学を好まない毛沢東は人工授精に抵抗があったとの説もある。 (敬称略)


  【文革半世紀 第2部(1)】 紅衛兵世代が今の中国を動かしている 「暴力信仰」なお 高級幹部の子弟は責任問われず横の連携で次々出世 産経ニュース  2016年06月20日

「あのビンタ事件が中国の政治も私の運命も変えてしまった」

 5月初旬、北京市内のレストラン。50代で退職させられたという元重慶市幹部の男性がため息をついた。

 ビンタ事件とは2012年1月末、重慶市トップの中国共産党委書記だった薄煕来が、同市公安局長だった王立軍の横っ面に平手打ちを食らわせた出来事をさす。「(薄の妻が)英国人企業家の殺害事件に関わったかもしれない」。こう報告した王に、薄は部下らの面前で怒りをぶつけた。

 「このままでは殺されてしまう」。王は1週間後、四川省成都市の米国総領事館に駆け込んだ。それに伴い、薄一家の不正蓄財や英国人実業家殺害の詳細が次々と明るみに出て、薄の失脚につながった。

 当時の最高指導者、胡錦濤の周辺と確執があった薄の失脚。権力闘争との見方も出たが、王立軍の駆け込みがなければ、党最高指導部入りも有力視されていた薄を追い詰めるのは難しかったといわれる。

 薄の直属の部下だったため重慶市の職を追われ、昔の仲間とも縁遠くなったという冒頭の男性が言った。

 「薄氏は結局、紅衛兵から脱皮できなかった」
   


 共産党の長老、薄一波の次男である薄煕来は文化大革命(文革)が起きた1966年には高校生だった。全国が大混乱に陥るなか、薄は幹部子弟の仲間らと紅衛兵組織を立ち上げた。「命をかけて毛沢東思想を守る」との合言葉の下、教師をつるし上げ、知識人に三角帽子をかぶせ、街頭で引き回すといった“造反活動”に加わった。薄は軍用ベルトを振り回して人を殴るなど、特に乱暴だったと同級生が振り返る。

 翌年春、父親の一波が失脚した。薄は「親子の縁を切る」と宣言し、批判大会では壇上の父親に跳び蹴りをして肋骨(ろっこつ)を3本へし折ったという。文革後、親子は和解し、薄は復権した父親らの力を借りて出世したが、「暴力を信仰する紅衛兵的なやり方は最後まで変わらなかった」と証言する者もいる。



 習近平指導部の主要メンバーは、文革中に青春時代を過ごした紅衛兵世代に当たる。薄より4歳年下の習近平は文革開始時、中学1年生だった。副首相を務めた父、仲勲がその数年前に失脚したこともあり、紅衛兵組織の正式メンバーではなかったが、「紅外囲」と呼ばれる周辺者として造反活動に参加したとされる。

 紅衛兵組織のリーダーを務めた後、米国に留学した元大学教授は、「世界の多様な考え方を知り、文革の恐ろしさを理解できたが、党組織に残って出世した薄や習らは、多感な10代に味わった経験こそ政治の本質だと考えてきたのだろう」と語った。

 元党幹部の子弟だった紅衛兵らの場合、親の復権に伴って文革中の行いが伏せられ、党内で出世した者が多い。国有企業、中信グループの総裁を務めた孔丹のように財界で成功した元紅衛兵もおり、横の連携を強めて国を動かしている。

 党幹部の長老は、「12年の党大会で(習に代表される)紅衛兵世代が表舞台に本格的に登場し、国の雰囲気が変わって個人崇拝や言論統制などが復活した」と語る。民主化を求める学生らが弾圧された天安門事件から27年となる今月4日、北京では厳戒態勢がしかれ犠牲者の遺族や人権活動家ら数十人が拘束された。
   


 文化大革命をへて成功を収めた者はほんの一握りにすぎず、大多数は辛酸をなめ続けている。第2部では当時を知る者の証言から、文革がもたらした人生の光と影を追う。

 北京市内でタクシー運転手をしている60歳代の張建国は紅衛兵組織に参加したとき、中学3年生だった。体が大きく運動神経もよかったため、「武闘」と呼ばれる紅衛兵グループ同士の内ゲバでリーダー格として活躍した。鉄の棒を振り回して何度も相手を傷つけたほか、自らもナイフで刺されて大けがを負い、生死の境をさまよったことがあった。

「青春時代については後悔の念以外、何もない。恋愛も勉強もせず、『毛沢東思想を守る』という訳の分からない理由で殺し合いに明け暮れた。敵対グループも同じことを主張していたのだから、仲良くすればよかったのだ」と話した。

 文化大革命(文革)後はデパートの従業員や工場の労働者などの職を転々とした。「同じ場所で長く働いて出世したい気持ちはあるが、漢字もろくに読めず、すぐ上司とけんかするからどこも長続きしなかった」。そう語る張は、「十代で人生を棒に振ってしまった。文革がなければまともな人生を送れたかもしれない」とため息をついた。
   


 文革開始直後、北京で最初に結成された紅衛兵組織は「首都紅衛兵連合行動委員会」(連動)で、中国共産党高級幹部の子弟らを中心に構成されていた。

 最高指導者だった毛沢東は若者たちの情熱を利用して、自身の地位を脅かすライバルだった国家主席の劉少奇ら実権派(※1)を倒すため、紅衛兵への全面的支持を打ち出した。メンバーの総数は3千万人とも4千万人ともいわれる。

 多くの組織が分裂し、主導権争いが展開された。毛沢東語録(※2)のわずかな解釈の違いなどを機に大規模な武闘が繰り返された。兵器工場から強奪された自動小銃が使われるなどして、多数の死者が出た。
   


 重慶市西部の沙坪公園に紅衛兵の大きな墓地がある。文革中の武闘で犠牲となった10~20代の若者ら531人が埋葬されている。

 「毛主席に最も忠誠なる紅衛兵、江丕嘉(こうひか)同志は1966年8月21日午前6時50分、勇敢に20歳の若い命をささげた。毛主席の革命路線を守るため最前線で戦い抜き、最後の一滴まで血を流した江烈士の死は泰山より重し」

 墓碑にはこうした文言が刻まれている。最年少の死者はわずか14歳。墓碑はすべて東向きに建てられている。死者の心が永遠に、「中国の赤い太陽」である毛沢東に向いていることを示すものだという。

全国各地にあった多数の紅衛兵墓地は、高度経済成長に伴う再開発でほとんど取り壊された。重慶のこの墓地は現在、高い塀で囲まれて施錠され、一般には公開されていない。「許可がなければ遺族も墓参できない。負の歴史を人目に触れさせたくないという当局の感情の表れだ」。地元の文革研究者が話した。
   


 文革中の武闘による犠牲者数の公式統計はなく、研究者の間では30万人から百万人以上まで諸説ある。

 毛沢東の死去後、改革開放の時代が始まると、文革中に失脚した老幹部たちが復活し、紅衛兵の主要リーダーだった●(草かんむりに朋、右にりっとう)大富(かいたいふ)が懲役17年、韓愛晶が懲役15年の判決を受けるなど、厳しく罰せられた。

 とはいえ、紅衛兵運動を始めた「連動」のメンバーのほとんどが高級幹部の子弟であるため、暴力行為の責任はほとんど問われなかった。元メンバーの多くは、今も中国の政財界で活躍している。(敬称略)

【用語解説】

※1実権派 資本主義の道を目指しているとして毛沢東ら文革派に打倒の対象とされた人々。走資派ともいう。

※2毛沢東語録 毛の著作から抜粋して編集した冊子。暗唱が強要され、個人崇拝の象徴となった。


  中国、人権派弁護士を締め付け 「指針」公表、抗議活動を警戒 産経ニュース  2016年06月19日

中国共産党と国務院(政府)は、弁護士に対する管理を強化する「弁護士制度改革推進に関する指針」を18日までに公表した。習近平指導部は各地で頻発する抗議活動が組織化される事態を警戒しており、公権力の横暴から社会的弱者を救済してきた人権派弁護士の活動を徹底的に押さえ込む狙いがある。

 指針は「弁護士制度の改革推進には共産党の指導と正しい政治意識を堅持しなければならない」と強調。弁護士を「健全に管理」するために、弁護士と弁護士事務所の違法行為を処罰する条例を整備し、懲戒制度を施行するとした。また、毎年、弁護士と事務所に対する審査も実施する。

 共産党機関紙、人民日報系の環球時報は指針に関し「一部の弁護士は法律業務を通じて政治活動を行い、人々を誤った方向に導いた」と人権派弁護士らを批判。さらに共産党一党独裁を正当化して「弁護士業界を含む全ての分野が党の指導下に置かれなければならない」とした。

 指針は29条で構成、13日に国営通信、新華社を通じて公表された。(共同)


  米は「内政干渉」やめよ=中国外相 時事ドットコム 2016年6月19日

【北京時事】中国外務省によると、王毅外相は18日、ケリー米国務長官と電話協議し、オバマ米大統領がチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世と会談したことを受け、「中国内政への干渉」をやめるよう求めた。

 これに対し、ケリー長官は米国の対チベット政策に変化はないと強調し、チベット独立を支持しない立場を伝えた。


  香港帰還の書店関係者、中国「特殊部隊」に拉致されたと告白 CNN.co.jp 2016年6月18日

香港(CNN) 中国の指導層のゴシップ本を扱っていた香港の書店関係者5人が昨年相次ぎ失踪した事件で、香港に帰還した林栄基氏が18日までに記者会見し、中国本土に入った直後に「特殊部隊」に拉致されていたことを明らかにした。

林氏はこの中で、8カ月前に香港から中国本土に入った際に連行され、小さな部屋に拘束されていたと明かした。連行時には手錠をかけられ目隠しをされたとしている。拘束理由については当初、誰からも説明がなかったが、本土で禁止されている書籍を違法に売買した罪で起訴されるためだと後から伝えられたという。

また中国国営テレビで放映された「自白」の映像については、用意された台本を読み上げたものだとも指摘した。

林氏は今週初めに香港に戻っていた。書籍の販売先に関する情報を持って17日に中国本土に戻るよう指示されていたが、2晩にわたり考えた末、事件の経緯について声を上げることに決めたという。勇気のいる決断だったとしたうえで、「これは私や書店だけの問題ではなく、すべての人に関わる問題だと世界に訴えたい」と述べた。他の書店関係者とは異なり中国に家族がいないため、声を上げやすかったとも明かした。

中国外務省の華春瑩報道官は17日、林氏の件は「外交問題」ではないと指摘。「林氏は本土の法律を犯した中国国民であり、われわれには法律に従ってこの件に対処する権利がある」と述べた。

一方、香港行政府は声明で、事態把握のため警察が林氏に連絡を取る意向だとしたうえで、「すべての香港市民の個人の安全を重視している」と述べた。


  中国、人権派弁護士を締め付け 管理「指針」公表 共同通信 47News 2016年6月18日

【北京共同】中国共産党と国務院(政府)は、弁護士に対する管理を強化する「弁護士制度改革推進に関する指針」を18日までに公表した。習近平指導部は各地で頻発する抗議活動が組織化される事態を警戒しており、公権力の横暴から社会的弱者を救済してきた人権派弁護士の活動を徹底的に抑え込む狙いがある。

 指針は「弁護士制度の改革推進には共産党の指導と正しい政治意識を堅持しなければならない」と強調。弁護士を「健全に管理」するために、弁護士と弁護士事務所の違法行為を処罰する条例を整備し、懲戒制度を施行するとした。また、毎年、弁護士と事務所に対する審査も実施する。


  中国当局が相次ぎ拘束、香港の書店店長が実態暴露 一国二制度に疑念 日本経済新聞 2016年6月17日

【香港=粟井康夫】中国共産党に批判的な書籍を扱っていた香港の銅鑼湾書店の関係者5人が相次ぎ失踪していた事件が新たな展開を迎えた。約8カ月ぶりに香港に帰還した店長の林栄基氏が記者会見を開き、中国当局による拘束の実態を初めて暴露した。言論・出版の自由を香港に保障した「一国二制度」への疑念が広がっている。

 「私一人だけの問題ではない。すべての香港人の自由に関わる問題だ」。16日夜に記者会見した林氏は中国当局による拘束は人権侵害であり、一国二制度に違反すると強調した。

 林氏の説明によると、昨年10月24日に香港から広東省深圳に入境したところで取り囲まれ、目隠しされ手錠をかけられた状態で浙江省寧波市まで列車で連行。「中国本土に書籍を発送するのは中国の法律に違反している」として小部屋に軟禁され、24時間体制で監視された。同氏を拘束したのは通常の公安当局ではなく、党指導部に直結する「中央専案組(特別捜査班)」だったという。

 当局側は中国本土内の発送先など書店の顧客リストが入ったハードディスクを持ち帰ることを条件にいったん釈放。林氏は14日に香港に入り、当初は中国本土に戻るつもりだったが、多くの市民がデモに参加して書店関係者の解放を求めていたのを知り、香港にとどまって真相を明かすことを決断したという。

 香港では中国共産党内部の権力闘争や指導者のスキャンダルを扱う書籍が自由に流通している。こうした書籍は中国本土では販売が禁じられているが、香港を訪れた観光客が土産物に購入するなど高い人気を集めていた。林氏の告白は習近平指導部が「発禁本」の本土への流入に神経をとがらせ、書店関係者を連行したとの見方を裏付けた。

 林氏はハードディスクを入手するため李波氏に接触した際、同氏が「(中国当局に)香港で拉致された」と話していたことも明らかにした。事実であれば中国の捜査機関が香港で活動したことになり、一国二制度の明白な違反となる。李波氏は17日、自らのフェイスブックで「そのようなことは言っていない」と否定した。

 李波、張志平、呂波の3氏は3月に香港に帰還したが「株主の桂民海氏に対する捜査に協力するため、自らの意思で本土に入った」と説明していた。香港メディアでは「李氏らは中国本土にいる親族に危害が及ぶのを恐れ、中国当局の意向に沿って口裏を合わせている」との見方が強い。

 香港政府の袁国強・法務官(閣僚)は17日夕に記者会見したが、「現段階で詳細を論じるのは難しい」と論評を避けた。民主派が事件の真相究明を求めるデモを計画するなど、社会には再び波紋が広がっている。9月に予定する香港立法会(議会)選挙にも影響を与える公算が大きい。


  オバマ氏、ダライ・ラマと会談 中国反発「米が内政干渉」 産経新聞 2016年6月17日

【北京=西見由章】オバマ米大統領がダライ・ラマ14世と約2年4カ月ぶりに会談したことに対し、中国外務省の陸慷報道官は16日、ダライ・ラマについて「(チベットの高度な自治を求める)いわゆる中道路線を鼓吹しているが実際は独立主義者だ」との中国側の立場を改めて強調した。陸氏は「米国の指導者が、どのような形式であれこのような人物と面会することは中国への内政干渉だ」と米側を非難した。

 また陸氏は「チベットの状況については中国人民が最も発言権を持っている。平和的な解放から60年あまりたち、社会経済の発展が進歩した事実はだれも否定できない」と中国共産党によるチベット統治の正当性を主張した。

 南シナ海の軍事拠点化など強引な海洋進出への反発や経済減速に伴う貿易摩擦の表面化など、中国外交をめぐる環境は厳しさを増す一方。こうした中で、人権問題や少数民族問題など政治的に敏感な“アキレス腱(けん)”に各国の関心が集まり、批判の対象となることを中国当局は警戒している。

 中国では16日、NHK海外放送がオバマ氏とダライ・ラマの会談を伝えたニュース番組が数分間中断された。


  オバマ大統領とダライ・ラマ会談、中国外務省が批判 TBS系(JNN)2016年6月17日

アメリカのオバマ大統領がチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世と会談したことについて、中国外務省は16日、「アメリカによる内政干渉であり、『チベット独立を支持しない』という約束に背いたものだ」と批判した。

 オバマ大統領は15日、ホワイトハウスでチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世と会談し、チベットの人権状況などについて意見交換した。これについて、中国外務省の陸慷報道官は16日の会見で、「ダライラマは中国を分裂させようと働きかけている」としたうえで、「会談は、『チベット独立を支持しない』という約束に背いたものだ」と批判した。

 「これは、中国の内政を干渉することであり、中国とアメリカの信頼と協力関係を損害しかねない」(中国外務省 陸慷報道官)

 陸報道官は、「内政を干渉したり、中米間の大局的な協力関係を破壊する行為を止めるよう促す」とけん制した。


  米大統領、ダライ・ラマと会談 中国は抗議 日本経済新聞2016年6月16日

【ワシントン、北京=共同】オバマ米大統領は15日、ホワイトハウスでチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世と会談した。ダライ・ラマをチベット独立派と見なし敵視する中国の外務省は15日、会談に先立ち北京の米国大使館に「断固として反対する」と抗議したことを明らかにした。

 オバマ氏とダライ・ラマの直接会談は2014年2月以来で、4回目。中国はその都度「内政干渉だ」と反発してきた。米側には、チベットの少数民族への圧力を強める習近平指導部に対して人権重視の姿勢を示す狙いがあるとみられる。南シナ海問題などを巡り対立する米中間の摩擦が増しそうだ。

 中国外務省の陸慷報道局長は15日の記者会見で「(会談は)チベットの分裂勢力に誤ったメッセージを伝え、中米両国の相互信頼や協力関係を害する」と強調。「チベットは中国の一部分である」とした上で「他国に干渉する権利はない」と述べた。

 米政府は、チベットの独立は支持しないとの立場を維持しているが、ダライ・ラマは「国際的に尊敬されている宗教・文化的な指導者」(国務省)だと位置付け、会談場所は前回と同様に大統領の私的会合などに使われる「マップルーム(地図の間)」とした。


  オバマ米大統領、ダライ・ラマ14世と会談 日本経済新聞2016年6月16日

【ワシントン=吉野直也】オバマ米大統領は15日、ホワイトハウスでチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世と会談した。中国政府によるチベット自治区での抑圧を念頭に「チベット独自の宗教、文化、言語の伝統保持や人権保護を支持する」と伝えた。一方で「チベットは中国の一部だ。チベットの独立は支持しない」と従来の米国の立場を説明し、中国に一定の配慮も示した。

 ホワイトハウスが発表した。オバマ氏とダライ・ラマの会談は2014年2月以来で4回目。会談は前回と同じように大統領が私的会合に使う「マップルーム(地図の間)」で開いた。中国側は両者の会談について「米中関係を深刻な危機にさらす」と反発している。

 会談で2人は「建設的で生産的な米中関係の重要性」を申し合わせた。オバマ氏はダライ・ラマ側と中国に直接対話を促した。ダライ・ラマもチベットの独立は否定した。米フロリダ州オーランドで起きた銃乱射事件への哀悼の意を伝えた。


  オバマ氏、チベット人権保護支持 ダライ・ラマと会談 共同通信2016年6月16日

【ワシントン共同】オバマ米大統領は15日、ホワイトハウスでチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世と会談し、中国政府によるチベット自治区での抑圧的統治を念頭に「チベット独自の宗教、文化、言語の伝統保持や人権保護」に対する強い支持を表明した。ホワイトハウスが会談内容を発表した。

 ダライ・ラマをチベット独立派と見なして敵視する中国の反発は必至だ。中国国営通信、新華社は、中国の抗議を無視する形での会談強行は「米中関係を深刻な危機にさらす」と伝えた。

 オバマ氏は一方、チベットは中国の一部だとする従来の米国の立場を強調、チベット独立は支持しないと明言した。


  チベット族の人権擁護を=ダライ・ラマと会談−米大統領 時事ドットコム2016年6月16日

【ワシントン時事】オバマ米大統領は15日、ホワイトハウスでチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世と会談し、中国国内のチベット族の人権が等しく擁護されることへの強い支持を伝えた。ダライ・ラマをチベット独立派と見なす中国政府は会談前から米側に抗議しており、南シナ海問題をめぐる米中間の緊張が一段と高まる可能性もある。

 大統領とダライ・ラマの直接会談は2014年2月にホワイトハウスで行われて以来。ホワイトハウスによると、ダライ・ラマはフロリダ州で起きた銃乱射テロの犠牲者らに哀悼の意を表明した。

 両者は最近のチベット情勢をめぐり意見交換。大統領はこの中で、チベット亡命政府と中国政府の「有意義な直接対話」を促した。また、チベットを中国の一部とし、チベットの独立を支持しないという米政府の立場も確認した。


  「中米の相互信頼損なう」オバマ氏とダライ・ラマ会談、中国反発 産経ニュース 2016年06月16日


【北京=西見由章】オバマ米大統領は15日、ホワイトハウスでチベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世と会談した。中国当局はノーベル平和賞受賞者のダライ・ラマを「宗教を隠れみのにしたチベット独立主義者」とみなしており、米側の対応に強く反発。南シナ海問題をめぐって米中の対立が表面化する中、溝がさらに深まりそうだ。

 米国はチベットの独立を支持していないが、宗教や文化、人権を擁護する立場だ。ダライ・ラマ自身も独立の追求ではなく高度な自治を求める「中道路線」を掲げている。

 オバマ氏とダライ・ラマとの直接会談は2014年2月に続いて4回目だが、最近は中国の経済力を背景にした各国指導者への圧力が成果を上げ、「面会する国家指導者らは少なくなり、国際的地位が下がった」(人民政治協商会議常務委員)との発言まで出ていた。ダライ・ラマが15年2月に訪米した際、オバマ氏は会合に同席したものの、直接言葉を交わすことはなかったとされる。

 今回の面談でも、メディアの取材を認めないなど一定の配慮はみられるが、欧州など各国の指導者の対応を変えるきっかけになるか注目される。

 中国外務省の陸慷報道官は15日、「米国側に対して断固とした反対の立場を表明している。予定通り会見が行われれば、チベット独立勢力に誤ったシグナルを送ることになり、中米の相互信頼と協力を損なうことになる」と牽制(けんせい)した。


  オバマ米大統領がダライ・ラマと会談、人権擁護を「強く支持 産経ニュース2016年6月16日

【ワシントン=加納宏幸】オバマ米大統領は15日、チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世とホワイトハウスで会談し、チベット独自の宗教、文化、言語、伝統を保護することや、中国においてチベットの人々の人権を対等に擁護することへの「強い支持」を強調した。ホワイトハウスはメディアの取材を認めず、文書で報道発表した。

 オバマ氏は会談で、ダライ・ラマに中国当局との対話や緊張緩和を促すとともに、チベットは中国の一部であり、その独立を支持しないとする米政府の立場を強調。ダライ・ラマはチベットの独立を目指さず、中国側との対話の再開を望んでいると述べた。

 ダライ・ラマはこのほか、米南部フロリダ州での銃乱射事件の犠牲者に哀悼の意を表明。オバマ氏との間で、建設的で生産的な米中関係が重要であるとの認識で一致した。

 会談は2014年2月に続き4回目。前回と同じく大統領が主に私的会合に用いる「マップルーム(地図の間)」が使われた。中国当局はダライ・ラマを「チベット独立主義者」とみなしており、米側の対応に「チベット独立勢力に誤ったシグナルを送り、中米の相互信頼と協力を損なう」(中国外務省の陸慷報道官)と反発している。


  中国 消し去られた記録 城山英巳著 体制に抑圧された人々の視点 加茂具樹 政治学者  日本経済新聞 2016年6月12日

 1989年の天安門事件の後、私たちは中国が民主化の道を歩むと思い込んでいた。しかし、その見通しは大きく外れた。

 そしていま、私たちは中国をめぐる2つの問いに直面している。1つは、なぜ壊れると思っていた体制が持続しているのか、いま1つは、体制を覆すと思われていた社会はいまどの様に体制と向き合っているのかである。前者は中国共産党の強靱(きょうじん)性、後者は中国社会の強靱性という言葉で語られる。

 本書は、2011年から16年5月まで北京に駐在した時事通信記者が、中国で生活する人権派弁護士や民主活動家、改革派の学者、調査報道記者らを主役に位置付け、活動を再現した「記録」である。主役の1人、弁護士の浦志強氏はいう。「共産党がどうなるかなんて考えていない。自分たちがどうなるかだ。我々が限られた空間と資源をどう利用できるかどうかであり、一つ一つのことをこなしていくことだ」と。彼らが共産党と向き合う「記録」を緻密に積み上げ、社会の強靱性を描く。

 体制に抑圧された「消された記録」に着目したのは、そこに中国社会の行き先を見るからだ。別の主役、人権活動家の許志永氏は語る。「中国では昔から今まで正義の士が、社会の進歩のために代償をいとわなかった。今、自分も代償を背負う機会を得られ、非常に光栄だ」

 もちろん中国の民主化を希求するナイーブな本だと捉えるべきではない。著者は読者に2つの痛烈な批判を投げかける。

 1つは私たちの中国理解が一元的すぎることである。著者は既存の報道が共産党に関心を置きすぎだと疑問視し、49名の主役に光を当てることで複眼的な視点を提示する。「権力の動きだけを追っていては中国社会の本当の姿は分からないのではないか」と著者に思わせた盲目の女性の手記で本書を締めくくるところに、その思いがにじむ。

 いま1つには、日本に住む私たちに中国と向き合う覚悟を説く。12年9月に中国各地で大規模な反日デモが吹き荒れる一方で、主役たちが「『本当の日本を見たい。そして真実を発信したい』という気持ちを逆に強く」した姿や、デモが「ナショナリズムの下で爆発し、日本を標的にした暴力行為に変わった」ことを憂慮してそれを「中国問題」の裏返しと捉えたさまを描く。「爆買い」とは異なる中国社会の「新たな日本観」の萌芽(ほうが)を、私たちは理解する必要があると訴える。

 中国を理解するためには強靭な視点が必要だ。本書は、そのために不可欠な知的訓練の場を提供してくれる。




  右往左往の潘基文氏に非難集中 人権めぐる報告書「恥のリスト」からサウジ削除 圧力に屈した?内部からも「悪しき前例」の声 産経新聞 2016年6月11日

【ニューヨーク=上塚真由】国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長が今月公表した2015年の「子供と武力紛争」報告書で、子供の人権を侵害している組織や国を列挙したリストに「サウジアラビア主導の連合軍」が名指しされながら、その後、同国の抗議でリストから削除されることになった。国連が一度公表した報告書を訂正し、特定国を除外するのは極めて異例。複数の人権団体は「政治的圧力に屈した」として潘氏を非難する書簡を国連に提出した。

 2日公表された報告書では、子供を殺傷したり少年兵として徴用したりしている組織や国として、内戦状態にあるイエメンの項目で「サウジ主導の連合軍」が入った。このリストは「恥のリスト」とも呼ばれ、作成は潘氏が直轄する「子供と武力紛争事務総長特別代表室」が担当している。

 これに対し、サウジのムアリミ国連大使は6日、「報告書の内容は不正確だ」などと抗議。ドゥジャリク事務総長報道官はリストの訂正を一度は否定したが、潘氏は同日夕に対応を一転させ、リストからの削除を発表した。ムアリミ氏は「この決定は覆らない」と強調し、潘氏に感謝の意を示した。

 潘氏は9日、記者団に対し「最も苦痛で困難な決断だった」と釈明した上で、「国連のプログラムへの資金援助が打ち切られると、他の何百万人もの子供たちが深刻な状況に陥るという見通しを考慮せざるを得なかった」と述べ、サウジなどから資金面での圧力があったことをにじませた。

 一方、ヒューマン・ライツ・ウオッチやアムネスティ・インターナショナルなど、20を超える国際人権団体は連名で抗議文を潘氏に提出。アムネスティは「潘氏は国連全体の信用を傷つけている」と非難した。

 前代未聞の事態に、「あしき先例を作った。これがまかり通ると、貧困国しかリストに載らないことになる」(国連関係者)との声が上がっている。


  中国の裁判所で人権派弁護士に暴行か 「まるで暴力団事務所」 弁護士1000人が声明、責任追及求める 産経ニュース 2016年06月08日


【北京=矢板明夫】中国広西チワン族自治区南寧市の青秀区人民法院(地裁)で、人権派弁護士の呉良述氏が、警察官から暴行を受けたとされる事件が発生し、大きな波紋を広げている。中国では人権派弁護士への締め付けが強まっており、中国全土の約1千人の弁護士は8日までに、連名で事件の「徹底捜査」などを求める声明を発表した。

 呉氏の支援者によると、暴行事件は3日に裁判所の中で起きた。呉氏は同地裁で自らが担当する刑事事件の手続きについて、裁判官らと交渉していた際、裁判官から「やりとりを録音している」と疑われ、携帯電話の提出を求められた。呉氏が「提出する法的根拠がない」と拒否したため、裁判官の指示を受けた複数の警察が呉氏を押し倒し、ズボンのポケットから強引に携帯電話を奪った。その際、呉氏は腕などに軽傷を負ったという。

 呉氏は裁判所から出た後、服とズボンが激しく破れた姿の写真をインターネットに公表し、大きな反響を呼んだ。「裁判所はまるで暴力団事務所だ」といった裁判所を批判する書き込みが多く寄せられた。

 一方、同裁判所は地元メディアの取材に対し「警察官が呉氏の携帯電話をチェックした際に一時もみ合いはあったが、暴行はなかった」と説明し、双方の主張は対立している。

この事件を受けて、中国各地の約1千人の弁護士が連名で声明を発表し、「裁判所内の防犯カメラ映像の公開など、事件の徹底調査と関係者の責任追求」を求めた。発起人の一人、胡貴雲弁護士は「裁判所は私たち弁護士の“職場”であり、その中ですら安全が守られないようなことは恐ろしい」と署名運動を開始した理由を説明した。

 呉氏も「今の公権力は法律を無視し、やりたい放題の状況だ。事件を公表することによってその実態を明らかにしたい」とのコメントを発表した。

 中国では最近、当局による人権派弁護士への締め付けが強化され、昨年7月、100人以上の人権派弁護士らが各地で一斉逮捕された事件も起きている。


  自由な議論が脅かされている 日本経済新聞 2016年6月7日

現代はある意味、自由な言論の黄金時代だ。スマートフォンを使って数秒で地球の反対側の新聞が読める。投稿、更新されるツイートやフェイスブック、ブログは日に10億件以上だ。インターネットにアクセスできれば、誰でも好きなものを出版できる。

 ところが、複数の監視団体は意見を言うことが以前より危険になっているという。確かに、言論の自由への締め付けが厳しくなった。表現の自由がなければ考えを戦わせることができず、世界は臆病で無知になる。

政府が言論統制やメディア検閲を強化
 締め付けには3つの形がある。まず政府による抑圧が増えている。数カ国で言論統制が敷かれた。ソ連の崩壊後、ロシア国民は自由で闊達な議論を享受したが、プーチン氏の下で再び制限されている。面倒な質問をした記者は今は労働収容所に送られることはないが、命を奪われる。

 中国の習近平国家主席は権力の座に就くやソーシャルメディアの検閲を強め、政府と意見を異にする人を何百人も逮捕し、大学で自由な議論を封じてマルクス主義の講義を増やした。中東ではアラブの春で言論の自由が生まれたが、シリアとリビアの現状はアラブの春以前より悪化している。エジプトでは「私以外の言うことは聞くな」と話す人間が実権を握る。

 2つ目は、暗殺という形の検閲だ。メキシコでは犯罪や汚職の調査報道に携わる記者が拷問され、しばしば殺される。イスラム過激派は自分たちの信仰を侮辱した人物を虐殺する。バングラデシュでは、宗教と政治は分けて考えるべきだとブログで訴えた男性が路上で斬り殺され、フランスの漫画家は職場で射殺された。

 3つ目は、誰でも侮辱されない権利があるという考え方だ。確かに気配りは人間関係には不可欠だ。だから何でもないように聞こえるが、これが権利になると、誰かを不愉快にさせる発言がないか、絶えず監視が必要になる。不快の感じ方は主観的なので、取り締まりは広範で恣意的になる。

 欧米では多くの学生がその権力の行使に賛成している。男性はフェミニズムについて語る権利がないとか、白人が奴隷制度を語るのはおかしいなどと言って、人種や民族、障害者など特定の集団の利益を代弁する政治活動に熱中する学生もいる。別な学生はライス元米国務長官や、イスラム教に批判的な活動家アヤーン・ヒルシ・アリ氏などの著名人が、キャンパスで講演するのを阻止した。

 大学は本来、学生が考え方を学ぶ場所だ。どんな意見でも自由に述べられないなら、大学は目的を果たせなくなる。

安全保障を縦に侵害する権威主義
 ほぼすべての国には言論の自由を保護する法律がある。権威主義者はそれを踏みにじるのに、もっともらしく聞こえる口実を探す。1つは国家安全保障だ。ロシアは最近、ウクライナ政策を批判したブロガーに「過激主義」奨励の罪で5年の禁錮刑を言い渡した。もう1つはヘイトスピーチだ。中国はチベット独立運動家を「民族憎悪をあおった」として投獄する。サウジアラビアは冒涜(ぼうとく)者をむち打ち刑に処す。インドでは宗教、人種、カーストなどあらゆる事柄で社会の調和を乱したとみなされれば、最長3年間収監される。

 人権活動家が抑圧的な体制下で起きていることに抗議の声をあげれば、その独裁者はフランスやスペインなどの自由民主主義国家でもテロを礼賛、擁護する者を犯罪者として扱うし、多くの欧米諸国が宗教を侮辱したり人種的な憎悪をあおったりすることを犯罪視していると指摘する。

トルコの強権的指導者エルドアン大統領は国内外を問わず、自身の人格や信仰、政策への侮辱的言動を一切容認しない。今年3月、ドイツのコメディアンがエルドアン氏は「ヤギとセックスし、少数派を抑圧する」という風刺詩を朗読した。エルドアン氏は外国の国家元首を侮辱することを禁じたドイツの古い法律を持ち出し、抗議した。驚いたことに、ドイツのメルケル首相は検察当局の捜査を認めた。さらに驚いたことに、ドイツ以外にも欧州9カ国にまだ似た法律があり、13カ国は自国の元首への侮辱的発言を禁じていた。

 多くの国の世論調査を見ると、言論の自由は支持されているが、条件付きだ。なぜ自由な表現がすべての自由の基盤になるのか、詳しく説明する必要がある。政治家は判断を誤れば批判にさらされるべきだ。

 どんなときでも、自由な議論を通じ、良い考えと悪い考えがふるい分けられる。当然視されてきたことを疑わない限り、科学の発達はない。タブーは理解を妨げる。中国政府がエコノミストに甘い経済予測を出させれば、政策立案自体がお粗末になる。米国の大学の社会学部が左派の教授ばかり採用したら、彼らの研究は取り上げるには値しない。

 自由に発言する権利は法律でほぼ絶対的に守られるべきだ。もちろん、国家には秘密にしておかなければならないことがある。言論の自由は核ミサイルの発射コードを公表する権利ではない。だが多くの場合、過激な活動家の主張には抵抗すべきだ。

 暴力の扇動は禁じる必要がある。しかしその定義は、同調者をあおって暴力を振るわせたり、発言が即座に影響を及ぼしたりする場合などに限定しなければならない。ユダヤ教会の外にいる暴徒に「ユダヤ人を殺そう」と叫んではいけない。ほとんど無名のフェイスブックに「ユダヤ人は全員死ねばいい」と酔った勢いで書き込むことはこの定義の範囲外だろう。

警察の暴力抑制、深刻な脅威に絞れ
 政情が不安定な国と安定した民主主義国では、同じ暴力をあおる言葉でも意味合いが異なるが、暴力の扇動を禁じるべきだという原則は変わらない。警察はパソコンやメガホンを持った者を全員逮捕するのではなく、深刻で切迫した脅威に対処すべきだ。

 米国のフェイスブックやツイッターなどの巨大なデジタル企業は、自社の交流サイトでどんなことが投稿されると好ましくないかを自由に決められるのが望ましい。私立大学は法律の範囲内でなら、学生に言論規制を敷いて構わないだろう。悪態やポルノ、無神論の表明を禁じるキリスト教系の大学が気に入らなければ、よそへ行けばいい。しかし公立大学や、学生の知的成長を支援しようという大学はすべて、学生が耳障りな意見に触れるのを恐れてはいけない。キャンパスの外に一歩出れば、不快に感じ腹が立つことは多い。学生たちは平和的な言葉や理性を使い、立ち向かっていくことを学ばねばならない。

 賛成できない意見を決して封じようとするな。不快な発言には言葉で応じろ。力に頼ることなく議論に勝て。そしてもっとずぶとい神経を持て。これは誰にとっても良い規則だ。


  ダライ・ラマの「難民は最終的に祖国へ」発言が物議 人道主義と生活不安で揺れる欧州 ニューースフィア 2016年06月06日


ダライ・ラマ14世がドイツの新聞社から受けたインタビューの内容が、欧州で波紋を広げている。このインタビューの中で、ダライ・ラマ14世はドイツの難民問題に言及。「難民の数が多すぎる」「倫理的な観点からも、難民は期間限定でのみ認めるべきだと思う」と自身の見解を述べた。そして、「難民の中でも、とくに女性や子供については、彼らの辛い気持ちに共感する」としながらも、「最終的には祖国に帰り自分たちで国を再建すべきだ」と訴えた。

 世界経済が不透明ななか、欧州でも自分自身の生活に不安を抱えている人は多い。自分自身の生活への不安と人道主義の間で板ばさみになっている欧州の人々。報道内容やそれに寄せられたコメントから、現地の人々の葛藤が浮き彫りになった。

◆「クレイジーと呼ばれてもいい。正直、彼は正しいと思う」など賛同の声多数
 チベット出身のダライ・ラマ14世は、1959年に中国軍の侵略から逃れるためインド北部ダラムサラへ亡命。その後祖国に一度も帰っていないため、彼自身もある意味“難民”であると複数メディアで紹介された。そして、難民であると同時に“人道主義の象徴”的な人物でもあるため、今回の発言はことさらに注目を集めたようだ。

 このインタビューは、チベット亡命政府の本拠地があるダラムサラで、ドイツの新聞社『Frankfurter Allgemeine Zeitung』が実施した。

 英デイリーメール紙は、ダライ・ラマ14世を「57年間難民生活を送っている“生き仏”」と紹介。同紙では、ダライ・ラマ14世のインタビュー概要とともに難民問題を巡る欧州の厳しい現状を紹介した。また、難民がフランス経由で英国を目指していることや、英国政府が難民問題への対応に苦心していることなども伝えた。

 同記事には700件以上ものコメントが寄せられ、「彼は100%正しい」「ローマ法王とちがってコモンセンスがある」などダライ・ラマ14世の発言を肯定する内容が目立った。賛同数が最も多かったのは、英国マンチェスターのユーザーからの「クレイジーと呼ばれてもいい。正直、彼は正しいと思うよ」という意見。この意見に対し、「あなたはクレイジーだし間違っている」という反論も同じく英国のユーザーから投稿されたが、これには大きくマイナス評価がついていた。

◆もちろん反対意見も多い「ショッキングなコメントだ」「排外主義的考え」
 米ワシントンポスト紙は、「このような意見は主にナショナリスト・グループの間で培われてきたものだったが、思いがけないところから共感を得られた」と伝えた。

 しかし同紙は、「欧州の難民が多すぎる」というコメントについては誤りがあると指摘している。「真実は違う。実は、ほとんどの難民が避難しようとしているのは、欧州ではなく、トルコやレバノン、ヨルダンなどのアラブ人が多数派を占める国々だ。人口8,000万人のドイツが受け入れた難民の数は、たったの100万人強だ」(ワシントンポスト紙)

 一方、英インデペンデント紙に寄稿したJessica Brown氏は、「難民問題についてのショッキングなコメント」というタイトルで批判。「私自身ダライ・ラマ14世の大ファンだが、このようないい加減な排外主義を受け入れる前に慎重に再考しなければならない」と訴えた。同記事には、難民の子供たちの悲痛な写真が11枚掲載されていた。

 インデペンデント紙にも多数のコメントが寄せられ、賛成派と反対派が言い争う一幕も。そして中には、激しい怒りに満ちた意見もあった。

・「一体誰が彼のことを“人道と情けの象徴”などと言ったのか?メディアだ!彼はただの人間で、神権政治のトップだ」

・「なぜ彼のような人間のことを人々がこれほどまでに信用するのか、私には全くわからない」

 各メディアの記事に寄せられたコメントを総合的に見てみると、ダライ・ラマ14世の発言に賛同している人が多数派のようだ。人助けをしたいのはやまやまだが、政府には自国の安全や生活維持をもっと考えてほしい、という思いが伝わってくる。「表立って言い出しにくいことを、当の本人が難民であるダライ・ラマ14世がよく言ってくれた」というのが人々の本音なのかもしれない。
(北川恭子)


  王毅外相“暴走” 更迭間近?で八つ当たり 中国の「人権」質問した記者に激怒 Zakzak 2016年06月04日


中国の王毅外相が、中国の人権状況について質問したカナダ人記者に激怒し、話題になっている。王氏は、4月末に訪中した岸田文雄外相にも悪態をつくなど、常軌を逸した“暴走”が目立っているようだ。専門家は、習近平国家主席率いる中国の強硬外交が失敗続きで、「あちこちで八つ当たりしている」と指摘している。

 「あなたの質問は、中国に対する偏見に満ちており、傲慢だ!」

 王氏は1日、訪問先のカナダで、ディオン外相と共同記者会見に臨み、こう激高した。

 カナダ人記者が、人権問題や南シナ海での軍事的覇権に懸念があるなか、「なぜ両国関係を強化するのか」とディオン氏に質問したところ、いきなり怒り出したのだ。

 さらに、王氏は「まったく容認できない。中国の人権状況について最もよく分かっているのは中国人だ!」と続けた。

 カナダ放送協会(CBC)が世界に配信した映像をみると、王氏は両手を大きく動かして怒りをあらわにし、鬼のような形相で記者をにらみつけている。

 傲慢な態度であり、中国とカナダの友好関係だけでなく、国際社会でも中国のイメージを悪化させそうだが、王氏の暴走はこれだけではない。

 日本の岸田外相が4月末に訪中して日中外相会談を行った際、王氏は「中日関係が谷底に落ちた原因は、日本側が自分で分かっているだろう」「あなたが誠心誠意を持ってきたのなら、われわれは歓迎する」といい、日本側をあぜんとさせた。

この非礼極まる態度に関しては、中国のインターネット上でも「外交儀礼は(粗末な)田舎の接待にも劣る」「低級だ」などの批判が相次いだという。

 オバマ米大統領が5月27日、被爆地・広島を訪問して感動的なスピーチをした際にも、王氏は「南京も忘れてはならない。被害者は同情に値するが、加害者は責任逃れはできない」といい、日本たたきに必死だった。

 知日派で知られる王氏だが、暴走の背景には何があるのか。

 中国情勢に精通する評論家の石平氏は「王氏は、習氏の手先となって強硬外交を展開したが、ことごとく失敗し、逆に中国の孤立化を招いた。王氏自身が追い込まれており、あちこちで八つ当たりしているとみていい。このままでは更迭される可能性もあるのではないか」と語った。


  新疆ウイグル自治区の一部地区住民、旅券申請でDNA提出義務化 AFPBB News 2016年06月07日


【6月7日 AFP】中国当局はイスラム教徒が多数を占める新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)の一部地区の住民に対し、旅券(パスポート)発給など渡航関係の書類を申請する際にDNAサンプルなどの提出を義務化した。地元メディアが伝えた。

 国営地方紙・伊犁日報(Yili Daily)が現地公安当局の発表として伝えたところによると、同自治区伊犁カザフ(Yili Kazakh)自治州の住民は今月1日から、渡航関係書類を申請するために、指紋、声紋、「3D画像」を警察に提出しなければならないという。

 新疆ウイグル自治区のイスラム系住民の多くは、この地区の文化や宗教に対する統制に加え、パスポート発給の拒否などは差別だと非難している。

 同紙によると、イスラム教の断食月「ラマダン(Ramadan)」の開始直前に導入された新方針は、パスポートの発給・更新申請や、台湾への渡航、香港・マカオへの出入に関する申請に適用され、要件を満たさない者は書類の発行を拒否される。


  「中国の民主化、支持を」 天安門事件元学生リーダー 矢木隆晴 朝日新聞 2016年6月6日

1989年に中国・北京で起きた天安門事件当時の学生リーダーの一人、王丹氏(47)が5日、都内で開かれた「六四天安門事件27周年記念集会」で講演した。王丹氏は「中国の民主化は日中関係にもプラスになる」と述べた。

 会場には約400人が集まった。王氏は講演で「日中の市民が友好関係を築くのに、共通の基礎となるのは民主だ。日本は中国の民主化運動を支持してほしい」と訴えた。また、台湾のひまわり運動、香港の雨傘運動や、日本でも昨年国会前のデモに若者が多数参加したことに言及し、「どんな学生運動も全面的に支持する。インターネットと若者に希望を感じる」と期待を込めた。

 王氏は天安門事件後に逮捕され服役。95年にも再逮捕された。その後渡米し、現在は、台湾の大学で客員教授を務めている。(矢木隆晴)


  天安門事件27年 北京厳戒、10人拘束か 産経新聞 2016年6月5日

【北京=西見由章】天安門事件から27年を迎えた4日、弾圧を正当化する中国当局は北京で追悼活動への厳戒態勢を敷いた。民主活動家らの拘束が伝えられる一方、国内の主要メディアは事件について全く触れていない。学生運動の中心となった天安門広場はほぼ日常通りの週末のにぎわいをみせ、“記憶の封殺”を印象付けた。

 天安門広場ではすべての入り口に安全検査所が設けられ、家族連れの観光客らが長蛇の列をつくって、入場までに30分以上を要した。付近には小銃を持った武装警察官もいたが、広場内は極力日常のにぎわいを演出しているようにも見えた。

 一方、中国語ニュースサイト「博訊」(本部・米国)は4日、事件の犠牲者の追悼を行い「騒ぎを起こそうとした」容疑などで、北京などの人権活動家ら10人が同日までに拘束され、6人が失踪したと報じた。


  中国外相が強硬姿勢、昇進意識?「人権問題質問するな」 朝日新聞デジタル 2016年6月5日

 中国の王毅(ワンイー)外相が、対外的な強硬姿勢を際立たせている。厳しい対日批判だけでなく、中国の人権問題を指摘した外国人記者にも「発言権はない」などと激怒。背景には、指導部人事が予想される来年の党大会に向け、国内で存在感をアピールしなければならない事情もありそうだ。

 「そのような無責任な質問は、二度としないでほしい」。1日、訪問先のカナダでの共同記者会見で王氏は怒りをあらわにした。

 カナダ人の記者の質問は「人権問題への懸念があるなか、なぜ中国と緊密な関係を求めるのか」というカナダ外相に向けたものだったが、王氏は「その傲慢(ごうまん)さはどこから来るのか」と反発。「中国の人権状況を最も理解するのは中国人だ。あなたには発言権がない」と語気を強めた。


  <天安門事件27年>香港民主派、分裂鮮明 別々に集会開催 毎日新聞 2016年6月4日

【台北・鈴木玲子】天安門事件から27年となった4日夜、香港の中心部にあるビクトリア公園で犠牲者を追悼する恒例の集会が開かれた。一方、主催の民主派団体と共に活動してきた香港大など複数の学生団体は、別の場所で記念行事を開き、民主派の分裂様相がより鮮明になった。

 集会では、参加者がろうそくを手にし、犠牲者に黙とうをささげた。また事件を「暴乱」と位置づける中国政府に、事件の再評価に取り組むよう訴えた。

 従来の民主派は、中国全体の民主化を目指してきた。だが、香港では2014年の民主的な選挙制度を求める大規模デモをきっかけに、香港人意識を強める若者らを中心に、中国よりも香港の民主化実現を目指す動きが活発化している。追悼集会から離脱した学生団体は、集会は形骸化していると批判。民主派内部の対立がさらに深まる可能性がある。

 一方、台湾の蔡英文総統は4日、自身のフェイスブックで、中国に対し「対岸(中国)の政治制度を非難するつもりはない。台湾の民主化の経験を分かち合ってほしいと心から願っている」と民主化を呼びかけた。5月の就任後、事件に対するコメントは初めて。

 蔡氏は「民主主義や人権といった普遍的価値観は人民が努力して勝ち取るもので、中国も例外ではない」と指摘し「過去を正視し、未来に向かうときだ」と促した。台北市の広場でも4日夜、市民らが追悼集会を開いた。


  カナダ首相、記者叱責の中国外相に「不満」表明 読売新聞  2016年6月4日

【ニューヨーク=水野哲也】カナダのトルドー首相は3日、中国の王毅(ワンイー)外相がカナダ・オタワで行った記者会見で中国の人権問題を尋ねた記者を叱責したとして、中国側に対し、報道機関への対応を巡る「不満」を表明した。

 カナダ放送協会(CBC)などが伝えた。

 王氏は1日の記者会見で、カナダメディアの記者が中国の人権状況を質問した際、「中国への偏見にあふれた質問であり、傲慢だ。到底受け入れられない」などと非難した。トルドー氏は「報道の自由は極めて重要。厳しい質問をするのがメディアの仕事だ」と反論。記者への不当な扱いについて、カナダ政府として、王氏と駐カナダ中国大使に抗議したという。


  カナダ人記者が「人権」で中国への非難に、王毅外交部長「傲慢と偏見」 人民網日本語版 2016年6月3日

中国の王毅外交部長(外相)は1日、カナダの首都オタワで同国のディオン外相と第1回中国・カナダ外相年度会談を行なった。

会談後の共同記者会見で、あるカナダ人記者が人権問題で中国を非難した。「あなたの質問は中国に対する偏見に満ちている。その傲慢さはどこから来るのか」。王外交部長は「中国側は善意の提言は歓迎するが、何の根拠もない、理由のない非難は拒絶する」と述べた。

カナダ放送協会(CBC)の2日の報道によると、この質問をしたのは同国のネットメディア「iPolitics.ca」の記者。記者は中国の国家機密を窃取した疑いで起訴されたカナダ人ケビン・ギャラット氏に言及し「人権活動家に対する中国の扱いに関する懸念はおさまらないままだ。なぜカナダはそれでも中国とより緊密な関係の構築を図るのか?」と質問した。

質問はディオン外相に対するものだったが、ディオン外相が答えた後、王外交部長は「この質問に応じる必要がある」と自ら表明。カナダ人記者の見解について「全く受け入れられない」としたうえで「中国の人権状況を最も理解しているのはあなたではなく、中国人自身だ。あなたに発言権はなく、中国人に発言権がある。こうした無責任な質問はもうしないでもらいたい」と述べた。「あなたは中国に行ったことがあるのか?」「中国が経済的に貧しく文化的に立ち後れた状態から、6億人以上の貧困脱却を実現したことを知っているのか?」「中国がすでに人権保護を憲法に盛り込んだことを知っているのか?」。中国外相は立て続けの質問によってカナダ人記者の非難に力強く応じた。

英BBCは、この質問は中国外相を大変不愉快にさせたと報じた。だが現場にいた記者は、王外交部長は素晴らしい対応をしたと感じた。中国外交部(外務省)の華春瑩報道官は2日、この件に関する質問に「報道関係者として、あなたたちも胸に手を当てて自問してみるといい。中国、特に人権問題について報じる際、あなたたちは中国に対して一体公平なのかどうかを」と述べた。

ディオン外相は中国外相とギャラット氏の件について話し合い、人権や領事関連の問題についても言及して、「誠実で率直」な会談を行なったと述べた。CBCは、対話の中心は「健全な二国間関係」であり「われわれは常に合意することはできないが、進展を得る必要がある」とのディオン外相の発言を報じた。ディオン外相は南中国海問題について「各自の固まった立場を互いに尊重したうえで話し合う」ことを主張。王外交部長は「中国とカナダの関係は新たな黄金時代に入りつつあると信じる」と表明した。

「中国は将来のアジア太平洋諸国間の関係発展の正しい方向をどう考えているのか?」。この質問に王外交部長は「習近平国家主席は2014年の北京APEC会議で、アジア太平洋各国には地域の人々のためにアジア太平洋の夢を創造し、実現する責任があることを明確に打ち出した。このために各国はアジア太平洋自由貿易圏を力を合わせて構築し、太平洋両岸をカバーするコネクティビティ・システムを連携して築き、アジア太平洋パートナーシップを共に構築するという3つの目標に向けて努力するべきだ」と述べた。

外相の訪問時には外相が対等に対応するのが慣例だが、今回はトルドー首相との会談もセッティングされたことに外国メディアは注目している。カナダ紙グローブ・アンド・メールはこれについて、カナダ政府が対中関係の重要性を認識していることを示すものだと報じた。


  世界で4600万人が「現代の奴隷」に、インドが首位 日本25位 ロイター 2016年6月1日

[ロンドン 31日 トムソン・ロイター財団] - オーストラリアの人権団体は31日、「現代の奴隷」としての生活を余儀なくされている人が、世界中で約4600万人に上ると発表した。最も奴隷の数が多かったのはインドで、人口比率では北朝鮮が最も高かった。日本は数で25位、人口比率では41位だった。

人権団体「ウォーク・フリー・ファンデーション」は3年前から、生まれながらにして奴隷状態にある人や性労働のため人身売買された人、強制労働者など、各国の奴隷状況や政府の取り組みを調査した報告書を発表している。

167カ国を対象に、毎年ランダムにサンプルを抽出して推定値を引き出している。2016年版は25カ国、53の言語で、米世論調査会社ギャラップが約4万2000人に行ったインタビューに基づいている。

それによると、奴隷の数は4580万人に上り、2014年の3580万人から増加。このように30%近く増加したことについて、同団体の設立者であるアンドリュー・フォレスト氏は、データ収集が改善したことを挙げた。そのうえで、難民などにより状況は悪化しており、あらゆる形態の奴隷リスクが高まっていることを懸念しているという。

今年の報告書発表会で司会を務めた俳優ラッセル・クロウさんは「俳優として、ありのままの感情を表現することも自分の仕事のうちだが、今日発表された報告書にある人々の生活と比べられるものなど何もない。これを読んで受けたショックを放置してはいけない」と語った。

報告書によると、奴隷の数ではインドが最も多く、推定1840万人。2番目に多いのは中国の同340万人。パキスタンが同210万人でそれに続いた。

全体の約58%は、インド、中国、パキスタン、バングラデシュ、ウズベキスタンの5カ国で占められ、約15%がサハラ以南のアフリカで占められていた。

人口比率で見ると、北朝鮮が最も高く、人口2500万人の4.4%、20人に1人が奴隷状態にあるという。そのほか、ウズベキスタンやカンボジアが高かった。

また調査では、衣服や食料品などの世界的なサプライチェーンにおいて単純労働者の多いアジアは、奴隷状態にある全体人数の3分の2を占めていることが明らかとなった。

対策を最も取らない国として挙げられたのは、北朝鮮、イラン、エリトリア、赤道ギニア、そして香港だった。

一方、最も対処している国には、オランダ、米国、英国、スウェーデン、オーストラリアが名を連ねた。
欧州は奴隷が最も少ない地域だが、強制労働や性的搾取の源であり、目的地となっていたと、同人権団体は指摘。また、紛争や貧困から逃れる難民・移民の欧州への大量流入の影響はまだ分からないとしている。

クロウさんは、奴隷はなくならない問題だと述べ、「解決するまで、われわれ皆が集中して取り組み続けるべきだと思う」と語った。

奴隷状態にある人が最も多い国トップ10は以下の通り。また、25位の日本は約29万人が奴隷状態とされており、約30万人のイエメン(24位)と約26万人のシリア(26位)に挟まれている。

1.インド
2.中国
3.パキスタン
4.バングラデシュ
5.ウズベキスタン
6.北朝鮮
7.ロシア
8.ナイジェリア
9.コンゴ民主共和国
10.インドネシア


  【検証・文革半世紀(7)】 「学校行かなくていい。楽しそう」 風化の一方で息吹き返す肯定派 底知れぬ「先祖返り」の代償  産経ニュース  2016年05月23日

あるテレビ局のクルーが5月中旬、北京で若者らに文化大革命(文革)について、「1つの単語で表現するなら何になるか」と尋ねる取材をした。「混乱」「悲劇」といった回答がおよそ半分を占めたが、「ロマン」などの言葉を連想した人も少なくなかった。「学校に行かなくてもいいし、楽しそうだ」と答えた男子大学生もいた。

 「多くの人が文革の悲惨さを理解していないことに驚いた。50年前に起きたことが風化しつつあると実感した」。取材した香港(※1)のテレビ局の記者が感想を漏らした。

 中国の新聞やテレビドラマ、映画などは、日中戦争時の旧日本軍の振る舞いについて大々的に宣伝しているが、その後に起きた文革中の出来事には触れようとしない。教育現場も同じだ。政府が指定する人民教育出版社発行の中学用歴史教科書は、いわゆる南京事件には写真などを多用して17ページをさいているが、文革はわずか3ページ余り。しかも、中国共産党の指導で文革を終わらせたという部分が半分以上を占める。

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 「烏有之郷」。ユートピア(理想郷)を意味する中国語を冠したウェブサイトは、文革を肯定する人々の心のよりどころといわれる。関係者は「共産主義の理想を捨てずに追い続けるという決意を込めて、この名前を付けた」と話す。北京大学の孔慶東や南開大学の艾(がい)躍(やく)進(しん)ら著名な左派学者の論文が多く掲載され、毛沢東や文革の賛美に加え、対米批判も多い。

 こうしたサイトに影響を受けたのか、若い世代には「文革は中国が最も輝いていた時代」と考える者もいる。当時の中国が、強気の対米姿勢を貫いたことなどが理由とみられる。

 左派学者らは「毛沢東の主導で文革中、水素爆弾や弾道ミサイルの発射実験などを成功させ、世界から尊敬されるようになった。そうでなければ、イラクやリビアのように米国に潰されていた」と主張している。

 愛国主義教育を受けて育った若者のほか農民工(※2)、タクシー運転手ら貧しい層の間でも文革を懐かしむ声が聞かれる。経済発展から取り残された人々の中には、毛沢東が主張した貧富の差がない社会を夢見る者が確かに存在する。

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 北京中心部の天安門広場にある毛主席記念堂。安置されている毛沢東の遺体を一目見ようと長蛇の列を作る人々の大半は、農村からやってくる。

 北京を訪れたら1度は必ず遺体に会いにくる、という河北省出身で50代の出稼ぎ労働者の男性は、「もう一度文革があれば真っ先に紅衛兵になり、汚職官僚の家から財産を奪って貧しい人々に分ける」と話した。

 文革中、紅衛兵は裕福そうな家に押し入り、ほしいままに家財を没収した。「抄(チャオ)家(ジャー)」と呼ばれるこうした行動は多くの人にとっては悪夢そのものだった。

 文革を肯定する若者と貧困層は現在の国家主席、習近平を支持していることでもほぼ共通する。個人崇拝やメディア統制、政治犯の拘束なども、「権力掌握のためにはやむを得ない」といった寛容な態度を示している。

 文革期への“先祖返り”ともいえそうな現象の数々は、中国が再び大きな嵐に見舞われる前兆なのだろうか。    (敬称略)

=第1部おわり



 中国総局 矢板明夫が担当した。

※1香港 中国南部の特別行政区。19世紀に英国に割譲(一部は99年間の租借)され、1997年7月に中国に返還。中国は「一国二制度」の下、返還後50年間は政治体制を変更しないと約束した。

※2農民工 農村出身の出稼ぎ労働者。「都市戸籍」を持たず、都市に定住しても就労や子供の教育などで不利益をこうむるとして、社会問題となってきた。


  【検証・文革半世紀(5)】 「道徳の力は無限だ」と習主席 かつての英雄賛美、官製“奉仕キャンペーン”で復活 「面倒」と市民冷ややか 産経ニュース  2016年05月21日

3月2日、中国北部・河北省石家荘市を走る路線バスの中で、若い女性が年寄りの男性に席を譲った。すると、車掌がいきなり女性に近寄って大きな花束を贈った。乗客からは大きな拍手がわき起こった。

 地元紙が伝えた「雷鋒に学ぶキャンペーン」の一コマだ。バス会社が企画したもので、老人や体の不自由な人に席を譲る“心の美しい人”を見つけて称賛し、助け合いの精神を広げようという狙いだ。

 3月初めの約1週間、全国各地でこうした運動が展開される。特に熱心なのが小中学校の教育現場だ。子供たちを動員して行われるボランティア活動は、独り暮らしの老人の家を掃除したり、地下道の張り紙や落書きをきれいにしたり、駐車場で見ず知らずの人の自動車を洗車したり−とさまざまで、官製メディアは大きく取り上げ、「生ける雷鋒」などと持ち上げる。
   
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 雷鋒は22歳の時、執務中の事故で死去した中国人民解放軍の兵士だ。人助けや奉仕活動に熱心だったため、文化大革命(文革)中に道徳模範として持ち上げられた。死後に発見された雷鋒の日記には、「私心を忘れ、ひたすら革命に邁進する」「自分の原点は毛沢東思想だ」といった記述があった。

1963年3月5日付の人民日報は「雷鋒同志に学ぼう」という毛沢東の揮毫(きごう)を掲載。以後、毎年3月5日は雷鋒を学ぶ記念日となった。毛の言葉もスローガンとなり、新聞や教科書で盛んに用いられた。
   
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 雷の故郷は「雷鋒鎮」と改名され、殉職した遼寧省には記念館も造られた。しかし、1978年に始まった改革開放以後、経済的な利益の追求が人々の関心事となり、雷鋒がメディアにほとんど登場しない時期が長く続いた。

 雷鋒に学ぶ活動を本格的に復活させたのが習近平だ。

 2014年3月、全国人民代表大会(全人代=国会)の軍代表団の分科会に出席した習は、「雷鋒精神は永遠なり」「あなたたちは雷鋒精神のタネを全国の大地に撒かなければならない」などと訓話した。習が折に触れて雷鋒に言及したことで、毛時代を思い起こさせる大衆運動となった。

 雷鋒だけではない。文革中にもてはやされた共産党の模範幹部、焦裕禄も同様だ。河南省蘭考県の書記だった焦は農民と寝食を共にし、流砂や豪雨などの自然災害と闘った直後に病死した。習は何度も「焦のような幹部になれ」と党幹部らに訓示してきた。

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 文革中に青年期を過ごした習は、自らも道徳模範に学ぶ運動に熱心に参加した経験があるといわれる。「精神の力は無限で、道徳の力も無限だ」が持論の習は、毛と同じように滅私奉公の見本を示し、民衆がそれを学ぶよう望んでいると考えられる。

 しかし、文革中の英雄の賛美には冷ややかな反応を示す一般市民が多い。上海市統計局が3月に実施した世論調査結果では、約6割の市民が雷鋒を学ぶことについて、「面倒だ」などと拒否反応を示している。近年は「人助けをしたのに、逆に加害者として訴えられた」というトラブルが多発し、人助けに慎重な傾向があることも背景にある。

 北京の改革派知識人は、「雷鋒に学ぶ運動でも国民の道徳水準は上がらなかった。文革で失敗したのに、もう一度やるのはナンセンスだ」と指摘した上で、「今の中国人はインターネットを通じて外部の世界を知っている。このようなやり方を続ければ、政府を信用する人はますます減っていく」と話している。(敬称略)


  【検証・文革半世紀(6)】 拡大する「十字架外し」 党員数越える信者に危機感




 産経ニュース  2016年05月22日

中国共産党機関紙の人民日報は1966年6月1日、1面トップで掲載した「牛鬼蛇神を一掃せよ」と題する社説で呼びかけた。

 「数千年来、支配階級の手先として人民を毒してきた古い思想、文化、風俗習慣をすべて破壊せよ」
 仏教の用語である「牛鬼蛇神」は、牛の頭の化けものや蛇身の魔物などを意味するが、この場合、各種の宗教の信仰対象である神仏や古い価値観を守ろうとする人々を指す。文化大革命(文革)の開始直後に掲載された社説は、紅衛兵に「宗教や古い文化を代表するすべてのものをたたき壊せ」という号令となった。

 それからおよそ50年が経過した現代の中国で、浙江省を中心に、キリスト教の教会の十字架が「違法建築」の名目で当局に外される問題が相次いでいる。

 その数は2千件以上ともいわれ、非公認のいわゆる「地下教会」に加え、当局に認められている教会も含まれる。信者と当局者が衝突する場面も多くみられるようになった。

 「消えた十字架」という言葉をよく聞くようになったのも、半世紀ぶりのことだ。

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 無神論を唱える中国共産党と宗教は、本質的に共存しえない関係にある。中国国民党と内戦を繰り広げていた時代や建国直後など、宗教に理解を示すポーズをとった時期もあったが、文革中に全面否定に転じた。

 中国共産党史を研究する北京の大学教授は、「文革は毛沢東という神を創る運動でもある。毛を中国人にとっての唯一の神にするため、ほかのすべての神を否定しなければならなかった」と話した。

 紅衛兵は、中国最古の仏教寺院といわれる河南省洛陽市郊外の白馬寺を襲い、後漢(※1)の時代から残る仏像を壊し、千年以上も保管されてきた仏典を焼いた。1600年前に建てられた山西省代県の天台寺の彫刻や壁画も破壊された。

 各地のキリスト教の教会も、「帝国主義が中国を植民地支配した象徴」として攻撃対象となった。だが、木造でほとんどが壊されたイスラム教や道教、チベット仏教などの施設と違い、比較的堅牢(けんろう)な建物が多く、学生主体の紅衛兵らが壊すのは困難だった。

 そこで、彼らは屋根の十字架だけを外して中国の国旗や毛沢東の肖像画などを掲げた。紅衛兵に外された十字架は全国で10万個以上ともいわれた。牧師や神父がつるし上げられ、殴られ、投獄された。

文革を経験したキリスト教関係者の間では、「消えた十字架」という言葉を聞くと、迫害の時代を想起する人が多いという。

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 貧富の格差など社会矛盾の拡大にともない、中国では近年、キリスト教の信者が急増。プロテスタントだけで1億人を超え、総数8千万人の共産党員を上回ったとの推計もある。共産党員の中には理念を捨ててキリスト教を信仰する人も増えているという。

 危機感を覚えた国家主席の習近平は、講話で「党員は宗教を信仰してはいけない」という党則を繰り返し強調するとともに、浙江省に対してキリスト教の取り締まり強化を命じた。「十字架外し」はその一環にすぎないとみられ、欧米メディアなどは地下教会の閉鎖や関係者の拘束、暴行といった事件を報じている。

 浙江省は中国でキリスト教が最も盛んな地域の一つで、習のかつての勤務地でもあった。その浙江省で先行して取り締まりを実施した習政権は今後、ノウハウを生かして全国に締め付けを拡大する予定ともいわれる。(敬称略)


  中国が神経とがらすチベット自治区は新疆ウイグル自治区と並ぶ“火薬庫”=独立運動への関与理由に独議員の入国拒否 Record china  2016年5月21日

2016年5月20日、ヒマラヤ山脈の麓に位置する中国チベット自治区。インドを拠点とするチベット亡命政府の独立運動が続く。同じような独立運動を抱える新疆ウイグル自治区と並ぶ中国の“火薬庫”でもある。中国政府は最近もチベット独立運動への関与を理由にドイツ国会議員の入国を拒否するなど、神経をとがらせている。

チベットには1949年の新中国成立から間もない51年、人民解放軍が進駐。チベット族側の反発が広がった。59年の動乱を軍が鎮圧。チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世はインドに脱出し、亡命政府を樹立した。65年、中国でチベット自治区が成立。その後も抗議行動が続き、89年にはラサに戒厳令が敷かれた。2008年にもラサなどで大規模な騒乱が起きた。

中国によるチベット統治については国際社会の批判が強く、米メディアによると、米国の国際宗教自由委員会(USCIRF)は2016年度の年次報告書で、中国を宗教の自由への違反が「特に懸念される国」に再指定。昨年10月、中国の習近平国家主席が英国を公式訪問した際、ダライ・ラマ14世と親交があるチャールズ皇太子は、エリザベス女王主催で開かれた歓迎の公式晩さん会を欠席した。

中国入国を拒まれたのは、独キリスト教民主同盟(CDU)のメンバーで連邦議会議員のマイケル・ブランド氏。5月下旬に連邦議会の代表団の一員として訪中する予定だったが、独メディアは「過去にチベット独立関連の活動に参加していたことが原因」と報じた。ブラント氏も「数週間前、独駐在の中国外交官が訪ねて来て私に圧力をかけた。ネットに掲載しているチベット関連の発言を削除するよう求められたが、拒否した」と明かした。

中国外交部の陸慷(ルー・カン)報道官は「人権問題に関して中国に言及した人物は彼1人ではなく、その多くの人が中国に訪れている」と指摘する一方で、「彼が招かれなかったのは、かたくなにチベット独立勢力を支持したからだ。これは独政府が堅持する中国の政策に公然と反する間違った行為である」と言い切った。

チベット独立派と関係を断つことは、芸能人にも求められる。中国メディアによると、今年3月、中国の人気歌手や香港の俳優らがインドで開かれたチベット仏教の儀式で、亡命政府の指導者と同席していたと報じられると、チベット自治区の呉英傑(ウー・インジエ)共産党委員会副書記は「ダライ集団との接触は、その目的が何であれ、われわれは断固反対する。スターは自らの行動に責任を持つべきだ」と警告した。

折しも、ダライ・ラマ14世は5月8日から日本を訪問。在日チベット人らと交流した。しかし、この間、日本メディアでは、著名なノーベル平和賞受賞者の動静に関する記事は、ほとんど見当たらなかった。毎年のように来日しており、ニュース価値はあまりない、と判断したとみられる。何かに気を使ったのでなければ幸いだ。(編集/日向)


  米政府系基金、中国の人権NGOに多額援助 中国は弾圧 ワシントン=峯村健司 朝日新聞   2016年5月17日

 「帰国すれば必ず逮捕される」。昨年3月、米ニューヨークにいた中国の人権NGO(非政府組織)「北京益仁平センター」代表の陸軍氏(43)は、同僚から国際電話を受けた。北京にある事務所に家宅捜索が入った、という連絡だった。容疑を告げないまま、約20人の捜査員が一晩かけてパソコンや書類を押収。同僚らは拘束された。

米中の攻防、人権巡り激化
 同センターは陸氏が2006年、HIV感染者の支援のためにつくった。女性の権利向上や食の安全などにも取り組んだ。14年夏から1年間、ニューヨーク大に客員研究員として招かれていた。身の危険を察して帰国をやめ、亡命を決めた。

 取り調べを受けた同僚の話から、当局が同センターの決算書のある収入に着目していることがわかった。

08年7万ドル 09年10万ドル

 全米民主主義基金(NED・本部ワシントン)から受け取った援助額だった。

 NEDは各国の民主化を支援する非営利団体だが、予算の大半は米政府が拠出している。人権問題が米中間の大きな懸案となるなか、中国政府はNEDを米政府の先兵とみなす。陸氏は「当局はNEDとの関係を問題視した」と語る。

 NEDは年次報告書などで人権団体などへの支援について公表しているが、安全上の配慮から中国などの一部の団体名を伏せている。

 それによると、NEDが中国の民主化や人権問題に関わる団体に支援した総額は、9652万ドル(現在のレートで約106億円)。人権や民主化に取り組む中国内のNGOなど少なくとも103団体に交付された。このうちチベット関連の団体には計625万ドル(約6億9千万円)、ウイグル関連の団体には計556万ドル(約6億1千万円)が提供された。この中には、亡命チベット独立急進派の「チベット青年会議」や亡命ウイグル人組織「世界ウイグル会議」など、中国政府が「テロ組織」などと批判する団体もある。

 中国政府は、中国内のNGOや人権派弁護士らへの取り締まりを強めており、NEDの活動が「極めて難しくなっている」(NED関係者)という。米国務省は4月に発表した人権報告書で「中国政府はNGOと外国との資金の結びつきを捜査している」と指摘する。NEDのカール・ガーシュマン理事長は朝日新聞の取材に応じ、「中国当局による弾圧が強まっているが、人権や少数民族の権利保護のために闘っている団体を引き続き支援し、孤立させないことが重要だ」と語る。(ワシントン=峯村健司)

     ◇

 《全米民主主義基金》 世界各地の民主化支援を目的に、米レーガン政権の提唱で1983年に設立された団体。民間の非営利組織だが、資金の大半は米政府が拠出。90以上の国々で、人権や民主化の推進に取り組む非政府組織や政党などに、毎年1200件以上の助成金を出している。


  チベットの人権状況把握で訪中予定だったドイツ政治家、中国からビザ下りず=過去にチベット独立の関連活動に参加―独メディア Record China  2016年5月12日

2016年5月11日、ドイツキリスト教民主同盟(CDU)のメンバーでドイツ連邦議会の議員であるマイケル・ブランド(Michael Brand)氏の訪中が中国に拒否されたことについて、独ラジオ局ドイチェ・ヴェレ中国語サイトはブランド氏が過去にチベット独立関連の活動に参加していたことが原因だと指摘した。

ブランド氏は今月下旬に連邦議会の代表団に同行し訪中する予定だったが、ビザは下りなかった。これについてブランド氏は独タブロイド紙・ビルトの取材に対し、「数週間前、ドイツに駐在している中国の外交官が訪ねて来て私に圧力をかけた」と語り、この後に中国大使館に招かれ中国大使と交流し、ブランド氏がネットに掲載しているチベット関連の発言を削除するよう求められ拒否したと明かした。

ブランド氏は5月末の訪中でチベットを訪れ現地の人権状況を把握する予定だった。ブランド氏の言動が中国側のビザ発行拒否を招いたとの見方が強い。ブランド氏はドイツの外交部門に対応を求めている。


  チベット亡命政府、選挙戦めぐりダライ・ラマが批判 首相ら謝罪 産経ニュース2016年4月15日

【ニューデリー=岩田智雄】インド北部ダラムサラに拠点を置くチベット亡命政府の首相選を戦った現職のロブサン・センゲ氏とペンパ・ツェリン議会議長に対し、チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世が批判を表明、側近の神託官が選挙戦はチベット人の結束を乱したと叱責していたことが分かった。

 ダライ・ラマは先月23日の演説で、「仕事の遅れがあるのに重大な出来事に平然としているなら、見かけはよくても中身は薄っぺらだ。私はあと10年も15年も生きられないかもしれず、皆が責任を持たなければならない」と団結を求め、神託官が2人を叱責する動画が出回った。

 亡命政府関係者によれば、中国でのチベットの高度の自治実現や、亡命チベット人社会の医療体制の充実といった課題が解決されていないのに、2人とその支持者が、選挙戦で対立候補の人格を疑うような非難合戦を展開したことで怒りを買ったという。

 候補の2人は今月7日の記者会見で謝罪したが、11日に訪問先から戻ったダライ・ラマを出迎えた幹部らの中に2人の姿はなく、最高指導者はまだ納得していないもようだ。先月20日に投票された首相選の結果は27日に発表される予定。 


  「私はあと10年も15年も生きられないかもしれない…皆が責任持て」 ダライ・ラマがチベット亡命政府を叱責、首相ら謝罪 産経ニュース2016年4月13日

【ニューデリー=岩田智雄】インド北部ダラムサラに拠点を置くチベット亡命政府の首相選を戦った現職のロブサン・センゲ氏とペンパ・ツェリン議会議長に対し、チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世が批判を表明し、側近の神託官が選挙戦はチベット人の結束を乱したと叱責していたことが13日、分かった。

 ダライ・ラマは先月23日の演説で「仕事の遅れがあるのに重大な出来事に平然としているなら、見かけはよくても中身は薄っぺらだ。私はあと10年も15年も生きられないかもしれず、皆が責任を持たなければならない」と団結を求め、神託官が2人を叱責する動画が出回った。

 亡命政府関係者によれば、中国でのチベットの高度の自治実現や、亡命チベット人社会の医療体制の充実といった課題が解決されていないのに、2人とその支持者が、選挙戦で対立候補の人格を疑うような非難合戦を展開したことで怒りを買ったという。

 今月6日、公安相が引責辞任し、候補2人は7日の記者会見で謝罪したが、11日に訪問先から戻ったダライ・ラマをダラムサラの空港で出迎えた幹部らの中に2人の姿はなく、最高指導者はまだ納得していないもようだ。先月20日に投票された首相選の結果は27日に発表される予定。 


  【矢板明夫のチャイナ監視台】 文化大革命から半世紀 「三日天下」ならぬ「十日文革」が残した教訓とは… 産経ニュース  2016年04月11日


 戦国時代。明智光秀が本能寺で織田信長を討って天下人となったが、わずか十数日で滅ぼされたことから「三日天下」という言葉ができた。最近、北京の知識人の間でにわかにはやりだした言葉として「十日文革」があり、意味はかなり近い。

 「十日文革」とは、今年2月末から3月初めにかけて、共産党の宣伝部門がメディアを総動員して、当局の言論統制に疑問を呈した著名な企業家、任志強氏に対し「共産党員の恥だ」などと文化大革命時代さながらの言葉を使って集中的に批判したが、わずか約十日後、批判がぴったりと止んだことを指している。党中央で文化大革命を肯定する左派と反対する勢力が水面下で激しい攻防を展開し、結局、任氏を守ろうとした改革派が勝利したためとみられる。

 北京の大手不動産会社「華遠地産」の会長を務め、中国を代表する企業家の一人として知られる任氏が当局の逆鱗に触れたきっかけは、習近平主席のメディア視察についてのつぶやきだった。習主席は2月19日、党機関紙・人民日報、国営通信・新華社、国営中央テレビを視察した際、「メディアは党の宣伝の陣地であり、党を代弁しなければならない」などと指示し、各メディアは「党に対し絶対的な忠誠を誓う」などと応じた。

中国ではすべてのメディアは共産党宣伝部のコントロール下にあり、党の「喉と舌」との異名を持っているが、近年、メディア間の競争が激化、報道規制が少しずつ緩やかになる傾向にある。党によるメディア支配を再び強化させることが、習主席の視察目的だったといわれる。

 これに対し任氏は、自身の中国版ツイッター微博で「メディアは人民の利益を代表すべきだ。(党を代表すれば)人民の利益は隅に捨てられ、忘れ去られる」と感想を書き込んだ。任氏の微博アカウントには約3780万人のフォロワーがおり、大きな影響力を持つ。習主席批判とも受け止められるつぶやきは大きな反響を呼び、「その通りだ」「メディアは人民の代弁者であるべきだ」などの感想が100万件以上殺到したという。

 中国青年報や、北京市の官製メディアは直ちに任氏に対する反論、批判キャンペーンを展開した。「反党分子を打倒せよ」といった文化大革命時代に紅衛兵が使った言葉まで登場した。任氏が自身の微博で
「私は党に反対しているわけではない」などと釈明を試みたが、その直後に微博が当局から閉鎖され、任氏が所属する北京市西城区共産党委員会は、「任志強は共産党員として、ネット上で違法な情報と間違った言論を発表し悪い影響を及ぼし、党のイメージを深く傷つけた」として、「区党委員会は《中国共産党規律処分条例》に基づき、任志強に厳格な処分をする」との声明まで発表した。

同じ頃、華遠地産には当局の査察が入り、任氏は間もなく「脱税や贈賄」などの容疑で拘束されるとの噂が流れた。北京の改革派知識人たちは当局のこうした強引なやり方に「文革の再来だ」「悪質な言論弾圧を許すな」などと任氏を応援する文章をインターネットに多く発表したが、そのほとんどはすぐ削除された。

 「任氏の拘束は時間の問題だ」とみられていた3月3日ごろ、党中央規律委員会のホームページに「党は批判を謙虚に受け入れるべきだ」との趣旨の論文が掲載され、流れが変わった。批判するキャンペーンが止まり、一連の任氏を罵倒する文章はインターネットから削除されていった。そして3月8日、しばらく沈黙していた任氏が北京市内の会合に出席、財界要人らと談笑する写真が多くのネットメディアに掲載され、一件落着を内外に印象づけた。

 共産党関係者によると、今回の任志強批判は、最高指導部の劉雲山政治局常務委員が主導したものだが、国民から「やり過ぎた」と多くの批判が寄せられたという。党内にはこうした「文革的なやりかた」に強いアレルギーがあって反対意見が多かった。とくに最高指導部メンバーで、王岐山・党規律検査委員会書記が任氏への厳しい処分について最後まで反対したという。このままいけば、党が分裂しかねないと懸念した習主席は最終的に批判に「ストップ」をかけたという。

 今年は中国に大きな混乱をもたらした文化大革命の発生から50年目になる。毛沢東を崇拝する左派勢力は再び台頭しているが、国民の心の傷はまだ癒えていない。中国で再び文革を起こすことは簡単なことではないようだ。(産経新聞中国総局記者 矢板明夫)


  中国 チベット自治区の遊牧は野蛮と強制移住実行 NEWS ポストセブン 2016年 年3月26日


チベット亡命政権の政治的最高指導者、ロブサン・センゲ首相は本インタビューに応じ、チベット人対し、僧侶で、一般市民を問わず、社会的にも、政治的にも、経済的にも厳しい差別や弾圧が中国当局によって行われていると語った。隣組制度を作り相互監視させたり、中国人の移住を進めて結婚を奨励する「混血政策」といった政策も行っている。それ以外にも環境破壊など深刻な問題も起きているという。ジャーナリストの相馬勝氏がレポートする。

 * * *

 最近、問題視されているのが中国によるチベット高原の環境破壊だ。これまでチベット自治区では約225万人がチベット固有の遊牧生活を送ってきていたが、中国はこれを「野蛮」と禁止。

 コンクリート製のバラック建て住居が多数建設されている「キャンプ」へ遊牧民を強制移住させる計画が実行され、2011年1月には、143万人の農民と遊牧民がキャンプに移住した、と中国政府は発表している。移住に伴って接収した土地は「環境保護」の名目でダム開発や採掘が行われている。現在、政府による「牧草地の農地改造政策」施行により牧草地は過放牧となり、砂漠化がすすんでいる。

 乱開発によって、温暖化が進み、氷河が消滅しつつあることも、国際的な環境団体によって警鐘が鳴らされている。

 センゲ氏によれば、このままの状況が続けば、2050年までにチベット高原の3分の2の氷河が溶けてしまうという。

 そして、「アジアにはチベット高原の氷河を源流とする大きな河川が、ガンジス川や揚子江、黄河など10以上あり、20億人以上の水源となっているだけに、中国によるチベット高原の乱開発や人口増によって、さらに温暖化が進めば、将来的に貴重な水資源が失われることになりかねない」と警告を発する。

 センゲ氏は「私は1996年から、15年間、ハーバード大学で学び、その間、中国人学生から大学教授、政府要人ら多数の中国人と知り合ったが、彼らは私がチベット人だと知ると『ロブサン、お前が中国に来ても、絶対に私と連絡を取るなよ。メールもだめだ。そうなれば、官憲が私たちをマークし、私たちの将来はなくなってしまう』と心配していた」との個人的な体験談を語った。そのうえで、こう強調した。

「中国におけるチベット問題は極めて敏感な問題だ。ダライ・ラマ法王はこのような悲劇的な状態を終わらせるためには『中国との対話しかない』と主張している。習近平指導部は話し合いを拒否するのではなく、多くの問題解決のため、できるだけ早くわれわれとの対話に応じるべきだ」

※ SAPIO2016年4月号


  【矢板明夫のチャイナ監視台】 中国地元紙記者の連続逮捕でやってきた「本格的冬の時代」 産経ニュース  2016年03月24日

中国内陸部甘粛省の地元紙、蘭州晨報の記者、42歳の張永生氏の悪夢は2016年1月7日から始まった。午後3時40分ごろ、甘粛省武威市中心部で行われた防災訓練で、担当者が対応を誤り、消し止められたはずの火元が周辺建物に引火し、大きな火事となった。同市当局者は直ちに、各メディア担当記者の携帯電話に「火事のことを取材するな」との内容のショートメッセージを送った。

 しかし、張氏はこのメッセージを無視した。家族と同僚に「現場にいく」と連絡してから車で向かったが、そのまま行方不明となった。2日後の1月9日午後、地元の警察が家族らに対し「7日午後4時頃、市内のスーパー銭湯の個室で張氏がマッサージ業の女性と淫らな行為をしていたところ、警邏中の警察官に発見され、買春容疑の現行犯として逮捕された」と連絡してきたという。

 しかし、火事現場に向かった張氏がスーパー銭湯に寄り道することはあまりにも不自然だ。蘭州晨報と張氏の妻は警察に対し、犯行当時の詳しい状況と防犯カメラの映像などの証拠提示を求め続けると、約一週間後、買春容疑を撤回、「記者の立場を利用して他人から金品をゆすり取った」との逮捕容疑に切り替わった。

後で分かったことだが、張氏とほぼ同じ時期、蘭州晩報の女性記者と西部商報の男性記者も公安当局に拘束された。いずれも火事を取材しようとしたとみられる。

 武威市当局と新聞記者との緊張関係は以前からあった。地元の共産党宣伝部管理下の新聞各紙は指示を無視して、事件事故、不祥事などを度々報道したことが当局の逆鱗に触れてきた。同地域の新聞の競争が激しく、部数を伸ばしたい新聞社が記者たちの踏み込んだ取材を黙認してきたことが背景にあるといわれている。

 武威市出身の張氏は多くのスクープ記事を飛ばしたスター記者で、「未成年者の集団売血事件」「警察が囚人のために戸籍を不正取得」などの不祥事報道で広く知られた。これまで当局者から何度も「政府の足を引っ張る報道はやめなさい」と言われたという。

 記者たちと政府の対立が決定的になったのは、2015年12月28日に起きたチョコレート事件だ。武威市のスーパーで、チョコレートを万引した13歳の女子中学生の両親に商品の10倍に相当する罰金を請求し、極貧の両親が払えず、中学生が飛び降り自殺した事件だ。一家に同情した千人以上の市民がスーパーを取り囲んで抗議、警察と衝突する騒ぎに発展した。

張氏らは当局の報道禁止令を無視して、掘り下げて取材し、政商癒着の実態や、貧富の差ができた原因などを分析する多くの秀逸な記事を新聞やインターネットに出稿し、大きな波紋を広げた。

 これらの記事で「恥をかいた」と思った地元当局は張氏への監視態勢を強化したといい、張氏は同僚に
「チョコレート事件以降、尾行や盗聴がひどくなった」と漏らしたという。張氏が逮捕されたことを受け、蘭州晨報は「多くの疑問点がある」との公開書簡をインターネットに発表し、逮捕は公安当局の「記者への報復」の可能性があると指摘した。

 北京の人権派弁護士や著名な大学教授などは相次いで張氏と蘭州晨報を応援する文章をインターネットに発表した。

 世論の圧力を受け、武威市の公安当局は2月6日までに張氏を含めた3人の記者の保釈を認めた。しかし、3人の「恐喝容疑」は依然として残り、今後、起訴される可能性が高いという。

 張氏に関しては、7年間で約「5000元(約9万円)」を不正に受け取ったとの容疑があるとされるが、地元のメディア関係者は「余りにも少額で、事実だとしても会社と記者の問題で、事件にするのはおかしい。張氏がこれまで会社の給料以外で受け取った原稿料などをみな犯罪による所得にしているのだろう」と話している。

昨年末に香港の書店関係者拉致事件と、今回の甘粛省の記者逮捕事件、一連の言論弾圧事件は偶発的なものではなく、習近平指導部の方針で、これまで共産党中央宣伝部が中心となってきた言論統制が、警察にシフトしたと指摘する党関係者もいる。これからは逮捕者が急増するかもしれない。

 中国でジャーナリストにとっての冬の時代が、これから本格的にやって来そうだ。


  チベット弾圧 隣組で住民相互監視やチップ搭載身分証携帯 NEWS ポストセブン 2016年 年3月22日


チベットの自由を求めるチベット人の焼身自殺者は2009年2月から昨年4月までの約6年間で143人にも及んでいる。チベット亡命政権の政治的最高指導者、ロブサン・センゲ首相はインタビューに応じ、チベット人対し、僧侶で、一般市民を問わず、社会的にも、政治的にも、経済的にも厳しい差別や弾圧が中国当局によって行われていると語った。ジャーナリストの相馬勝氏がレポートする。

 * * *
 具体的にどのような差別や弾圧が加えられているのか。いまや中国内のチベット仏教僧院では毛沢東やトウ小平、江沢民、胡錦濤という歴代の指導者と現指導者である習近平の5人の肖像画が飾られ、毛沢東思想や共産主義思想、さらに現在の習近平による重要講話などの政治学習が強要されている。

 しかも、政治学習には地元の共産党幹部が立ち会うなか、チベット語の使用は禁じられ、中国語(漢語)での学習が義務付けられている。従わなければ、僧侶は破門され、僧院を出ていかなければならない。これは即、流浪の民と化すことを意味する。焼身自殺者のなかに、元僧侶が多く含まれているのは、このためでもある。

 このようなチベット語の使用禁止令はすでにチベット人居住区全体に拡大している。米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア」によると、今年1月初旬、青海省黄南チベット族自治州同仁県のホテルで、従業員がチベット語を使ったら500元(約9000円)の罰金を科すとの貼り紙が出されたという。2014年の青海省やチベット自治区の労働者の平均月収は1900元(約3万4200円)であり、罰金は月収の4分の1以上にも当たる。

 センゲ氏によると、チベット自治区ラサのある新聞社でも編集幹部14人中、チベット人は11人で、漢族(中国人)はわずか3人しかいないのに、会議は中国語で行われ、企画書などの公文書もすべて中国語で書かないと受け付けてもらえないという。チベット内の大学でも中国人の幹部が党委員会のトップを務めており、教育カリキュラムも中国人中心で、チベット固有の文化などの講座は廃止している。


  ダライ・ラマ、ノーベル賞受賞者らの人権会議出席=中国は不満表明「旧チベット最大の農奴の主人、人権を語る資格ない」―米華字メディア Record China  2016年3月13日

2016年3月12日、中国外交部の洪磊(ホン・レイ)報道官は、チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世が11日、ジュネーブでノーベル平和賞受賞者らが人権について話し合う会議に出席したことを受け、「中国は強い不満を表明する」とした上で、関連方面に厳正な申し入れをしたことを明らかにした。米華字メディア・多維新聞が伝えた。

洪報道官は「ダライ・ラマ14世は、単純な宗教家ではなく、長期にわたり中国の分裂活動を行ってきた政治亡命者だ。旧チベット最大の農奴の主人であり、人権を語る資格はない」と非難。「関係国はチベット問題における約束を守り、同問題を利用して中国の内政に干渉することをやめるよう促す」と呼び掛けた。(翻訳・編集/柳川)


  ダライ・ラマ、ノーベル賞受賞者らの人権会議出席 米加が主催、中国「強い不満」表明 産経ニュース 2016年3月12日

チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世は11日、ジュネーブでノーベル平和賞受賞者らが人権について話し合う会議に出席した。会議は米国とカナダが主催し、国連の人権担当高官も出席した。AP通信が伝えた。

 中国外務省の報道官は12日、米国と国連に対して「強い不満」を表明、「ダライ(・ラマ)がいかなる形式であれ、各国の公人と接触することに断固反対する」とのコメントを発表した。

 チベット自治区ラサでは2008年3月14日に大規模な暴動が起きており、中国当局は同自治区への外国人の立ち入りを厳しく制限するなど警戒を強めている。(共同)


  チベット僧侶が焼身自殺 中国四川省、政府に抗議 産経ニュース2016年3月2日

米政府系放送局ラジオ自由アジアは2日までに、中国四川省カンゼ・チベット族自治州新竜県で2月29日、チベット族の僧侶が中国政府の抑圧的な民族政策に抗議して焼身自殺したと伝えた。

 中国では2009年以降、中国政府に抗議するチベット族による焼身自殺が相次いでおり、当局は監視を強めている。

 同ラジオによると、僧侶は寺院の近くで体に火を付けて「チベットの完全な独立」を訴えたという。(共同)


  スターは「行動慎め」と中国当局 チベット独立派と同席の人気歌手や俳優らに 警告文を発表「度が過ぎる」 産経ニュース 2016年02月28日

中国の人気歌手や香港の俳優らが2月中旬、インド東部ブッダガヤで開かれたチベット仏教の儀式で、中国が敵視するチベット独立派の指導者と同席していたと中国国内で伝えられ、当局は28日までに「スターは公人として行動を慎め」とする警告文をサイトで発表した。多くのメディアがネットで転載し、話題となっている。

 AP通信などによると、儀式に参加していたのは、歌手フェイ・ウォンさんと俳優トニー・レオンさんら。チベット仏教カギュ派の最高位活仏、カルマパ17世が参加していたという。

 当局は、信仰の自由は尊重するとしながらも、チベット独立を掲げる集団の指導者と同席することは「度が過ぎる」と批判した。

 中国当局はチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世を支持するハリウッド俳優らの入国を禁じることがある。昨年9月には米ロックバンド「ボン・ジョヴィ」の中国公演が中止に。ダライ・ラマのイメージを使った動画をライブで使ったことが理由とされる。(共同)


  「中国開発で氷河消失が加速」チベット亡命政府首相インタビュー ダライ・ラマ制度は「必ず存続」 産経ニュース2016年1月10日

来日中のチベット亡命政府のロブサン・センゲ首相は9日、都内で産経新聞の取材に応じ、中国による開発でチベット高原の氷河の溶解が加速し「アジアの水源が深刻な危機にひんしている」と強調した。チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世が廃止の可能性に言及している輪廻(りんね)転生制度については「必ず存続される」との見方を示した。

 センゲ首相はチベット自治区内の政治状況について「近年、中国政府は生体認証機能のあるIDカードの所持をチベット人に義務付け、移動の厳格な管理を通じて政治活動を制限している」と分析した。

 また自治区成立から50年を迎えた昨年、中国政府が公表した「チベット白書」の中で「史上最も輝く黄金時代を迎えている」と主張したことに触れ、「チベットは中国にとって金の卵を産む黄金のガチョウにすぎない。資源を搾取し、政治的にはチベット人を差別している」と訴えた。

 また、自治区では環境破壊も深刻化していると指摘。世界の氷河の約15%を擁するチベット高原周辺の氷河について「高原の気温が世界平均の2~3倍のペースで上昇し、氷河の消失が加速している」と述べ、その原因として地球全体の温暖化に加え、中国政府による現地でのインフラ整備や資源開発、人口流入などを挙げた。

一方、センゲ氏は中国が経済力を背景に各国指導者にダライ・ラマと面会しないよう圧力を強めていることに対して「圧力に屈すれば中国はさらなる圧力を加えてくる」と警鐘を鳴らした。人権問題よりも中国との経済関係を重視する姿勢を強める英国については「残念ながら世界の英国に対するイメージが変わってしまった。今や中国から指示を受けているように見える」と苦言を呈した。

 「ダライ・ラマは(独立ではなく)高度な自治を求める中道路線を取っており、それは『ひとつの中国』論に挑戦するものではない」とし、ダライ・ラマとの面会は各国の指導者にとって正しい行為だと主張した。

 またセンゲ氏は、ダライ・ラマの輪廻転生制度について「14世は今も健康で長生きするが、実際にはその死後、チベット人が15世を探し出すことになる」と廃止を明確に否定。中国政府が独自に15世を選んでも「中国が認定した(高位僧の)パンチェン・ラマ11世と同様、チベット人に支持されず機能しない」と断言した。ただ「中国政府との対話が問題解決に向けた最善の選択」として、2010年以来中断している対話を中国側に求めていく考えも示した。



【プロフィル】ロブサン・センゲ氏 1968年、インド東部ダージリンのチベット難民キャンプで出生。米ハーバードで法学博士号を取得。2011年、亡命チベット人の投票によりインド北部ダラムサラに拠点を置く亡命政府の首相に選ばれ、ダライ・ラマから政治指導者の地位を引き継いだ。


  「チベットに自由」と訴え 英宮殿周辺で人権団体が抗議デモ 産経ニュース  2015年10月20日

中国の習近平国家主席が滞在している英国ロンドンのバッキンガム宮殿周辺の沿道で、中国のチベット族弾圧を批判する国際人権団体アムネスティ・インターナショナルなどのメンバー約50人が20日、「チベットに自由を」と訴えた。

 参加者は習氏を乗せた車が通過するのに合わせ、チベットの旗を掲げて「弾圧をやめろ」「(習氏は)恥を知れ」などと叫んだ。

 だが、大勢の中国人がチベットの旗を隠すように大きな中国の国旗を振り、太鼓や銅鑼を鳴らして抗議の声をかき消そうとした。

 「中国に人権を」と書いたプラカードを持って参加した英国人男性は「習主席とは経済ではなく、人権問題やチベット問題を話し合ってほしい」と語った。(共同)


  「転生制度廃止」繰り返すダライ・ラマ 中国の介入阻止狙い 産経ニュース  2015年9月8日


チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマやその次に高位のパンチェン・ラマの後継者は、先代の死後、生まれ変わりの子供(転生者)を見つけ出す「輪廻(りんえ)転生制度」により決まってきた。ダライ・
ラマの転生者は、先代の遺言などに基づいて選定されてきた。

 だが、ダライ・ラマ14世は最近、欧米メディアなどに対し、輪廻転生制度の廃止に繰り返し言及している。背景には自らの死後、中国政府の介入によるチベットの政治的、宗教的混乱を未然に回避する狙いがあるとみられる。

 パンチェン・ラマをめぐっては、パンチェン・ラマ10世が死去した後、ダライ・ラマ14世が1995年、当時6歳の少年をパンチェン・ラマ11世に認定。だが、直後に少年は行方不明となり、中国側が独自に別のパンチェン・ラマ11世を認定した。

こうした経緯に加え、中国は2007年、高僧の後継者選びと承認に当局が関与することを定めた「チベット仏教の活仏輪廻管理条例」を制定。ダライ・ラマ14世の後継者も、中国政府が選ぶ可能性が極めて高い。

 ダライ・ラマ14世は11年、政治指導者からの引退を表明し、政治的な権力をチベット亡命政府に移譲。亡命政府のロブサン・センゲ首相が政治面での後継者となっている。ダライ・ラマ14世が制度廃止に言及するのは、中国政府の宗教的な介入を防ぎ、自らの影響力を残す狙いからだとみられる。(原川貴郎)


  中国当局、大規模代表団を派遣 チベット成立50年 介入の強化の兆しか 産経ニュース2015年9月7日

【北京=矢板明夫】中国チベット自治区が成立から50年を迎えた。中国共産党幹部も出席し、近く記念式典が行われる。中国当局がチベット自治区ラサに大規模な代表団を派遣するのは異例で、さらに関与を強める目的とみられる。経済支援とともに宗教面での介入も一段と強化しそうだ。

 7日付の中国共産党の機関紙、人民日報によると、共産党最高指導部で序列4位の兪正声・政治協商会議主席を団長とし、政府高官など65人で構成する中央代表団が6日、式典に参加するためラサに到着した。

 自治区の成立記念日は9月1日だが、中国の主要指導者が3日に北京で行われた抗日戦争勝利70周年の軍事パレードに出席するため、開催が延期された。

チベットのメディアによると、式典では中央代表団を前にパレードが行われた後、中央政府による新たな支援策が発表されるとみられる。

 一方、式典に先立つ6日、中国政府は「チベットでの民族自治制度の成功実践」と題した白書を発表した。白書は自治区成立後の経済成長など実績を強調する一方、インドに亡命しているチベット仏教最高指導者、ダライ・ラマ14世を「分裂分子」として厳しく批判した。

 特にダライ・ラマ14世が最近、後継者を選ぶ輪廻(りんね)転生制度の廃止を訴えたことに対し、「転生制度はチベット宗教の特有の信仰・伝承方式だ」と指摘し、ダライラマ側を強く牽制(けんせい)した。

しかし、高圧的なチベット政策への反発は強く、2009年以降、チベット族の焼身自殺者が急増。8月27日にも甘粛省甘南チベット族自治州夏河県でチベット族の50代の女性が焼身自殺した。北京のチベット族支援者は「当局が式典で民族の団結を演出すればするほど、チベット族は反発するだろう」と話している。


  ダライ・ラマ、80歳の祝賀に8000人「チベットの光であり、魂」  インドの亡命政府拠点 産経ニュース2015年6月22日

21日、インド北部ダラムサラで行われた80歳の祝賀行事で感謝の意を表すダライ・ラマ14世(共同) 産経新聞

 チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世(79)が7月6日に満80歳の誕生日を迎えるのを前に、チベット亡命政府があるインド北部ダラムサラの寺院で21日、祝賀式典が行われ、約8千人の信者が詰め掛けた。

 ダライ・ラマはインタビューなどで、自らの死後に伝統的な後継者選び「輪廻転生」制度を廃止する考えを表明。亡命政府によると、自身が90歳になるころに同制度の在り方に結論を出す方針だ。ダライ・ラマの高齢化を踏まえ、今後議論が活発になるのは確実だ。

 式典では僧侶らが次々と祝福に訪れ、伝統音楽や踊りも披露された。亡命政府のロブサン・センゲ首相は「(ダライ・ラマは)チベットの光であり、魂だ」とたたえた。(共同)


  「ダライ・ラマの影響力低下」と批判強め…ラサ暴動から7年、焼身自殺が急増「最も困難な時期」 産経ニュース  2015年3月14日

【北京=西見由章】中国チベット自治区ラサの大規模暴動から14日で7年を迎えた。全国人民代表大会(全人代=国会)が開幕した5日にも周辺自治州で焼身自殺が起きるなど、抑圧的な民族政策に抗議する自殺は暴動後から急増。当局はチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世に関し国内外での「影響力低下」を主張するなど批判を強め、溝は深まる一方だ。

 米政府系放送局ラジオ自由アジアは、四川省アバ・チベット族チャン族自治州で5日、47歳のチベット族女性が焼身自殺したと伝えた。2009年以降、自治区周辺での焼身自殺者は117人に達したという。

 関係者によると習近平政権の誕生後、自殺者の親族や友人まで逮捕される連座制が導入され、自殺は一時的に減少したが、最近は再び増加傾向にある。

 抗議者たちが特に訴えているのは、現在79歳のダライ・ラマのチベット帰還だ。8日には、同自治州で帰還を訴えてデモ行進した18歳の僧侶が拘束されたという。

 政府側はダライ・ラマへの攻撃を強めており、人民政治協商会議の朱維群常務委員は11日の記者会見で「ダライ・ラマと面会する人物は国家指導者も含めて少なくなり、世界の報道も関心が低くなってきた」と発言、「国際的地位が下がった」とまで言い切った。

 政府側の強気な発言の裏には、世界2位の経済力を背景にした各国指導者への圧力が一定の効果を上げていることがある。ダライ・ラマが2月に訪米した際、オバマ大統領は会合に同席したものの、直接言葉は交わさなかったとされる。

 中国側はダライ・ラマの後継も見据えている。政府主導で親中派の後継者を選び、育成することで安定統治を図ろうとの考えだ。

中国チベット自治区の幹部は9日、全人代の会合で「後継者選びは中国政府の承認が必要であり、ダライ・ラマが決めるものではない」と述べた。ダライ・ラマが昨年、欧州メディアにチベット仏教の活仏の転生制度を自らの死後は廃止すべきだと繰り返し表明したことを受けての発言だ。

 チベット問題研究家の阿部治平氏は「チベット族はダライ・ラマを深く尊敬しており、中国当局の批判は逆効果だ」と指摘する。

 同放送局によるとダライ・ラマは12日、インド北部ダラムサラ近くの寺院で「現在チベットは数千年の歴史で最も困難な時期にある」と聴衆に語った。

大気の汚染


  的中率5割のPM2.5予報に不信感、日本気象協会のサイトで情報を得る人も 朴恩鎬(パク・ウンホ)記者 朝鮮日報/朝鮮日報日本語版  2016年6月1日

韓国で大気汚染の測定や予測についてメディアから批判の声が巻き起こっている。PM2.5をめぐって中国から日本への影響をウオッチした経験から、中間にある韓国測定値は実態に合わないと疑問を提起したいと考える。

5月下旬には150マイクログラム/立方メートルを超える「非常に悪い」汚染が各地で発生、その予測が的確でなかった上に、汚染源として中国の影響をどれ位と見積もるべきかもはっきりししない。粒子状物質の成分を実測できる観測基地が少な過ぎるとの指摘もある。しかし、測定値自体の信頼性が次に挙げるデータを比較すると揺らがないか。6/4の正午時点での日本気象協会(tenki.jp)のPM2.5分布予測と米国政府が測定結果をAQI指数にした汚染分布図(省略)だ。

PM2.5予測では最も汚染が酷い地域は北京付近であり、中国東北部から朝鮮半島に高い汚染域が下りてきている。ソウル周辺はかなり高い汚染と予測されている。ところが実際に測定された汚染分布を見ると健康人でも影響が出始める赤ランクの測定結果は1カ所あるだけだ。AQI「161」ですからPM2.5で75マイクログラム/立方メートル相当だ。

 中国・山東半島の付け根、山東省にも韓国と同じように汚染が南下しているので比べてほしい。こちらは赤がたくさんある。予測と現実は必ずしも一致しないが、比べれば韓国が手ぬるい感じを否めまない。

これまでにも中国の重篤大気汚染が日本国内に及ぼす影響を調べている際に、お隣、韓国の汚染は妙に軽いと感じたことが度々あった。第477回「安全になれぬ韓国、手抜き勝手の国民意識が原因」で指摘したように関係各人がなすべきことをきちんとしているのか、疑われるのだ。

では次に、この汚染状況を市民はどう入手するのかだ。掲げたのは韓国環境公団「エアコリア」にある6/4の13時現在のPM2.5測定分布図(省略)だ。17地点の数値しかなく、日本の千数百地点とはまるで違います。数値は低く、最高値は「42」で残りは「12」から「36」の範囲にあるから、当該時刻のピーク測定値ではなく過去24時間の平均値あるいは地域ごとの平均値だろう。旅行者にも参照が勧められているサイトだが、局地的に急速に悪化していく場合などには気づかないで困る事態も考えられる。個人的な意見として測定値が過小である可能性を考慮しておくべきなので、韓国旅行は大気汚染に要注意だ。

 中央日報の《韓国、粒子状物質リアルタイム分析可能な測定所、全国506カ所中6カ所だけ》が体制不備を厳しく指摘する。中国からの流入分を見積もれないのはこの事情も大きい。

《国民がそれなりに粒子状物質予報を通じて知ることのできる情報は濃度だけで、どんな成分を吸っているのかを知る術がない。2010年以降、毎年高濃度の粒子状物質現象が繰り返されているにもかかわらず、このような情報無知現象は改善されていない。環境部の粒子状物質の予報正確度が60%水準にとどまっているのも粒子状物質の成分を測定できる施設が6カ所に過ぎないことと関連があるというのが専門家たちの指摘だ》



朝鮮日報の《的中率5割のPM2.5予報に不信感、日本気象協会のサイトで情報を得る人も》も不信感を露わにする。

《微小粒子状物質(PM2.5)や粒子状物質(PM10)に関する韓国環境当局の不正確な予報が、国民を困らせている。濃度が「悪い」レベルに上昇したときでも前日午後5時に発表された予報は「普通」だったり、逆に「悪い」と予報されても実際には「普通」レベルの濃度だったりと、誤報が続いているのだ。「韓国政府の予報は信じられない」と日本のサイトで予報を確認する国民が増えるなど、政府への不信も深まっている》



日本よりも中国に近く、当然ながら重篤スモッグの影響が大きいはずの韓国でPM2.5のどれだけが中国由来なのか信頼に足る数字が言えないようなのだ。第517回「重篤大気汚染がインド亜大陸全域で急速に拡大」でインドやパキスタン、バングラデシュの対策立ち遅れを取り上げた。それに比べれば観測網が整備されていると見える工業国、韓国の内情がお寒いのだ。


  的中率5割のPM2.5予報に不信感、日本気象協会のサイトで情報を得る人も 朴恩鎬(パク・ウンホ)記者 朝鮮日報/朝鮮日報日本語版  2016年6月1日

微小粒子状物質(PM2.5)や粒子状物質(PM10)に関する韓国環境当局の不正確な予報が、国民を困らせている。濃度が「悪い」レベルに上昇したときでも前日午後5時に発表された予報は「普通」だったり、逆に「悪い」と予報されても実際には「普通」レベルの濃度だったりと、誤報が続いているのだ。

「韓国政府の予報は信じられない」と日本のサイトで予報を確認する国民が増えるなど、政府への不信も深まっている。

 高濃度の大気汚染が発生した先月25日から30日にかけての6日間、環境部(省に相当、以下同じ)と気象庁が政府公式サイト(エアコリア)に発表したソウル市、仁川市、京畿道のPM2.5予報の正確度を本紙が分析した結果、ソウル市は2回、仁川市は4回、京畿道は3回、それぞれ外れていた。3地域の計18回の予報のうち、半分に当たる9回が外れたことになる。

 PM2.5よりも粒径がやや大きいPM10の予報も、18回のうち7回(39%)が外れていた。予報の正確度は、前日午後5時に発表された予報を翌日の実際の濃度と比較する方法で調べた。

 特に、日曜日だった29日の午前5時、気象当局はソウルをはじめとする首都圏3地域のPM2.5濃度を「悪い」(大気1立方メートル当たり51−100マイクログラム)と予報したが、この日の実際の1日平均濃度は39−42マイクログラムと「普通」(16−50マイクログラム)レベルだった。25日午前5時には
「普通」と予報したが、実際の1日平均濃度は高いところで61マイクログラムに達した。健康に大きな害を与える高濃度の大気汚染が続く中、当日朝に発表された予報さえも当たっていなかったのだ。環境部の関係者はこれについて「予報士たちの予報能力を上げることが喫緊の課題」と話している。

 誤報が続いていることから、日本気象協会のサイト(www.tenki.jp)でPM2.5分布予測を確認する人も増えている。ある会社員(50)は「日本のサイトでは中国で発生した汚染物質が風に乗って韓国に流れてくる様子がリアルタイムで分かるため、便利だ。こうした情報をなぜ韓国は提供できないのか」と語った。

 韓国政府の政策に対する不信感も頭をもたげている。「大気汚染物質がどこから、どれだけ発生するのかについて、政府の統計を信じられない」という声は大きい。実際に首都圏のPM2.5の場合、政府は過去に「ディーゼル車が6−7割を排出している」と発表したが、最近になって「中国から約5割が流入し、ディーゼル車の寄与率は15%ほど」と異なる見解を示した。

 大気汚染の専門家は「環境部の中でさえ、PM2.5の寄与度についての推計が異なることが多い。最も基本となる国の統計さえもきちんと算出できていないことが、国民の不信を招いた主因だ」と指摘している。近ごろ軽油の値上げや火力発電所規制などのPM2.5低減策をめぐり、環境部と企画財政部、産業通商資源部などがあつれきを深めていることも、「不正確な統計が原因」と指摘される。


  エコカー拡充でPM2.5削減 20年にEV25万台=韓国 朝鮮日報  2016年6月3日

【世宗聯合ニュース】韓国政府が3日に発表した大気汚染物質の削減策は、粒子状物質の発生源に挙げられるディーゼル車を圧縮天然ガス(CNG)を燃料とするバスや電気自動車(EV)、水素を燃料とする燃料電池車(FCV)などのエコカーに置き換えていくことが目玉の一つだ。

 国土交通部によると、ディーゼル車はソウルなど首都圏の微小粒子状物質(PM2.5)発生源の29%を占めている。韓国全国のディーゼル車は4月現在884万台。路線バスは4割が軽油を燃料とするディーゼルバスだ。

 政府はCNGバスに燃料補助金を支給し、首都圏の広域急行バスをCNGバスのみ認めるなどして、ディーゼルバスをCNGバスに置き換えていく考えだ。バス会社の車庫など全国に197カ所あるCNG充填(じゅうてん)スタンドも、高速道路のサービスエリアなどを中心に増やしていく。

 政府はあわせて、EVとFCVを2020年までにそれぞれ25万台、1万台普及させることを目標に、充電・充填スタンドの拡充に努める。18年までに全てのサービスエリア(194カ所)に急速充電スタンドを1基以上設置し、EVが長距離を走れるようにする。水素充填スタンドも重点普及都市のソウルなどのサービスエリアに20年までに最大20基設置する計画だ。


  衝撃!最も汚染された街、デリーに暮らす人々 文=Melody Rowell/訳=米井香織 ナショナル ジオグラフィック日本版 2016年5月9日


大気に微粒子が舞い、ごみがあふれ、川は汚れ・・・
 インドの首都ニューデリーを含むデリー連邦直轄地は、面積1500平方キロ弱と日本の香川県より小さい土地に1000万を超える人々が暮らしている。

 ここは、世界で最も汚染された街の一つと言っていい。大気汚染では中国の北京がよくやり玉に挙げられるが、世界保健機関(WHO)が2014年に行った全世界の大気汚染の調査では、デリーの大気にはPM2.5などの粒子状物質が北京の何倍も含まれているという結果が出ている。ほかにもデリーの汚染を示す測定結果は数多い。

 このような環境で、人々はどのように生活しているのだろうか。それを探るため、写真家マチュー・パレイ氏は5日間みっちりとデリーの街を歩いた。彼が撮った写真には、過密な交通や炎を上げるごみなど、行き過ぎた都市化の結末が写し出されている。

 神聖なヤムナー川も例外ではない。ヒンドゥー教徒にとってガンジス川に次いで重要なこの川の水を、全長1370キロの流域に暮らす5700万人が利用している。この川の汚染の80%は、デリー市内を通過する約22.5キロの間にもたらされる。土壌が崩れ、ごみがあふれ、化学物質が流出して水が黒くなっているところもあれば、白い膜が張っているところもある。

 ニューデリーを拠点に活動する科学環境センター(CSE)の所長、スニタ・ナレイン氏は2010年、次のような文章を書いている。「あらゆる汚染の基準からして、この川は死んでいると言えます。まだ正式に葬られていないだけです」。同氏は2016年、環境への取り組みを評価されて米『Time』誌の最も影響力がある100人に選ばれている。

 しかし、流域に暮らす人々にとって、ヤムナー川は生活の中心にある。子供たちは川で遊び、男たちはシャツを洗う。あらゆる年代の人が川に入り、その水を飲む。

 山のように積まれた廃棄物を糧に生活する人々もいる。パレイ氏は撮影中、ごみ捨て場や川岸に毎日通い、リサイクルできる金属やプラスチック、紙を探し回る人々に出会った。男性も、女性も、子供もごみを拾っている。運がよければ1日に1000ルピー(約1600円)ほど稼ぐことができるという。これはデリーの平均的な日給の3倍に相当する額だ。

 インドのナレンドラ・モディ首相は2014年10月、「クリーン・インディア・ミッション」という全国規模の環境キャンペーンを発表した。いいアイデアに聞こえるが、その1週間前には「メイク・イン・インディア」というキャンペーンも発表されている。こちらは国際企業の製造拠点をインドに誘致し、雇用を創出するという内容で、環境の浄化と両立しないと指摘する人も多い。

 科学環境センターはこれらのキャンペーンに反対の立場をとっており、2015年の報告書で、政府の予算を見れば、環境政策を進める意思がないことは明白だと批判した。副所長のチャンドラ・ブーシャン氏は「大気汚染であれ、水質汚染であれ、廃棄物であれ、環境の悪化を食い止めるには巨額のインフラ投資が必要なのです」と述べている。

 デリーには下水処理場はあっても、下水を運ぶインフラがない。パレイ氏は撮影中、街中でも公共のごみ箱を置くといった基本的な環境整備がなされていないことに気付いた。「ごみ箱が見つからず、一日中ごみを手に持っていたこともありました」


  デリーの大気汚染、カギは三輪タクシー 文=Rebecca Byerly in New Delhi, India ナショナル ジオグラフィック日本版 2012年4月17日


インド第2の都市デリーでは、乗用車やトラックがディーゼルエンジンから排気ガスをまき散らして走っている。その隙間を縫うように進むのが原動機付きの三輪タクシー(オートリクシャー)である。デリー政府は数年前、三輪タクシーの燃料を環境に優しい天然ガスに変えれば、大気汚染を根絶し、拡大する交通需要を支えることができると予測していた。 現在のデリーは、圧縮天然ガス(CNG)を燃料とする車両が世界で最も多く走る都市の一つとなった。しかし、悩みの種は解消されていない。

 デリーの路上では毎日、何十万もの通勤通学者が危険を顧みず、安い料金で済む三輪タクシーを捕まえようと躍起になっている。公共交通機関の不足に悩む市民は車の購入に走り、交通渋滞がさらに深刻化するという悪循環に陥っている。デリーの人口はインド全体のわずか1.4%だが、11%の自家用車がこの街に集中している。シンクタンクや自治体、起業家は、三輪タクシーの利用を促進すれば車への依存が減り、大気汚染を改善できると口をそろえる。

 しかし、政策とインセンティブをうまく組み合わせるのは容易ではない。特に、インドで拡大している中間層の多くにとって、車は交通手段であると同時にステータスシンボルにもなっているからだ。だが、環境に優しい三輪タクシーのような近距離輸送を含め、交通の大規模な改革を実行しなければ、都市部の交通渋滞と深刻な大気汚染は悪化の一途をたどるだろう。インドの都市人口は現在3億4000万だが、2030年までには5億9000万に膨れ上がると予測されている。

◆三輪タクシーの増加

 発展途上国では長年、人間や自転車が引く人力車が必要不可欠な交通手段だった。その後、原動機付きの三輪タクシーが生まれインド都市部で急増、軽油燃料の2ストロークエンジンによる大気汚染の懸念も大きくなった。安価で単純な2ストエンジンはチェーンソーや芝刈り機に広く使われており、自動車の4ストロークより不完全燃焼が多いため、汚染物質の排出量が増える。

 デリー政府は市内を走る三輪タクシーの燃料を環境に優しいCNGに変え、この問題に対応しようと試みた。最高裁判所は1997年、大気汚染の懸念を引き合いに出し、台数を5万5000台に制限する裁定を下している。しかし首都ニューデリーを擁し、ムンバイに次ぐ1100万の人口がさらに増加しているこの街では、自家用車が増加し続け、三輪タクシーも数が不足。台数制限は不適当だった。そして2011年11月、最高裁は規制緩和を発表、さらに4万5000台が上乗せされた。

 しかし、誰もが憧れる自家用車を諦めて、窓もなくガタガタ揺れるブリキの三輪タクシー利用に導くのは容易なことではない。デリーでは1日に約1200台のペースで車輌が増加。クラクションをけたたましく鳴らすタクシーや高級セダン、SUVが路上の9割を占拠するまでに至っている。それでもなお、満たされた交通需要は20%を下回る。

◆きれいな空気を

 デリーの通勤通学者は呼吸するたび、肺に刺激を感じ、胸が苦しくなるような思いをしている。この街の空気には有害な微粒子が大量に含まれており、その濃度は世界保健機関(WHO)の安全基準の5倍に達する。アメリカ、イェール大学とコロンビア大学の研究者が人工衛星を使って大気汚染を追跡し、1月に発表した論文によれば、インドの大気汚染は世界最悪で中国より深刻という。

 デリー政府はさまざまな解決策を検討している。バスや電車など公共交通機関の拡大、徒歩や自転車での移動を促すインフラの改善、駐車場の改革、交通を重視した開発などだ。基本計画では、公共交通機関による移動の割合を現在の約40%から2020年までに80%へ増やす目標を設定している。しかし現状悪化の状況にブレーキはかかっていない。三輪タクシーによる移動は毎年約5%、自家用車やオートバイによる移動はそれぞれ12%、15%ずつ増加している。

 専門家は交通問題の解決に三輪タクシーは不可欠だと語る。しかし同時に、交通渋滞によってデリーの経済が阻害され、住民が息の詰まる思いをしないようにするには、あらゆる面から積極的な対策を講じる必要があると口をそろえている。

Photograph by National Geographic


  大気汚染都市、ワースト5はイランとインドが占める=WHO ロイター 2016年5月12日


[ジュネーブ 12日 ロイター] - 世界保健機関(WHO)は12日、大気汚染が深刻な都市のランキングを発表した。ワースト5のうちインドが4都市を占めたが、1位はイランのザーボルだった。

ただ、WHOの専門家は、汚染が深刻すぎて観測システムが存在せず、ランキングに含まれない国々が多いことも認めた。

ワースト1位のイランのザーボルは、PM2.5(微小粒子状物質)の濃度が217を記録した。夏場には数カ月にわたってダストストーム(砂塵嵐)に見舞われる。続く4都市はインドのグワーリオル、アラハバード、パトナ、ライプルだった。

インドの首都ニューデリーは、ワースト9位。PM2.5の年間平均値は122だった。2014年にはワースト1位となったが、それ以来、マイカーの利用を制限するなどの対策に取り組んできた。


  世界を脅かせる大気汚染の主要原因にビックリ! (抜粋) ギズモード・ジャパン 2016年6月2日


大気汚染の1番の原因はコロンビア大学の研究者たちの結論からすると、農場なんだとか。

彼らの研究によると農業で必要とされている窒素から心臓疾患や呼吸障害の主要原因となる微粒子物質が排出されることが分った。

汚染は肥料がアンモニアを空気中にリリースするところから始まる。アンモニアは農場の風下へ吹き流され、車と工場によって生産された酸化窒素や硫酸塩を含む汚染物質と遭遇すると一連の化学反応を通じて、分子が結合し、直径2.5ミクロン以下の粒子になる。あのPM2.5もそうやって出来あがる。

最近の研究によると、この粒子による大気汚染が原因で早死にする人が世界中で550万人以上になると科学者が試算している。最近、世界保健機構が分析により、発展途上国の80がPM2.5などの体に害を及ぼす粒子で汚染されていると発表した。もちろん、米国、ヨーロッパ、ロシア、アジア、特に中国などでも農場の近くに住んでいる人々には大きなリスクがある可能性が高いそうだ。

source: Columbia Earth Institute News


  韓国人、ほぼ毎日WHO基準超過の「第1級発ガン性物質」吸う(1) 中央日報日本語版 2016年5月30日


ソウルをはじめとする韓国の粒子状物質汚染は果たしてどの水準だろうか。最近、世界保健機関(WHO)と米国のエール・コロンビア大学の研究チームが出した環境成果指数(EPI)報告書を基に比較してみると他国に後れを取っている。特に経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で韓国の大気汚染は最悪だ。

12日、WHOは世界103カ国・約3000都市の粒子状物質汚染度を発表した。この報告書を基に中央SUNDAYが世界96カ国の首都のPM2.5(微小粒子状物質)の年平均汚染度を比較した結果、ソウルは年平均24マイクログラム毎立方メートルで中間程度の55位だった。だがOECDの34加盟国の首都だけを比較した結果、ソウルは30位を記録した。OECD加盟国の首都の中でソウルよりも汚染が激しいのはトルコのアンカラとチリのサンティアゴ、ポーランドのワルシャワ、ハンガリーのブダペストだけだった。最もきれいなニュージーランドのウェリントンは、6マイクログラム毎立方メートルでソウルの4分の1に過ぎなかった。

またエール・コロンビア大学で16日に発表した世界各国のEPI報告書によれば、韓国の全体評価は80位だった。だが大気汚染部門に限ってみると180カ国中173位にとどまった。韓国よりも大気汚染が激しいと評価された国はミャンマー・パキスタン・ラオス・インド・中国・バングラデシュだった。韓国はOECD加盟国の中で最下位だった。EPI報告書はエール大などが2年ごとに各国の環境汚染と環境政策などを評価して出す。大気汚染部門で韓国が特に低い評価を受けたのは大気汚染自体が激しいこともあるが、都市化がかなり進行したためだ。WHO基準を超過する大気汚染にさらされている人口比率が高いということだ。実際に2014年全国のすべての測定所で得た年平均粒子状物質(PM10)濃度はWHOの年平均基準20マイクログラム毎立方メートルを超過した。韓国人の100%がWHO基準を超過した粒子状物質を吸って暮らしているということだ。

WHOは粒子状物質を第1級の発ガン性物質としている。先月29日英国バーミンガム大学応用健康研究所のニール・トーマス博士チームは「がん疫学・生体標識・予防」に発表した論文を通じて「大気中の粒子状物質が10マイクログラム毎立方メートル増加すれば、いかなる形でもがんで死亡する確率が22%高まる」と明らかにした。この研究は1998~2001年香港に居住する65歳以上の高齢者6万6280人を募集し、2011年まで大気中の粒子状物質濃度とともに追跡して分析した結果だ。(中央SUNDAY第481号)



  中国、大気汚染で8歳の少女が肺癌に 文=Susan Brink ナショナル ジオグラフィック日本版 2013年11月12日


中国東部の江蘇省で、主要道路の近くに住む8歳の少女が肺癌(がん)を患った。中国政府当局によると、大気汚染が原因の患者としては中国全土で最年少で、おそらく世界でもまれな例だという。折しも先月、大気汚染を主要なヒト発癌性物質とする見解を世界保健機関(WHO)が発表したばかりだ。 今回は、アメリカのユタ州プロボにあるブリガムヤング大学の大気汚染専門家C・アーデン・ポープ(C. Arden Pope)氏に話を聞いた。同氏は、大気汚染が人間の健康や生命に及ぼす影響について研究しており、アメリカ連邦政府の大気汚染対策にも貢献している。ポープ氏はまず、「子どもの肺癌は世界的に例がなく、未知の研究領域だ」と現状を述べる。

◆中国国内や世界全体の子どもの肺癌について、どの程度わかっているか?

 率直に言えばゼロだ。子どもの肺癌をテーマにした研究は、まず聞いたことがない。アメリカ癌協会(ACS)の調査でも、子どもは対象外だ。この少女は、過去に例をみないほど若い肺癌患者なのだ。

注:大気汚染ではなく遺伝に起因する場合は、より年少の症例も存在する。

◆中国の一部の工業地域では、大気汚染が生んだ極小の粒子状物質「PM2.5」のレベルが、WHOの安全水準の40倍以上に達している。PM2.5はなぜ危険なのだろうか? またどのように肺癌につながるのだろうか?

 さまざまな発癌性物質が産業汚染によって大気に放出される。重く大きい粒子は漂う前に地面に落ちます。また、人間が吸い込んでも、呼吸器系が備える“フィルター”によって遮断される。ところが、PM2.5は非常に細かな粒子で、毛髪の直径よりもはるかに小さいのだ。大気中に数週間も漂い続け、人間の肺にも侵入する。そのほとんどが、石炭やガソリン、ディーゼルなどを燃やしたときに生まれ、さまざまな有害物質で構成されている。

◆アメリカ環境保護庁(EPA)は、「1立方メートルあたり年間平均で15マイクログラム以下、1日平均で35マイクログラム以下」というPM2.5の基準を設けている。中国の大気汚染レベルは、アメリカの工業地域と比べてどの程度だろうか?

 中国の方がはるかに深刻です。年間平均で1立方あたり80~100マイクログラムに達する地域も珍しくなく、北京では800~900マイクログラムを記録する日もある。アメリカでは、数十年前のピッツバーグやロサンゼルスといった最悪のケースでも、年間平均で30マイクログラムを超えたことはない。現在は、最も汚染が深刻な都市でも20マイクログラムを下回っている。

◆人体への影響だけでなく、経済的影響についても研究されていると聞いている。中国経済が大気汚染によって被るダメージは?

 非常に複雑だ。中国の経済的繁栄をもたらした産業活動が、同時に健康被害を生んでいることは間違いないだろう。産業化によるプラスの影響と健康や生産性に対するマイナスの影響は、トレードオフの関係にあるが、十分に研究されているわけではない。ただし、アメリカの経験から考えれば、大気汚染の抑制が大きなプラスをもたらす結果がはっきりしている。「きれいな空気」のメリットは信じられないほど大きく、汚染削減に伴うコストの少なくとも2~3倍に相当する。

◆大気汚染は、ほかにも健康被害を引き起こすか?

 もちろんだ。おそらく、最も因果関係が明確な病気は心臓血管系疾患だろう。大気汚染が進めば進むほど、リスクも高まる。

◆8歳の少女のケースを聞いてどのように感じたか?

 痛ましい限りだ。大量のデータを統計処理する私の研究手法は個々の事例を扱わないが、今回のように子どもが深刻な病気を患ったという話を聞くたびに胸が痛む。

Photograph by Carlos Barria, Reuters


  拡大する空気清浄機市場。各メーカー独自の製品も続々登場 エコノミックニュース 2016年3月12日

気象庁の予測によると、今年のスギ花粉のピークは、福岡では2月下旬から3月上旬、その後北上し、高松、広島、大阪、名古屋、東京では3月上旬から中旬になる見込みだ。

 花粉症は今や日本人の国民病ともいわれ、実に人口の約25%、4人に1人が罹患しているといわれている。花粉症の中でも、もっとも多いとされるのがスギ花粉によるもので、患者の約70%を占めるという。また、近年は健康意識の高まりと、微小粒子物質「PM2.5」などによる大気汚染などへの懸念などもあり、空気環境に対する関心が高まっている。

 2014年に調査会社の富士経済がエアコン等家電製品32品目、いわゆる「白物家電」の販売動向を調査しているが、その結果報告の中でも、今後の注目市場として空気清浄機を挙げており、2014年には空気清浄機の販売台数が2000万台を突破、2018年には2409万台になると予測している。

 2014年度の内閣府消費動向調査でも同様に、空気清浄機の世帯普及率は約44%と高い数字を示している。また、それら空気清浄機を所有する家庭の4割が2台以上保有しているという。空気清浄機は今や、一部屋に一台の時代なのだ。

 空気清浄機といえば、人気が高いのがダイキン <6367> の空気清浄機だ。ダイキンは電気集塵という独自方式を採用しており、フィルターが長寿命でコスト面での魅力も大きいようだ。さらに一部製品では、除湿・加湿の機能が備わっており、一年中活躍するというメリットが大きい。

 空気清浄機を床に置こうとすると、置き場所に困ったり、電源コードが邪魔になる等、スペース的な課題は避けられない。しかし、天井に取り付けるビルトインなら、その問題は一気に解決する。そこで、注目されているのが、パナソニック株式会社 <6752> と積水ハウス <1928> が共同開発した天井ビルトイン空気清浄機「AirMe」だ。同製品は、花粉、PM2.5、ホコリなどの除去だけでなく、建材や家具等に含まれシックハウスの一因とされるホルムアルデヒドや臭いも除去できる独自フィルターを搭載する優れものだが、特筆すべきは、話題のHEMS(Home Energy Management System)との連携が可能なことだ。HEMSと連携することで、室内の空気情報を見える化し、PM2.5などの室内濃度も一目瞭然だ。ちなみに「AirMe」は「2015年度グッドデザイン賞」を住宅設備部門で受賞している。

 空気清浄機市場は日本だけでなく、世界的にも注目されている市場だ。市場規模で世界トップの北米をはじめ、欧州、中国、さらにはインドや東南アジアでも空気清浄機への関心が高まっており、今後、世界規模での市場拡大が期待されている。とくに日本の高度な技術で製造された信頼性の高い空気清浄機への需要は、国内外を問わず、益々高まりそうだ。(編集担当:藤原伊織)

第341回「中国発、微粒子大気汚染で国内基準超過が続出」☞ 中国発、微粒子大気汚染 

第336回「中国で突出の微小粒子汚染は環境汚染無視のツケ」 ☞ 中国で突出の微小粒子汚染 

第337回「中国の重篤スモッグは経済成長に大ブレーキ」☞ 中国の重篤スモッグ 

第338回「中国の最悪大気汚染は韓国や日本へ飛来する」☞ 中国の最悪大気汚染 

第343回「中国大気汚染の絶望的な排出源構成と規制遅れ」☞ 中国大気汚染の絶望的 

『重篤大気汚染がインド亜大陸全域で急速に拡大』団藤保晴 ☞ 重篤大気汚染がインド亜大陸全域で 

地方への権限の移管


  内田樹、「沖縄は住民投票で独立できるか?」 この際は連邦制の実験をするべき 内田樹、(うちだ たつる)神戸女学院大学名誉教授。思想家、哲学者にして武道家(合気道7段)、そして随筆家。 『GQ JAPAN』編集部 東洋経済オンライン 2016年2月21日


さる10月13日、沖縄の翁長雄志知事が辺野古の埋め立て承認に瑕疵があったということで取り消し手続きを行った。と思ったら、政府が強権を発動し、埋め立て承認取り消し処分を無効として工事を再開し始めた。

こうなったら、スペインのカタルーニャ州とか、昨年のスコットランドのように住民投票をやって、本土からの分離・独立を主張したらどうだろう。という提案は、無責任で荒唐無稽すぎるだろうか?

日本の領土になって100年あまり
縄独立はじっくり論じる甲斐のある話題だと思います。どういう条件が整えば独立は可能なのか、どういう条件が独立を妨げているのか、それを頭を冷やして吟味することは「国民国家とは何か?」という問いについて根源的に思量する絶好の機会だと思うからだ。

歴史を確認するが、沖縄はもともと独立王国だった。沖縄が「琉球処分」で明治政府に併合されたのは1870年代のことだ。それまでもたしかに島津藩に事実上服属してはいたが、同時に清朝にも朝貢していた。両国のどちらに服属しているのかが明らかでないという点で言えば、華夷秩序の周辺国はそういうところはいくつもある。日本だってある意味ではそうだ。足利義満は対中国では「日本国王」を名乗っていたが、「国王」というのは中華皇帝が辺土の支配者に与える官名だ。琉球も台湾も朝鮮も形式的には中国の属国だった(中華皇帝に朝貢し、代わりに下賜品と官名を受け取るという関係だ)。だから、琉球処分で日本領土としたときに、清ははげしく抵抗したのだ。

結局、日清両国に同時的に帰属していた「琉球王国」という政治的アイディアが失効したのは日清戦争のあとに、負けた清が琉球に対する日本の主権をしぶしぶ認めたからだ。

沖縄は日本領土になってからまだ100年あまりだ。そして、そのうち30年は米軍が施政権を有していたので、1972年の施政権返還までは本土から沖縄に渡航するためにはパスポートの申請が必要だったのだ。

ぜひ連邦制の実験を
もともと日本領土であった土地で、言語も宗教の祭祀も食文化も芸能も「だいたい同じ」である地域が「中央政府と折り合いが悪いから独立する」と言い出すのにはかなり無理があるから、賛成する人は少ないと思う。

けれども、沖縄の場合はもともと「別の国」だ。17世紀に薩摩藩に服属したといっても、軍事的に侵攻して力ずくで支配下に置いたに過ぎない。

そして、その後も琉球は一貫して差別と収奪の対象だった。だから、日本人は沖縄の人々を久しく「同胞」だと思っていたという主張に僕は与しない。それは沖縄戦における民間人への非道なしうちを見れば、あるいは米軍の軍事基地として「差し出した」事実を見れば明らかだ。だから、沖縄が「もう耐えられない。日本から独立したい」と言い出しても、その心情は僕には理解可能だ。

もちろん、現在の国際関係から考えて、沖縄が完全な独立国になることはむずかしいだろう。でも、沖縄の歴史的特殊性に鑑みて、他の都道府県とは違う種類の自治権を認めるというあたりの落としどころは可能だと思う。日本と沖縄で「連邦」を作るのだ。アメリカの州のように、教育や医療については沖縄が独自の仕組みを持つことができる。国会には沖縄「州」から選出された議員を送る。通貨や外交は「連邦」政府の専管事項とする。

アメリカの連邦制は世界史上でも例外的な成功をおさめた統治形態だ。他のことでは何でも「アメリカでは……」という人たちがなぜ、連邦制についてはその導入を論じないのか僕はつねづね不思議だった。この機会にぜひ日本も連邦制の実験を試みればよいと思う。

沖縄「州」からは米軍基地は撤去していただく。日米同盟のために在日米軍基地は絶対必要だという政治家たちは自分の選挙区への基地設置を公約に掲げて立候補すればいい。「基地は必要だが、うちの裏庭には困る」という言い分は通らない。

1972年の施政権返還のときにも沖縄独立論はあった。「いいアイディアだな」と思ったけれど、独立論はごく夢想的なものに過ぎなかった。その時点での沖縄には自立できるほどの経済力がなかったからだ。日米安保に基づく基地経済と、日本政府からの助成に依存しながら、同時に「独立」を要求することはできない。

でも、今の沖縄はもう経済的に自立できる。基地関連収入はすでに沖縄経済の5%にまで縮小した。最大の産業は観光ですが、土地を基地が占領しているせいで、観光資源が活かし切れていない。基地があるせいで直線に道路を通せない、鉄道を敷設できない、美しい海岸が立ち入り禁止になっている、オスプレイやハリアーが轟音を立てて市街地の上を飛行している。

基地の存在が沖縄の観光地としての価値を大幅に損なっているのだ。この障害が除去されれば、沖縄は東アジア最大のリゾートになる可能性がある。現に、沖縄には台湾や韓国や中国から観光客が続々と来ている。まず観光立国で財政基礎を築き、それを原資に研究機関や医療機関を集めて、沖縄を東アジアにおける「学びと癒やしの拠点」にする。それくらいのスケールのアイディアなら十分に検討に値すると思わないか?

沖縄で連邦制がいけそうだとわかったら、他の地域も「州」として独立してみたらどうだろう。今の道州制構想というのは完全に中央集権的な発想だけれど、連邦制はそれとは発想が違う。

歴史に必然性はあったのか?
日本史では教えないけれど、長崎港を領有していた大村純忠は領土を保全するために1580年に領土をイエズス会に寄進している。荘園の実質的な支配者が名目的に中央の貴族や寺社に荘園を寄進して、その保護を受けるというのは平安時代からあったことだ。純忠が、「強力なバック」を求めてイエズス会に自分の領土を寄進したのも同じロジックによるものだ。

そのあと、豊臣秀吉が長崎を直轄領にするけれど、たぶん「純忠みたいに日本中の大名が次々とイエズス会や教皇に領土を寄進したのではたまらない」と思ったからだろう。秀吉の天下統一がなければ、戦国時代の日本は「このへんはポルトガル、このへんはスペイン、ここはイエズス会、ここはベネディクト会」というような状態になっていたかも知れない。日本人自身もマニラやシャム(タイ)に進出して街を作り、政治家になっていた時代ですから、戦国末期の日本は今よりずっと「グローバル」だったのだ。

歴史上のさまざまな分岐点を経由して現在の日本はたまたまこういう形になっているけれど、もののはずみでは「長崎がイエズス会領」で「沖縄が独立王国」であるような日本のかたちもあり得たのだ。世界は今あるようなかたち以外にも、いろいろなかたちを取る可能性があった。なぜ、世界は今あるようなものになり、別のかたちにはならなかったのか?その分岐には必然性があったのか、それとも偶然の結果に過ぎないのか?そういう想像力の行使を怠るべきではないと僕は思う。


  100の行動 その68】「廃県置道」(2) 中央政府から地方へ権限と人材を移管せよ!総務2 堀義人 | グロービス経営大学院 学長 Yahoo!ニュース 2014年12月9日

「100の行動」では、都道府県を廃止し、日本に新たな12の道(10の「道」と2の特別区)を置き、20~40万人からなる300程度の基礎自治体に再編する「廃県置道」による日本の新しい国のかたちを提言した。

今の日本の構造的な問題は、権限と財源の多くを国が持ち、地方は交付金・補助金依存の行政であるため、地方が主体的にダイナミックな政策を展開できない点だ。

そのために、地方が適切な投資によって収入を増やす努力や、費用を削減して将来に備える施策など行われずに、補助金を頼りに費用対効果を考えない無駄な行政が延々と続いてきた。

実際、各地で活躍する知事と話をしても、「経済振興策を講じようとしても財源も権限もないため、企業誘致くらいしか手が無い。」「財源はほとんど交付金依存で、支出の大半は年金など社会保障費が占めている。高齢化の進展は財源の硬直化をさらに進めており、県としての自由度などほとんどない。」といった嘆きの声が聞こえてくる。

この現状を打破するには、我が国は「廃県置道」を断行し、地方政府を再編して行政地域・規模を拡大した上で、中央政府が持つ財源と権限を人材とともに地方政府に移管することが必要不可欠だ。

十分な規模と財源・権限・人材を持った地方政府は、経済の強化や政治・行政の効率化などの政策を、主体的に展開することが可能になる。一方の中央政府は、外交・防衛などの専門分野に特化し、小さく強い政府に変わることができるのだ。

今回の行動では、国、道政府、基礎自治体の役割分担を整理した上で、国から地方への権限委譲に関して論じることとする。

1.中央政府・道・基礎自治体の役割分担をゼロベースで見直せ!
新たな道州制による日本は、現状の国と都道府県、市町村の役割分担の実態に縛られることなく、ゼロベースで中央政府・道政府・基礎自治体が担うべき業務を、見直すことが必要だ。
道州制における基本的な考え方は、「近接性の原則」・「補完性の原則」である。すなわち、市民に最も近接している基礎自治体が行政サービス全般を担当し(近接性の原則)、それを補完するために、広域による施策や効率的・合理的な業務を道政府が担当する(補完性の原則)。当然、道政府レベルでは戦略的な意思決定も求められる。そして、道政府でも担うことが困難な対外政策や防衛政策、通貨政策は中央政府が担当するという形態だ。 

基礎自治体への行政の権限集約には、一定の規模化が必要であり、そのために基礎自治体は20~30万人規模の300強の市町村へ合併・集約されることが基本だ。基礎自治体への権限集約により、これまで都道府県が担ってきた役割が縮小し、道州制による広域行政が可能となり、新たな道政府は、中規模国家レベルの経済運営・行政運営を、グローバルな視点で進めることができるようになるわけだ。

これによって、これまで様々な政治的・歴史的経緯によって重複してきた国、都道府県、市町村の行政を「重複型」から、「分割型」に改める。国から地方政府への直接・間接の関与を撤廃したうえで、効率性が担保された地方政府のガバナンスを確立するのだ(地方政府の議会のあり方は、別の「行動」で詳述する予定)。国の関与が無くなれば、地方政府の政策の透明性も向上し、意思決定の自由度も高まり、対外的な説明責任も強くなる。

三重県の鈴木英敬知事は、次の通りコメントしている。「主権は国民にあり、国民自らができないことを基礎自治体に権限移譲し、基礎自治体でできないことを広域自治体に権限委譲し、広域自治体でできないことを国がやる、というのが本来の分権である。しかし、今は制度設計がそうなっておらず、国からの分権という形になっていることが残念である。」

だからこそ、「国からの分権」ではない、廃県置道が重要になる。では、次に中央政府、道政府、基礎自治体の具体的な役割分担を、論じていきたい。

2.基礎自治体による行政サービス、道政府による戦略的意思決定、中央政府による世界との競争・協調!
以上の考え方に基づく、国と地方の具体的な役割分担は以下の通りだ。

「100の行動」廃県置道における国と地方の役割分担

(1)地方にできるものは地方に。近接性原則と補完性原則により、以下の役割分担を基本とする。
-1 基礎自治体は行政全般を担当する

-2 道政府は広域行政が合理的である業務に関してスケールメリットを活かして担当する

-3 中央政府は、外交、通商、防衛、国境管理、国家戦略の策定、全国的に統−が必要な基準の制定・維持等に限定する

(2)「重複型」から「分割型」へ。国と地方の重複型行政による無責任体制を徹底排除し、分割型行政で地方政府が自己責任で政策を遂行できるようにする。

政府の道州制ビジョン懇談会が2008年に取りまとめた中間報告においても、国の役割を大幅に縮小し、道州や基礎自治体の役割が充実強化される役割分担を公表している。だが、廃県置道「100の行動」では、さらに踏み込んで大胆に地方政府に権限を委譲している。

「外交・防衛・安保・治安」分野に関しては、消防や救急を基礎自治体が担当する。警察は現状でも都道府県単位であるため、広域防災と併せて道政府の担当とした。ただし、国家安全保障やテロ・サイバー対策などは中央政府の任務であり、それと併せて、外交、防衛、国家安全保障は中央政府の本質的な任務であろう。

「国土・交通・社会資本整備」分野は、ほぼ現在の国土交通省の所管分野である。この分野は道路や河川、国土保全など、広域行政に適した行政分野であるため、道政府の担当となる。都市計画や住宅・公園政策などは近接性の原則から基礎自治体に担当させる。

「経済・労働」分野は、財務省、金融庁、日銀、経済産業省、総務省(旧郵政省)、農林水産省、厚生労働省(旧労働省)などの官庁の所管分野を想定している。地域経済全般、農政全般などを近接性の原則から基礎自治体の担当とした上で、広域行政が合理的な経済政策、雇用労働政策を道政府の担当とした。道政府は経済政策においては中程度の国家レベルでグローバルに政策を推進することとなる。

財務省、金融庁、日銀の分野の通貨発行やマクロ経済政策、金利政策は中央政府の任務であろう。加えて、国家としてのエネルギー安全保障、電波管理は中央政府の役割として残すべきだと考えている。

「社会保障」分野は、現在の厚生労働省(旧厚生省)所管業務のイメージだ。この分野は全て地方政府に移管させる。年金、医療保険、医療制度、介護保険、生活保護などは、国家としてある程度のガイドラインを設けたうえで、地域ごとに制度設計の自由度を与え、人口構成や戦略的優先順位に応じた社会保障のレベルを決める権限を地方政府に持たせるべきだと考えている。

社会保障分野のうち、年金、医療保険、介護保険などの社会保険に関してはスケールメリットが必要であるため、基礎自治体ではなく、道政府の担当だ。その他の生活保護、老人福祉、保育等は基礎自治体の担当となる。財源に関しては次回詳述するが、社会保障全般を担う新たな地方政府には、消費税が税源として移管される。地方政府は、高い税率で高い水準の社会保障を維持するか、経済活性化のために税率を低くして社会保障の水準を下げるか等の判断を自らの責任で行うことが出来るようになる。「道」をまたいだ人の移動、例えば引っ越しなどによって人が移動する際には、道政府間で制度のやり取りをする必要があるが、国民ID・共通番号制度によって対応可能であろう。

「環境政策」分野に関しては、基本的に基礎自治体が担当し、大気汚染や水資源対策など広域行政が必要な環境政策のみを、道政府が担う。地球規模の環境政策に関しては中央政府の担当となる。

「教育・科学技術・文化」分野に関しては、幼稚園、小中高校までは基礎自治体の担当にすることを提案する。大学に関しては、現在の国立大学も含めて道政府に移管する。東大偏重と言われる現状もこれによって改善されるだろう。その結果、各道の中核となる大学が生まれ(近畿道=京大、九州道=九大、東北道=東北大、北関東道=筑波大学、南関東道=横浜国大等)、地域ごとに学力・研究を競い合う、健全な競争が生まれよう。

中央政府には、宇宙開発、国家戦略としての科学技術研究開発、文化政策やクールジャパン、国家としての教育の基本政策などを残すことになる。

そして、これまで100の行動において民営化を提言してきた空港、港湾等は、道政府の責任で、民営化を行うことを想定している。

以上が中央政府と地方政府の業務に関する「100の行動」の私案である。具体的な議論が大いに進むことを期待する。

3.廃県置道と同時に中央政府の省庁再編・地方への人材移動を実施せよ!

既述のように、「廃県置道」の最大のポイントは、基礎自治体や道政府を規模化し強化して、権限人材委譲により、地方政府の意思決定の自由度を上げ、地域を活性化させて、日本の競争力を強化することである。一方、その表裏として、地方政府に出来る業務は全て、有能な人材とともに地方政府に移管することで、中央政府の業務と人材を外交防衛などに限定し、中央政府を小さくて強い政府に変えることでもある。

地方政府に国の業務を大幅に移管する事で、国会議員が地元の陳情に明け暮れるような現状を改善し、中央政府の政治家と官僚は、国家戦略、外交、防衛などの業務に専念し、日本の競争力を強化することができるのである。

したがって、道州制の導入に伴って、必然的に中央政府の省庁再編、人材移動が同時に行われなければならない。前述したような抜本的な地方政府への業務や人材の移管が行われれば、新しい役割分担に基づいて、中央省庁の機能や必要人員は大幅に縮小される。

総務省関係に関しては、旧自治省の地方行政部分はそもそも道州制による地方自治の確立でその必要性がなくなり、旧郵政省業務を含むその他の部分は電波行政を除いて地方政府の役割となる。厚生労働省、農林水産省、国土交通省などの実業官庁に関しては、基本的に全て地方政府に移管される。文部科学省、経済産業省、環境省などの行政分野に関しても、一部を除き全て地方政府に移管されることになろう。現在、地方ごとにある国の省庁の出先機関も当然全廃し、地方政府に移管されなければならない。

国の役割は、世界との競争を視野に、様々な分野の司令塔的役割になる。国家戦略や安全保障、更には司令塔的役割に限定することで、国家として対応すべき課題に対し、高い問題解決能力をもつ優れた政治家と官僚による小さくて強い政府を造ることができるのだ。したがって、道州制導入と同時に中央省庁再編・地方への人材の移動を断行しなければならない。

このように「中央政府・道・基礎自治体の役割分担をゼロベースで見直せ!」、「基礎自治体による行政サービス、道政府による戦略的意思決定、中央政府による世界との競争・協調!」、「廃県置道と同時に中央政府の省庁再編・地方への人材移動を実施せよ!」と論じて来た。

次の廃県置道(3)では、いよいよ財源つまり税収のあり方について論じることになろう。筆者は、この廃県置道の行動については、ワクワクしながら執筆している。明らかにこの廃県置道が実現すると、日本が地方から活性化されると思えるからだ。そのために一番重要なのは、財源となるお金、つまり税収面での役割分担である。その点を、次の行動にて詳述する予定だ。


  【4月14日の国会】政府が進める地方分権改革の中身とは?- 寺田 洋介 Platnews 2016年 4月16日

14日の衆議院本会議にて、「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律案」の趣旨説明および質疑が行われた。政府が進める地方創生の一環として地方分権改革も進められているが、具体的には何を行おうとしているのだろうか。民進党・青柳陽一郎議員の質疑と、それに対する答弁を中心に、その中身を見ていきたい。

地域が自らの発想と創意工夫により、課題解決を図るための基盤
まずは石破茂地方創生担当大臣により、法律案の趣旨説明がなされた。地方分権改革について大臣は、「地域が自らの発想と創意工夫により、課題解決を図るための基盤となるものであり、地方創生における極めて重要なテーマであります。」と冒頭で述べた。法律案の具体的な内容については、①「住民に身近な行政を、地方公共団体が自主的かつ総合的に広く担うようにするため、国から地方公共団体または都道府県から市町村への事務・権限の移譲、地方公共団体への権限の付与、地方版ハローワークの創設等を行う」、②「地方が自らの発想でそれぞれの地域に合った行政を行うことができるようにするため、地方公共団体に対する義務付け、枠付けの見直しを行う」と説明した。

質疑に立った民進党・青柳議員は、はじめにTPPに関する政府の姿勢を批判した上で、甘利前大臣が説明責任を果たしていないことや、最近の自由民主党議員の暴言や不祥事を追及した。本題の法律案については、さらなる地方分権改革の必要性や、地方版ハローワークによる二重行政の恐れなどを訴えた。以下は
法律案に関する質疑とその答弁の全文。

権限・財源・人間の「3ゲン」の徹底的な移譲を

民進党・青柳議員:

法案の質問に入ります。

民進党は党綱領において、自由・共生・未来への責任を結党の理念としています。これは公正・公平なルールの元、多様な価値観や人権が尊重される自由な社会。多様性を認め全ての人に居場所と出番がある、強くてしなやかな共生社会。地域や個人が十分に連携しあう社会。そして、未来を生きる次世代のため、税金の無駄遣いを排す行財政改革。政治家の身を切る改革。地方の創意工夫による自立を可能とする、地域主権改革を断行していくことにあります。こうした理念に賛同する議員が結集してできた党が我々民進党です。

特に、東日本大震災以降、人と人の絆や地域コミュニティの大切さが再認識されました。私たちが目指す国の形は、官僚主導の政治を変えて、国民主導・地域主導にしていくこと、地域のことは地域が決められる、地域が主役の政治です。そのためには、権限・財源・人間の東京一極集中を脱し、基礎自治体の強化を図り、地域の事情と選択を尊重しつつ、道州制へ移行することを目指す、これこそが、既得権の打破、地方創生、持続的な経済成長に繋がるものと考えます。

しかし、安倍政権では、こうした骨太な改革議論は影を潜め、官僚主導、一部族議員主導の政治が蔓延していると言わざるを得ません。第2次安倍政権はこれまで、第3次・第4次・第5次と、地方分権を進めてきているように見えますが、現在議論されているものは、残念ながら小粒なものに留まってしまっていると言わざるを得ません。今通常国会の安倍総理の施政方針演説で、地方分権についての記述は大変に少なく、そこで紹介された唯一の事例が、地方版ハローワークの設置のみで、正直失望しました。安倍政権の地域主権改革に対する覚悟や気迫は全く感じられません。石破大臣は、担当大臣として地域主権改革に本格的に取り組むつもりなのか、その覚悟を伺いたいと思います。また合わせて、道州制について、大臣の見解を伺いたいと思います。

繰り返しますが、地域主権改革・地方分権に必要なのは、権限・財源・人間の「3ゲン」を徹底的に移譲することです。それにより、基礎自治体、市町村が地域の実情に合わせ、きめ細かい対応を行うことで、地域が活性化し、日本全国が元気になっていく。これが地方再生のあるべき姿です。政府は平成5年の本院での、地方分権の推進に関する決議を皮切りに、これまで累次にわたり、一応の地方分権改革を進めてきました。民主党政権下でも、義務付け・枠付けの見直しと、条例制定権の拡大、一括交付金制度の創設、国と地方の協議の場の法定化などを行い、国と地方が対等な関係のもと、地域主権の観点から、地方自治体が住民に必要な行政を自主的に広く担えるようにするための改革を進めてきました。

また、国の機関の一部である、国交省の地方整備局、経産省の経済産業局、環境省の環境事務所を、地方の広域連合へ移管する法案も策定しました。しかし、安倍政権は、新たに地方創生を掲げてはいるものの、実際には国主導の地方誘導策であって、地域の自主的な新しい運動の展開の推進とは、程遠い内容となっております。地方創生法では、国が策定した総合戦略を勘案して、都道府県や地方自治体に地方版の総合戦略を策定するよう、努力義務を課しています。

地方版の総合戦略を策定しなければ、今後国が支援してくれる保証はなく、地方は自身の戦略策定を作らざるを得ない状況です。実際、地方創生推進交付金は、総合戦略を策定した地方公共団体が対象であり、先導的なものと、縛られています。また、取り組みの成果が出るまでには一定の時間がかかるにもかかわらず、交付金を、いつまで、どの程度の規模で継続するかが明らかではありません。そうした中で、国に財源を握られている地方は、国がメニューを示しているものではない、独自の事業を行うことは、事実上困難であり、その結果は、国の目に適う、画一的な施策ばかりになる恐れがあります。国が、あれをやれ、これをやれとメニューを示すやり方はやめて、地方が創意工夫を発揮して、地域の自主性や多様性を尊重しつつ、白地から政策を考えるやり方に、改めるべきではないでしょうか。今の地方創生策が、真の地域再生に資するものと本当にお考えなのか、石破大臣の御所見をお伺い致します。

提案型地方分権の今後の方向性について、お聞きします。各府省自らが、時代の趨勢により陳腐化されたものや、長年の規制の歴史の中で、意義を失った規制があるのかどうかを検証し、国が必ずしも縛り付ける必要のない規制は、積極的に緩和を進めるか、地方の裁量に委ねるかを強く打ち出すべきです。平成26年6月に取りまとめられた地方分権改革の総括と展望では、国から地方への権限移譲の突破口として、手挙げ方式を導入すべきと提言しているとともに、地方公共団体間で制度が異なることにより、住民に不利益が生じないよう留意する必要がある、と付言されております。提案募集型や手挙げ方式による規制改革のあり方も含め、今後の各府省からの事務・権限の移譲をどのように積極的に行っていくのか、石破大臣の見解をお聞きいたします。

今回の第6次地方分権一括法では、地方版ハローワークを創設することとされています。これが目玉事例というのも寂しい気もしますが、無料職業紹介を行う地方自治体に対して、国のハローワークの求人情報と求職情報を、オンラインで提供するとのことです。これは、例えば自治体で生活困窮者等に対して、職業紹介と生活支援等を一体的に提供できるようになるなど、求職者の利便性向上に一定のメリットがあることは認めます。しかし効果を出していくには、利用者目線の制度設計や、利便性のさらなる向上、制度の運用に十分配慮しなければなりません。そこで、懸念される点について伺います。

都道府県が求職者に求人情報を提供する場合、自らの都道府県内の企業の情報を優先して提供し、求職者にとってベストな求人情報が提供されないということが起きないのか。また、国のハローワークと地方版ハローワークとの役割分担について、どのようにお考えか。国と地方の事業の重複による行政の非効率、二重行政が生じないようどのような処置を講ずるのか。大臣のご見解をお伺いしたいと思います。

最後に、我々民進党は、規制改革や地方分権改革をはじめ、さらなる行政改革を断行することを通じて、既得権の打破と持続的経済成長を実現し、未来への責任を果たしていくことをお約束し、私の質問を終えます。どうも、ありがとうございました。

地方からの提案をいかに実現するかという基本姿勢に立つ

石破国務大臣:
青柳議員から4問ご質問を頂戴をいたしました。

地域主権改革および道州制についてであります。民進党の綱領におきまして、地方の創意工夫による自立を可能とする地域主権改革を断行する、とされていることは承知をいたしております。政府といたしましても、現在、地域が自らの発想と創意工夫により、課題解決を図ることができるよう、地方分権改革を推進しているところであり、これは、国は外交・安全保障など、国家の本来的任務を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方が担うことで、住民サービスを向上させることを目的といたしております。

平成26年からは、国が選ぶのではなく、地方が選ぶことができる地方分権改革を目指し、提案募集方式を導入し、地方からの提案について可能な限り実現を図っておるところであります。今後とも、「知恵は現場にこそある」との考えのもと、地方の熱意と現場の生の声を真摯に受け止め、やる気のある地方を応援する地方分権改革を、着実かつ強力に進めてまいります。

また、道州制は国家の統治機能を集約・強化するとともに、住民に身近な行政はできる限り地方が担うことにより、地域経済の活性化や行政の効率化を実現するための手段の1つであり、国と地方のあり方を根底から見直す大きな改革であります。このような大きな改革であることから、その検討にあたりましては、道州制の具体的な姿を明らかにしつつ、国民的な議論を十分に行うことが必要であります。また、地方団体の声を聞きながら、丁寧に議論を進めていくことも重要であります。民進党の基本的政策合意において、「基礎自治体の強化を図りつつ、道州制への移行を目指す。

その際それぞれの地域の選択を尊重する」とされていることも認識をいたしております。道州制に関しましては、与党において、議論を前に進めるべく、精力的に検討が重ねられており、政府としても連携を深め、取り組んで参ります。

次に地方創生のあり方についてであります。地方創生とは人口減少の克服と、地域活性化を一体として実現することを目指すものであり、従来の取り組みとは大きく異なるものであります。すなわち、国がメニューを示すやり方ではなく、地方が創意工夫を発揮できるよう、地方の主体的な取り組みを、国が支援することといたしております。

地方創生の実現にあたりましては、地方が国の総合戦略に盛り込んだ支援策を活用しつつ、各地方の自由な発想に基づく、地方版総合戦略を策定し、すべての政策に国も地方も具体的な成果目標を設定し、徹底した効果検証を行うといった点で、ともに力を合わせて取り組んでいくものであります。地方創生はすぐに成果が現れるものではなく、息長く取り組むことが重要であります。国民の皆様方にご理解をいただきながら、自由度の高い新型交付金や、企業版ふるさと納税制度などの財政面に加え、情報面、人的な面でも地方を支援をいたして参ります。

今後の事務・権限の移譲についてであります。従来の委員会勧告方式による、分権改革の成果を基盤とし、平成26年6月に、地方の代表も参画をしている地方分権改革有識者会議において、それまでの取り組みの総括を行いました。その中において、個性を活かし自立した地方を作るため、国主導による集中的な取り組みから、地方の発意に根ざした息の長い取り組みへの転換が望まれる、とされたところであります。これに基づいて、委員会勧告方式に替えて、国が選ぶのではなく、地方が選ぶことのできる地方分権改革を目指し、事務・権限の移譲や、地方に対する規制緩和についての提案募集方式を導入をいたしました。

この提案募集方式は、まさに地に足のついた、現場で住民や自治体の職員が困っている課題について、ユーザー目線で提案をしていただき、解決するためのものであり、住民サービスの向上に大きく資するものであると考えております。提案募集方式を通じた取り組みにつきましては、全国知事会から、「地方分権改革の力強い前進が図られたことに感謝する」、また、指定都市市長会からも、「地方自治体の政策実現の幅が広がる、大変意義のある取り組み」とご評価をいただいております。個々の自治体の発意に応じ、選択的に権限を移譲する手挙げ方式は、地域特性や、事務処理体制等の差が大きい事務・権限の場合、特に国から地方への移譲に際して、新たな突破口になりうるものと考えております。

その際、手挙げ方式により移譲を受けた自治体において、事務・権限を適切に執行することができるための、技術的助言などを行い、自治体間で制度が異なることにより、住民に不利益が生じないよう留意をいたして参ります。今後とも、移譲する事務の性質に応じた手挙げ方式も選択肢とし、地方からのご提案をいかに実現するかという基本姿勢に立って取り組んで参ります。

最後に、地方版ハローワークに関し、求職者への求人情報の提供のあり方、国のハローワークとの役割分担や、重複の防止についてのお尋ねをいただきました。ハローワークのあり方については、全国知事会からの要望も踏まえ、求職者・求人企業にとって、何が一番いいのかという観点から検討し、地方版ハローワーク等の創設を行うこととしたものであります。求職者への求人情報の提供のあり方については、地方版ハローワークにおいても、職業安定法第5条の7に基づき、求職者に対して、その能力に適合する職業を紹介するよう努めることが求められております。国のハローワークからオンラインで、全国的な求人情報の提供を受けた地方版ハローワークでは、求職者の希望する勤務地に応じ、当該情報を活用して、職業紹介が行われるものと考えております。

国と地方との役割分担につきましては、国は憲法第27条に定められた勤労権の保障のため、全国規模のネットワークによる雇用のセーフティネットの役割を担います。地方公共団体は、地方自治法第1条の2において、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うとされ、また、雇用対策法第5条において、地域の実情に応じ、雇用に関する必要な施策を講ずるように努めなければならない、とされていることを踏まえ、住民に身近な場所で地方公共団体が提供する福祉サービスや産業振興施策と一体となった雇用施策を講じます。こうした役割を分担しつつ、互いに補完し合いながら効果をあげることが期待されるものであります。

国と地方の事業の重複につきましては、ただいま申し上げました通り、地方版ハローワークは国と地方の適切な役割分担のもとで、住民の利便性向上を図るものであり、国と地方が単に同じ事務を重複して行い非効率である、いわゆる二重行政が生ずるものではございません。地方版ハローワークの形態は様々であると考えられますが、各地域において、国と地方公共団体が雇用に関する協定の締結などを通じて十分に協議し、住民にとって利便性が高く効率的なサービスが提供されるよう努めて参ります。以上であります。

(衆議院インターネット中継より)
今回の質疑も含め、地方分権改革をどの程度進め、またいかに実現するかという点については議論が尽きない。道州制の導入については、石破大臣も言及していた通り、まだまだ国民的議論が不足しているように思う。おおさか維新の会が党独自の憲法改正原案に「道州制の導入による統治機構改革」を入れているが、地域活性化が求められる中、憲法改正の可能性も踏まえて今後より具体的に議論していくべきであろう。そして、今後は、答弁にもあったように、国民の利益につながるかという観点で、着実にPDCAサイクルを回しながら最適な地方分権のあり方を探っていっていただきたい。


  フィリピン大統領選で当確のドゥテルテ氏、連邦制への移行提案 朝日新聞 2016年 年5月10日


[ダバオ(フィリピン) 10日 ロイター] - フィリピン大統領選挙で当選確実となったロドリゴ・ドゥテルテ氏は10日、連邦制への移行や地方の権限強化を柱とする改革案を提示した。

 9日投開票の大統領選は公式な結果がまだ確定していないものの、選挙管理委員会の認定を受けた団体による非公式な集計によると、ドゥテルテ氏の得票数は他の候補者を大幅に上回っている。

 有権者数は5400万人。90%開票時点のドゥテルテ氏の得票率は約39%で、得票数は2位の候補よりも600万票以上も多い。

 ドゥテルテ氏のスポークスマン、ピーター・ラビナ氏は、ドゥテルテ氏が市長を務める南部ダバオ市で記者会見し、単一国家制から連邦制に移行するための憲法改正に向け、コンセンサス形成を図ると述べた。

 中央から地方への権限移譲を意味する同案は、既得権益層を激しく批判するアウトサイダーとしてのドゥテルテ氏の立場を反映している。


  農地転用許可、自治体に権限移譲 地方創生関連2法が成立 日本経済新聞 2015年 6月19日

大規模農地を商業施設や住宅に転用する許可権限を国から自治体に移す地方分権一括法など地方創生関連2法が19日の参院本会議で与野党の賛成多数で可決、成立した。いまは国が許可している4ヘクタールを超える農地の転用を国と協議して都道府県が許可できるようにする。都道府県の判断だった2ヘクタール超4ヘクタール以下は、国との協議を廃止する。

 地方創生関連法には東京一極集中是正に向け、東京23区から地方に本社機能を移した企業の法人税を軽減する制度を盛り込んだ。過疎地域の中心集落に診療所や商店などの施設を集約しやすくする。


  「【「地方創生」の鍵は“地方議会改革”にあり】~第3回地域政党サミット~」 NEXT MEDIA "Japan In-depth" 2016年02月01日

「国の予算をどう取るかということだけではなく、街のことは街の人が自己決定するという本当の住民自治に取り組む為に立ち立ち上がる時だ。」

元三重県知事、早稲田大学名誉教授で地域政党サミット顧問の北川正恭氏は、1月30日、東京に集まった地方議員らに檄を飛ばした。

戦後70年を超え、2014年には地方創生法が成立した。2000年に地方分権一括法が施行され、法的には地方分権国家となっているが、結局東京の一人勝ち、地方は限界集落だらけというのが実態。進んだのは、国から地方自治体という“官から官へ”の権限委譲だけだ。本当の地方創生の為に必要なのは、“官から民へ”という真の分権だ。

 「今、政府と名乗っているのは、中央政府だけ。国の決定を追認、実施するだけではなく、『地方政府』として住民の為の政治を行う自覚が必要だ。」(北川氏)

 東京都千代田区で開催された「第3回 地域政党サミット」には、全国各地の地方議員らおよそ60人が参加した。「地域政党サミット(地域政党連絡協議会)」は、既存政党とは一線を画し、地域に根ざして活動する東京や茨城、神戸など各地の地域政党が去年3月に結成したもの。地域政党の活動を盛んにすることで、有権者の選択肢を増やし、地方議会と地方自治体を活性化することを目指している。

 会場では、北川氏のほか、地方政党サミットに参加する地方議員らが、「地方議会に喝!」をテーマにパネルディスカッションに臨んだ。

「なぜ議員立法が少ないのか?」「ひとり会派、少数会派でも改革はできるのか?」など会場からの質問に対して意見を述べ合った。 「ひとり会派、少数会派の活動」に関して、神戸志民党の樫野孝人兵庫県議会議員は、「今の議会は、決算特別委員会の場でも数字についての質問がない状態。提案を盛り込んだ質の良い質問をすれば、執行部もきちんと答えざるを得ない。また予算案に自らの提案を盛り込むことも勝負。」などと話した。また北川氏は、「少数会派でも、キャステイングボートを握ることで議会を動かすことができる。」とした。

 国の施策に頼るだけではない、地域の実情に即した取り組みを実践していくこと…。それが、地域政党サミットが目指す地方政治の形だ。埼玉県和光市の松本武洋市長からは、「和光モデル」として注目される独自の高齢者施策などについての紹介があった。和光市では、体の機能改善が見込める高齢者の自立支援に力を入れている。

「日常圏域ニーズ調査」というアンケートを実施し、地域ごとの課題を把握。例えば認知症の高齢者が多い地域に重点的にグループホームを設置するなどの施作を実施する。介護保険を「卒業」する高齢者を増やすことは、高齢者自身はもちろん、自治体の財政健全化の為に非常に重要なことだ。

 この日、参加した木下博信埼玉県議会議員は、「志を持った、何かを生み出したいという人が集まっていた。居眠りの多い議会とは違う。」と話した。また、川崎市議会議員を目指す坂巻良一さんは、「同じ思いを持つ仲間を集めて地域政党を作り、地域政党サミットにも参加したい」と力を込めた。

 「地方議員は必要。」と思う人はどれだけいるだろうか。自分の地域の議員が何をやっているかわからないと感じている人も多いのではないか。しかし、本当の意味での地方創生の実現には、地域のことは地域で考えるという視点は不可欠。議会は、その議論の中心であるべきだ。

 地方議会はこのままではいけないー。それが地域政党サミットに参加する議員たちが感じている共通の危機感だ。この危機感を、実際の活動に結びつけ、地方議会から日本を変えるという動きに広げていけるのかが、地方創生のカギとなっていくのではないか。


  東京中心主義の価値観のまま地方創生を語るの愚ー政府機関等の地方移転では地方創生にならないのでは? 室伏謙一 BLOGOS 2016年02月17日

今国会前半戦も佳境に入ってきた。与党側は、平成28年度予算は来週26日か遅くとも29日には衆院を通過させたい意向のようだ。一方、野党側は与党の相次ぐ不祥事や不規則の追求でこれに対抗、さて、どうなるか。与党側の目論見どおり、予定どおりに進むことになるのか、何人か大臣の首が飛び、来年度予算の衆院通過が3月にずれ込むことになるのか。(そう言えば、民主党は予算の組替え動議を出したいらしい。どんなものが出てくるか。大方予想はつくことはつくが。)

 さて、そうした中、今週15日の衆議院予算委員会で地方創生関係の質疑が行われた。自民党の後藤田正純議員は政府機関等の地方移転について質問、その中でNHK放送センターの地方移転にまで言及した。同議員の質問のうち、NHK放送センター関係の論旨は、NHKはコストセンターであり、それがなぜ渋谷の一等地にあるのか、というもの。NHK放送センターの所在地は、NHKが出て行って民間に売却すれば安倍総理が進める成長戦略に資することになるだろうとのことであった。NHKが東京を出て地方に行くという意外性で国民の意識が変わるとまで付け加えた。

 NHKが公共放送であり、放送法に基づき民放とは異なる公共放送としての責務を背負っていることを考えれば、首都から離れる、霞が関、永田町から遠いところに移転するということはおよそ考えられないと思うし、それは昨今相次ぐ不祥事とは別問題のはずだが。放送行政についての同議員の見識を疑わざるをえない。

 しかし、それ以上に問題なのは、NHK放送センターがある渋谷の土地は一等地であり、これを民間に売れば成長戦略に資するとした点である。要するに同議員の頭の中には、東京の土地の価値が高く、もっと言えば東京の価値が高く、東京以外の地方はそれに比べて価値が低いという図式が出来ていて、それに基づいた発言であるということである。

 真に地方創生を考えるのであれば、この発想、この図式をこそ転換する必要があるはずなのだが、それをせずに、ただNHKが東京から出て行くことになれば国民の注目が集まるとでも考えたのであろうか。(そうだとすれば、地方創生を衆愚政治の道具に使っているのと何ら変わりない。)

 そしてこの発想、思考の図式、政府機関の地方移転を語る議員に多かれ少なかれ共通しているように思えてならない。

 そもそも政府機関等が地方に移転すれば、それが地域の活性化や地方創生にどのようにつながるのか?やれ消費者庁を移転させろだの、統計局を移転させろだの、様々な要望が地方公共団体から出されている。仮に、政府機関等が地方に移転すれば職員も一緒に移転することになる。そうすれば移転先の人口は増えることになるから、それを期待しているのだろうか?人口が増えれば、その地域で消費する人数が増えるから地域経済が活性化する、そんなことを期待しているのだろうか?

 地方創生、もとい「まち・ひと・しごと」の「しごと」とは新たな雇用を生み出す仕事、つまり産業を創り出すことのはず。政府機関等が地方に移転したところで、職員はそのまま付いてくるから新しい仕事を作ることにはならない。あったとして、せいぜい、既存の飲食業や清掃業、ビル管理業の仕事量が増える程度だろう。一定規模以上の雇用を生み出すようなことはおよそ考えられないのではないか。(要するに経済効果を期待してもその程度しかないということ。)

 地方での産業創出は、国が支援することはあったとしても、最終的には地域が自分で考え、頑張らなければいけない。それに必要なのは、政府機関等が政府機関のまま移転するという中央集権の変形ではなく、国の権限、財源、税源の地方への移譲という地方分権改革(民主党的には地域主権)の推進のはずである。政府機関等の地方移転を議論する前に、地方分権改革の議論はどこへ行ってしまったのか?(勿論急進的な地方分権など論外であるが、どうも以前に比べて大幅にトーンダウンしてしまっているようにしか見えない。今国会も地方分権推進関連法案が提出されるものの、小幅な権限移譲に止まっているようだ。)

 幸い、政府機関の地方移転については、霞が関が良識的な防波堤になってこれを食い止めようとしているようであり、現状を前提とすれば、一部の独法の研究機関の移転でお茶を濁す程度で終わると思われるが。



気候変動


  本音トーク:地球規模の気候変動リスクと向き合う(第2回)企業とNPO・NGO 江守正多 | 国立環境研究所地球環境研究センター気候変動リスク評価研究室長 Yahoo!ニュース 2015年6月10日


これらの議論の背景となる重要な認識は、国際社会が「産業化以前を基準に世界平均気温上昇を2℃以内に抑制する」という目標を掲げていることと、その達成のためには今世紀末までに世界のCO2排出量をほぼゼロにする必要があるというIPCC報告書の結論である。我々はこの壮大な課題にどう向き合ったらよいのだろうか。

筆者が代表を務める研究プロジェクト(ICA-RUS)の活動として、今年3月に4名の識者に集まって頂き、この問題についての座談会を開いた。

企業からお二人、トヨタ自動車(株)環境部担当部長の長谷川雅世氏と損保ジャパン日本興亜CSR部上席顧問の関正雄氏を、それぞれ製造業と非製造業からお招きした。

NPO・NGOからお二人、経済に配慮するポジションのNPO法人 国際環境経済研究所で理事・主席研究員を務めていらっしゃる竹内純子氏、環境NGOの公益財団法人 WWFジャパンで気候変動・エネルギーグループリーダーを務めていらっしゃる山岸尚之氏をお招きした。

筆者は進行役を務めた。

以下に、2回に分けてその内容をICA-RUSのホームページより転載させて頂く。メンバーの略歴は、転載元をご覧頂きたい。

また、シリーズのバックナンバーとしてこちらもご覧頂きたい。

江守:今日は、気候変動枠組条約の交渉で目標とされている「産業革命以降の気温上昇を2℃以内に抑える」をテーマに、お話いただきます。

この目標の達成は容易ではありませんが、温暖化を放置すれば影響が深刻化することもわかっています。どちらのリスクをどれくらいとるのか、リスクトレードオフの発想が求められています。

実は前回の会合で、「産業界とNGO の対立をどう見るか」と、お尋ねしたところ、「その両者の考え方は近くなってきているのでは?」というヒントをいただき、今回の会合につなげることとなりました。

さまざまな立場から考える温暖化
長谷川:トヨタ自動車環境部ブランド企画グループの担当部長を務めております。以前は笹川平和財団で環境政策の支援をしたり、LEAD ジャパンで研修プログラムを実施していましたが、「企業が変わらなければ、環境問題は解決しないのでは?」と思いはじめ、環境部を立ち上げたトヨタに 1999 年に中途入社して企業での活動を開始しました。

企業にとっても環境と経済の両立は重要な課題です。現在は WBCSD (持続可能な発展のための世界経済人会議)の社内実務責任者であり、グローバルな持続可能性に関する国際的な研究プログラムであるフューチャー・アースにもステークホルダー代表のような形で関与しています。

関:安田火災海上といっていた頃に就職して以来の在社ですが、2001 年に地球環境部(当時)に異動となってから環境問題に携わるようになり、現在はCSR 部の上席顧問を務めています。また損保ジャパン日本興亜環境財団というのもありまして、環境教育や人材育成を主にやっていますが、そこの専務理事もしています。

企業も環境に責任のある向き合い方をする必要があるということで、今お話にあった WBCSD や CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、ISO26000 の作業部会などに参加して、世界の産業界と連携をはかってきました。また、2年前から明治大学でCSR について教える職務を得て、会社とは少し離れたところからも環境問題にかかわっています。

竹内:国際環境経済研究所という NPO の研究員です。大学卒業後に入社したのが東京電力で、尾瀬の自然保護活動を十数年担当しました。エネルギー環境教育も担当し、社員が学校で出前授業をする活動を行なったりしていました。

その後、温暖化問題の担当になり、WBCSD や国連気候変動枠組条約交渉の会議などに参加して、エネルギーと環境のバランスをとる本当の難しさに悩み始めたところで、3・11が起きました。
退職した理由のひとつは、自分が考えてきた発展と環境の両立とはなんだったのかと悩んだことです。現在はNPO で勉強しながら産業界にいた経験を活かして、消費者の方々への通訳のようなことができればと思っています。

山岸:WWF ジャパンの気候変動・エネルギーグループのリーダーをしています。大学で学んでいた国際政治と現実の間にギャップを感じていた頃、京都議定書ができました。政治的・経済的な問題はあるし、途上国と先進国の対立や、哲学的な対立のような話もあるのが面白いと感じて、国際政治における環境をテーマに勉強しました。

その後ボストンの大学院に行き、サザンパースペクティブ、つまり途上国からはどう見えるか?という視点を徹底的に教えられ、卒業後は、WWF に雇ってもらい、日本ではあまりポピュラーではないアドボカシー、つまり政策提言を国内外でやっています。

2℃を越える温暖化のリスクとチャンス

江守:お互いのバックグラウンドがわかったところで、具体的な話をしたいと思います。まず気候変動によって生じるリスクとチャンスにはどんなものがあるでしょうか。

関:気候変動のリスクは、企業でも具体的な対策を考えなければならなくなっています。とくに保険会社のビジネスに関して言いまと、たとえば2011 年のタイの洪水では、業界全体で約 5,000 億円の保険金が支払われました。損保ジャパンも、その年は決算に大きな影響を受けました。そうした経済的なリスクをまともにかぶっている業界ですから、もう今、そこで危機が起こっているという認識です。

長谷川:トヨタが昨年夏に出した報告書でもIPCC の報告書から我々のビジネスにかかわるリスクを引用して取り上げています。温暖化の影響により世界経済が落ち込むと車も売れなくなり、また自然災害が生じた場合は市場において事業運営に直ちに障害を生み出す可能性もあるリスクです。

山岸:気候変動の影響を見るときに重視したいふたつの視点があります。ひとつは回復不可能な損失で、2℃以上の気温上昇によって危惧される種の絶滅など。もうひとつは不平等の拡大です。たとえば、今も世界の 5 人か 6人に 1 人が水に満足なアクセスができないような状況で気温上昇が2℃を超えると、水資源へのアクセス不足がさらに拡大します。

また、異常気象による洪水でいちばん影響を受けるのは、温暖化にほとんど寄与していないデルタ地域に住む貧しい人々ですが、この人たちの被害は金銭的に見ると大きな金額にはなりません。もともと貧しいので経済的付加価値が低いからです。それが正しい把握の仕方なのかどうか。こうした不平等の拡大に注意しなければいけないのは、それが内戦など、他の社会問題を悪化させる可能性があるからです。

竹内:個人的には、いま挙げられた問題点にまったく反対するものではありませんが、問題提起として申し上げれば、気候変動を原因とする、格差や社会問題の拡大部分が計測不可能なので、それを気候変動の影響と言ってしまうことの限界を感じています。

江守:既にある社会的問題と気候変動による拡大部分は分けられるかということですね。

山岸:たとえば感染症の拡大リスクは気候変動も大きな要因であるのは間違いないけれど、マラリアの薬を買えない貧しさや、病気を媒介する蚊の生息地拡大などを並べていくと、気候変動の寄与分を切り分けて考えるのが難しいのはたしかです。

気候変動解決のためにお金を募ろうとすると、変動による寄与分を言わなければならないので、問題を総じて解決する話にしないと、お金が出にくくなるということです。その地域が抱える問題を包括的に捉えなければ、気候変動だけ議論しても解決できないという意識が醸成されてきてはいますが。

竹内:そうした全体的な問題解決のためにお金を出せるのは余裕があるときで、やはりビジネスベースで、自分たちも発展する筋道ができていないと持続可能にならないのでは、と思っています。
社会問題の解決のために資金を「提供する」のでは、続けられるうちはいいのですが、そうではないときに終わってしまう。社会問題の解決がビジネスとしてきちんと報われない限り、ある種の脆弱性から逃れられないというのが個人的な経験に基づく感想です。

関:社会貢献もそれはそれで意義のあることだと思いますが、電力会社でも保険会社でも、企業にとっては、やはり気候変動に起因する環境問題や社会問題を「このリスクにどう対処するか」、「ビジネス機会にできないか」と考える。つまり、それぞれの企業の特性を生かしてビジネスの文脈で取り組むことが最も重要だと思います。

長谷川:たしかに寄与分は測りがたいですね。ただ、昔から台風は来たけれど、こんなに連続はしなかった。それが気候変動によるものなのかどうかはわからないけれど、企業としては対応が必要です。今はサプライチェーンもなにもかも国際的になっているし、海外でビジネスをするなら、温暖化による災害まで想定する必要があります。それは環境問題として考えるというのではなく、ビジネス上のリスクとして考えなければいけない時代になったということです。

でも、日本はまだ危機感が薄くて、国の温暖化適応計画も欧米に比べて遅れているようです。企業も災害に対してレジリエントであるべきという危機感を持って対応するのが良いと感じます。

江守:ある温度を超えるとリスクが加速度的に大きくなっていくのではないかという認識に関しては、いかがでしょうか。

山岸:IPCC のグラフでも、大規模な特異現象がおこることへの懸念は考慮されていますが、いわゆるティッピングポイントを越て、そのような現象が本当に起きるのかどうか。でも、加速度的に悪化する可能性があるという認識で問題に臨むか、影響は漸次的にしか進まないという認識で臨むかで、ずいぶん違ってくると思います。

関:温暖化は徐々に進むけれども、その影響に関しては、ある時点で急激な変化が起こりうる。起こるかどうかはわからないけれども、わかるまで待っていられない。とすれば、最悪の事態を想定して、今なんとかすると。まさに、予防原則にもとづくアプローチが大切ですね。

長谷川:イメージでいうと、氷河が急に崩れ落ちるような感じですね。
温暖化対策によるリスクとチャンス

江守(進行役):次に温暖化対策に伴うリスクとチャンスについて伺います。今世紀末までのCO2排出ゼロをめざして対策をとった場合、それによって逆に心配なことはあるのか。あるいは何かチャンスがあるのか。

長谷川(トヨタ自動車):実際に 2℃を超えないためにどうしたらいいのか、IEA(国際エネルギー機関)が、それぞれの業界にシナリオを示してくれています。自動車会社については、ハイブリッドや燃料電池のような次世代ベースの車を普及させることが求められています。トヨタでも技術開発を進めていて、燃料電池車も市場に出しました。でも、シナリオには目標達成のためには次世代車が何%という数字が示してあり、その達成は並大抵ではありません。

技術があっても普及しないと削減目標は達成できません。実際問題として普及するのに時間がかかると経済的な負担が増え、それがリスクといえます。逆に、優遇策が講じられ普及が進めば、ビジネスチャンスに繋がるわけですが。

竹内(国際環境経済研究所):対策のリスクを考えると、温暖化というひとつの問題だけを見て、社会の枠組みをつくるような議論をすると、全体から見たら非常にアンバランスな解決になりかねません。

たとえば、世界には電気が満足に使えない人が13 億人いて、その人たちがエネルギーアクセスを求めているのに、エネルギー使用の削減だけを求めるような仕組みでいいのか。エネルギーというライフラインのアクセスが保証されないような状況が続くのは、それもまた途上国にとっては非常に大きな負担だと思います。いろいろなリスクがあるので、ひとつのリスクだけを見る怖さを考える必要があると思います。

江守:CO2 排出量ゼロをめざす対策が行なわれた場合、制度的なものや資金の、温暖化問題への過剰集中が心配されると?

竹内:その可能性があります。IPCC の報告書でも、中国が自国の石炭を使わずに天然ガスを輸入するといったことを前提としないと成り立たない話があります。それはあまりに非現実的です。

山岸(WWFジャパン):温暖化対策には、緩和と適応があって、多くの緩和策に共通しているリスクは、短期的なコスト増と長期的な利益とのトレードオフがあることです。それにうまく対処しないと、対策の実施によるコスト増大で長期の利益が出る前に頓挫したりする。もうひとつは、今のお話にもあったように、温暖化対策が波及的に他の問題を引き起こすリスクです。

典型的なのが BECCS(CO2 隔離貯留を伴うバイオマスエネルギー)で、CO2 を埋める場所や、それを誰が長い期間管理するのかという貯留にかかわる問題や、バイオエネルギーとして食料との競合問題が発生する可能性がある。原子力も核廃棄物や安全性の問題といった、気候変動とはまた別の問題が発生して、それをどう解決するのかが問われます。

一方ベネフィットは、太陽光発電など再生可能エネルギーや水素を使った技術などが育ってきていることです。再生可能エネルギーが発展すれば、エネルギー需給全体の議論も変わります。世界における問題の多くが、化石燃料がある特定の地点に頼っていることに起因するので、化石燃料に対する依存が減れば、外貨や安全保障など他の問題の解決に寄与する可能性もあります。

関(損保ジャパン日本興亜):温暖化対策のリスクとベネフィットをどのぐらいのスパンで考えるか、という問題でしょう。短期的に見ればコストもかかるしリスクがあっても、数十年のタームで見たときに、人類全体にとってどれくらいの利益があるのかということを考えるべきです。温暖化対策コストや当面のリスクを無視していいとは言いませんが、短期的視点のみで語るべきではなく、中期的・長期的に考えていくべきですね。

江守:ところで山岸さんはチャンスとして再生可能エネルギーの成長を挙げられましたが、竹内さんはむしろ温暖化対策を過剰に優先したゆがみの例として、太陽光バブルのようなことを普段から指摘されています。そのあたりを伺えたらと思うのですが。

山岸:竹内さんのお話は、緩和対策がインセンティブビジネスとして成り立たないと続かないのではないかということで、それも大事ですが、一方の適応策も難しい面があって、たとえば新薬開発などで利益が出ればいいのですが、最初は社会的に重要だからという形で公的資金なり企業の CSR なりの金が入っていかないと、できない部分もあるのではないかと。適応策は絶対的に必要ですが、どうやってそれに金をつけるかは、いろいろな人たちに共通の悩みなのではないかと思います。

竹内:そうですね。どこまで公的なものが牽引するべきで、どこまで企業や市民の自主性に任せるべきなのかということですね。これは非常に悩ましい問題で、個々の案件ごとに違うかもしれませんが、公的な規制で温暖化のためにこれをやりなさいと引っ張っていくよりは、自主性に任せた方が長期的にはうまく行くように思います。

先ほど話しに出たように、温暖化対策のために規制をやたらと導入すれば、産業界にとっては諸外国の企業との公平性やコスト負担の問題を主張せざるを得なくなる。企業が自分たちのビジネスをサステイナブルにするためにという観点を持ち、それを政府がうまくサポートするということでしょうか。

山岸:リスクとチャンスは裏表という話がありましたが、僕ら NGO が言っているのは極端な話、化石燃料業界を衰退産業にしようということです。でも、それは化石燃料業界にはネガティブな話です。そこで、ジャストトランジションという言葉を使い始めています。つまり、いかにして新しい産業に構造転換が図られ、かつ雇用も移行できるか。容易ではありませんが、成功しつつある例もあるので、どううまく加速していけるかですね。
あと、長谷川さんのお話のように、世の中に必要でも普及しにくい技術は、誰かが引っ張らないと広がらない。その過程をどうするか。水素や燃料電池をどこまで引っ張るのが社会にとって公正なレベルなのかは、議論して決めるしかありませんが、その決め方を、我々はまだ社会全体として編み出せていない。でも、それがないと、長期の利益と短期の利益が必ずしも一致しない問題では進展がのぞめません。

江守:社会的判断が必要ということですね。

山岸:短期と長期の利益を踏まえた判断を、自主性をある程度尊重しつつ、うまく誘導する必要があると思います。

長谷川:ハイブリッド車が市場に出た頃、本当は赤字なのでは?と質問されたことがあります。でも政府の補助金が出たりして普及すれば、コスト低減に繋がります。何かきっかけや後押しがあれば、環境に良いものが普及していくのです。環境のことを考えれば燃料電池車は究極のエコカーですが、水素と聞いただけで、危険と思ってしまう人もいる。理解を得た上でアクセプタンスが必要です。官・民・市民社会・学術界、いろいろなパートナーシップがないと進まないこともあります。

江守:先ほど山岸さんが、適応策の方がファイナンスが難しいのではと言われましたが、むしろ緩和の方が難しいという印象を持っていました。適応は既に生じつつある影響に対して、企業も自治体もインフラ整備などの対策をやると思うんですが、緩和策は、たとえば自動車業界は次世代自動車でイニシアティブを取れれば利益になるから頑張るといったインセンティブがありますけれども、CCS などは、CO2 に価格がつかないと儲からない。やるインセンティブが生じないので、技術開発のファイナンスをどうするかという問題があると思ったのですが、いかがですか。

山岸:省エネ技術なら、それを採用してコストが浮けばベネフィットになりますし、技術そのものが大きな産業になりうるので、ビジネスになりやすいのではというイメージがありましたが、たしかにケースバイケースかもしれません。適応策として堤防をつくればインフラ産業は儲かるでしょうが、異常気象に備える早期警戒システムをつくっても、その技術が利益を生み出すわけではないので、そこが問題ですね。しかし、なぜそう言ったかというと、一般的に国際的な気候変動の議論では、公的資金は適応の方に優先して使われるべきだという暗黙の了解があるからです。

江守:途上国支援の文脈としてですか。

山岸:そうです。

長谷川:CCSが本当にビジネスベースで進むのか?ということですが、CCS は炭素に価格をつけないと成り立たない程お金がかかるようです。そうなると環境の問題ではなく、実態のない炭素価格により、全く別の利益誘導に結びついてしまうリスクがあります。ヨーロッパでは温暖化対策に必須のものとして話されていますが、産業界としては、もっと技術革新・技術協力を通じて貢献したいと思っています。

江守:炭素に価格をつける必要があるという議論と、それで儲けている人がいるという議論があるということですね。

2℃という目標を、どう捉えるか

江守:それでは、2℃という目標をどう評価するかということですが。

関:共通の価値観や目標をもつことは、長期スパンで社会全体の大きなシステムチェンジを起こすためには欠かせません。達成困難な目標だからこそ、技術的・社会的なイノベーションを誘発すると思います。目標は必要です。

竹内:率直なところ 2℃は非常に困難であり現実性に欠けると思います。これが一種のビジョンであれば良いですが、そうではないなら、実現可能性があまりに低い目標にこだわることはかえって真実を見えなくしてしまう。これが2℃目標にこだわる最大の弊害です。
そして、たとえば2℃を越えたときの具体的な影響はよくわかっていません。必須とされるCCS についても、EOR(石油増進回収)に利用する場合を除き生産性のある技術ではありませんし、CO2 を地中に埋めるためだけにエネルギーを大量に消費することや安全性に理解を得られるかも疑問です。

山岸:WWF は 1.5℃を目標にしているので2℃を許容していいのかというところですが、集約できる目標としてコンセンサスができた意味は大きいと思います。

長谷川:たしかに 2℃達成は難しいと思いますが、産業界も目標は高くかかげ削減努力をしています。結果として、ビジネスソリューションとは乖離が生じるかもしれませんが、切磋琢磨していくためにも、シンボリックな意味で目標は大事です。

人類は気候変動問題に、どう取り組むか

江守:技術の開発や普及、それによる国際関係の変化など望ましい方向と、それを実現させるためにすべきことはなんでしょう。

山岸:気候変動問題は、途上国の立場からは、衡平性や正義の問題として考えられています。環境問題は、その問題の一部分でしかないという立場です。途上国の主張に賛同するかどうかは別としても、それを理解しないと議論がかみあいません。それが浸透していないのでコミュニケーションがとれないのです。

この問題が難しいのは、ステークホルダー間に、深刻なコミュニケーション齟齬が発生しているということです。それは科学者と一般の人の間、途上国と先進国の間、企業とNGO の間であったりします。今、NGO に期待される役割はポジティブな雰囲気をつくることで、この課題に解決策は存在し、誰でもその一部を担うことができるというストーリーをつくりあげていくこと、英語ではよくナラティブといいます、が求められていると感じています。

長谷川:温暖化国際交渉は代理戦争の様相を呈しています。IPCC の政策決定者向け要約(SPM)もそうです。科学が政治に利用されているという印象です。国家間の利害を越えた国際連携が必要です。産業界はグローバルに活動するためには国境を越えますし、NGOも科学者も越せますから。そして科学者が実社会と結びつくような研究をして、それがもっと社会に活用される必要があります。

竹内:2℃の目標を達成するには、社会全体が大きな転換をしなければなりません。ちょっと省エネぐらいではすまない話です。それをどのようにファシリテートすればいいのか考える必要があります。今後何をすべきかというと、政府も企業も NGO も立場が違う相手のことがわからない。深刻なコミュニケーション齟齬があります。もうひとつは、市民がエネルギーや環境について知らなさすぎた。通訳をする人、コミュニケートをサポートする人が必要です。

関:対立的な議論では、ものごとを変えていけないですね。これまで企業は、あまりリーダーシップをとってきませんでしたが、最近では率先して活動し、提言もしています。今後は、そうした企業が生み出す新たな価値を、市民や市場経済が評価するようにしなければと思います。今や、企業とNGO は、そんなに対立していません。国が引っ張るというより、企業や NGO や都市など、非国家アクター連合が引っ張る時代が来ていると思います。

竹内:山岸さんが言われたように、企業をどうやってモチベートするかという課題はありますね。日本社会はどうしても相手を批判することばかりが先行しがちですが、「褒めて育てる」はあってしかるべきと思っています。

関:先日北欧に行き、日本と一番違うと思った点は、国全体での「バックキャスティング」の実践です。政治は「将来どういう社会にするか」を示し、国民は自分に何ができるのかを考える。それが日本には欠けていると。それはつまり、国民的な議論と合意ができていないということでもありますが。

長谷川:やはり、「環境に良いから」という理由だけでは人はなかなか動かない。環境だけをつきつめるより、経済的で安全にも良いなど、コ・ベネフィットがあると良いですね。

山岸:日本ではアドボカシーという手法はまだポピュラーではありませんが、自由な立場でものを言う NGO は、もっと注視されていいと思います。国内で議論がおきていないと、すでに国内で理論武装をしてくる欧米との議論で負けてしまう。いかにして言説をつくるかということです。

江守:立場が違う人はなにを考えているのか、通訳や議論がとても必要になってくるということですね。今日はありがとうございました。

貧困削減・貧困撲滅


  ペルー首都、「恥の壁」が隔てる貧困層 長さ約10キロ、分断社会を象徴 向こう側は高級住宅、大統領選の対立構図も映す 産経新聞 2016年06月08日


アルベルト・フジモリ元大統領(77)の政治手法に対する評価が争点となり、歴史的な大接戦となった南米ペルー大統領選決選投票は、「フジモリ派」か「反フジモリ派」かで社会を二分した。

 首都リマの南東の丘に約10キロに渡って敷設された「壁」は、ペルーの“分断社会”の象徴となっている。(リマ 中村将)

 小高い丘の上から壁の両側を見下ろすと、まったく違う風景が見える。

 貧困層が暮らすパンプローナ・アルタ地区はトタン屋根にベニヤ板のような壁、窓がない家が密集する。道はあるが、舗装されていないため黄色い砂ぼこりが常に舞っている。水はタンク。電気も十分に通っていない。

 壁の反対側は造成が進む。丘の麓のラス・カスアリーナス地区は大きな一軒家や大型マンションが立ち並び、プールや大型競技場の緑の芝生が映える高級住宅地。中間所得者層にはまったく手が届かない、あこがれの街のひとつだ。

 貧困層の住民の先祖は山から仕事を求めて都市部に下りてきた。丘に自分たちの住み家や道路を作り、定住を始めた。ほとんどの住民が土地の所有権を持たない。

 壁は5年ほど前に反対側から敷設された。理由は、貧困層が地域に入ってきて、犯罪が起きる可能性があるからだ。貧困層の住民らはこの壁を「恥の壁」と呼ぶ。「大きな差別を感じる。私たちが先に住んでいたのに…」。2児の母、ダナエ・ビダルテさん(23)はそう話す。

 集落には、アルベルト氏の長女、ケイコ・フジモリ氏(40)のポスターや掲示板が目立つ。大半の住民はケイコ氏を支持している。「フジモリ大統領は私たちの集落に足を運んでくれた。ケイコも大統領にならなければならない」とビダルテさんは力を込めた。

 アルベルト氏は貧困地域に出向き、住民らの要望を聞いた。住民税などは収めていないのに、集落には学校や教育施設が整うなど貧困層に手厚い支援を施した。ただ、これが高級住宅街側の住民には、アルベルト氏のパフォーマンスに映ったようだ。各地の集落をまわり、貧困層の住民の声に耳を傾けるケイコ氏は父親と同じだった。

 ペルーは投票が法律で義務づけられている。高級住宅街側は大半がケイコ氏の対抗馬の元首相、クチンスキ氏(77)を支持している。「経済を活性化させて、300万人分の雇用を生みだす」とクチンスキ氏が訴える公約は貧困層側の心には響かない。異様な壁を通じて分断された社会が見える。


  世界人口の1%、全体の富のほぼ半分を保有 AFPBB 2016年06月08日


【6月8日 AFP】億万長者やそれ以上の富裕層を名乗ることができるのは、世界人口のわずか1%だが、その人々が世界の富のほぼ半分を占め、しかもその割合が増加していることが、7日に発表された新しい報告で明らかになった。

 世界の私有財産に関する米ボストンコンサルティンググループ(BCG)の年次報告書によると、世界の約1850万世帯が少なくとも100万ドル(約1億700万円)相当の資産を有し、合計では78兆8000億ドル(約8400兆円)に上る。これは世界の年間経済産出量とほぼ同規模だと言う。

 この1%のエリート層の富の取り分は、不動産を除く現金、金融勘定、株式の保有に基づく世界の総資産の47%にあたる。しかもその割合は2013年の45%から、15年には47%へと着実に増えており、格差が世界中で広がりつつあるとする経済学者らの不安を裏付けている。一方、残る53%の資産を、世界人口の99%で分けていることになる。

 億万長者が最も多い国は米国で、少なくとも800万人が存在し、他国を大きく引き離している。続いて中国が200万人、日本がその半分となっている。

 さらに日本を除くアジア太平洋地域は、今後5年間の世界的な富の成長の40%以上を占めると予測され、そのほとんどは中国とインドにおいてだと報告は述べている。

 また米国および欧州諸国の脱税取り締まりの取り組みにもかかわらず、世界の富裕層にとってオフショア金融センターは依然として重要で、タックスヘイブン(租税回避地)には約10兆ドル(約1070兆円)があり、この額は昨年約3%拡大した。


  「格差と貧困」の解消に向けて−「ベーシック・インカム」生み出す“AI資本”大国へ 土堤内 昭雄 社会研究部 主任研究員 ニッセイ基礎研究所 2016年06月07日


今月1日、厚生労働省が公表した「生活保護の被保護者調査(平成28年3月分概数)の結果」によると、被保護世帯数は1,635,393世帯と過去最多となった。世帯類型別では、高齢者世帯が826,656世帯と過半数を超え、そのうち単身世帯は747,957世帯に上っている。高齢者世帯以外は減少傾向にあるが、特に単身高齢者世帯が増加しており、一人暮らし高齢者の貧困状況が深刻であることがわかる。

その背景には、年金受給要件の不備による無年金者や老後の生活を維持できるだけの受給額がない低年金者の増加がある。高齢者の生活保護世帯をこれ以上増やさないためには、現在、国庫負担割合が2分の1になっている基礎年金部分を、すべての高齢者が保険料の納付状況に関わらず受給できる全額税方式の生活保障年金に改める必要があるのではないだろうか。

一方、若者を中心とした非正規雇用の増加などにより、国民年金保険料の未納率が高まっている。雇用形態に関わらない同一労働・同一賃金の実現が難航する中、非正規雇用者の年金保険料の支払いは厳しい。現在の非正規雇用の増加は、将来の無年金・低年金者の増大につながる極めて重大な問題だ。また、若者の経済基盤の不安定化は少子化の主な要因にもなっているのだ。

ひとつの選択肢として、すべての人に無条件で現金給付するベーシック・インカム*(BI:最低所得保障)の導入が考えられる。BIの導入は中間層をはじめ国民全体の経済基盤を強化し、リスクのある起業にチャレンジする人を増やし、イノベーションを引き起こす可能性を高める。若者の生活基盤の安定は、結婚・出産に踏み切る人を増やし、少子化対策にもなる。問題は財源をどう確保するかだ。

米国アラスカ州では、石油資源による公益ファンドの運用益から、年間一人当たり1000~2000ドルを全住民に給付している。天然資源に乏しく、消費税アップも難しい日本の場合、人工知能(AI)を活用できないものか。例えば、雇用、医療、年金等の保険料の負担なく人間の労働を代替するAIやロボットの所有者には、“AI資本”課税を行い、ベーシック・インカムの原資とするのはどうだろう。

先週の本欄で、AIの進展が知的労働を含めた多くの仕事を代替する時代には、中間層の個人消費を維持するためにBI導入の検討が必要だと書いたが、それは日本が少子高齢化を乗り越える上でも真剣に議論すべきだ。今後は資本所得の割合が一層大きくなり、格差と貧困が拡大すると思われる。世界一の高齢先進国・日本の針路としては、“AI資本”を活かして「ベーシック・インカム」を生み出す“AI資本”大国を目指すのもひとつの方向ではないだろうか。

* スイスでは6月5日に「ベーシック・インカム」導入の是非を巡る国民投票が行われ、反対多数で否決された(日経新聞6月6日朝刊)。

バングラデシュに雇用を創り、ビジネスシーンを彩る本革ブランド 限定カラーも取り揃え、熊本初出店! Infoseekニュース @Press / 2016年6月6日

「ソーシャルビジネスで世界を変える」株式会社ボーダレス・ジャパン(東京都新宿区、代表取締役社長:田口 一成 https://www.borderless-japan.com/ )の本革ビジネスアイテム専門ブランド「ビジネスレザーファクトリー http://business-leather.com/ 」は、2016年6月10日(金)、熊本・カリーノ下通 1階に5号店をオープンする。

2015年6月の福岡・天神地下街に1号店オープン以降、今年1月には大阪・なんばウォークに2号店、3月には川崎アゼリアで未来屋書店とのコラボレートショップを、4月には品川プリンスホテルに4号店をオープンした。そしてこの度、5号店となる熊本・カリーノ下通に出店する。

ビジネスレザーファクトリー大阪・なんば店の外観写真
https://www.atpress.ne.jp/releases/104491/img_104491_1.jpg


■ビジネスレザーファクトリーについて
ビジネスレザーファクトリーは、アジア最貧国・バングラデシュの貧困層に雇用を創ることを目的に展開している事業で、「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー2015 CSR賞」にも選ばれた。

楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー2015 CSR賞 受賞
https://www.atpress.ne.jp/releases/104491/img_104491_2.jpg

日本の革職人から学んだ高い縫製技術により実現した高品質と低価格、ビジネスシーンに特化したユニークなコンセプトが人気を博している。女性だけでなく多くの男性ビジネスマンが足を止める様子から、店舗出店のご依頼を多数いただいており、5号店を熊本に初出店することにした。

■取扱いカラー
<定番カラー 6色>
ブラック、ブラックネイビー、ブラックグリーン、キャメルブラウン、ロイヤルレッド、ピーコックブルー

<店舗限定カラー 5色>
ホワイトベージュ、マスタードイエロー、さくらピンク、トラッドネイビー、グレーベージュ

<バイカラー(2色使い)>

最低所得保障、否決 スイス国民投票、7割超反対 産経ニュース / 2016年6月6日

【ベルリン=宮下日出男】スイスで5日、すべての住民に対して無条件に毎月、一定額を支給する「最低所得保障」(ベーシック・インカム)の導入をめぐる国民投票が行われ、暫定の開票結果によると、反対が76・9%で賛成23・1%を大きく上回り、否決された。ただ、欧州では新たな社会福祉のあり方の一つとして議論が広がっており、一石を投じそうだ。

 最低所得保障の是非を国民全体に問うのは世界で初めて。市民団体が必要な署名を集めて投票が実現。投票で具体的な内容は問われていなかったが、団体側は大人に月2500スイスフラン(約27万円)、子供に625スイスフランを支給するとし、国内の外国人も対象に想定していた。

 推進派は最低所得保障の導入で国内の貧困や不平等の是正につながるとし、失業手当などの社会保障と入れ替えることで行政効率化も図れると主張。だが、反対派はコストが大きく膨らむ上、逆に人々の労働意欲をそぎ、生産性を低下させると反論していた。

 スイス政府やほとんどの政党は最低所得保障の導入に反対を表明。投票直前の世論調査でも約7割が反対していた。これに対し、推進派の市民団体側は「幅広い議論の開始こそが勝利だ」としている。

 最低所得保障をめぐっては、他の欧州諸国でも導入を検討する動きがあり、フィンランド政府やオランダの自治体が効果を検証するため、来年から一部で試験実施する方針も示している。

最低生活保障、月27万円…スイス国民投票否決 読売新聞 / 2016年6月6日

ジュネーブ=笹沢教一】年金や生活保護などの社会保障を廃止する代わりに一定額を全国民に無条件で給付する最低生活保障(ベーシック・インカム)制度導入の賛否を問う世界初の国民投票が5日、スイスで行われ、賛成23・1%、反対76・9%の大差で否決された。

 国民投票は、制度の推進を掲げる市民団体が発議した。団体は成人1人あたり2500スイス・フラン(約27万円)の給付を主張していた。働かなくても一定額の収入が得られるこの制度は、貧困問題を解決し、複雑な社会保障行政を簡素化できる新たな手段として、フィンランドなど欧州の一部で推進の動きが出ている。

 一方、「財源の見通しがつかない」とスイス議会などからは否定的な意見が出ており、平均月収が6000スイス・フラン(65万4000円)を超すスイスでは、2500スイス・フランの給付では「足りない」との指摘もあった。勤労意欲の低下などを危惧する声もあった。

バラマキ策は否決の見通し、スイスで初の国民投票 全住民に月27万円を支給は… 産経ニュース / 2016年6月5日

【ベルリン=宮下日出男】スイスで5日、すべての住民に対して無条件に毎月、一定額を支給する「最低所得保障」(ベーシック・インカム)の導入をめぐる国民投票が行われた。現地メディアは同日、出口調査の結果、反対多数で否決される見通しだと報道。だが、欧州では新たな社会福祉のあり方の一つとして議論もされており、一石を投じそうだ。

 最低所得保障の是非を国民全体に問うのは世界で初めてといい、市民団体が必要な署名を集めて投票が実現。投票で具体的な内容は問われていなかったが、団体側は大人に月2500スイスフラン(約27万円)、子供に625スイスフランを支給するとし、国内の外国人も対象に想定していた。

 推進派は最低所得保障の導入で国内の貧困や不平等の是正につながるとし、失業手当などの社会保障と入れ替えることで行政効率化も図れると主張。だが、反対派はコストが大きく膨らむ上、逆に人々の労働意欲をそぎ、生産性を低下させると反論していた。

 スイス政府やほとんどの政党は最低所得保障の導入に反対を表明。投票直前の世論調査でも約7割が反対していた。これに対し、推進派の市民団体側は「幅広い議論の開始こそが勝利だ」としている。

 最低所得保障をめぐっては他の欧州諸国でも議論されており、フィンランド政府やオランダの自治体が効果を検証するため、来年から一部に対して試験的に導入する方針も示している。

世紀のバラマキ策の是非めぐりスイスで国民投票 全住民に月27万円を支給、外国人も対象 産経ニュース  2016年6月5日

【ベルリン=宮下日出男】スイスで5日、全ての住民に対して無条件に毎月、一定額を支給する「最低所得保障」(ベーシック・インカム)の導入をめぐる国民投票が実施された。否決されるとの見方が強いが、最低所得保障の是非を国民全体に問うのは世界で初めてといい、欧州では新たな社会福祉のあり方の一つとして議論になっている。

 投票は市民団体が必要な署名を集めて実現。具体的な制度内容は可決された場合に法律で決めるが、団体側は大人に月2500スイスフラン(約27万円)、子供に625スイスフランを支給するとし、国内の外国人も対象に想定している。

 推進派は最低所得保障の導入で国内の貧困や不平等の是正につながると主張。失業手当などの社会保障と入れ替えることで行政効率化も図れるとする。だが、反対派はコストが大きく膨らむ上、逆に人々の労働意欲をそぎ、生産性を低下させると反論している。

 スイス政府やほとんどの政党は最低所得保障の導入に反対を表明。投票直前の世論調査では約7割が反対しており、国民投票で可決される公算は小さい。これに対し、推進派の市民団体側は「幅広い議論の開始こそが勝利」だとしている。

 最低所得保障をめぐっては他の欧州諸国でも議論されており、フィンランド政府やオランダの自治体が効果を検証するため、来年から一部に対して試験的に導入する方針も示している。

ペルー「恥の壁」が突き付ける重大問題、大統領選 5日決選投票 AFPBB News   2016年6月4日

【AFP=時事】ペルーの首都リマ(Lima)の南東に、丘陵の斜面に沿って造られた壁がある。地元では「恥の壁」と呼ばれている。

 上部に有刺鉄線が張り巡らされたこの壁は高級住宅地のラスカスアリーナス(Las Casuarinas)地区と、貧困層が暮らすパンプローナアルタ(Pamplona Alta)地区を隔てている。

 全長約10キロに及ぶこの壁は、大邸宅やプール、青々とした芝生があるラスカスアリーナス地区で犯罪が起こるのを防ごうと5年前に建設された。

 しかし壁の反対側で電気も水道もないほこりまみれの掘っ立て小屋に暮らす7500人にとっては、犯罪の引き金になる社会的格差を目の前に突き付けるものでしかない。

 首都で成功しようとペルー北部から引っ越してきたというパンプローナアルタの女性は、「壁が建てられた時は悲しかった。好きこのんでみじめな生活をしているわけではない。仕事が必要だからここにいるだけなのに」と嘆いた。「あの壁のせいで、お前は貧乏だって言われ続けている気がする」

 多くのペルー国民は今年4月10日、経済成長の鈍化に歯止めをかけてくれる新大統領の誕生を願って投票所に行った。しかし国内の何百万人は、そもそも経済成長を実感したことがない。

 住民らの話では、パンプローナアルタに選挙運動に来た候補者は一人もいなかったという。選挙ポスターが貼られたままの木製の掲示板を、自分たちの小屋の壁にした人もいた。

英非政府組織(NGO)のオックスファム(Oxfam)の研究者アルマンド・メンドーサ(Armando Mendoza)氏は「再び経済を成長させるには、不平等はどうしても解決しなければならない重大問題」なのだが、「そのことを政治家は理解していない」と指摘する。

 有権者2300万人の支持を得たい候補者らは、生活の向上を公約。現在収監されているアルベルト・フジモリ(Alberto Fujimori)元大統領の長女で、保守派のケイコ・フジモリ(Keiko Fujimori)氏(41)は、「成長のアクセルを踏み込んでいく」と宣言し、零細企業への減税を約束した。

 第1回投票の得票率で首位に立ったケイコ氏は、2位だった中道右派のペドロ・パブロ・クチンスキー(Pedro Pablo Kuczynski)氏(77)と6月5日に行われる決選投票で対決する。クチンスキー氏も、経済を活性化させて成長に弾みをつけることで、300万人分の雇用を創出すると公約している。

日本の貧困対策「周回遅れ」が伊勢志摩サミットで発覚 みわよしこ [フリーランス・ライター]              ダイアモンドオンライン 2016年6月3日

国連「持続可能な開発目標(SDGs)」採択から初の記念すべきサミットであった「G7伊勢志摩サミット」。そこで明らかになったのは、世界から取り残されかねない日本の姿だった。

「持続可能な開発目標」発効後初の
記念すべきサミットだったが…
 2016年5月26日・27日、三重県で開催されていた「G7伊勢志摩サミット」は、「G7伊勢志摩首脳宣言(骨子・原文・仮訳)」を公開して終了した。

 今回のG7伊勢志摩サミットは、昨年(2015年)9月、国連が「持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable development goals)」を採択してから初のサミットという、重要な節目であった。  

 SDGsが「目標(ゴール)」である以上、期限がある。目標を達成する期限は、約13年半後の2030年。すべての国々は、普遍的に適用されるSDGsにもとづき、

「すべての国々に普遍的に適用されるこれら新たな目標に基づき、各国は今後15年間、誰も置き去りにしないことを確保しながら、あらゆる形態の貧困に終止符を打ち、不平等と闘い、気候変動に対処するための取り組みを進めることになります」〈国連広報センター:持続可能な開発目標、2016年1月1日に発効(概観)、※太字は筆者による〉

 という方針に対して、具体的な取り組みを開始することになる。

 もちろん日本も、SDGsは大いに意識しているはずだ。伊勢志摩サミット公式サイトにも、

「・開発
G7伊勢志摩サミットは「持続可能な開発目標(SDGs)」を中核とする「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の採択後初めてとなるサミットです。今後のアジェンダの実施には、民間・市民社会を含むあらゆるステークホルダーが参加するグローバル・パートナーシップが不可欠です。」(G7伊勢志摩サミット主要議題)

 という記載がある。ただし私は、世界経済・政治・外交・気候変動・エネルギー……と独立した課題であるかのように「開発」という項目があり、そこでSDGsが軽く触れられている扱いに違和感を覚えなくはない。なぜならSDGsは、保健・格差・貧困など世界のありとあらゆる課題を包括的に「つまみ食い」せず解決するための目標だからだ。

 今回は17項目の目標のうち、本連載のテーマとも密接に関係する最初の3項目、

・あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を

・(前略)食料の安定確保と栄養状態の改善を達成する(後略)

・あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進

 に関して、「G7伊勢志摩首脳宣言(骨子・原文・仮訳)」を、「認定NPO法人 自立生活サポートセンター・もやい(以下「もやい」)」理事長・大西連さんにお話を伺った。

各国のファーストレディーの近くに
「ホームレスベッド」が
大西さんは、「G7伊勢志摩サミット」に先立って開催された「市民の伊勢志摩サミット」(2016年5月23日・24日)に参加し、「持続可能な開発目標(SDGs)」分科会でスピーカーを務めた後、引き続き、伊勢志摩サミット期間中、各国からの記者のために開設された国際メディアセンター・NGOワーキングスペースにおいて、展示・企画などを行った。それらに入場するには、外務省の発行した通行証が必要だ。つまり大西さんは、日本のNGO・NPOを代表して伊勢志摩サミットに参加した一人なのである。大規模国際イベントでは、多くの場合、NGO・NPOの参加を歓迎する。

「でも、国際メディアセンターとNGOワーキングスペースは、首脳たちが会談する場所から20kmくらい離れてたんです」(大西さん)

そこには、誰がいたのだろうか?

「各国関係者、三重県や地元自治体の方も見えていましたが、主に各国のメディアの方々です。メディアの方々だけで5000人くらいでした。首脳会談が行われている場所に入れるのは、本当に一部の人だけです」(大西さん)

もしや、「NGOやNPOにも参加の機会を与えました」という日本政府のポーズ?

「もちろん、不十分な点はありました。同じ敷地内にあっても国際メディアセンターとNGOワーキングスペースは建物が違っていたり、連絡が悪かったりなど。とはいえ、NGOの企画や記者会見に来てくれるメディアがいたり、記事として配信されたものもありました」(大西さん)

NGO・NPOの企画の一環として、「もやい」は「ホームレスベッド」一台を展示した。といっても、本物のベッドではなく、路上生活者たちが寝ている環境を「ベッド」風にしたアート作品だ。ちょうど、伊勢志摩サミット期間を含む2016年5月21日~29日、千葉県印西市の「メガマックス千葉NT店」で、4点の「ベッド」が展示された。「厳選されたセメントを使用したコンクリートは、高い硬度と反発力で体を力強く支えます」といった解説がされているベッドの数々にご関心がある方は、ぜひ「ホームレスベッドコレクション2016」サイトもご参照いただきたい。

「もやい」が伊勢志摩サミットに参加することは、早い時期から決定していた。「ホームレスベッド」の展示も?

「いえ、たまたま千葉での展示と同じ時期でベッドが完成していたこともあり、『誰一人として置き去りにしない』というSDGsのテーマに、ぴったりだと思ったので」(大西さん)

外務省、さらに会場を警備する警察の許可を取るため、調整に調整を重ねるという苦労はあったものの、ホームレスベッドは、無事、展示された。各国首脳の反応は?

「直接、来て見ていただくことはできませんでした。オバマさんに寝てみてほしかったんですけどね(笑)。ファーストレディーの方々は、NGOワーキングスペースの近くまで来てくださいました。安倍昭恵さんが、カナダ首相夫人・イタリア首相夫人と一緒に来て、すぐ近くでおこなわれていたオリンピック・パラリンピックの啓発イベントにも参加していました。残念ながらNGOのワーキングスペースには立ち寄ってもらえず。SPが周囲にたくさんいたので、近づいて説明することはできませんでした。一方で、各国のメディア関係者、省庁や関係者のみなさまには大変好評でした。ともすれば大きな話になりがちな国際会議の雰囲気の中で『現場感』を出せたのではないか、と」(大西さん)

その成果は、「G7伊勢志摩首脳宣言(骨子・原文・仮訳)」に盛り込まれただろうか?残念ながら、否である。

先進諸国の貧困問題を置き去りに
伊勢志摩首脳宣言の内容
「今回のG7伊勢志摩サミットでは、国際経済・景気・パナマ文書・シリア難民など、現在進行中の巨大な問題の数々が大きくクローズアップされました。もちろん、どれも重要な問題ですし、それらは『G7伊勢志摩首脳宣言』や附属文書に盛り込まれています。でも、『格差』が入っていないんです」(大西さん)

原文を確認してみると、男女間の「wage gap(賃金格差)」はあるのだが、「inequality(不平等・格差)」は全くない。「poverty(貧困)」は「なくさなくては」「減らさなくては」という文脈で出てくるが、32ページのうち、たった4ヵ所だ。「持続可能な開発目標(SDGs)」の「誰も置き去りにしない」「あらゆる形態の貧困に終止符を」「不平等と闘い」は、忘れられてしまっているかのようだ。

「難民の貧困や、アフリカの問題などは言及があるんです。でも、先進諸国の貧困問題としては、男女間の賃金格差しかないんです。『おいおい、自分たちの足元を取り残すなよ』と思ってしまいました」(大西さん)

貧困は解消したい。少なくとも、解消されたことにしたい。でも格差の解消、特に先進国である自国の中での格差の解消には、取り組みたくない。先進国首脳たちのそんな姿勢が、見たくないのに見えてくる。SDGsの目標10「国内および国家間の不平等を是正する」に照らして、私も「あらまあ」と言いたい。格差を解消せずに貧困だけを解消することはできない。パナマ文書問題は、「解消すべき格差が、具体的に見つかった」という問題でもある。そのパナマ文書が問題にされているのに、「格差」には触れられていないのだ。

もちろん、「G7伊勢志摩首脳宣言」には、保健・女性など、SDGsに含まれている項目も含まれてはいる。完全にSDGsが無視されているわけではない。保健の問題もジェンダーギャップも重要な問題だ。でも、どうも釈然としない。

「そもそも『すべての人々に』『誰も取り残さない』、そのために『包摂的に』『持続可能に』取り組むことが、SDGsの最も肝心なところなんです。でも、保健・女性といった、現在の日本政府が進める重点課題、つまり、『おいしい』ところだけ、つまみ食いされてしまっていますね」(大西さん)

世界から取り残されそうな
日本の動きは?
貧困問題・生活保護問題の取材を本格的に開始してから、ちょうど満5年になる私は、この5年間で、
「日本政府は、貧困問題なんて、ましてや声を出せない貧困の子どもなんて、どうでもいいんだ」
と確信するようになった。この5年間で、社会保障・社会福祉は全面的に後退している。「子どもの貧困対策」「障害者の雇用促進」「女性活躍」といった耳当たりのよい言葉が一つあれば、その数倍~数十倍、貧困・排除・差別を推進したり放置したりする政策の動きがある。この状況で、「日本政府は、貧困問題に取り組み、貧困と表裏一体の格差にも取り組む可能性がある」と信じるのは難しい。

「でも、今後の国際社会のありかたは、『持続可能な開発目標(SDGs)』でかなり変わるでしょう。2030年、目標を達成するために、各国、もう動き始めていますから。韓国は、とても積極的です。ドイツも、具体的な計画を立てていますし、コロンビアは進捗状況を示したりしています。『取り残されちゃうぞ、日本』と危機感を覚えています。日本のメディアにも、外務省にも政府にも、危機感を持ってほしいです。2030年、達成できてなくてはならないんですから」(大西さん)

もちろん、政府が「やる気ありません」と明言しているわけではない。2016年5月20日には「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」が設置され、各省庁による会合も持たれている。しかし議事録には和泉洋人総理補佐官の発言として、

「今後、国内実施と国際協力の両面で率先して取り組んでいくべく、我が国の内外の取組を省庁横断的に総括し、優先課題を特定した上で、「SDGs実施指針」の策定を進めていきたいと考えております」(※太字は筆者による)

とある。「優先課題を特定した上で」は「つまみ食いして」の婉曲表現なのであろうか?ちなみに、SDGsのポリシー「誰も置き去りにしないことを確保しながら、あらゆる形態の貧困に終止符を打ち、不平等と闘い」を実現するにあたって、最も重要な役割を担っているのは厚生労働省であるはずだ。会合には、厚生労働省からの出席者もいたのだが、発言はなかった。

「『G7伊勢志摩首脳宣言』には、先進国内、日本国内の貧困と社会保障に関して、あまりにも言及がありません。これは、政府の優先順位の低さであり、日本国民の関心の低さの現れでしょう。でも、このままでは、日本社会の持続可能性がありません」(大西さん)

高齢化と社会保障費増大は、日本社会の危機の象徴とされてきている。2016年6月1日、生活保護世帯のうち高齢者世帯が初めて50%を超えたことが報道された(日経新聞記事など)。

「社会保障の『ホームチェンジ』が必要なんだと思います。たとえば、生活保護世帯の約75%、うち高齢者世帯では90%が単身世帯なのに、未だに生活保護基準は『標準世帯(33歳男・29歳女・4歳児)』を前提に検討されています。このような、長年使われてきている前提、委員会・審議会で検討する現在の形式なども含めて、大きな議論が必要だと思います」(大西さん)

「周回遅れ」の日本に
生活保護の拡大と活用でチャンスを
セーフティネットと言えるものが生活保護しかない、という現状を変えていく必要もある。

「でも短期的には、雇用や保険から漏れる人の救済は必要です。他に何もないから、生活保護が必然的に増えるんです。『現在あるパイをどう分配するのか』という考え方からは、『削減ありき』となるのは仕方ありません。あとは『どう削るか』です。でも、そうではなくて、社会保障全体をどう考えるのか、生活保護をどう位置づけ、他の制度をどう補完するのか。そういう大きな議論が必要なのではないでしょうか」(大西さん)

生活保護に関する議論として、少なくとも「ネット世論」で、財源を理由とした削減論、削減論に対抗する人権論、または削減論と人権論の「落とし所」を探る論ではない何かが、広く語られたことはあっただろうか?私の記憶にはない。

「政府が『財源』を理由にして削減を主張するのは、よく分かります。市民社会は対抗上、その財源論に反対しているうちに、視野が狭まって『社会保障が厳しいので、限られた財源の中で考える』しかしなくなっている気がします。あまりにも、限定された環境の中での議論や提言やアプローチに慣らされてしまったのだと思います。

例えは不適切かもしれませんが、日常的に殴られていると、何日か殴られないと『ああよかった』とホッとして、『暴力は悪い』ということに気づけなくなりますよね。それと似ていると思います。社会保障の削減が進んでいることは、ある種の暴力が続いているということですから」(大西さん)

日本という国の全体が軋んでいる中で、さまざまな問題が起こっている。「持続可能な開発目標(SDGs)」は、日本が抱える数多くの問題と背景を、まるごと、包括的に解決するためにも使えるはずだ。

とりあえず、SDGsの「誰も置き去りにしないことを確保しながら、あらゆる形態の貧困に終止符を打ち、不平等と闘い」は、生活保護基準を「健康で文化的な」レベルに向上させ、維持し、それ以下の生活をしている人々を今すぐ一人残らず生活保護の対象にすること(現在は50~80%が対象になっていないと試算されている)で実現できる。しかし生活保護は、制度そのもの・生活保護基準ともども、さらに激しく揺るがされる可能性が浮上している。

次回は、2016年5月28日に再開された社保審・生活保護基準部会で提示された、これからの生活保護制度見直しについてレポートする予定だ。

「誰も置き去りにしない」どころか、「ほとんどが置き去りにされる」、さらには「日本が置き去りにされる」となりかねない動きに、引き続き、関心と注目をいただきたい。



中国の村が「手本」と仰ぐ、日本の「一村一品運動」の聖地を訪れた=中国メディア  サーチナ 2016年6月3日

1979年に大分県知事だった平松守彦氏によって提唱された「一村一品運動」。その影響は日本のみならず、世界の多くの国にも及んでいる。中国でも80年代にその精神が伝わり、各地で「一村一品」やこれに類した取り組みが進んだ。中国メディア・騰訊は5月31日、「一村一品運動」のお膝元である大分県日田市大山町の取材記事を掲載した。

 記事は、大山町が「一村一品」の元祖として日本や世界にその名を轟かせていると紹介。人口2900人、1人当たりの土地1200平方メートルで、丘陵地帯が多く耕地面積が少ない事から高度経済成長に置いていかれた貧困地域だったが、貧困脱出に向けて若者たちが意欲的に外地への視察を重ね、従来の稲作から脱却して収益性の高い作物へシフトする試みが行われたと説明した。

 そして、1961年より従来の農耕方式やそれに基づく生活環境を排除、「梅栗植えてハワイに行こう」をスローガンに、各家庭に対して梅や栗の栽培を奨励、作物自体に加えて梅干しなどの加工品を生産することで高い収益をあげて貧困を脱出、68年には村民20?30人がハワイを訪れ、当初の夢を実現したと伝えた。

 その後も栽培+加工+流通といういわゆる「6次産業」の取り組みを続けて収益を伸ばし、今では900戸の世帯の年間平均収入額が350万円と、全国の農民世帯平均収入を大きく上回っているとしている。

 記事は平松知事が1961年に「一村一品運動」を提唱し、これが大山町の考えとマッチした、と説明している。しかし実際は、大山町の取り組みが、後に提唱される「一村一品運動」のベースとなったのだ。このようにいささか認識のズレがあるものの、記事は大山町の経験が、なおも中国における「村おこし」の大きなヒントになるという姿勢から紹介していることが伺える。

 中国では近年、伝統薬(中薬)に用いられる生薬の原料となる作物を大規模栽培する動きが各地で見られる。その背景には生薬の価格上昇があり、栽培環境や品質の管理を強化することでより価値の高い作物を生産し、農民の収入増につなげることが狙いの1つだ。「ここの村ではこの生薬原料」といった、各地域で1つの作物に集中したブランド化も進められており、ここでも「一村一品運動」の影響が垣間見えるのである。(編集担当:今関忠馬)


  著者インタビュー 「貧困世代」藤田孝典氏 (ふじた・たかのり) 生活困窮者支援を行う「NPOほっとプラス」代表理事。聖学院大学客員准教授。反貧困ネットワーク埼玉代表。 日刊ゲンダイ 2016年06月02日

海外留学したいと真面目に目標を持つ学生ほど、風俗嬢を希望する

「私は大学で教員をやっているが、ここ数年1限、2限に来られない学生が増えている。理由は生活費を稼ぐために毎日、深夜労働しているからだ。奨学金を借りればと思うかもしれないが、学費は高騰しており、その支払いでキレイに消えてしまう。さらに親世代の賃金が減っている今は仕送りが期待できず、生活費を自分で稼がざるを得ないのが現状なのだ」

 本書は、ベストセラーになった「下流老人」の著者が、全国に約3600万人いる“貧困であることを一生涯宿命づけられ、追い詰められている若者”の実態に迫った社会論。

「団塊世代の貧困格差よりも、今の10代~30代の若者の方が悲惨だ。目標を持つ学生ほど過酷な労働に追い込まれていて、海外留学したい、資格などをとってスキルアップしたいと真面目に将来を考える女子大生の相当数が風俗店で働いているのだ」

 無事に卒業できたとしても、奨学金の返済地獄が待ち受ける。社会福祉士でもある著者が代表を務める生活困窮者支援を行うNPO法人ほっとプラスには、「奨学金を返還するのが困難だ」という相談が相次いでいる。奨学金の利用者は大学生の2人に1人。現在の奨学金は、戦後から続いた「給付型」ではなく「貸与型」で、学生の7割以上が有利子で借りている。

 卒業と同時に利子を含めた数十年ローンを抱え、新社会人になるのだ。

「非正規雇用社員はもちろん、運よく正社員になれたとしても賞与、福利厚生もないという雇用が増えている。都心なら1人暮らしの生活費だけでも15万~20万円かかり、そこに奨学金の返済という出費が重くのしかかる。若い世代は『草食系』だの、やれ『欲がない』などと言われるが、聞けば彼らは『本当はデートも旅行もしたい。車も買いたい』と言うのだ。そんな欲しいものを買うという、大人にとって当たり前のことが、彼らには簡単に手の届かない贅沢になってしまっているのだ」

 本書には、ケガで働けなくなったため所持金13円で野宿していた21歳の男性や、「早く18歳になりたい。風俗店で働けるから」という工場で働きながら夜間定時制高校に通学する17歳の女子高生など、著者の元に寄せられたリアルな相談実例も紹介されている。

 貧困家庭に生まれたことで背負う教育格差、奨学金の重み、雇用環境の劣化――。一過性の困難に直面しているだけでなく、日本社会の仕組みを変えない限り貧困から逃れられない世代であることがよく分かる。

「いまだ『努力論』『自己責任論』がいわれ、若者に対する社会一般的なまなざしが高度成長期のままで、まるで変わっていないと感じる。まずそこから問題提起したい」




  【食品ロスと貧困】 平野 啓一郎さん 西日本新聞 2016年05月30日


◆「人間の尊厳」とは何か 
 今年2月にフランスで成立した「食品廃棄禁止法」は、スーパーに賞味期限切れの食品を廃棄せず、支援団体を通じて生活困窮者に寄付することを義務づけた法律である。ITmediaの詳しい記事「フランスで『食品廃棄禁止法』が成立、日本でも導入すべき意外な理由」は、この法律を「必要ない」とする現地の声を紹介している。なぜなら、これが適用される大手スーパーは、そもそも5%しか食品を廃棄しておらず、しかも既に自主的にその寄付を行っているからだ、と。

 法律の運用に当たっては改善点もあろうが、私は基本的に賛成で、フランスの合理主義と慈善や寄付の文化の歴史的な厚みを改めて感じた。

 その後、日本でも、福岡県が同様の試みを貧困世帯の子どもに対して開始することが報じられたが、これに対しては賛否両論が見られた。

   −−−◆−−−

 反対論には、大体、三つがあるようである。

 一つは、「添加物」や「ぬくもりの欠如」を理由にしたコンビニ食品自体への批判だが、これは子供の貧困問題以前の話なので、ここでは深入りしない。

 もう一つは、企業の食品廃棄コストの軽減に、子供の貧困問題を直結させる「経済合理性」最優先の発想への批判である。しかし、フランスの事例では、ただ廃棄するよりも、店頭から下げたあとも品質を管理し、寄付のために分類しなければならない等、スーパーの負担はむしろ増すとされており、それを理由に反対する声も上がっている。

 私は、生産者の視点が欠落している点も気になる。農家は、自分たちの作った作物が調理され、まだ十分食べられるのに、小売の事情で廃棄処分されるという時、それが、貧困層の子供たちに提供されるならば、喜ばしいと感じるのではあるまいか?

 三つ目は、これを「人間の尊厳」を傷つける蛮行だとする批判である。なぜなら、それは「ゴミ」なのだからと。

 しかし、小売業者が商品としてある食品の価値を判断することと、食品自体の意味との間にはギャップがある。つまりそれは「ゴミ」ではないのである。農家が栽培し、人が調理した食物は、すべて無駄なく人の口に入るべきで、我々(われわれ)が料金を支払うのは、鮮度や選択肢に対してに過ぎないという考え方もあり得るのではないか?

   −−−◆−−−

 日本の子供の貧困が深刻化しつつある現在、社会はあらゆる手段を用いてこの問題に対処しなければならない。その時に、馬鹿(ばか)げた食品ロスを、とにかく今、腹を空(す)かせている子供に食べさせようという社会システム上の変更は、全面的に否定されるべきだろうか?

 制度の利用は一時的である。しかし、成長期に十分な食事を摂(と)ることができず、身体的、精神的に悪い影響を被れば、一生に関わる問題である。子供が傷つくのは、何を食べるかより、むしろ、自分でコンビニに廃棄予定の弁当をもらいに行ったりするコミュニケーションの次元ではあるまいか? そして危険なのは、誰も管理していない本当の「ゴミ」を食べる状態に追いつめられることである。

 私は、こういう制度に頼らざるを得ない子供たちに対し、大人が「君が食べているのはゴミなんだよ。」だとか「そんなものを食べるなんて、人間の尊厳に関わる。」などと説教を垂れている姿を想像するといたたまれない。

 貧困は、社会問題である。大人はこの社会の矛盾の責任を痛感し、改善に努めつつ、こういう制度の利用と、君という人間の尊厳とは何の関係もない、大事なのは、君のこれからの生き方なんだと説くべきではあるまいか。

 【略歴】1975年、愛知県蒲郡市生まれ。2歳から福岡県立東筑高卒業まで北九州市で暮らす。京都大在学中の99年にデビュー作「日蝕」で芥川賞。近刊は作品集「透明な迷宮」、長編小説「マチネの終わりに」。



  日本財団、子どもの貧困対策に50億円 貧困の連鎖を断つ解決策を検討 THE PAGE 2016年05月23日

日本財団とベネッセホールディングスは23日、子どもの貧困対策プロジェクトを推進させると発表した。貧困家庭の子どもたちが自立に必要な力を養える拠点として、家でもなく学校でもない“第三の居場所”を全国に計100か所設置する方針。親から子に貧困が伝わる「貧困の連鎖」は社会問題になっており、同財団は50億円を用意し、今年11月に埼玉県戸田市に第1号拠点を設ける予定。同市の神保国男市長は、「経済的に厳しい家庭の子どもたちが、夢を持って未来に邁進できるような場所にしたい」と話した。

 同財団によると、日本の子どもの貧困率(平均的な可処分所得の半分以下の世帯の18歳未満の子どもの割合)は2012年に16.3%となり、6人に1人の子どもが貧困状態にあるとされる。大人が子どもに生活習慣や価値観などを伝える「社会的相続」では、自制心を含めて自立に必要な力や価値観が伝承されなければならないところ、親が浪費する姿を見て育つとその浪費癖が子どもにも伝承されるなど、自立を妨げる「負の社会的相続」が生じている可能性がある。

 “第三の居場所”は、この社会的相続の補完機能を持たせるのが狙い。専門スタッフや大学生らによるボランティアを配置し、子どもが安心・信頼して話せるような関係を築けるよう努める。スタッフと遊ぶなどの関わりのなかで、あいさつや道具の整理整頓、時間を守るなど適切な生活習慣を養う働きかけをおこなう。学習支援では、個々の状況に応じた教科の自発的な学習を手伝うほか、読書や書籍の読み聞かせを通じて基礎学習力や意欲の向上を狙う。

 入所対象は、3、4歳から10歳程度の子どもを想定するが、求めがあれば中学生の受け入れも検討するなど臨機応変に対応する。利用料金は、各世帯の所得に応じて負担を求める方針。夕食も希望に応じて提供する。その際、子どもたちは夕食の用意や食事、片付けにも関わることで、生活習慣の習得につなげる方針。開所時間は平日で、小学校低学年が下校する午後2時ごろから午後9時ごろまでを予定している。

 日本財団の笹川陽平会長は「財団職員が子どもと面接した時、『将来何になりたいか』と聞くと、『うちは生活保護でお父さんも生きてきたから、僕も生活保護で生きていく』という答えがあったと聞き、非常に深刻な状況にあることをあらためて痛感した」と話していた。
(取材・文:具志堅浩二)


  アメリカの論理で説明できない日本の貧困…背景にあるのは不平等の拡大? 山川真智子 ニューースフィア 2016年05月19日


1980年代の初めまでは、他国から見た日本は平等主義で、貧困のほとんどない国と思われていたらしい。ところが、日本の貧困率は以後次第に上昇し、海外の識者を驚かせている。特に心配されるのが子供の貧困の増加だが、数字が示すのは単なる貧しさではなく「不平等」だと、海外メディアは指摘している。

◆今や日本人は貧しい国民?
 ストーニー・ブルック大学の経済学准教授、ノア・スミス氏は、日本の貧困率が上昇していることに注目する。同氏はブルームバーグ・ビューに寄稿し、ユニセフが発表した調査で、子供の貧困を測る主要な指標の少なくとも一つにおいて日本がアメリカを抜いてしまったとし、貧困レベルの上昇は、さまざまな日本の負の経済トレンドに当てはまり、多くの日本人が経済的に苦しんでいる真実を表すと述べる。

 貧困の理由は様々だが、アメリカの保守派の間では、咎められるべきは個人の行いだという考えが一般的だと同氏は言う。働かない、犯罪を犯す、未婚で子供を産む、ドラッグに手を出すなどの問題が減れば、貧困は減るという意見だ。一方リベラル派は、労組を弱め、企業福祉を止めてしまったフリーマーケット(自由市場)政策を責めているという。

◆これまでの理論で説明できない日本の貧しさ
 ところが、日本の場合は、このような説明が当てはまらないと同氏は言う。日本の失業率は低く、勤労意欲も高い。犯罪率も低く、一人親世帯もアメリカの25%に比べ全体の3%ほどと少ない。ドラッグ使用率も最近は増えたものの、アメリカに比べればずっと低く、米保守派の論理では説明がつかない。

 では、フリーマーケット政策が影響したのかと言えば、そうでもない。小泉政権以来、低賃金、非正規の雇用が増えたとはいえ、大きな政策変化はなく、特に政府の正規従業員保護への厳しい政策に代わりはないとスミス氏は指摘する。労組についても、法的に大きな変化はなく、労働争議もまれなことから、こちらも主因にはなり得ないとしている。

 結局、スミス氏は、日本人の経済的苦境の原因は、生産性の低さと、国際競争の影響ではないかと見ている。特に、日本は保護主義的であり、国内市場を保護してきたが、アジアのライバル、またアメリカの革新的な企業との国際競争には苦戦し、得意の電子機器や自動車などでも、利益は薄くなっていると説明する。結局これが労働者の懐に跳ね返っており、他国で見られるのと同様に、貧しい者はますます貧しくなり、金持ちの利息配当金による収益が増え続けていると述べている。

◆相対的貧困は不平等の指標

 スミス氏の日本が貧困に陥っているという意見に対し、ロンドンのアダム・スミス研究所のフェロー、ティム・ウォーストール氏は、スミス氏が見ている数字が表すものは相対的貧困であり、絶対的なレベルの貧困以下で暮らす日本人が増えているということではないと指摘。また、ユニセフが今回の調査で測っているのは「不平等」だと述べる(フォーブス誌)。

 これはエコノミスト誌も指摘している部分で、ユニセフも含め日本の子供の貧困率は相対的貧困率であり、手取りの世帯所得を世帯人数で調整し、中央値の50%以下を貧困と定義した上での数字だ。日本の子供の相対的貧困率は1985年には11%だったが、2012年には16%まで上昇し、OECD諸国の中でも上位に入るという。そしてユニセフは、日本における豊かな家庭と貧しい家庭の子供のギャップは、アメリカよりも顕著で、メキシコやブルガリアとそう変わらないレベルだとしている(エコノミスト誌)。

 日本の非正規雇用はすでに雇用全体の5分の2を占め、夫婦両方がそうである場合は特に経済的に厳しいこと、また、貧困にある子供の3分の1がシングルマザーに育てられていることも、エコノミスト誌は問題視している。日本の貧困家庭の子供達は、途上国のように飢餓にあるわけではないが、1日のうちまともな食事が給食しかない、電気、水道、ガスが止められたため公衆便所で体を洗う、お金がないため放課後友達と出かけたり、塾に行ったりすることができないと、その実態が説明されている。

 すでに政府はソーシャルワーカーの数を増やしたり、一人親家庭の児童扶養手当増額を決定したりしている。これについて、首都大学東京の阿部彩教授は、離婚したシングルマザー自身を責める声が多かった自民党がここまでしたのは驚きだ、と述べている(エコノミスト誌)。

 エコノミスト誌は、政府は高齢者よりも若者を助ける政策を打ち出しているというイメージを作り上げようとしているが、子供の窃盗、売春、劣悪な生活環境などが新聞の見出しを飾るなか、対応は容易ではないだろうと指摘している。

地球規模の課題 一人一人の力で貧困根絶へ 反保 真優 慶応義塾大学学生 あらたにす   2016年5月9日

昨夏、筆者はベトナムのホーチミン市を訪れた。中心街には海外の有名ブランド店や高層ビルが立ち並び、現代的な都市の雰囲気があった。しかし中心部を一歩外れると、木でできた簡素な家やプレハブ小屋がたくさん見えた。道を歩いていて出会ったのは、靴みがきで生計を立てる男性や、物乞いをする女性や子供たち。途上国の光と影、そして貧困というものを目の当たりにし、強烈な印象を受けました。日本の贅沢な生活を見つめ直すきっかけにもなった。

貧しい国は貧しく、豊かな国は豊かに。1950年代から先進国と発展途上国の経済格差の二極化が進行し、南北問題が浮き彫りとなった。このような現状を打開しようと国連は21世紀に入ると2015年に向けたミレニアム開発目標(MDGs)を設定し、開発途上国が抱える問題に対して、改善の努力を積み重ねてきた。その結果、一日1.25ドル未満で暮らす貧しい人や、安全な飲料水を得られない人の数は半減した。

しかし、その効果も中国やインドの経済発展に支えられていた部分が大きく、依然としてサハラ砂漠以南の地域の目標率は低いままであるという現状がある。また、数値では解決しているように見えても、実際には地域間、男女間、民族間での格差は拡大していることもわかった。さらに気候変動や自然災害などの問題も見過ごせない。やり残した目標を達成するため、昨年9月の国連サミットで、2030年に向けてあらゆる貧困をなくすための取り組み「持続可能な開発目標」(SDGs)が全会一致で採択された。すべての人が尊厳と平等、健康に生きることを目指し、17の目標と169のターゲットで構成されている。

今回注目すべきは開発途上国だけではなく、地球環境や都市、雇用、ジェンダーなど先進国にも関連する問題を含めた広範囲な目標を立てた点だ。例えば、ターゲット5?8では「完全かつ効率的な女性の参画及び平等なリーダーシップの機会を確保する」、ターゲット8?5では「若者や障がい者を含むすべての男性及び女性の完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一労働同一賃金を達成する」とある。これは日本にとっての喫緊の課題とも言える。

今朝の朝日新聞には貧困撲滅に向けた取り組みがたくさん掲載されている。日本は世界エイズ・結核・マラリア対策基金への支援など、グローバルヘルス分野での貢献度が高いようだ。今後はワクチンの研究・開発や、パンデミック(世界的大流行)の脅威に対する取り組みでも重要な役割を果たすことが期待される。また、携帯電話やビッグデータを用いた感染症予防など、最新の科学技術を活用した支援も広がっている。

2030年、世界の人口は85億人に達すると予測されている。環境問題や伝染病など、移り変わる国際社会の様々な困難に立ち向かっていくのは、容易ではない。開発援助に取り組む主体を国際機関や各国の政府だけでなく、企業や地域社会、さらには市民へと広げていく必要がある。

私たちが貧困解決に向けて身近にできることもある。発展途上国で作られた製品を買ったり、フェアトレードのコーヒーを一杯飲んだりすることも貧しい人たちへの力になるのだ。また地球の気候変動は途上国に非常に大きなダメージを与えている。環境に配慮した小さな積み重ねも大切だ。一人一人が途上国の現状を知り、日本の課題を学んで、行動していくことが求められている。

御立尚資の帰ってきた「経営レンズ箱」 広く伝えたいアフリカに対する日本の貢献 8月27~28日にTICAD(アフリカ開発会議)が開催 御立 尚資(みたち・たかし) ボストン コンサルティング グループ シニア・パートナー&マネージング・ディレクター 日経ビジネスオンライン   2016年6月6日

今年8月27日から28日の2日間、ケニアのナイロビでTICAD Ⅵ(第6回アフリカ開発会議)が開催される。

 伊勢志摩サミット、そしてそれに続くオバマ大統領の広島訪問という大きな外交イベントの陰に隠れる形であまり注目を浴びていないが、今後10~20年を考えると、G7、G20だけでなく、アフリカ諸国と日本の関係強化につながるTICADに、もっと光が当たってもいいはずだと考えている。

 人類全体にとって重要な貧困や飢餓撲滅、あるいは感染症対策――。こういった課題の解決のためにアフリカの開発が重要であることは論をまたない。

 さらに、今世紀中にも世界全体の人口がピークを打つと考えられる中、数少ない人口増加が見込まれ、所得レベルの向上とあいまって、「次の成長市場」としてのアフリカの重要度は極めて高い。以前のコラムでも紹介したが、2040年にはアフリカの労働人口はインドや中国を上回ると想定されているのだ。総人口も、その頃には20億人を超えると推定されている。

 さて、6回目を迎えるTICAD(Tokyo International Conference on African Development)。この会議は、名称にTokyoと冠している通り、日本政府主導で、1993年以来、5年に一度日本で開催されてきた。共催者として、アフリカ連合委員会、国連、UNDP(国連開発計画)、世界銀行が名を連ねている。

 日本が、国際機関や民間セクターを巻き込み、「アフリカの経済開発」を促進するための会議を20年以上にわたって実施してきたわけだ。

 前回のTICAD Ⅴには、39名の国家元首クラスがアフリカ51カ国から参加、開発パートナーとなる域外諸国31カ国、国際機関72機関、さらにはNGO/NPOも多数参加した。

 植民地時代の旧宗主国ではない日本が主導するということにも大きな価値があるのだが、これだけ続けてくると単に集まって話し合うというだけでなく、さまざまなポジティブな結果が具体的に出てきている。

 アフリカの成長を考える上では、それを担う人材の育成がカギとなる。

500人の若者がTICADプログラムで日本に留学
 たとえば、資源開発の専門的知識を教育するプログラムが設けられ、2016年1月までに2000人以上が参加し、研修を修了している。また、2014年、15年だけでも500人弱のアフリカの若者が、TICADから発生したプログラムで、日本に留学してきている。現地での学校教育環境を改善するプログラムに至っては、2014年末の数字だが、実に770万人の子供たちへの支援が行われてきた。

 これ以外にも、安全な水へのアクセスを担保するための給水整備支援など、単純なODAやインフラ建設だけでなく、実にさまざまな意味のある開発支援が日本主導でおこなわれてきている。

 さて、こういった価値を生んできたTICADなのだが、正直なところ、日本国内では十二分に知られていない。もっと言うと、アフリカの現地、さらには開発やビジネス上のパートナーとなる欧米諸国でも、アフリカにおける日本の貢献は、ごく一部にしか伝わっていないのが実状だと感じている。

 メディア等でも、よく中国や韓国のアフリカ進出との比較がなされるが、こと開発支援とそのポジティブな結果だけに絞っても、日本の貢献が知られていないのはもったいないこと、この上ない。今後一層、ビジネス上も外交上も重要度を増す地域で、日本の国としてのブランド価値を高めていくための、広報・マーケティングへの徹底的な注力が必要なのではないだろうか。

 この広報・マーケティング下手は、アフリカについての日本国内での知識と理解が不足していることもその一因である。アフリカの変化は速く、さらにアフリカ54カ国の中での違いも大変大きいため、具体的なイメージが伝わりにくいのだ。

 旧宗主国だった欧州各国では、メディアでアフリカ諸国が取り上げられる頻度が(日本と比較すると)非常に高い。この点でも、新興経済については、アジア中心の情報流通となりがちな日本では、もう一段深いレベルでのアフリカ各国についての知識獲得と普及を、意思をもっておこなうことが不可欠だ。

経済の成長スピードが速いサブサハラ各国
 少しだけ、実例を挙げておこう。

 まず、変化の速さ。低開発イメージが強いサブサハラ各国。具体的にはサハラ砂漠以南の49カ国を指すのだが、2000年代には、実に年率5.8%の経済成長を遂げている。十数年で、経済規模が倍になるスピードだ。その後、世界的な資源価格下落の影響下でも、2015~17年に年3~4%の成長が予想されている。

 アフリカ各国間の違いも、イメージのずれが生じる原因となる。

 IMFの2014年ベースの統計によれば、購買力平価ベースでの一人当たりGDPアフリカ上位3カ国は、

赤道ギニア 3万2千ドル
セイシェル 2万6千ドル
ガボン   2万3千ドル

と、中進国以上、先進国に極めて近いレベルに達している。

 ところが、下位3カ国を見ると、

中央アフリカ 607ドル
コンゴ    704ドル
マラウィ   780ドル

とアフリカ内上位国の30分の1以下であり、地域内でも極端な違いがあることが明白だ。

 さらに、各国ごとの違いと変化の速さとが掛け算になることも多い。たとえば、1990年代半ばに民族紛争、その後の大虐殺が大きく報道されたルワンダ。21世紀に入り、民主選挙が行われ、政情や治安はまったく違ったレベルで安定している。女性の社会進出も大きく進み、閣僚の26%、国会議員の57.5%が女性だ。世界銀行のビジネスのしやすさのランキング(Doing business)でもルクセンブルグについで62位。中国の84位やベトナムの90位よりもはるかに上に位置づけられている。

 今回のTICAD Ⅵは、実は初めて日本ではなくアフリカ、ケニアで開催される。これに合わせ、日本のさまざまな企業が参画するアフリカ域内の国を超えた地域インフラ整備のイニシアティブも打ち出される模様だ。

 日本で行われたサミットとは違い、放っておくと、メディアでもあまり取り上げられずに終わってしまうかもしれないが、ぜひぜひ、我々も注視し、さまざまな広報・マーケティングを世界各地で行ってほしいと思う。これを通じて、アフリカの変化、そして各国さまざまな実状について、少しでも日本国内での理解が進むことを期待したい。

 さらに、ぜひとも日本のこれまでの貢献も含め、広く日本ブランドを高める機会になれば良いなと考えている。もちろん、読者のみなさまの中にも、非常に詳しい方はいらっしゃるだろうが、より広い方々がアフリカと日本について、知見を高めてくださることを期待してやまない。

「子供の貧困率」世界ランキングで日本が低順位の理由 小河光治 (おがわ・こうじ) 公益財団法人「子どもの貧困対策センター・あすのば」代表理事 週刊SPA!   2016年6月6日

国境なき記者団が4月に発表した「報道の自由度ランキング」で日本は11位もランクダウンし、まさかの72位となった。あまりの順位低下ぶりにさまざまな議論が巻き起こったのは記憶に新しい。しかし、これ以外の世界ランキングでも日本は負け続けていた! 日本が抱える“課題”を映し出すランキングと低順位になった真の理由を探った!

◆日本の社会保障システムはひとり親家庭を想定せず!?

 先進国のなかでも子供の貧困率が高いとされる日本。実際の状況はどうか。「子どもの貧困対策センター・あすのば」で代表理事を務める小河光治氏は、まず「子供の貧困=親の貧困という点に着目しなければならない」と前置きし、次のように指摘する。

「日本における子供の貧困問題は、間違いなく悪化の一途を辿っていると言えます。大きな要因としては2つ。ひとつは非正規雇用が拡大していること。次いで、ひとり親家庭の貧困状況が改善されにくい環境があるということです」

 ここ数年、拡大傾向にある日本の非正規雇用は、家庭を支える親の収入を不安定にさせる要因になっており、それが子供の貧困に直結してきているという。

「日本のひとり親家庭の貧困率は54.6%となり、OECDにデータがある34か国中ではワースト1位です。国の制度などが“一般的な両親の揃った家庭”を念頭に作られており、ひとり親家庭の親がワーキングプアから抜け出せない状況に拍車をかけています」(小河氏)

【2016年 子供の貧困率ランキング】

順位/国名/指数

41位 ルーマニア/67.08(ワースト1位)

40位 ブルガリア/67.01

39位 メキシコ/65

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35位 イタリア/60.64

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34位 日本/60.21

 :

30位 アメリカ/58.85

 :

15位 韓国/45.74

 :

2位 アイスランド/37.76

1位 ノルウェー/37

※出典:ユニセフ報告書『子どもたちのための公平性』

 時代が変われば人々が持つ結婚・離婚への価値観も変化する。当然、家庭の在り方も変化するのだが、社会のシステムのほうは旧態依然としており、現実に追いついていない。結果、そのしわ寄せが子供に行くのだ。

 なお、各世界ランキングで“子供の貧困”を定義する際、基本的に“相対的貧困率”が指標として使われている。これは「各国の世帯所得の中央値をとって、それ以下の世帯、もしくはその世帯に属する子供を統計として反映している」(国家指標に詳しい学会関係者)とのこと。そのため日本の場合、飢えて死ぬような絶対的な貧困度が高いというより、格差の状況が日ごとに深刻になりつつあると表現したほうが正しいのかもしれない。もちろん、日本に絶対的な貧困がないというわけではない。

「日本で子供の貧困率が発表されたのは’09年からで、実態把握が完全とは言い難い。本当に貧困状況にある子供は、外部との連携を絶たれた孤独な状況にあり、数字にすら反映されていない可能性がある。対策を立てる側としては声なき声を聞く努力が必要」(同)

 日本の子供の貧困の実態を把握するためには、まず可視化させることが急務だ。

日本と韓国が「中等所得の罠」を回避できた理由は?―中国メディア Record China 2016年6月1日

各国の経済が中所得から高所得へと発展するためには、道も違えば、かかる時間も異なる。しかし、その過程における経済的法則は往々にして似通っている。日本や韓国の経験を見ると、「中等所得の罠」を回避する主なシンボルは、膨大で安定した中間層を生み出し、「ラグビーボール型」の社会を形成することだ。

▼日本:「国民所得倍増計画」で「一億総中流」実現

1960年12月、当時の池田勇人首相は、内閣会議で「国民所得倍増計画」を打ち出し、実施が決定した。しかし、当時その計画を支持する人はほとんどいなかった。当時、日本の生産水準は、戦争前の状態に回復していたものの、ほとんどの経済学者が日本経済が急速に発展し続けるのは不可能との見方を示していた。そのため、最も楽観的な予測でも、年間経済成長率は6.5%とされていた。

それに対し、池田首相が打ち出した新計画は、年間平均11%の経済成長率に設定し、国民の所得を倍増させるという目標を掲げていた。あまりにポジティブで、大胆な計画と感じ、支持する人がほとんどいなかったというのもうなずける。

同計画を立案した経済学者・下村治氏は、減税や利下げなどをレバレッジに、技術革新により生まれた需要を逃さなければ、国民の取得を倍増させるのは夢ではないと主張した。そして、翌61年からこの計画の実施が始まった。農業の分野において、農地改革を通して農産物の価格や農業生産効率を向上させ、農民の所得を増やした。工業の分野においては、減税や利下げなどの対策を講じ、貿易を自由化し、中小企業の役割を重視した。そして、大小企業の役割分担と連携の仕組みを構築し、所得の差を縮めた。政策のサポートの下、日本の企業は投資を拡大させ、技術革新を加速させた。その他、日本政府は、全国総合開発計画を3度実施し、都市部と農村部のバランスの取れた発展実現を目指した。

大きな経済発展の波に乗り、日本は結局、わずか6年でGDP(国内総生産)を倍増させ、国民の収入を倍増させるという目標も67年に達成した。

内需の消費が刺激され、社会の財産が合理的に分配され、国民所得倍増計画は成功した。そして、中間層が明らかに増加し、「一億総中流」の社会ができ、飛躍的に発展する日本の黄金時代が開始。1980年代中期に中等所得の罠回避成功につながった。

福建社会科学院アジア太平洋経済研究所の研究員・全毅氏は、「日本が中間層をうまく生み出した経験を見ると、その『奇跡』の背後には、経済の高度成長が十分の雇用を創出したことがある。うち、製造業の賃金が向上し、特に労働生産率の向上や企業の收入分配制度が、労働者の賃金を向上させた」と分析する。

▼韓国:「セマウル運動」で都市と農村の格差縮まる

1970年代より以前、韓国の都市部と農村部には大きな格差があった。全国の農家250万世帯のうち、約80%が草の屋根の家に住み、ランプを使っていた。そして、農村の半分は道路が整備されておらず、農民の所得は年間平均130ドル余りにとどまっていた。しかし、1970年代末に、韓国は農村地域の道路を整備し、電気や水も使えるようになり、その年間平均所得は700ドルと、都市部とほぼ同レベルにまで向上した。このような大きな進歩が実現できたのは、当時のパク・チョンヒ大統領が1970年から「セマウル運動」を実施したからだ。

当時、韓国は工業化と都市化を推進する面で進展を見せていたものの、農業の発展は進んでいなかった。「セマウル運動」は、農村を振興させ、農民の生活理念を向上させることで、農村の近代化を進めることを目標に掲げていた。当初、韓国政府は資金を投じ、セメントや鉄筋を無償で提供して、農民が農村振興に参加し、生活水準を改善させるよう促した。その後、韓国政府は「モデル村」を選出し、全国の農民が一生懸命働いて裕福になるよう鼓舞した。最終的に、農村の環境が改善し、農民の暮らしが良くなり、農民が進んで主導するようになった。

10年で、韓国の農民の所得は、都市部の人々の所得と比べて接近、もしくは逆転し、その格差は縮まった。しかし、「セマウル運動」の意義は、平均所得という数字に限られていない。長期的に見ると、この運動により、農業と非農業、各地域などの格差を縮め、全体の生活水準向上につながり、国民経済の均等な発展が実現した。農民の所得が増えると、短期間に多くの農民が都市に進出し、都市部で問題が起きるのを避けることができ、農村の都市化も加速する。韓国の都市化率は1990年代に70%以上に達し、農村の人口比率は1960-70年代の80%から10%以下にまで減少した。中流階級と都市人口が韓国社会の主体となっている。

専門家は、「韓国は中間層を拡大するために、包括的発展の道を進んだ。『セマウル運動』のほか、韓国政府は、税收改革、社会保障の整備などを実施し、低所得層や弱者を特に守ることで、貧困層を減らした。そして、さらに多くの人が経済発展から益を得られるようにすると同時に、中間層が低所得層に逆戻りすることがないよう守ってきた」と分析している。(提供/人民網日本語版・編集/KN)

子どもの貧困問題で全国協議会設立「本当に困っている家庭に届けるには?」など模索 泉谷由梨子 The Huffington Post 2016年06月01日

子どもの貧困問題を解決しようと、学習支援を続けている全国の民間団体による協議会「全国子どもの貧困・教育支援団体協議会」が5月30日に設立された。親の経済状態が子供の世代に続く「貧困の連鎖」を食い止める活動が広がっているが、同日開催された設立記念フォーラムでのリレートークでは実際に事業を行っている団体が抱える「学生ボランティアの確保」や「本当の困難家庭の子供に情報を届けるには」といった課題が浮き彫りとなった。これらの課題も今後の協議会での活動を通じて解決が模索される。

協議会は、団体間の情報交換や共同での政策提言・調査・イベント開催などを通じて「日本に生きるすべての子どもが夢や希望を持つことができる社会を実現すること」を目的にしている。学習支援をしているNPO法人キッズドアや、さいたまユースサポートネットなど7団体の代表が世話人、22団体が会員となった。

リレートークで話し手として登壇したのは以下の4人。それぞれの事業を紹介した後に、現在感じている課題についても話し合った。

・学校外教育バウチャーで教育支援をする公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンの今井悠介さん

・東日本大震災の被災地などで教育支援をするNPO法人アスイクの大橋雄介さん

・虐待などで保護された子たちへの教育支援をするNPO法人3Keysの森山誉恵さん

・都内や大阪などで学習支援を行うLearning for Allの李炯植さん

共通の課題として浮かび上がったのは、主に、本当に支援が必要な家庭に情報が届きづらいことと、学生ボランティアやパート職員を集めるのが難しいという点だ。

前者について、今井さんは「貧困でも親子共に学習意欲のある家庭はたくさんある」一方で「意欲が十分ではない家庭の方がより困難な状況にある」「普通の告知だけでなく周囲の人のアドバイスや後押しが必要で、ソーシャルワーカーのようなサポートや福祉部門とのネットワークが大事」と話した。李さんも「福祉部局との連携で連合体としてやるという意識が必要」と話した。

また、学習支援団体の多くでは実際の学習サポートなどを大学生らのボランティアが担っているが、継続してボランティアに参加してもらうことに苦心しているという。森山さんは「ボランティアの大学生には、奨学金を受けている学生も多く『人のことを思う余裕がない』というのも無理もない。実際に活動できるのは『幼稚園から私立に通ってました』という子が多い」。ボランティアだけでなく職員についても、大橋さんは「パート職員募集の広告を毎週求人誌に載せていても集めるのが難しい」と話した。これに対し、来場者で同じく支援活動をしている男性からは「ボランティアの学生が主体的に活動できる場づくりも大事なのでは」との提案が寄せられた。

6人に1人の子供が貧困
子どもの貧困率(2012年)16.3%

世帯収入と子供の学力
貧困家庭の子どもへの学習支援は2015年施行の生活困窮者自立支援法に盛り込まれた。これにより、生活保護世帯などの子どもたちを対象に、全国で300の自治体(33%)が国から補助金を受け、NPOに事業委託するなどして学習を支援している。

内閣府の「親と子の生活意識に関する調査」(2011年度)によると、貧困家庭の子どもは、学校での成績は下の方に偏る傾向があり、授業の理解度が低く、学校外での学習時間も短いことが明らかになっている。貧困家庭では習い事に通う率が比較的低く、学校での学習を補完しづらいことが影響している可能性が指摘されている。

「給付型」奨学金が日本の貧困層には不可欠だ 成績だけで決めるべきでない本質的理由 東洋経済オンライン 2016年6月2日

2016年に入ってから、奨学金をめぐる問題に関心が集まっている。これまで貸与型の奨学金しか存在しなかったことが特に問題視され、ついに政府も重い腰を上げた。返済不要の給付型奨学金について、「『ニッポン1億総活躍プラン』の中で『創設に向けて検討』することが明記され、閣議決定される予定になっている」(文部科学省)という。

このテーマについて問題を提起し、世論をリードしてきたのは、奨学金問題対策全国会議だ。奨学金の返済に苦しむ人は、構造的に生み出されている「被害者」であると主張して、論陣を張ってきた。

一方、NPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹氏は、現場に身を置く立場から、これまでとは少し視点を変えて、この問題について世論を形成していくことを目指しているという。貧困に陥っている人には、なぜ給付型の奨学金が必要なのか。インタビューの前編である今回は、合理的な経済人を前提とするのではなく、現実の人間がどのように選択・行動し、その結果どうなるかを究明する行動経済学の観点から話を聞いた。

■議論を「コップの中の嵐」にしないために
――これまでされてきた主張と、具体的にどの点が違うのか。
「給付型奨学金を導入するべき」という主張の内容はおおむね同じです。しかし、これまで奨学金問題を取り上げていた人たちは、「今の奨学金制度はとても悪いから、給付型にせよ」というロジックのように見える。

こうした主張も善意からされているものだし、当然、リスペクト(尊敬)する気持ちはある。しかし、今の与党はどちらかというと右派なので、左派系からの言説だけだと届きづらい面も出てきてしまい、議論が「コップの中の嵐」になりがちだ。経済界の方々も賛成しうるような、行動経済学の見地からのロジック立てが必要だと考えた。

――進学を決める時点で貧困であっても、高等教育を受けて将来的にリターンを取ることができるなら、貸与でいいのではないかという声も根強い。

そういった考え方はよく聞くが、それは「持てる者」の論理だ。どのような状況に置かれた人でも、「大学に行ったら、これくらいの所得が望めるから、借りても大丈夫だ」と合理的に計算できるという前提で語られている。

しかし、貧困にある人が経済合理的に考えることは、簡単ではない。奨学金という名の何百万円もの借金を背負う選択を取ることは、普通しないのだ。貧困者ほど、行動経済学的にいうと、「トンネリング」を起こしている。

――「トンネリング」とは?
トンネルの中を走っていると、外のことはまったく見えず、出口に見える光しかわからない状況だ。短中期的なことに精いっぱいになって、長期的に合理的な行動ができなくなる、視野狭窄状態のことを「トンネリング」という。こうした知見の蓄積があるのが、国家が発展するプロセスを分析して低所得国の発展戦略を明らかにする、開発経済学の分野だ。

■命を守るはずの保険が、貧困層には売れない
インドでの事例を挙げてみます。日照りが起きると畑が壊滅してしまい、作物が取れなくなることで、結果として人々は死に至る。この問題を解決するために、先進国からNGOが現地に進出し、天候によるリスクに備えた保険を提供することにした。しかし、これが貧困層には人気がなく、全然、売れなかったのだ。

普通に考えれば、この保険に加入しておけば、いざという時に死ななくて済むわけだ。小額の掛け金を払うことにためらうことはないはずだ。そこで、彼らは「貧困状態にある人は、そもそも経済合理的な行動を取ることができないのではないか」と気づいたのだ。

――日本の高等教育への進学の場面でも、同じことが起きていると。
30年くらいの長期的な視点に立ってみれば、大学に進学して就職活動したほうが正社員になる確率も上がるから投資しても大丈夫なはず。しかし、借金をしてでもいいから教育に投資するべき、とは考えられない現実がある。

しかも、かつては大学を出れば正社員になる道はある程度確保されていたが、今は4割が非正規雇用。大学を出ても、必ずしも正社員になれる時代ではない。投資が合理的に返ってくるか不透明になっていて、リスクが高くなっているので、なおさら投資を行うことが難しくなっている。

――「トンネリング」を解決するための事前の情報提供に予算を使うことでは、解決できないのか。
事前の情報提供は、そこそこ効果があるため、もちろん取りうる手段です。しかし、もっとあからさまにやることがよいという実験結果もある。

これはアフリカの事例ですが、文字を読めたほうが確実に所得が上がるということで、現地の子供たちのために無料で学校を作った。中長期的には小学校に行けば先々のリターンが大きいことは明白だ。当然、人々は子供をここに通わせるだろうと考えられた。しかし、今日の食べるものにも困る状況では、親は子供に、「学校に行くより、目の前の畑作業をやってくれ」となってしまい、思ったほどに進学率は伸びなかった。

そこでどうしたかというと、授業だけでなく、給食も無料で提供することにした。「学校に行けば、子供が食事にありつけることができる」という意識が出て初めて、進学率の大幅な向上に成功したのだ。

■「経済合理的な思考」を促すサポートが必要
――貧困に陥っている人に対しては、想定以上にわかりやすいインセンティブを提示しなければならない。

「トンネリング」を起こしている人たちには、一歩踏み込んで、中長期的な合理性に導くというパターナリズムが必要なのだ。しかし、合理的な考え方をする先進国では、こうした考え方をなかなか取りづらい。「どうしてお前のためにいろいろ提供しているのに、さらに別のお駄賃をあげないといけないんだ」といった発想になってしまう。

――奨学金についても、「貸与さえあれば十分だ」という主張をする人もこうした発想が前提になっているように感じる。

そこを乗り越えていくことが、われわれの課題だ。日本の福祉には、行動経済学の視点が全然生かされていない。ルールを決める人は貧困ではないことが普通で、「できる人」の目線でしか考えられない。

「トンネリング」のことをそもそも知らないことが多いし、貧困者とか低所得者層がどういう状況に置かれているかの知見も、あまりない。

「貧困層は経済合理的に行動することを期待できない」という話を啓発して、「そうなんだ。じゃあ、システムを変えなきゃ」となって、実際に変わるまでには、タイムラインとしてかなり時間がかかってしまうのが現実だ。

――財源は限られているが、給付にするとしたらどういった基準でラインを引くべきか。
制度設計については、悩ましい面もある。基本的には学びたい気はあるけど、親の所得によってあきらめざるをえない人に対して、給付型奨学金を希望にしてほしい、という考え方を取りたい。

成績を基準にすることも考えられるが、それではすくい取れない側面が出てきてしまうと思う。貧困層にいる時点で、さまざまなビハインドがある。人生で早い段階でビハインドを負っていると、それが雪だるま式に増えていくもの。貧困だけど成績的に優秀ということは、統計的に少なくならざるをえない。

だからといって、「誰でもOK」とすると問題が生じることは否定できない。そうすると、答えはバランスをとって中間くらいに設定することになる。ある程度の成績は見つつ、貧困層をすくい取っていくことが基本になるだろう。

■ 使途自由の給付型は弊害も大きい。

■ ――事前に渡し切る形の給付にすると、モラルハザードが起きる可能性も指摘されている。

■ 使途自由の形で奨学金を渡すと、問題が起きる可能性があることは理解している。現在の貸与型奨学金でも、現金をその子の口座に支給すると、学生が遊びに使ってしまうということもある。また、低所得者層であればあるほど、家庭崩壊している可能性も高まる。振り込まれた奨学金を、親にパチンコで使われてしまうというリスクもあるのだ。使途を学費に限定して、日本学生支援機構から大学に直接振り込むという選択肢もある。

■ ――「トンネリング」に陥らない程度の所得層は、給付型奨学金はいらない?

■ 日本がどういう国になりたいか、という視点から逆算していくと、当然、教育そのものにおカネがかからないほうがいいに決まっている。万民に対して普遍的に、教育におカネがかからないという形になることがよいとは思っている。ただ、現時点では財源にも限界がある。ある程度の所得者層に対して、給付型奨学金にする優先順位はとても低いだろう。

子ども貧困対策 8日、東京で設立総会 全国131首長連合 佐賀新聞 2016年6月2日

子どもの貧困について全国の自治体が施策や課題などを共有する「子どもの未来を応援する首長連合」が8日、発足する。小松政武雄市長が呼び掛けた。情報交換して施策に役立て、政策提言にもつなげる。

 1日現在で全国131市町村が参加の意向を示している。8日に東京で設立総会を開く。小松市長や大阪府の倉田哲郎箕面市長、長崎県の園田裕史大村市長ら5市長が発起人となっている。

 組織構成や活動内容などは秋ごろをめどに詰めるが、(1)既に実施している施策や調査などの取り組みの報告と把握(2)自治体規模や都市構造などの実態に応じた勉強会の開催(3)現場の経験、実情をもとにした政策提言?などを考えている。

 小松市長は「財政的支援に人的支援を含めて子どもが学び続けることができる環境が必要。知見や課題を共有して長期的に取り組める組織にしていきたい」と話す。

これが日本の貧困層の生活だ!=中国ネット「日本の貧困層は素養があるんだな」「ホームレスですら民度が高すぎ」 Record China 2016年6月2日

2016年5月31日、中国のポータルサイト・今日頭条が、日本の貧困層の生活について伝える記事を掲載した。

記事では、日本は高度に経済発展した国ではあるものの、20年にわたる経済停滞で貧困層は2倍に増加したと紹介。

世帯年収が200万円以下の貧困層の生活の例として、仕事を二つ掛け持ちして子どもを育てるシングルマザーの生活を伝えた。さらにもっと悲惨な例として、ホームレスの生活実態を写真で紹介。日本は環境が良く道路がきれいで人々が豊かとのイメージがあるが、暗い一面もあるのだと伝えた。

これに対して中国のネットユーザーからさまざまなコメントが寄せられた。

「日本の貧困層は素養があるんだな」
「ホームレスですらあんなにレベルが高いなんて何も言えない」

「ホームレスですらあんなに清潔で整っているのか。民度が高すぎだろ」
「このような状況に置かれてもできる限り清潔で整理整頓しており、人に迷惑をかけないようにしている」

「俺たちは日本のことを何も笑えないと思うが」
「日本に行って驚くのは、ホームレスがいることではなく、ホームレスがとても清潔できちんとしており、本を読むことだ!」

「中国の貧困層の生活を紹介しろよ」
「なんで中国に目を向けないんだ?大病をすればすぐにでも極度の貧困層になるというのに」

「年収200万円で貧困なんて言ったら、中国では95%が貧困層になるな」
「ホームレスは一種の生活状態だ。でも中国のホームレスは一種の職業」(翻訳・編集/山中)

三菱東京UFJ銀、インドNGOに寄付 日本経済新聞  2016年5月31日

 ■三菱東京UFJ銀行 インドで企業の社会的責任(CSR)活動の一環として、同国の非政府組織(NGO)アクシャヤ・パトラ財団に1億500万ルピー(約1億7000万円)を寄付する。同NGOは学校に無償給食を提供している。
 アクシャヤ・パトラ財団が提供する給食は150万人の子どもたちが利用している。三菱東京UFJ銀の寄付を受け、印中部ハイデラバード近郊に2017年4月をめどに給食施設などを新設する。
 モディ政権は貧困撲滅に向けた取り組みとして教育水準の向上を挙げており、学校給食の充実は退学率の引き下げにつながるとして期待が高い。三菱東京UFJ銀はこの政府方針に応える。インドで活動する企業は収益の一部をCSR活動に充てることが義務付けられている。(ムンバイ=堀田隆文)

21世紀はホームレスの世紀」現代社会に警鐘をならす圧倒的ルポ『釜ヶ崎から: 貧困と野宿の日本』 日刊サイゾー / 2016年5月27日

2000年代に入ってから、中学生や高校生などの若者たちによるホームレス殺人事件が頻発した。そのほとんどが、行き当たりばったりな理由だったことに恐怖を感じた人もいるだろう。そんな物騒な事件を久しく聞かなくなったが、一方で“ネットカフェ難民”や“マック難民”など、野宿者の若年化が社会問題となっている。

『釜ヶ崎から: 貧困と野宿の日本』(筑摩書房)は、その野宿者に迫った約360ページにわたるルポである。著者の生田武志は、野宿者が多くいる大阪・釜ヶ崎で実際に生活していたという人物。昼間は住民と同じようにキツい日雇い労働に従事し、夜はボランティアとして野宿者支援を30年間続けてきた。

 生田が、初めて釜ヶ崎を訪れたのは学生のとき。当時のテレビ番組で、冬を迎える釜ヶ崎を見た。そこには、失業したため路上で暮らす人々が映っており、大阪市内だけで毎年数百人が路上死していると報じられていたという。「自分が今まで生活してきたのとはまったく違う世界が、行こうと思えば1、2時間のところにあるというのは大きな衝撃を受けた」と語っている。

 現地では、他の住民たちと同じように狭いドヤ(簡易的な宿泊施設)に宿泊し、朝4時になると“寄せ場”と呼ばれる仕事が集まる場所へいった。そこでは、「1000円・8~5時・枚方市・土木」と仕事の概要が書かれたワゴン車が何台も並び、手配師と呼ばれる仲介業者によって現場に送り込まれる日々を繰り返した。

 生田は、野宿者問題は社会と密接に関係していると語る。長期休みの大学生やフリーターが好んで日雇い労働を利用するようになってから、釜ヶ崎でも仕事が減った。若くて安い労働力にシフトしていき、比較的年配者が多い釜ヶ崎は相手にされなくなった。仕事が月に10日あるかないかが当たり前となり、ドヤ代すら支払えなくなった日雇い労働者が路上にあふれていったという。

 最近になって、釜ヶ崎は姿を変えた。ドヤはマンションになり、日雇いの街は福祉の街になった。これはマンションだと「住居」とみなされ、生活保護が支給されるからで、ドヤの経営者たちは、生活保護受給者を住まわせることで収入を得ている。
 
 ほか、野宿者を狙った貧困ビジネスや野宿者襲撃に関する構造など、知られざる貧困と社会の関係が克明に描かれる。

「21世紀はホームレスの世紀」。豊かさの裏側には、現代社会の歪な姿が見え隠れする。



【伊勢志摩サミット】G7は、子どもたちを取り残したままで良いのでしょうか?~首脳宣言に対する、ワールド・ビジョンの見解~ PR TIMES / 2016年5月27日

本日(5月27日)「G7伊勢志摩首脳宣言」が公表された。ワールド・ビジョンは、G7リーダーが多岐に渡る議題について真摯に議論を重ねたことについて評価する。また、G7の機会にあわせて日本政府が公表した「G7伊勢志摩サミットに向けた我が国の主な貢献策」において、SDGs(Sustainable Development Goals::持続可能な開発目標)推進本部を立ち上げ、その貢献策として、中東地域の安定化や国際保健に対し具体的な資金的コミットメントを表明したことを評価する。

[画像: http://prtimes.jp/i/5096/92/resize/d5096-92-365727-1.jpg ]

しかしながら、G7伊勢志摩サミット全体としては、G7リーダーは、SDGsの示す新たな目標に貢献するための、具体的な資金表明や取り組み案を示すことができなかった。「誰も取り残さない」ことを掲げたSDGsの採択後に初めて開催されたG7伊勢志摩サミットには、世界中が期待を寄せていたが、世界の超大国リーダーたちは、その期待にこたえることができなかった。しかし世界の子どもたち、特に最も厳しい環境におかれた子どもたちは、具体的な行動を求めている。子どもたちは、これ以上待つことはできない。

昨年のエルマウサミットで、G7は、2030年までに5億人を飢餓から救うという野心的な宣言を行った。この宣言のもと、伊勢志摩サミットでは「Vision for Action(食料安全保障と栄養に関するG7行動ビジョン)」が提示されたが、これを推進し目標を達成するための具体的な資金コミットメントを示すことができなかった。毎年、300万人にものぼる5歳以下の子どもたちが、栄養不良のために命を落としている。

いまだ800万人以上の子どもたちが、シリア紛争のために避難生活を余儀なくされている。日本政府は、シリアおよび周辺国における人道的ニーズに対して新たなコミットメントを示した一方、他のG7諸国はこれに呼応することはなかった。

危険かつ不衛生な環境で労働を強いられている8,500万人もの子どもたちがいる。毎年、莫大なインフラ投資を行うG7諸国は、それに携わる企業に対し、児童労働根絶を求める力があるにも関わらず、伊勢志摩宣言は、子どもたちを児童労働から守るための新たな具体的行動を示すことができなかった。

毎年、1億5,000万人が、健康を害し医療費の負担が増えることにより、貧困状況に陥っている。ワールド・ビジョンは、G7が交わしたユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に対する明確なコミットメントを評価する。UHCは、最も脆弱な人々を資金上の困難から守り、母親や子どもたち等の健康を守り、SDGsの精神を守る、統合的な保健制度の構築を目指すものだ。私たちは、G7諸国に対し、これらを実現するために、2017年中に具体的なコミットメントを示すことを求める。

「持続可能な開発目標」(SDGs)の国際政治?「貧困削減」から「貧困撲滅」への転換が意味するもの 六辻彰二 | 国際政治学者 Yahoo!ニュース 2015年10月3日


9月25日~27日、国連で開催された「持続可能な開発サミット」では、貧困や格差の是正に向けて、国連加盟国は「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を満場一致で採択した。そこには、2030年までに世界全体で取り組む目標と達成すべきターゲットを示した「持続可能な開発目標」(SDGs)が含まれる。

この20年間、中国、インド、ブラジルなどの新興国をはじめ、多くの開発途上国で経済が成長してきた一方で、所得格差はむしろ増加し、好景気がもたらすインフレが低所得層の生活悪化に拍車をかけている。そして、それはテロ、難民、環境破壊といった問題の要因ともなっている。このグローバルな貧困に対応するために、各国の共通目標として設定されたのが、SDGsだ。その発表にあたって、パンギムン事務総長は「誰一人置き去りにしない」ことを強調した。

SDGsには、既に国内でも多くの議論があるが、その多くはSDGsの有効性等に関するものだ。しかし、開発協力もまた、イデオロギー対立や国際政治と無縁ではない。以下では、SDGs採択をめぐる、大枠の国際関係の変化をみていく。

SDGsとは
SDGsには17の目標(ゴール)と、そのもとに合計169のターゲットが示されている。例えば、ゴール1は「貧困をなくす」で、それを実現するために「2030年までに1日1.25ドル未満で生活する極端な貧困層をなくす」(1-1)などのターゲットが設けられている。SDGsのカバーする領域は、極度の貧困や飢餓(ゴール2)、保健衛生(ゴール3)、教育(ゴール4)といった、いわば古典的な開発協力の分野だけでなく、ジェンダー平等(ゴール5)、水資源(ゴール6)、インフラ整備(ゴール9)、公正な司法(ゴール16)など多岐に渡る。

幅広い対象領域を設定することに関して、「野心的だが理想的に過ぎる」という評価もあり得る。あれもこれもと手を広げ、全部の実現を目指すという意味では、SDGsは理想的かもしれない。

その一方で、多くの開発途上国では女性の教育機会や就労機会に制約があり、そのために女性の方が貧困層の多数派を占める。さらに、不当解雇などの問題が発生しても、多くの貧困層は費用の問題や文字を読めないために書類を作成できないなどの理由で、司法に訴えることが困難だ。そのうえ、多くの開発途上国の裁判所では汚職が横行しており、賄賂の多寡が判決を左右することは日常茶飯事で、貧困層が不利な扱いを受けることも珍しくない。現代の貧困には様々な問題が絡みついており、これらを無視して取り組んでも効果が薄いとするならば、貧困対策にはターゲットの幅を広げることが必要だ。この観点からみれば、SDGsは「野心的でありながらも現実を踏まえている」と評することも可能だ。

しかし、いずれにせよ、SDGsにはもう一つ、全く別の意味で、必ずしも「理想的」と言えない側面がある。それは、SDGsに先立って、2001年から2015年までの目標として設定されていた、そしてつい先頃その期間が終了した、「ミレニアム開発目標」(MDGs)との対比から見て取れることだ。

SDGsへのプレリュード?MDGs
2000年の国連ミレニアムサミットで採択されたMDGsは、各国が共有するグローバル・レベルでの開発目標を、初めて打ち出したものだ。ここでは「極度の貧困と飢餓の撲滅」(ゴール1)、「普遍的な初等教育の普及」(ゴール2)、「ジェンダー平等の推進と女性の地位向上」(ゴール3)、「乳幼児死亡率の削減」(ゴール4)など8つのゴールと、「2015年までに1日1ドル未満で生活する人口の割合を1990年の水準の半数に減少させる」(1-A)、「2015年までにすべての子どもが男女の区別なく初等教育の全課程を修了できるようにする」(2-A)など21のターゲットが設定されている。

その基本構造はSDGsと同様ですが、両者を比べれば、ターゲットの項目数だけでなく、そのトーンの違いは明らかだ。MDGsでは、SDGsと同様に極度の貧困、飢餓、ジェンダー、教育、保健衛生、環境、グッド・ガバナンスなどが重視されていたが、その一方で、SDGsに含まれる、「包括的で持続可能な経済成長とすべての人々のための雇用と適切な仕事」(ゴール8)や「弾力的なインフラ整備」(ゴール9)といった経済・産業にかかわる事柄や、「国家間の格差の縮小」(ゴール10)や「責任ある消費と生産」など先進国の人々のライフスタイルにかかわる事柄には、ほとんど触れられていなかった。

MDGsは、いわば1990年代に生まれた開発協力のトレンドが凝縮されたもので、その考え方は「貧困削減」(poverty reduction)と呼ばれた。この考え方には、大きく3つの特徴がある。

第一に、貧困層や貧困国への重点的な支援を強調したことだ。開発協力において、「貧困」に焦点を絞ることは当たり前のようにみえるかもしれない。しかし、冷戦時代、援助は総じて、「東西陣営が自らの友好国を確保するための外交的手段」という特徴を色濃く備えたものだった。さらに、1990年代までは、開発の内容はほぼ「経済成長」に特化していた。経済が成長すれば、それによってタイムラグはあるものの、やがてその恩恵が多くの人に行き渡るという考え方は、「トリックル・ダウン(滴下)」と呼ばれる。しかし、経済が成長しても、その恩恵が一握りの人々によって独占されることは、珍しくない。これに鑑みれば、一番条件の悪い人々や国に焦点を当てる「貧困削減」の登場は、開発協力に倫理性や規範性をもたせる意味があったといえる。

第二に、開発協力、特に貧困国向けのものに関しては、返済義務をともなう「貸し付け」ではなく、それがない「無償資金協力」がスタンダードになったことだ。1970年代後半から1990年代前半にかけて、現在のギリシャと同様に債務危機に陥ったラテンアメリカ、アフリカの各国では、IMFや世界銀行により規制緩和などを軸とする経済改革を条件に融資が行われた。

ただし、いわゆる新自由主義に基づいた規制緩和?経済成長?財政健全化?債務返済というシナリオは、現地の社会・経済構造を全く無視したものであったために、見事に不発に終わった。その結果、多くの開発途上国はさらなる債務を抱え込んだだけで、その返済が事実上不可能な水準になった国も珍しくなかった。西側先進国やIMF/世銀への債務返済のために、貧困層向けの社会サービスまで削られているという広範な批判が噴出した結果、これらは1990年代の半ばから貧困国の債務棒引きに着手したが、それにともない無償資金協力が貧困国向けの開発協力の中心となったのだ。

第三に、開発協力の内容として、医療や教育といった基礎的社会サービスが強調されたことだ。「経済成長」優先だった冷戦期は、ダム、道路、港湾などのインフラ整備などが開発協力の中心だった。この原型は、第二次世界大戦後、日本や西欧諸国の復興を米国が支援したマーシャル・プランにあった。産業基盤を整備することは、先述の経済成長最優先の開発協力では、当たり前のことだった。しかし、貧困層の生活改善を最優先にする貧困削減では、膨大な予算がかかりがちなインフラ整備(だからこそ無償資金協力ではなく、その多くが融資で行われる)ではなく、貧困層が直接アクセスできる基礎的社会サービスが重視されるようになったのだ。このトレンドは2000年のMDGsに先立って、1996年に先進国の集まりである開発援助委員会(DAC)で既に確認されたものだ。

基礎的社会サービス重視の思想
基礎的社会サービスそれ自体は、所得向上に必ずしも繋がらない。これが重視されたことは、貧困削減では「低所得」そのものだけが問題にされたわけでなく、さらに「所得向上」が開発の唯一の目標と捉えられていたわけでないことを象徴する。つまり、貧困削減の路線を推し進めた主体の一つであるUNDPの標語、‘Development is freedom’が示すように、「貧困削減」では「個々人が自由になること」が開発の究極目標とされていたといえる。

「貧困削減」路線の定着に大きな影響を及ぼしたのは、アジア人初のノーベル経済学賞受賞者で、インド出身のアマルティア・センの理論と思想だった。それまでの開発経済学では、「成長」に関する理論はあっても、「貧困」に関する理論は稀だった。センはアジアやアフリカの実地調査を重ね、「貧困とは何か」を突き詰めていくなかで、貧困を「潜在能力」(capability)と「権原」(entitlement)の概念から説明した。

権原とは、「ある個人が支配することのできる一連の選択的な財の集まり」、つまり「ある人が消費を選択することができる財の集まり」だ。ひらたく言えば、手元にある、自分のために使えるもの一切が権原といえる。一方、潜在能力とは、「ある人が経済的、社会的、および個人の資質の下で達成することができる、さまざまな『であること』と『すること』を代表する、一連の選択的な機能の集まり」と定義される。これまたかなり圧縮していえば、個々人が「何をなすか」といえる。

よく用いられる例でいえば、一般的に妊娠している女性は、安全な出産という潜在能力を実現するために、栄養や医療などにおいて、それ以外の人々より多くの権原を必要とする。従来の「所得の向上」を開発の目標とする発想では、権原の拡大が目指されていたといえる。しかし、先の例で言えば、妊婦にとって重要度が高いのは「安全に出産すること」であり、栄養、医療、あるいはそれらのための資金などは、そのための手段に他ならない。この観点からすると、潜在能力と権原を比較した場合、優先されるべきは前者となる。つまり、貧困とは基礎的な潜在能力がはく奪されている状態であり、開発とは潜在能力を充分に発展させることといえる。

個人が自らの夢や可能性に向かって自らの将来を切り開けるための手段として財があるのであって、逆ではない。これは、「なぜ低所得はいけないか」という、それまで物質的な充足そのものを目的化する立場からほぼ不問に付されていた問いに対して、「それは個々人が自らの生きる道を選び取れるチャンスの幅を狭めるから」という規範的な解答を与えたといえる。

だとすると、経済成長や所得向上は、「個人の可能性の幅を広げる」ための条件ではあるが、それ自体が目標ではなくなる。むしろ、「開発」で重視されるべきは、個々人が自らの潜在能力を発揮しやすい環境を作り出すこととなる。この観点から、1990年代半ば以降の開発協力では、個人の可能性を広げる前提として、教育や医療が重視されるようになったのだ。

開発途上国の不満?「選択肢なき選択」
センの貧困理論と思想は、貧困削減の大きな方向性を形作った。MDGsはその一つの完成型とも呼べるもので、そこでは経済成長や所得向上の向上という、物質的な充足を重視した、いわば規範的に価値中立的な目標ではなく、「個人が自らの一生を選択できる社会の構築」という、すぐれて倫理的な目標設定が顕著だった。

ただし、貧困削減やMDGsには、多くの開発途上国、特にその政府から、必ずしも肯定的に受け取られない要素があった。それはひとえに、この路線が先進国によって定められた、開発途上国からみて「選択肢なき選択」だったことへの不満と、それによって自らの権能が損なわれることへの危機感によった。

冷戦終結後の1990年代、ソ連が消滅していたこともあり、西側先進国の開発途上国に対する影響力は、かつてなく強まっていった。西側先進国は冷戦時代、東側に開発途上国が接近することを恐れ、援助はこれらを自らの陣営に繋ぎ止めるための手段だった。そのため、相手国の内政に口を出すことはほとんどなかったのだが、冷戦終結で状況は一変。西側先進国は開発協力の前提として民主化、人権保護、市場経済化などを要求し始めた。これらが「相手のため」であったとしても、相手国の内政に対する関与であることは否定できない。

このように、冷戦終結後に高まったその圧倒的な影響力のもとに、西側先進国は貧困削減を主導した。その一つの完成形であるMDGsは、ドナー(援助する側)だけでなく、レシピエント(援助される側)も同意した目標だが、当時の開発途上国にとっては、受け入れる以外の選択は、事実上なかったといえる。

西側先進国による開発への関与
いわば「お仕着せ」であっても、開発途上国のニーズに合致していれば、問題ないようにみえる。しかし、そもそもいま「開発途上国」と呼ばれる国のほとんどはかつて、いまの「先進国」の植民地にされ、独立後も長く経済的に支配された歴史がある。そのため、多くの先進国の人々が想像するより、開発途上国では自らも関わる問題が先進国のペースで決められることに根深い反感がある。

そのうえ、多くの開発途上国の政府にとっては、貧困削減やMDGsで強調されなかった経済成長、雇用の確保、インフラ整備などもまた、重要な課題です。例えば、テロが蔓延する中東・北アフリカでは、2000年に83パーセントだった初等教育への就学率が2013年には93パーセントに、同じ時期の平均余命が69歳から72歳に、それぞれ上昇したが、その一方で失業率は2000年から2013年にかけて13パーセントから11パーセントに減ったものの、人口増加の影響から、若年失業率(15~24歳)のそれは28パーセントから30パーセントに上昇した【World Bank, World Development Indicators Database】。教育を受け、健康状態がよい人が増えながらも、仕事が足りず、ひいては格差が解消されにくい状況は、若年層の社会的不満の一因となっているのだ。

しかし、先進国の開発協力が大きな影響力をもつ以上、開発途上国政府が自らのニーズを力説することは、事実上不可能だ。「貧困削減」路線の定着とともに発達した「セクター・プログラム」は、これに拍車をかけた。

セクター・プログラムとは、一つの援助スタイルです。冷戦時代は、特定の現場での学校、ダム、病院などの建設といった開発協力が中心だった。これはプロジェクト援助と呼ばれます。しかし、プロジェクト援助はドナーごとにバラバラで行われるため、重複など非効率なものになりやすいものだ。しかも、プロジェクト援助はレシピエント政府の汚職の温床となりがちだが、戦略的な援助が中心だった冷戦期、ドナーはこれを見て見ぬふりをすることが一般的だった(例えば、東南アジアで「反共の砦」と位置付けられたフィリピンのマルコス政権が、国民の政治参加を抑圧しながら、西側からの援助を私物化していた事例などが有名)。

こういったプロジェクト援助の欠点を克服するため、1990年代に普及したセクター・プログラムは、プロジェクトより高位の政策やプログラムのレベルで、ドナーがレシピエントの開発に関与する手法だ。一般的には、ドナーとレシピエントの協議に基づき、医療や教育といったセクターごとの予算配分の決定や政策立案が行われる。その際、同じ国に援助するドナーが集まり、予算を出し合ってプールし、その資金配分をレシピエント政府とともに協議することが珍しくない。

この手法は、プロジェクト援助と比較してより効率的な予算配分が可能だが、一方でレシピエント政府の決定にドナーがより深くかかわることにもなる。さらに、そのなかで、ドナーが集まってグループを作り、足並みを揃えながら、集団で一つのレシピエントに対応することも珍しくない。例えば、海底油田の発見とともに世界中から投資とともに援助が集まるモザンビークの場合、14の先進国と15の国際機関が「援助協調」を行っている。この状況が、モザンビーク政府にとって、自らの意思に沿った開発が制限されると映ることは、想像に難くない。西側ドナーの結束が強まるなか、レシピエント政府が例えインフラ整備や経済成長を優先させたかったとしても、先進国のトレンドである貧困削減を呑まざるを得ない状況になったことは不思議ではない。

先述のように、民主主義や人権保護などが正しいことであったとしても、それが外部から、しかも援助を盾に求められれば、レシピエント政府からみればそれは「外圧」となる。同じことは、「貧困削減」に関してもいえる。「個々人の可能性の幅を広げられることが正しい社会のあり方」だとしても、それはレシピエント政府にとって、自らで方針を決めることへの制約という側面があったことは確かだ。それに加えて、セクター・プログラムの普及は実際の「外圧」の舞台となった。これらに鑑みれば、レシピエント政府が先進国主導の「貧困削減」やMDGsに不満をもったことは、不思議ではない。

南北間の力関係の変化
ただし、注意すべきは、以上に述べたことはあくまで「レシピエント政府」の観点であって、政府の意向と多くの人々の希望が必ずしも一致しないことは、先進国と開発途上国、民主的国家と非民主的国家を問わず、珍しくない。「貧困削減」は、いわば一般の人々を直接的なターゲットにするものだった。したがって、教育や医療の普及が少なからず貧困層の利益になったことは確かだ。

しかし、先述のように、為政者の観点からみれば、インフラ整備も欠かせない。それは国家としての長期的な発展という意味からだけでなく、自らの支持基盤に対する支持確保の手段という意味でもある。つまり、多くの開発途上国政府がセクター・プログラムに否定的な背景には、プログラム援助の減少が為政者にとって「臨時収入」のチャンスが減ることもあるのだ。さらに、貧困層への直接的な支援の為に、国際NGOなどが先進国の支援を受けて活動することは、レシピエント政府にとって「資金の争奪」が激化したことをも意味した。つまり、レシピエント政府が経済成長やインフラ整備を優先させたいことは、必ずしもその国の一般の人々のニーズと合致しているとは限らない。

いずれにせよ、少なくない開発途上国政府が「貧困削減」やMDGsを積極的に支持するわけでないにせよ、西側先進国の他に有力なドナーがなく、自らの経済力にも不安があった間は、これを否定することもできなかった。しかし、2000年代に入り、多くの開発途上国が「新興国」として著しい経済成長を実現するなかで、その状況に変化が生まれた。2008年の世界金融危機に、G7だけではもはや対応できず、主要先進国に加えて新興国を含むG20の存在感が高まったことに象徴されるように、南北間の力関係は、先進国が圧倒的に優位に立っていた1990年代から変化しつつある。さらに、中ロとの対立が明確になるにつれ、冷戦時代と同様、西側先進国政府は開発途上国政府との友好関係を維持する必要性にも迫られている。このような環境の変化は、開発途上国政府が先進国政府に対して声をあげやすい条件をもたらしたといえる。

先述のように、MDGsと比較して、今回採択されたSDGsはより幅広い領域を網羅しているが、なかでもMDGsでほとんど触れられていなかったインフラ整備と経済成長が強調されている点は、目を引く。これまで述べてきたように、これらは開発途上国政府から要望がありながらも、西側ドナーは開発協力において大きな関心をもたなかった領域だ。SDGsの策定には、先進国政府や国際NGOなど幅広い主体が関与しており、なにも開発途上国政府の意思だけが反映されたものではない。ただし、開発途上国政府がMDGsで制約されていたこれらの要素をSDGsに盛り込むように強調しやすい国際環境が生まれていたこともまた確かだ。

基礎的社会サービスを重視するMDGsや貧困削減は、「個々人が可能性の幅を広げやすくする」ことを重視した、規範的、倫理的なものだった。しかし、SDGsの文章のなかで、規範的、倫理的な色彩の濃い「貧困削減」の用語がほとんど使われず、「貧困撲滅」に置き換えられている。そこでは、規範性がゼロになったわけではないものの、経済成長というより実利的な要素の比重が増したことは確かだ。すなわち、西側先進国と開発途上国の、それぞれの方針を盛り込んだことが、よく言えば包括的な、悪く言えば総花的なSDGsの設定につながったといえる。そして、この変化は、開発途上国の先進国に対する発言力が高まってきた、一つの時代の画期を象徴するといえるだろう。

観光開発で貧困撲滅 韓国が主導する国際機関の準備着々 聯合ニュース 2016年3月28日

【ソウル聯合ニュース】韓国の文化体育観光部と外交部が、ソウル市内のホテルで28日に「国際ステップ機関」の設立協定文案を採択する記念行事を開催すると明らかにした。同機関は韓国が主導し、観光開発によって貧困の撲滅を目指す。

 行事では国際ステップ機関への加入を表明しているエチオピアやインドネシア、ケニア、コロンビアなど40カ国の政府代表が設立協定文案採択のための合意議事録に署名する予定。

 同機関は2004年に国連世界観光機関(UNWTO)が設立したステップ財団として発足。「ステップ(ST―EP)」とは観光開発を通じた貧困撲滅(Sustainable Tourism―Eliminating Poverty)を意味する。

 文化体育観光部は05年11月、UNWTO総会で加盟国の全会一致でステップ財団本部をソウルに誘致し、財団は13年8月の同総会で国際機関に転換された。

 国際ステップ機関は開発途上国の貧困撲滅のため観光産業開発プログラム(技術支援、人的資源開発など)に関する研究や国際協力、官民パートナーシップ構築などの役割を担う。

 文化体育観光部の金鍾徳(キム・ジョンドク)長官は「観光を通じた世界の貧困撲滅について今回の設立協定採択に参加した国に対し積極的な支持と支援を求めていく予定だ」と伝えた。

ノーベル平和賞受賞者語る「子どもの権利」のためにできること WEB女性自身 / 2016年5月27日

(写真/認定NPO法人「ACE」)
「来日したとき、空港の出口で日本のテレビが ノーベル平和賞受賞者だから、きっと何人も人を引き連れてくるだろう と思って待っていたそうです。ところが私は、自分でスーツケースを持って、カバンを背負っている。みんなビックリしていましたね」
 
いたずらっぽい笑みを浮かべ、ユーモアたっぷりに話すのは、 14年にノーベル平和賞を受賞した、インド人活動家のカイラシュ・サティヤルティさん(62)だ。彼は 80年から子供が危険な重労働を強制されている児童労働問題に着目し、児童の救出、根絶を訴える運動を続けている。
 
「ある日、人生に絶望しているという男が、デリーにある私の事務所にやって来ました」
 
その男性の話では、17年前に住んでいた村で おいしい仕事 の勧誘があったという。400キロも離れた町でレンガを作る仕事だったが、高い賃金が支払われるという誘い文句に引かれ、男性は話に乗った。
 
「しかし、実際は17年間、一度も賃金は支払われなかったそうです。仕事場に閉じ込められ自由もなく、そして、新しく生まれた彼の娘もまた、同じようにそこで働かされていたのです」
 
そして、15歳になった娘が売春宿に売られそうになっているのを助けるために、仕事場を抜け出し、3日間、飲まず食わずで歩き回っていた男性は、カイラシュさんの元へ導かれるようにやってきた。
 
「彼がたまたま、私が不当に権利を奪われた子供たちや女性たちのことを発信し、同時にこれまで世の中で無視されてきた人に捧げるために創刊した雑誌の読者と出会い、私のことを聞き、会いに来たのです。交渉に出かけた先ではカメラも壊され、暴力もふるわれました」
 
だが、暴力ではカイラシュさんの 希望の光 を消すことはできなかった。
 
「デリーに帰って、弁護士に助けを求めました。インドでは児童労働に関する法律がなかったので、英国統治下の昔の法律を使って、娘さんを含め35人の子供や女性たちを救うことができたんです」
 
カイラシュさんたちが現在までに救い出した子供たちは8万5,000人にもなる。さらに、法律を制定したり、司法の力を借りて間接的に救った子供を含めると、何百万人という数にのぼる。それでも今なお、世界で1億6,800万人、9人に1人の子供が児童労働の犠牲になっているといわれる。児童労働以外にも、貧困、人身売買、児童婚などで、多くの子供たちの夢は奪われ続けているのだ。
 
そして、程度の差こそあれ、貧困、格差が社会問題化している日本も、同様の問題を抱えているとカイラシュさんは言う。
 
「日本の児童ポルノ、搾取等の問題についても、アメリカ政府の人身売買レポートで指摘されています。一部の人が富み、一部の人が貧困に苦しむ。その大きなギャップは、さまざまな犯罪や暴力を生み出しているのです」

中国農業発展銀、貧困撲滅に向け3兆元融資へ ロイター 2016年5月23日

[北京 22日 ロイター] - 中国の政策銀行である中国農業発展銀行[AGDBC.UL]は、政府による貧困撲滅計画の一環として、2020年までに3兆元(4581億2000万ドル)を融資する計画だ。国営メディアが伝えた。

22日付の共産党機関紙・人民日報によると、同行は農村部のインフラ整備を支援するため、約1兆1000億元を融資する。穀物生産業界では、約1兆元の融資が受けられるようになるという。

このほか、観光や教育、環境分野などが融資対象となる見通し。

中国は年内に200万人超の移住促す、貧困撲滅の一環で ロイター 2016年5月11日

[[北京 10日 ロイター] - 貧困撲滅を目指す中国は年内に、内陸部の辺ぴな地域に住む貧困層の住民200万人超を比較的発展した地域に移住させる方針だ。国務院(内閣に相当)当局者が10日に明らかにした。

国営新華社がこれまでに報じたところによると、大規模な移住計画は2020年までに1000万人を貧困から脱却させるとする目標の達成に向けた戦略の1つ。

国務院扶貧開発領導小組弁公室の劉永富主任は記者会見で、農村の住民の一部は学校や病院といったより良い公共サービスを受けられる地域に移住し、辺ぴな地域の住民の一部はより良い道路や水資源がある地域に移住すると述べた。

政府や政府系メディアによると、中国の人口約14億人のうち約5%が貧困層に当たる。大半が農村部に住んでおり、年収は2300元(362ドル)未満となっている。

ボノ:貧困についての良いニュース(そう、良いニュースもあるんだ) TED 2015年 年5月28日


人間は3,000年にわたって不平等と貧困をなくすためのキャンペーンを行ってきましたが、その旅が速度を増している。このトークでは、自らの「内なるオタク心」を受け入れたボノが、刺激的なデータを提示する。今の勢いを保てば、貧困をなくすことも視野に入れることができる、というデータだ。

クリス・アンダーソンにこんなことを言われたんだ。 僕が25年間取り組んできた貧困撲滅 キャンペーンを 10分で話せないか と。 イギリス人がアイルランド人に 簡潔に話せと言っているんだよ

(笑)

「奇跡でも起きないと無理だな」と 答えたら クリスは

「君の救世主願望を生かす いい機会じゃないか」

なるほど、 それなら 25年よりもずっと長い視点で 話をしようと考えたんだ。 キリストよりも遡る3,000年前まで行こう。 僕が思うに 正義への旅路と 不平等・貧困を正すための 行進が始まった頃だ。 3,000年前 、ナイル川沿いに文明が築かれた頃、 奴隷だったユダヤ人の羊飼いたちが おそらくは羊の糞の匂いを 身にまといながら 高き玉座に座るファラオに向かって宣言した、 「陛下 あなたと我らは平等なのです」と。

ファラオは答えた、 「何ということを 卑しき者たちよ そんなことが あるはずはない」。

羊飼いたちは反論した、 「我らの聖なる本に そう書かれているのです」。

現代に転ずれば 同じ国 同じピラミッドの下で 別の人と別の本が 平等のアイデアを広めている その本(book)とはフェイスブック。 人々がタハリール広場に集まり SNSをバーチャルからリアルなものにつなげ 21世紀を「再起動」したんだ。 アラブの春がその後いかに ひどく混乱しているのかは よくわかっているし 技術の役割を過大評価する つもりもないけれど アラブの春が示したのは 古いピラミッド型の権力がひっくり返って 人々が頂点に来て 現代のファラオが底辺に行く 可能性があるということだ。

そしてまた 情報は強力なもので その拡散を通じて 不平等を正すことができる ということも示している。 ファクト(事実)は 人間と同じように 自由を欲するもので ファクト(事実)が解き放たれれば 最も過酷な貧困の中にいる人でさえも やがて解放されるんだ。 ファクト(事実)は皮肉や冷笑に対抗し 無気力や無関心を打ち破る。また 機能しているものと 機能しないものとを明らかにし 課題を解決できるようにする。 ファクト(事実)に耳を傾け注意を払うことで ネルソン・マンデラが2005年に 語ったような課題に 立ち向かう準備ができるようになる。 人間にとって最悪の状況である 極度の貧困を 僕たちの 世代で克服してほしい というのが彼の願いだ 。ファクト(事実)はそのための 大きな推進力となる。

ロック・オペラのことは忘れよう。 僕がいつも口にするような 大げさな言葉も忘れてしまおう。 今の時代に響くのは ファクト(事実)だけで そこに僕の内なるオタク心が惹かれるんだ。 だから ロックスターの枠を飛び出して 証拠に基づくアクティビスト 「ファクティビスト」になるんだ。

ファクト(事実)が示しているのは 人々の 平等をめざす 長く時間のかかる旅が 加速しているということだ。 成し遂げられてきたことを見てみよう。 このデータを見てほしい。 新しい千年紀が始まった2000年以降 800万人のAIDS患者が 抗レトロウイルス薬を入手できるようになった。 マラリアについては サハラ以南の アフリカ8か国で 死亡率が75%下がっている。 5歳未満の子どもの死亡数は 年に265万人減っている。 1日あたり7.256人の子どもが 救われているんだ。 すごいだろう (拍手)

もう少し考えてみよう。 この1週間で これほど重要な数字を 目にしただろうか? 素晴らしいニュースだ。 これをみんなが知らないことが すごく悔しいんだ。 1日に7.000人の子どもだよ。 この2人もそうだ。 マイケルとベネディクタ、 彼らが生きているのは パトリシア・アサモア博士や みんなが意識的にであれ無意識にであれ 財政的に支援している 世界基金のおかげなんだ。 世界基金は抗レトロウイルス薬を配布して HIVが母親から子供に感染するのを防いでいる。 この素晴らしいニュースは 自然に起きたものではなく 戦いやキャンペーン イノベーションを通じて 勝ち取られたものだ。 ここからさらにすごいニュースが 生まれている。 歴史の流れはこうなっているんだ。 過酷な重労働と極貧に打ちひしがれて 暮らす人の数は 過酷な重労働と極貧に打ちひしがれて 暮らす人の数は 1990年には世界人口の43%だったのが 2000年には33%になり 2010年には21%にまで減っている。 拍手しよう (拍手)。 半分になったんだ。

とはいえ極貧率は依然高すぎるし 死ぬ必要がない大勢の人が 命を落としている。 まだやることはあるんだ。 でもドキッとするぐらい 良いニュースだろう。 1日に1.25ドル未満で暮らす 極貧の人にとって これはただのデータではなく いろんな意味を持っているんだ。 子どものために最善を尽くそうと 願う親にとって この急変化は絶望から希望へのルートになる もし貧困減少がこのまま続けば 2030年には極貧の暮らしを送る人の数が どうなると思う? 信じられるかい? データはこう告げている。 もしこのまま続いていけば ゼロになるんだ。 数字好きの人にとっては ゼロというのは性感帯みたいなものだ。 僕も今では データを並べるのに 性的な興奮を覚えるんだ。 ここでいう極貧とは 1日に1.25ドル未満で暮らす人のことだけど 1990年を基準にインフレも考慮されているんだ。 いい基準は大事だからね。 素晴らしいことだ。

こうした前進が起きているのは アジアやラテンアメリカ それか ブラジルのようなモデル国だけだと 思う人もいるかもしれない。 みんなブラジル・モデルは大好きさ 。でもサハラ以南のアフリカにも目を向けよう。 この地にある10か国は 「ライオン」と呼ばれることもあって この10年で債務を帳消しにし 援助は3倍になり 10倍になった。外国直接投資は 国内資源 - 地元のお金 - を 4倍に増やしている。 それが良い統治によって賢く使われれば 小児死亡率を3分の1に減らし 教育の修了率を2倍に高め 極貧率を今の半分の10%にし そしてゼロに向かわせていくことができる。 ライオン諸国の繁栄は 僕たちの理念が正しいことの証拠なんだ。

これにはいい面がたくさんある。 まず 僕のような 鼻持ちならない 成り上がり野郎の話を聞く必要がなくなる。 どうだい? (拍手)

2028年とか2030年はすぐにやってくる。 ローリング・ストーンズが3回 解散コンサートをやるぐらいの期間だ (笑) 3回もやってくれるといいね。 そうしたら 僕たちも すごく若々しくいられるはずさ。

じゃあなぜ みんな 浮かれたりしないんだろう? 機会は本物だけど 危険も本物だからだ。 極貧撲滅は それが本当に 可能なんだという思いを 僕たちが持たないと実現できない。 このグラフを見てほしい 慣性のグラフだ 。これは失敗に至る道。 次のグラフはもっと美しい 推進力のグラフだ。 こうして歴史の弧を曲げて 極貧率をゼロにしていくんだ。 効果があるとわかっていることに 取り組むだけでいいんだ。

慣性と推進力。 危険もあるし もちろん 目標に近づくほど大変になっていく。 今の困難な時代 進む先にある 障害はわかっている。 厳しい時代状況の中で 国の財政を預かる人は 人の命を救う世界基金への支出を 減らしたいと思っているはずだ。 でも それには対抗手段がある。 支出の削減は 人命を奪うことになると 政治家に伝えるんだ。

ちょうど今オスロで 石油会社たちが戦いを繰り広げている。 途上国で石油を採掘するために 政府にお金を払っていることを 隠そうとしているんだ。 これに対しても できることがある。 通信の起業家モ・イブラヒムのようなリーダーと ともに One キャンペーンに加わってほしい。 通信の起業家モ・イブラヒムのようなリーダーと ともに One キャンペーンに加わってほしい。 地中から得られた富の少なくとも一部が その場所に暮らす人の手に渡るように 法律を作ってもらおうと 僕たちは動いている。

現代における最大の病は 病気ではなくて 汚職や腐敗だ。 でも これに効くワクチンもある。 透明性とオープン・データ TEDコミュニティとも 強く響きあうものだ 。昼間のように明るい透明性と 呼ぶこともできるだろう。 テクノロジーがこれを加速させているから 悪いことを隠すのは どんどん難しくなっている。

Uリポートのことを聞いてほしい。 本当に素晴らしいんだ。 ウガンダに住む15万人の若い世代が 2Gの携帯電話とショート・メッセージを使って 政府の腐敗をあばき出し 予算の内訳と お金の使い道を 明らかにするよう 要求している。 ワクワクする話だ。

一度こういうツールを持てば 使わずにはいられなくなる。 こうした知識を手にすれば 無知にはもう戻れない。 データを脳から消すことはできないけれど 古くさいイメージは消すことができる。 貧困に苦しむ人は 自らの人生を選べないという。 貧困に苦しむ人は 自らの人生を選べないという。 そんなイメージはもう忘れた方がいい。 今はもう 真実ではないのだから (拍手)

すべてが変わりつつある時代、 2030年にはロボットが ギネスビールを 配膳するだけでなく 飲むようになっているだろう。 その時までには いい加減な統治が行われている場所でも あるべき姿に向かって 進み始めていることだろう。

今日僕は みんなをこの高潔で データに基づいたウイルスに 感染させようと思って ここに来た。 ファクティビズムというウイルスだ。 感染したって死ぬことはない。 むしろ 数えきれないほどの人々の 命を救うことができる。 みんなも感染源になって これを広め 共有し 引き継いでいってほしい。 それによって 平等に向けた旅という かつてないほど野心的で 史上最大の冒険に加わることができるんだ。 僕たちは マンデラが望むような 偉大な世代になれるだろうか? マンデラの呼びかけに 科学と理性 ファクト(事実) そして感情も伴わせて応えよう ―ファクティビストにも感情は あるのだからね―

ワエル・ゴニムのことを 知っている人もいると思う。 タリハール広場のデモのきっかけとなった。 フェイスブックグループの ひとつを作った人で そのために投獄もされている。 僕の頭には 彼の言葉が刻み込まれている。

「僕たちは勝利する。 なぜなら 政治のことを知らないから。 僕たちは勝利する。 なぜなら 政治家のように汚い手段を使わないから。 僕たちは勝利する。 なぜなら 政治的なアジェンダを持っていないから。 僕たちは勝利する。 なぜなら 僕たちが流す涙は- 心から流れ出たものだから。 僕たちは勝利する。 なぜなら 僕たちには夢があり - その夢のためなら 喜んで立ち上がるから」

ワエルの言うとおり 僕たちがひとつにまとまれば 勝つのは僕たちだ。 なぜなら 団結した人々の力は 権力を持つ者よりも ずっと強いのだから。

ありがとう

(拍手) ありがとう (拍手)

圧倒的な絶望、「子どもの貧困」の現場を歩く 母を入院させ、僕はひとりになった 編集部・竹下郁子 AERA編集部 AERA 2015年12月08日

圧倒的な絶望感のなかを生きる子どもたちがいる。就学援助の受給率が東京23区内で最も高い板橋区を取材した。

油のこびりついた台所。擦り切れたカーペット。古いアパートには隙間風も入る。

昨晩は毛布にくるまって眠ったんだ、と笑う啓太さん(仮名・19歳)は、夜間の定時制高校に通う4年生。生活保護を受けて、東京都板橋区のアパートで一人暮らしをしている。もともと母子家庭で2人暮らしだったが、母親が2年前、統合失調症で入院した。

母はパートを掛け持ちしながら啓太さんを育ててきた。忙しくて滅多に家にいなかったため、幼稚園から小学3年生まで、啓太さんに母と過ごした記憶はほとんどない。

生活保護費をやりくり
そんな母の異変に気づいたのは、小学4年生のときだ。具合が悪いと言って家にひきこもりがちになった。会話もかみ合わないことが増え、精神科への通院が始まった。

同時に啓太さんも学校に行かなくなった。勉強が嫌いなわけでも、いじめられていたわけでもない。初めてできた「母と一緒に過ごす時間」を大切にしたかったのかもしれない、と今になって思う。病院に付き添い、テレビゲームをして過ごす毎日。母は食事をつくることすら難しくなり、母の財布からお金を抜いて、コンビニでパンを買って食べることが多くなった。

不登校の背景に何があるのか。気づいてくれる大人は誰もいなかった。

心のバランスを崩した母と2人きりで過ごす時間は、嬉しいと同時に、どうしようもなく不安で怖かった。九州出身の母には身近に肉親もいない。自分がしっかりしなければと、小学6年のとき勇気を出して登校し、母の病気のことを担任の教師に相談した。返ってきたのは、思いも寄らない言葉だった。
「そんなこと言う暇があったら学校に来い」

大人が嫌いになった。助けを求めることすらできない自分のことは、もっと嫌いになった。その後一度も教室に入ることなく、小、中学校を卒業した。

定時制高校入学後、母は病状が深刻化し、一日に何度も倒れるように。啓太さんが呼んだ救急車がきっかけで入院が決まった。医師の判断とはいえ、嫌がる母を半ば強制的に入院させた罪悪感は今も消えない。
一人になった啓太さんは、生活保護費をやりくりして、家賃、学費、光熱費、食費などすべての家計の管理をこなした。今後の不安で眠れない夜が続く。当時の気持ちを、砂漠の中でお気に入りの砂粒を一つ見つけてこい、と言われるようなものだったと表現する。圧倒的な絶望感。一体これから自分と母はどうやって生きていけばいいのか、自問自答を繰り返した。

東京“周辺区”に集中
高層マンションやオフィスビルが立ち並ぶ大都市・東京。だが、目を転じれば、足元に貧困は転がる。所得格差が拡大し、裕福なエリアと、貧困のエリアが色濃く分かれつつある。

生活が苦しい小中学生に対し、学校生活に必要な経費を自治体が支給する「就学援助」の受給率が東京23区内で最も高いのは、板橋区だ。公立小中学校の入学説明会会場で、生活保護の申請書類を置くことも多い。

中川修一教育長は、就学援助や福祉施設の充実、都内最多を誇る精神科病床数など、「福祉の板橋」としてのセーフティーネットを求めて移住してくる人が多いのではと推測する。区の教育担当者は、家賃の安い都営住宅や障害者施設などが板橋のような東京の“周辺区”に集中しているため、それらを必要とする人が集まり、税収は減る一方で、福祉予算がかさむ悪循環が生まれているという。板橋区の2015年度予算では、教育費の割合が12.6%なのに対し、福祉費は58.7%にのぼった。

限られた教育費は何に投資されているのか。貧困層への対応よりは、先端教育への取り組みに力が入る。今年4月に新設した教育支援センターでは、英語教育やアントレプレナーシップなど、リーダー層を担う子どもの育成に向け研修を行う。ICT(情報通信技術)教育にも力を入れ、区内の公立小学校52校すべての教室に電子黒板を完備した。1校あたり年間リース代は約130万円。来春には全公立中学校にも入る予定だ。

だが、取材の中で貧困を抱える子どもたちと接するうちに、限られた税金の使い方として有効なのかと疑問が湧いた。

授業崩壊、勉強は塾で
学校現場では、経済格差が意外な問題を引き起こしている。
板橋区内の公立小学校5年生の亜子さん(仮名・11歳)は、算数の宿題をしながらこう不満を漏らす。
「あ~まただよ。こんな公式、まだ習ってないもん」

最近、学校の授業が成立していないという。クラスメートが床に寝そべったり、勝手に教室を出ていったり、教師が誰かを注意している隙に別の誰かが何かし始めたり……。その結果授業が遅れ、宿題には習っていない範囲が出されるのだという。そんな振る舞いをするのは決まって、学習塾に通っている子だ。
「塾に行ってるから授業を聞かなくても良い点数が取れるんだよ。金に頼りやがって」
そう文句を言う亜子さんに、中学生の兄が注意する。

「塾に行ってるからっていいわけじゃないよ。大切なのは予習と復習をしっかりすること」
妹を励まし、算数の公式を教える。目下の悩みは、学校の影響なのか、妹の言葉遣いが“ヤンキーっぽく”なってきたことだと苦笑いした。

モスキート音で排除
亜子さんのクラスでは暴力も日常茶飯事。でも一番嫌なのは、やはり勉強が進まないことだ。塾に行かない亜子さんにとって、学校は唯一の学びの場。悪いことをして教室の外に出されるほうが自習がはかどるのでは、とまで最近は考えるようになった。亜子さんはこう言い切る。

「電子黒板は税金の無駄遣い。先生もほとんど使わないし、そのうち誰かに壊される。もっと根本的なことを見直さないと」

亜子さんは、母親の離婚を機に板橋に引っ越ししてきた。母親は契約社員として働きながら兄妹を育てるシングルマザー。板橋に決めた理由は家賃の安さだ。都営三田線沿線で不動産屋をあたると、板橋に入った途端、家賃が下がった。教育熱心な保護者が多く、有名校も多数ある文京区や千代田区には、とても住めなかったという。

もう一つ大きな決め手になったのは、無料で通える児童館が多数あり、母親が仕事で遅くなっても安心できることだ。だから、「子育て支援」の名のもとに、児童館が乳幼児向けに変わると知ったときは、ショックが大きかった。移行に反対する保護者も多数いたが、区の方針は変わらなかった。

居場所が激減し、子どもたちが漂流している。その多くが、塾や習い事に通えず、放課後の時間を持て余す貧困層だ。貧困家庭の支援を行うNPOの活動拠点となっている、いたばし総合ボランティアセンター所長の篠原恵さんは、集合住宅やマンションの駐車場で夕方、ゲームをしている小中学生を頻繁に見かけるようになった。最近、耳を疑うような話を聞くという。

「たむろする子どもたちを追い払うために駐車場に“モスキート音”を流しているマンションが増えているらしいんです。社会で子育てをするという空気がなくなっていると痛感します」

行政のセーフティーネットからこぼれ、地域からも排除される子どもたち。貧困といっても、背景はさまざまだ。複雑な事情を抱えた子どもたちにこそ、家、学校、そして“第三の居場所”が必要だと言うのは、板橋区で無料塾を展開する「ワンダフルキッズ」代表の六郷伸司さんだ。毎週日曜日、子どもたちが勉強したり遊んだり、ルールをつくらず自由に過ごせる場所を提供している。

冒頭の啓太さんも、高校1年から通う。母親が入院してひとりで暮らす不安な気持ちを唯一、素直に吐き出せたのが六郷さんだった。「僕にできることは何でもするから」そう言って話を聞いてもらうだけで楽になったという。加えて、貧困や不登校など、同じ課題を抱えた子どもたちと触れ合うなかで、初めて前向きな気持ちになれた。

「昔は両親がいてお金の心配もない普通の人生がうらやましかったけど、今はこんな自分もアリかなと思える。いろんな人や価値観に出会えたからかな」

と、啓太さん。今は毎日授業に出席し、就職活動も始めた。クリスマスには母の病室を訪ねる予定だ。母が退院したら一緒に穏やかに暮らしたい、とはにかんだ。
※AERA 2015年12月14日号

  日本で貧富の格差が拡大してきた本当の原因 アトキンソン「21世紀の不平等」から考える 櫨 浩一 :ニッセイ基礎研究所 専務理事 東洋経済オンライン  2015年11月23日

『21世紀の資本』で話題になったトマ・ピケティ(1971-)の師でもある不平等問題の大家、アンソニー・アトキンソン(1944-)は、世界的に第二次世界大戦後に不平等が縮小し、その後1980年代以降格差が再び拡大した原因の一つに、労働分配率の動きがあると指摘している。

1950年代から1970年代にかけて多くの国で労働分配率は上昇したが、その後2000年代にかけては資本の取り分が上昇(労働分配率は低下)した。日本は例外的に2000年代にかけても労働分配率の上昇が続いたと述べている(Anthony B. Atkinson, “Inequality: What Can Be Done?”, Harvard University Press2015)。

しかし、日本の労働分配率の動きをると、欧米諸国に遅れて1990年代がピークになっているが、その後は労働分配率が低下傾向に転じているように見える。

労働分配率の低下による相乗効果
経済が発展していく原動力は、資本の蓄積と人口の増加、そして技術進歩だ。一見、経済が発展してビルや工場の設備などの資本が増えていくと国民所得から資本への分配が増えてしまい賃金が圧迫されそうにみえる。しかし、ニコラス・カルドア(1908-1986)は経済成長について長期的に観察される事実として、国民所得の労働と資本に対する分配率はほぼ一定だということを指摘している。

教科書で習うコブ・ダグラス型の生産関数では、市場原理が働けば、資本の蓄積が進むと資本収益率が低下して労働分配率は一定に保たれる。技術進歩があれば、労働の取り分も資本の取り分も拡大することが可能になる。

しかし、現実の経済がこのように都合のよい生産関数の形をしているとは限らないし、不完全競争の世界では企業と労働者が共有する余剰の分配は交渉力次第ということもある。現在の社会は資本家と労働者という二つの階級に分裂しているわけではないが、それでも労働分配率が上昇すれば所得格差は縮小するということは変わらない。

逆に労働分配率が低下していくと、資産家は大きな財産所得を得るので速いスピードでさらに資産を増やして行くのに対して、元々資産が少なく勤労所得だけが主な収入源となっている人達は資産の蓄積速度が遅くなる。資産格差と所得格差の相互作用で格差は雪だるま式に拡大してしまう恐れがある。

日本銀行の資金循環統計では2014年度末の家計部門の金融資産残高は約1700兆円だから、世帯数を約5000万世帯とすると一世帯当たりの金融資産は3000万円以上にもなる。しかし、家計調査での平均貯蓄額は1798万円に過ぎず、資金循環統計から求めた平均貯蓄額とは大きな差がある。

これは資金循環統計には個人企業の金融資産などが含まれているということだけではなく、家計調査の調査対象サンプルに含まれたかった著しい大金持ちが少数だがいるからだ。

さらに言えば、家計調査による貯蓄保有額の中央値(貯蓄額の順に並べたときにちょうど真ん中の世帯の保有額)は1052万円に過ぎず、分布はかなり偏っている。

政府債務の拡大も所得格差を拡大する一因
政府債務が拡大していくことが、所得格差に及ぼす影響も懸念される。国債の残高が増えるとそれだけ家計の金融資産も増えることになるが、富裕層ほど多くの金融資産を増加させることになるからだ。
財政破たんのリスクが高まれば、国債の金利は高くなるはずで、税で吸い上げられた所得が相対的に多くの国債を保有している富裕層により多く利子所得として分配されることになる。累進的な所得税制度がある財政には所得再分配機能があるはずだが、格差を抑制する効果は弱まってしまうのではないか。

子、孫と子孫が遺産を分割していくので大金持ちの資産は分散して行き、貧しい人達も資産を蓄積して豊かになって、両者ともに平均に回帰すると期待したい。しかし親の成功の結果は普通に考えられているよりも長く子孫に受け継がれているようだ。グレゴリー・クラーク(1957-)が各国の長期に渡る苗字と職業や所得との関係を研究したところでは、社会階層間の移動は意外に遅いという(Gregory Clark, ”The Son Also Rises: Surnames and the History of Social Mobility”、Princeton University Press 2014)。

例えば社会の流動性が高いと考えられているスウェーデンですら、医者や法曹界などで特定の姓が人口中の比率よりも長期にわたって高い比率を維持しているという。

相続などを通じて世代を超えて格差が固定化されて、どこかで限界を超え、大きな社会的な混乱を引き起こしてしまうのではないだろうか。

海外からの所得が増えている
対外資産の蓄積が進んだことも、労働分配率の低下を引き起こしている原因のひとつと考えられている。
日本では1980年頃から経常収支の黒字基調が定着した。これが毎年の金融収支の黒字となって海外に保有する資産の増加につながるので、長年、対外純資産残高の増加傾向が続いてきた。

日本の対外純資産は名目GDP比でみても1967年末には0.7%の債務超過だったが、2014年末には純資産が77.3%にも達する規模に拡大している。こうした対外資産から得られる所得も増加しており、2014年度には海外との間の利子や配当の受払などの海外からの所得は名目GDP比で4.3%の黒字に拡大している。

かつては経済活動を見る指標としては、GDP(国内総生産)ではなくGNP(国民総生産)が用いられていたが、三面等価の原理からGNPとGNI(国民総所得)は等しい。GDPは国内の経済活動水準を示す指標としては適切だが、消費や投資に使える所得を考える場合には海外からの利子・配当などの所得を含めたGNI(GNP)を見る方が良い。これは、資産家の世帯を考えれば働いて得る所得がほとんどなくても、財産所得が大きければ豊かだということと同じことだ。

日本社会が豊かになったのかどうかという指標としてはGNIを見るべきなのだから、名目GDP比で8割近くにも達する対外純資産の収益性を高めることには大きな意味がある。

経済政策の方向としてもGDPの動向だけではくGNIの拡大にもっと注意を払うべきだというのは確かで、安倍内閣が2013年に策定した「日本再興戦略」では一人当たりGNIを10年後には150万円以上増やすという目標を示していることは、「所得150万円増加って、どういうこと?」でも述べた通りだ。

海外への投資取引を考慮していないことも、資本と労働の間の分配率が一定となるという結果が得られる理由である。だから、近年の世界経済のように海外への投資が活発になっている状況では、労働分配率が一定になるとは期待できない。なぜなら、所得が賃金と資本に分配されると考えるのは、所得を得るためには労働と資本の両方が必要だからだ。

しかし、海外から得られる財産所得は国内の労働を必要としない。例えば海外子会社から得られる配当が、日本にある本社で海外戦略を担っているような部門で働く人達の賃金に反映されることはあるだろうが、国内の工場などで働く人達の賃金にも分配されるとは考え難い。

今後対外投資を拡大することで海外からの所得が増え、日本全体としては所得の増え方が速くなるはずだ。しかし、対外資産から得た所得が普通の労働者に賃金として分配されるとは考えにくく、国民所得の伸びを賃金の伸びが下回って、国民所得の中で賃金に分配される比率である労働分配率は低下していく可能性が高いだろう。

大幅な経常収支黒字を続けているドイツや韓国を除けば、先進国の多くはそれほど大きな経常収支黒字を出しているわけではない。とくに米国は経常収支の赤字が続いていて、対外債務が対外資産を上回る純債務国になっているにもかかわらず、第一次所得収支は黒字が続いている。

格差が拡大しないような方策を検討すべき
日本以外の先進諸国でも経済活動のグローバル化によって拡大した海外からの所得の分配が労働分配率の低下に関わっている可能性があり、高齢化が進んで日本の経常収支が赤字化しても労働分配率の低下が続く恐れもあるだろう。

第二次世界大戦後の各種の改革で資産の再分配がおこなわれたこと、さらに遡れば明治維新のような大きな社会変化があったことは、日本の資産格差を比較的小さなものにしてきた原因の一つかも知れない。
格差が小さかったということは、必ずしも日本社会の固有の特徴ではないとすれば、日本でも資産の格差が所得の格差を生み、それがまた資産格差を拡大させるという、格差の拡大再生産が起こる可能性は否定できない。

全く格差のない社会が理想的でないことは明らかだが、余りに格差が大きく固定的な社会も望ましくない。これまでは格差が小さい国だったということに安心していないで、日本でも許容範囲を超えて格差が拡大しないような方策を十分検討する必要があるのではないだろうか。


ピケティ絶賛!格差解消の切り札はこれだ 平等な社会に向けた現実的なビジョン トマ・ピケティ :パリ経済学校経済学教授 東洋経済オンライン  2015年11月27日

『21世紀の資本』が世界的なベストセラーとなり、著者ピケティが来日してから約1年。ピケティの師であるアンソニー・アトキンソン氏の著書『21世紀の不平等』が12月11日に刊行される。ピケティ氏が格差解消の手段として世界的な資本税を挙げたのに対し、アトキンソン氏はもっと多面的で実現可能性の高い15の方法を提案しているのが特徴だ。
今回刊行される日本語版では、ピケティ氏による序文「平等な社会に向けた現実的なビジョン」が掲載されている。東洋経済オンラインではその序文を全文掲載する。

経済学が社会道徳科学であることを実証
アンソニー・アトキンソンは、経済学者のなかでも独特の位置を占める。過去半世紀にわたり、アトキンソンは主流トレンドに刃向かって、不平等の問題を自分の研究の中心に据えつつ、経済学がまず何よりも社会道徳科学なのだということを実証してみせた。その新著『21世紀の不平等』――これまでの著書よりも個人的で、行動計画に完全に専念した本だ――において彼は新しいラディカルな改革主義の大胆な概略を述べている。

アトキンソンの改革主義には、進歩的なイギリスの社会改革者ウィリアム・ベヴァリッジを思わせるものがある。読者は